9話 学園長のお願い
グレーデンの裁判が終わり、僕は1人で学園長と向かい合っていた。
場所は学園長室で、そこに置いてあるソファでだ。
「寛いでくれて構わんよ。固い話をする訳ではない」
「いえ……流石にそれは……」
寛いでくれていい。
これは寛いでいい時の言葉ではないと聞いた事がある。
だから、緩まないようにしっかりと背筋を伸ばしたままにした。
学園長がお茶菓子とお茶を持って来てくれる。
「さて、何から話そうかのう」
「グレーデンの事ではないのですか?」
てっきり奴についての事だと思っていたのだけれど、他にもあるのだろうか。
「ではそれからにするかの。まぁと言ってもほとんどは裁判で言った通りになるんじゃがな」
「中央高等院で処刑が決まりそのまま……ということですか?」
「そうなるのう。公爵もそこまで進んでしまえば諦めるじゃろう」
「手紙で縁を切っていたのではないですか?」
「そう言っても我が子じゃからな。大丈夫だとは思いたいが……もしもの可能性がある」
大人しくすみそうだったのに、学園長は重たい雰囲気を滲ませてそう話す。
「どういうこと……ですか」
「裁判ではああ言ったが、裏から手を回して何かする。という可能性がないわけではない」
「本当ですか!?」
「まぁ……それは問題ないと思う。国からも騎士が来るし、ワシも独自で護衛を付けるからの」
「良かった……」
ここで終わらせたグレーデンがまだ生きていたらと思うと面倒以上に感じてしまう。
「ただ……公爵も公爵のメンツがある……。自分の息子を切らざるをえなくさせた者への粛清……はたまた報復があるかもしれん」
「本当に……そんな事が?」
「絶対ではない。が、あるかもしれん」
「じゃあ……学園長や……さっき証言していた人達ですか?」
「それはない。ワシは……あるかもしれんが強いから問題ない。証言した者達に手を出したら公爵が疑われる。そんなことはせん」
「ではどうして……?」
何でわざわざこんな話をするのだろうか。
「先ほどの裁判で、君は奴の願いを断ったじゃろう」
「え? まさか僕ですか!? しかもそんなことで!?」
「貴族にはそんな事があるかもしれんのじゃ……。面倒なことにの。それに関連して、君の妹も狙われるかもしれない。君が妹を大事に思っていることは君を知る者であれば誰もが知っているからの」
「……それは間違いありません」
サナが……サナが狙われる?
ウェーレのように囚われ、何かされる……。
そう考えると、目の前が真っ暗になる。
「待ちたまえ、そう怖い雰囲気を出すな」
「? 出していませんが……」
「無自覚か……まぁよい。そこで、ワシの方から凄腕の護衛をつけようと思う。勿論女性じゃ。どうかな?」
「え……しかし……。いいのですか?」
学園長がそうして守ってくれるのなら助かる。
でも、流石にそこまでのことをしてくれるのは大変というか、もらい過ぎのような気も……。
グレーデンの家と今回は揉めることはなかったけれど、もしかしたらそれで政争になっていた可能性もあるのだ。
そこまでリスクを犯したのにさらにしてくれるというのは……。
「そんなことはない。今回の事でワシの名前も更に売れたからのう。あまりおおっぴらには出来んが、利益はあった。それに……。もしそう思ってくれるのであれば、一つ願いがある」
「何でしょうか?」
「ワシのスキル研究を手伝ってくれんか?」
「学園長の?」
「そうじゃ。ワシがスキル研究を主にしていることは知っておるか?」
「はい。聞いたことはあります」
学園長はスキルを調べるためなら何でもやる。
というか、スキル研究の本を買うために全財産の半分を使った。
という話もあるくらいだ。
この学園の長をやっているのも、多くの生徒の有望なスキルを研究するため。
その話も間違っていないように思える。
「であれば話が早い。ワシに君の【タコ化】のスキルを研究させて欲しいのじゃ」
「でも……」
危険な気もする。
人の側でやって、それでもしもの事があった場合……。
「頼む! ワシにスキルの研究をさせてくれ! スキル研究が生きがいなんじゃ! 頼む!!!」
「学園長!?」
学園長はお茶が揺れる程激しく机に両手をつき、僕に向かって頭を下げてくる。
その頼み込み様は頼まれているこちらが引いてしまうような物だった。
「頼む! さっきの護衛も欲しいじゃろう!? サナ嬢のこと守っておいて欲しいじゃろう!? それに、自分のスキルについて詳しくなりたいじゃろう!? そうすれば強くなれるぞ! ワシはスキルの研究が出来る。君は強くなれる。どちらも嬉しい。断る理由なんてなかろう!」
「それは……そうだと思いますけど……」
「では!」
学園長が顔を上げて、クワッ! と目を見開いて見つめて来る。
ちょっとだけ怖い。
でも、学園長の話していることは確かにありがたい。
サナを守ってもらえるのならウェーレの様なことにならないとだろう。
スキルに詳しくなって、クラーケンの力を使いこなせるようになったのならばウィリアムも助けられたかもしれない。
僕にとっても断る理由なんてないはず……ないはずなんだけれど、学園長がここまで頭を下げているのを見ると……ちょっと本当にいいのだろうか。
何か僕は騙されていないか?
そう思わされるほどに頭を下げられているのだ。でも、
「分かりました、お願いします」
僕は学園長の言葉に頷いた。
サナを守ってくれるのであれば断らない手はない。
それに、僕は僕の手でサナを守りたいのだ。
その為には僕自身にも力はいる。
学園長に何か裏があるのかもしれないけれど、それでも、僕はサナを守るためになるのであれば、進んでいく。
僕はそう誓った。
「そうか! ありがとう! 助かる!」
学園長が僕の両手をつかみ握りしめる。
力のあまり手が握り潰されるかもしれないと思った位だ。
それほどに学園長はスキルの研究がしたいのかもしれない。
「それではまず先に……」
「あ、待ってください」
「ん……? 何じゃ?」
「確かに僕はスキルの研究に協力します。けれど、僕の目的は、サナの病を……不治の病と言われる黒蛇病を治す事なんです。だから、そのための勉強の時間は外せません。それだけはよろしくお願いします」
そこだけは譲れない。
サナを治療する。
それが僕の最も優先してやらなければならない事なのだ。
だから授業も回復系統の物ばかりとっているし、仲がいい先生。
ローバー先生等もそっち系の先生なのだ。
「むぅ……早速耐久で何日タコでいられるのか調べたかったんじゃが……」
「授業に支障が出ませんか?」
「ワシが研究の一環と通達を出せば問題ない」
「……。普通に移動とかしにくいのですが」
「それも含めての実験じゃ」
「お断りします……」
「むぅ……。ではタコの状態で……」
それからはもうずっと【タコ化】のことについて聞かれ続けていた。
「回復の勉強時間だけは確保させてもらいますからね?」
「むぅ……仕方ないのう。分かった」
最後にそれだけは納得させた。
さっき言った時にははぐらかされてしまったからだ。
しっかりと言っておかないと後からごねられるのは困る。
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