94話 復活
「女神様!」
ギーシュが喜んで彼女の元に向かう。
しかし、クラーケンは警戒して近付こうとしない。
僕は、ただただ絶望することしか出来なかった。
サナが……サナが……。
僕がそんなことになっていても、ギーシュには関係ない。
女神の足元に跪いている。
「闇の女神様! よくぞ降臨されました!」
「なんじゃ……主は……」
「私はギーシュと申します! 闇の女神様の降臨を待ち望んでいた者です!」
「そうか……ご苦労なことだ」
「! はい! ありがたき幸せ! それで……闇の女神様にお願いしたい事が……」
「わらわの寝起きに面倒な事をさせるつもりか?」
「いえ……いえいえ、そんな訳ではないのですが……。1人、蘇らせていただきたい者がおりまして」
蘇らせたい者? リャーチェでも蘇らせたいのだろうか。
まぁ……今の僕には……どっちでも……。
「妹のミーシャを蘇らせて頂きたいのです」
「寝言は寝て言うが良い。わらわには関係ない」
「……そんなことを言わず、どうか……どうか助けて頂けないでしょうか」
「わらわは兄さん……なんじゃ……。違う。貴様に会いたいのではない」
「ですが! お聞き入れください! 私のことはどうなっても構いませんから!」
「くどい。第一……貴様、不愉快だな【闇の接収】」
ドン!!!!!!
闇の女神がそう言って手を振ると、ギーシュは弾かれたように飛んでいく。
そして彼はそのまま壁にめり込み、ピクリとも動かない。
「ふむ……。この力……フェンリルのものか。寝起きじゃが……悪くないの」
闇の女神が何か言っているけれど、僕の耳には入ってこない。
サナが……サナが……。
『おい。気を確かに持て』
『……』
『おい! 貴様、何を腑抜けたことになっている』
「だって……サナが……サナが……」
僕は視界に見えるサナ……闇の女神に視線を送る。
サナの見た目をしているけれど、軽く宙に浮いていた。
彼女の手足には真っ黒な茨が緩く巻きついていて、茨は時折蛇に変化している。
目は常に閉じ、周囲の感覚をゆっくりと味わっているかの様だ。
僕はそんなサナではない様子を見て、悲しくなってしまう。
立っているような姿勢は、彼女が望んでいたことではあるのかもしれない。
けれど、サナの外側だけで中身は違うのであれば、それはもうサナではない。
しかし、クラーケンはそんな僕を叱責する。
『いい加減にしろ、サナの事を諦めるつもりか』
『……』
クラーケンの言葉を理解する事が出来なかった。
諦める? 誰を? サナを?
どうやって? 何で? 諦めるっていうのはおかしくないだろうか?
もう既に闇の女神はサナの体に降臨してしまっている。
サナを諦めないで済むのならそうしたい。
そうしたいさ。
サナは僕にとっての全て。
サナがいるからこそ、僕はここまで生きて来られたんだ。
『ならば我の言葉を聞け』
クラーケンはなおも言葉を続けてくる。
『闇の女神はまだ完全に降臨した訳ではない。それに、先ほどの会話を聞いただろう。サナの精神は……残っている』
『!?』
信じられない。
サナの精神が残っている?
『サナ嬢の想いがそうさせるのか……。それとも、闇の女神自身がそこまで降臨に積極的ではないのかは知らない。だが、闇の女神を追い出せれば、きっとサナは帰ってくるはずだ』
『それ……本当?』
『絶対ではない。なにせ相手は神だ。だが、帰ってくる確率は必ず存在する』
『そっか……』
僕にとってその言葉だけでもう十分だった。
サナが帰ってくる可能性がある。
たったこれだけの言葉だけれど、どれほど嬉しいことだろうか。
『どうすればいい?』
僕の口から出る言葉はそれだけだ。
サナを守るためなら、神に喧嘩を売ることすら厭わない。
サナを取り戻すためであれば、神すら殺してみせる。
『それでこそお前だ。と言っても、やることはそう難しいことではない』
『そうなの?』
『ああ、闇の女神は元々外に出るのが好きではない。こうして強引に降臨させられて、かなり不機嫌なはずだ』
『そ、そう』
女神にも色々とあるのだろうかと思ってしまう。
外に出るのが好きじゃないとか……。
『であれば、うまく説得することが出来れば、サナを返してくれるやもしれん。まぁ、多少痛めつける必要はあるかもしれないが』
『痛めつける……』
サナの体を痛めつける。
そんな事が僕に出来るのだろうか。
でも、やらなければならない。
サナを取り返す為に。
サナの体を傷つけることになっても、僕が責任をとる。
『では行くぞ』
『うん。でも待って』
『なんだ?』
『体の制御は……僕がやってもいいかな』
『……理由を聞こうか』
『君が僕よりもうまく体を扱える事は知っている。でも、サナの体を攻撃するのなら、僕がやらなくちゃいけないと思うんだ』
『……』
『すっごく我がままを言っているのは分かっている。でも、君は僕の友人で……相棒だから、サナに手をあげないで欲しい』
『……』
『だから……ダメかな』
『……』
僕がそう言うと、直ぐに体の制御が返って来た。
「ありがとう」
『防御はやってやる。触手2本の制御だけはもらっておく。攻撃は貴様に任せる』
「うん。頼んだよ」
僕はそれだけ言うと、サナに……闇の女神に向かって泳ぎだした。
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