第10話 能力
時刻は午後10時。
昔の俺ならこの時間帯は一日の始まりだったが、今は普通に眠い。
改めて前世は生活リズムが乱れまくりだったな。
それに引替え、今世の俺は至って健康的な生活リズムだ。
これは俺の努力の賜物である。お陰で身長も伸びたしお肌も艶々、前髪を伸ばしてるからおでこが荒れないように、そこら辺のお手入れは怠らないのだ。
今日も早いところ眠ってしまいたいところだ。
この転生に対して、文句を言いたいこともあるが、今の生活は本来送ることが出来なかったものだ。キザな行動をとってしまうのも不便ではあるが、家族に対しては発動しないしな。
今、リビングには俺と母さんの2人しかいない。
絵里香は入学式に疲れてお風呂から上がり早々に眠ってしまったし、父さんもさっきまで起きていたが絵里香の中学校入学が嬉しかったのか酒を飲み過ぎたみたいでもう寝ている。
かく言う俺もそろそろ寝る。
見たかったドラマも終わったことだし。それに眠い。
ソファから立ち上がった俺にテレビを見ていた母さんが顔を上げた。
「あら、しおんちゃん寝ちゃうの~?」
「寝るよ。明日から学校だし」
妹の入学式も無事に終わり、それと同時に俺の春休みも終わってしまったのだ。天国は終わりを告げ、明日からは地獄の学校生活だ。
明日から高校二年生なわけだが、気になるのはクラス替えだ。
クラス替えの結果によって、俺の二年生の生活が左右されてしまうといっても過言ではない。
どうか、平穏な学校生活を送らせてくれるクラスメイトであることを祈ろう。
正直、不安だ。
一年生のときは机に座って静かに本を読んでいたら、話し掛けてくる人もおらず、自然とボッチになった。
龍宮寺さんと話すようになったのも1年生の後半に差し掛かったあたりだしな。
その彼女とも教室では殆ど話さないとなれば、必然的に俺はボッチである。
ある意味平穏だった。うむ、後悔はない。
恐らく、二年生に進級してもそれは変わらないだろう。本を読むのはすきだしな。
「そうよね~、明日からさみしくなるわねぇ」
「学校に行くだけだよ、それじゃ寝るからね」
「ふふっ。それもそうね。おやすみなさーい」
「うん、おやすみ」
ソファから立ち上がり二階の自室に行く。
ドラマも見終わったんだし母さんもすぐ寝るだろう。
部屋に入ってそのまま自分のベッドに倒れこむ。
俺がこの世界に転生してから、偶に考えてしまうことがある。
転生してからの生活は幸せすぎて本当に夢みたいだった。だからこそ考えてしまう。この生活は、転生したことも含めて夢なんじゃないかと。
もしも目が覚めたら本当俺はまだあの部屋の中で引きこもりのニートのままなんじゃないか。
転生したばかりの頃は不安になって眠れなくなったりもしたが、最近は随分とそれも減った。
俺は、今ここに生きているのだ。
もう眠いがその前に日課を済ませる。
癖になっていてこれをしなければ、眠れない。
軽く念じると、頭の中に自分の持っている能力が浮かんでくる。
☆
【強欲】
【無病息災】
【確殺1/1】
☆
うん、相変わらず変化なしだ。
この世界に転生してからステータス的なのがないか試してみたこともあったが、そんな物はなかった。
だが、持っている能力は頭の中に浮かんでくる。
今はこの3つしかないが、【強欲】があれば殺した相手の能力を奪える、らしい。
しかし、今まで生きてきて強奪について分かったことは、アリとかハエとかの虫を殺しても能力は奪えないってことだ。何を殺しても能力を奪えるってわけではないのだと思いたい。
だが、何を殺せば能力が手に入るのか、全く見当もつかない。まあ、それがわかったら苦労しないが。
俺が今使える能力は【無病息災】と【確殺1/1】の二つだ。
【確殺1/1】は誰でも確実に殺せるっていうチート能力だが、一度しか使えないから無暗に使えない。というよりも使い道がない。今のところ、この能力は俺の安心材料に落ち着いている。
山で熊に襲われようが安心安全だ。
その場合、クマの能力が手に入るのかが気になるところだ。
【無病息災】は発動してるのか不明。今まで一度も風邪ひいたこともないし大きな病気になったりもしないから発動してるはずである。
俺が女神からもらった能力は敵がいないと何の意味もない。
異世界に転生してたなら使い道もあったんだろうが、現代社会で生きていくうえで完全に持て余してる。要するに俺はただ健康なだけのイケメンだ。イケメンだ。
それも、人前で顔を出すこともできないからな。
俺の転生はどうなっているんだろうか。
女神は俺に何をさせたいんだ。
だがまあ、この生活も結構気に入ってる。今回の人生では家族を大事にして生きていければそれで十分だ。
「案外悪くないよ、女神」
ベットの上で呟く。
これからも平和な生活がこのまま続いていけば、それが一番だ。
「寝るか」
明日から学校が始まるのはえりかだけじゃない。俺もだ。それだけが憂鬱である。学校に行って楽しいのは友達がいる奴だけだ。俺は楽しくない!
このまま目を閉じてたら、すぐに眠れそうだ。安眠できるって素晴らしい。早いところ寝て明日に備えよう。
☆
「あれ、まだ夜か」
目が覚めて窓の外がまだ真っ暗なことに気が付いた。夜中に目が覚めるなんてかなり久しぶりだ。
開いた窓から外の冷えた風が部屋に入ってきて身震いする。
「窓なんか開けてたっけ?」
開けた覚えはないが、窓はしっかりと開いている。
「寒っ」
誰だよ窓開けたの。まあ、俺の部屋だから俺以外ありえないんだけど。春先なのに夜はまだ冷えるな。
どうやら閉めるの忘れてそのまま寝てたみたいだ。危うく風邪ひくところだった。
「まあ風邪はひかないけどな」
そう考えると中々使える能力だ。今まで暮らしてきて一度も病気にならないんだから流石は女神の力って感じだ。感染症とかにもならないのが強い。
尤も、寒いものは寒いから窓は閉めるけども。
ベッドから立ち上がり、静かに窓を閉める。しかし困ったな。寒さで完全に目が覚めてしまった。
「しゃあない、眠くないけど寝なおすか」
もう日付を跨いでしまっているが、朝というには早すぎる時間帯だ。
朝まで待つのもいいが、生活リズムが乱れるのは勘弁したい。今世は健康的な生活を送ると決めている。夜は寝るのだ。
「その前にトイレ行っとこう」
起きたついでだ。
音をたてないように部屋を出てトイレに行く。
家中真っ暗だ。流石に俺が寝る前まで起きてた母さんももう寝たみたいだな。
暗闇の中そろそろと階段を下る。
トイレに行くぐらい、わざわざ電気つける必要もないだろう。エコだ節電だ。
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