91話 フェンリルの力
「【イヌ化:フェンリル】」
ギーシュの体から白銀の毛が生え、口からは牙が、手からは鋭い爪が伸びる。
2足歩行する狼、人狼の様な姿になった。
潰したはずの右手も元通りになってしまっている。
「それは……」
「信じられませんか? 私も貴方と同じ神獣化のスキルを持つ者。だからこそ、時の神のスキルにも干渉出来たですよ」
「干渉……?」
僕が疑問を口にすると、彼の姿が消える。
そして、背後から直ぐにそれは聞こえて来た。
「そうですよ」
ザン!
「ぐぅ!」
僕は背後から彼の爪で切り裂かれ、思い切り血が吹き出た。
そのまま床に倒れそうになるのを堪え、何とか振り返る。
彼は手を握ったり拡げたりして、己の状態を確認している様だった。
「神獣は3つの神からそれぞれ力を持っています。私であれば土と火と時空を。貴方であれば闇と水と次元を。それらの力しか使う事は出来なかったでしょう?」
「それは……」
そこまで言われてはっと気付く。
確かに、クラーケンのスキルとして使える物は、その3種類のどれかか、後はタコが持っているスキルしか無かったはずだ。
「私はそれらのスキルを使いこなしてこの組織を立ち上げた……。それも500年も前からです。それを邪魔をされて、私がどれだけ怒っているのか想像出来ますか?」
ザン!!!
「がぁっ!?」
彼は今度は正面から爪で切り裂いて来る。
僕はそれに何とか反応して、触手で防ごうとしたけれど、クラーケンの触手ごと切り裂かれた。
僕は後ろに下がるけれど、彼はゆっくりと近付いてくる。
「その程度の練度で私に勝とうなんて100年早いですね。消えなさい。【土の断崖】」
彼がスキルを使うと、僕を挟みこむようにして地面が盛り上がり、潰そうとして来る。
「【触手強化】!」
僕はそれを回避する時間は無いと見て触手を強化して止める。
バシィィィン!!!
クラーケンの力で何とか止める事は出来た。
でも、このままでは……。
「タコをすり潰すのは簡単ですね。陸に上がったタコなどエサでしかない。【大地の槍】」
「ぐっはぁ!」
僕は開いている所。
前と後ろから硬質化した土の槍に貫かれる。
口からはおびただしい量の血を吐き、触手に込める力が弱まっていくのが分かる。
いけない。
このままだと土に潰されてしまう。
そう思っていると、耳元でジェレの声が聞こえた。
「少し時間を稼ぐ、立て直して」
「ジェレ?」
彼女からの返答は無く、ギーシュに襲い掛かる。
「【千の投擲】」
「ほう」
ヒュカカカカ!!!
ジェレの投げた投げナイフが何百、何千となってギーシュに襲い掛かる。
彼も感心したようにジェレの方を見た。
ジェレが時間を稼いでくれている内に……。
体を小さくして、槍からまずは抜け出す。
そして、体が問題なくなった後に。
「【自己再生】【触手強化】」
スキルで一瞬で傷を回復させ、今まで4本だった触手を8本使って挟み潰そうとしてくる土の壁を破壊した。
「ありがとう! ジェレ!」
僕は出るとジェレにお礼を言って、状況を確認した。
ジェレは高速で下がりながらギーシュに投げナイフを何本も放っている。
ギーシュはまずは邪魔なジェレを潰そうとしているらしい。
僕の方をチラリと見たけれど、直ぐにジェレに視線を戻していた。
これだけ隙があるのなら、僕だって考えがある。
「【闇の牢獄】」
「っく!」
僕がギーシュの進む先に闇の牢獄を展開する。
そして、ジェレに決して追いつけないように邪魔をしまくるのだ。
もしもそこに入ってくれればこちらとしても助かる。
「邪魔を……。【土の断崖】!」
バガァン!!!
またしても僕を挟みこもうとして来るけれど、それは既に見たという所か、破ったのだ。
触手を使って土の壁を簡単に破壊する。
どんなスキルか分かっていれば防ぐことなど問題ない。
「ちっ! 厄介な。後回しにするしかないか」
彼はそう言ったかと思うと、再び僕の方に向かってくる。
「貴方から先に倒させて頂きましょう」
彼は腕を大きく振り上げ、僕に向かって叩きつけてくる。
「【爪撃】」
彼の爪が巨大になったかのように感じる。
1本1本の爪が3m程にも巨大化した様に見えるのだ。
これを受けたら不味い。
僕はハッキリと感じた。
「【水流防盾】【氷の装甲】!」
奴との間に水の盾を出し、自身の触手を凍り付かせて防御力をあげる。
そうして、彼の爪を待った。
バギバギバギバギィィィン!!!
「ぐぅ!」
盾は一瞬にして破壊された。
ただ、その時に多少の衝撃は吸収してくれたお陰か、【氷の装甲】は上の方が割れるだけで何とかなった。
そして、運のいいことに奴の爪は僕の触手と隣り合っている。
彼が爪を引っ込める前に触手を巻きつけ、そのまま爪をへし折った。
バギン!
「何という事を!」
彼は後ろに飛び退り、折れてしまった自分の爪を見る。
「これで20年分くらいは縮まったかな?」
「そうですね……。流石に爪が折られるのなんて……200年ぶり位でしょうか?」
「200年……」
「まぁ、たまにはこれくらいの事があってもいいでしょう。【細胞活性】」
彼がスキルを使うと、折れた爪は直ぐに元通りになってしまう。
「フム。久しぶりに使いましたが悪くありませんね」
「そんな……」
気合を入れた1撃で、何とかしたと思ったのに回復まで出来るなんて。
「おや。そこまでおかしい事でしょうか? 第一、貴方も回復スキルを使う事は出来るでしょう?」
「そうだけれど……」
経験値の差もあり、スキルでの差もある。
僕が彼に勝てる所を探すのは難しいかもしれない。
そんな僕の苦悩を彼は理解したのか、狼の顔であるのに、笑いかけて来たと思うほどの表情を浮かべる。
「やっと分かって頂けましたか? わかって頂けたのなら直ぐにでも帰ってください。今回だけは見逃してあげましょう」
「……それは出来ないんだよねぇ」
僕はそう彼に返す。
絶望的な状況だろう。
僕と同格のスキル。
しかし、相手は僕よりもスキルに精通し、こうして対峙している今ですら余裕すら感じる。
でも、サナの事を諦める事など決して出来ない。
僕は、サナの為に戦うと決めたのだから。
「次はこっちから行くよ? ギーシュ」
「ええ、どうぞ」
余裕があるからか笑い、僕にスキルを使わせるとは。
「【始まりの海】」
僕は奴の方が速いというのを覆すべくスキルを使う。
「それは! 待ちなさい!」
「【次元の城塞】」
ギャリィィィン!!!
僕は、目の前に次元の砦を築き彼の爪を弾く。
そして、周囲を海の底に沈める。
「ジェレ。アルセラとレイラをお願い」
「分かった」
ジェレは僕の言葉の意味を理解すると、アルセラとレイラを連れて来た道を戻って行く。
「さぁ、僕からももっと反撃をさせてもらおうか」
今まではずっと彼の機動力が問題だったのだ。
なら、それを奪ってしまえばいい。
後は……こちらの番だ。
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