87話 対峙
「ようこそいらっしゃいました。メアは……おや、2人残して来られたのですね」
「貴方は……」
「おや。これは失礼。私はギーシュ。〈黒神の祝福〉の盟主をさせて頂いて降ります」
彼はそう言って恭しく頭を下げる。
その時、彼はレイラをじっと見つめていたような気がした。
しかし、僕の視界には彼よりも奥にいる人に目が行く。
「サナ!」
ドン!
「!?」
僕は叫んで駆け寄ろうとするけれど、何か透明な壁に阻まれて先に行くことが出来ない。
サナは台座、女性らしき人の手に蛇が巻きついた様な姿で、周囲には炎の様な掘り込みがあるものに寝かされている。
じっと手を組み仰向けで目を閉じていた。
もしかしてサナは……。
「貴様! サナに何をした!」
「何もしていませんよ。いえ、儀式の為に多少はしましたが、ちゃんと生きているので安心してください。まぁ、直ぐに彼女ではなくなりますけどね?」
「安心なんて出来る訳ないだろう! 今すぐに元に戻せ!」
「それはお断りします。むしろ神の降臨される【器】になれるのですよ? 光栄以外の言葉はないと思いますが?」
「本人が望んでいるならいいかもしれない。でも、サナは違う。絶対に違う。断言できる」
「なぜ?」
「サナは僕の妹だからだ。サナの考えている事で僕が間違えるはずがない」
「……」
僕はそうハッキリと言い切った。
サナはとても優しく、美しい。
彼女はたとえ足を黒蛇病に侵されたとしても、生きる事を諦めない。
僕はサナを、そんな少女だと知っているんだ。
ギーシュはじっと僕を見つめ続けている。
一体何がしたいのか、僕の質問に答える気もないようだ。
「まぁいい。そんな風に言葉を交わしても、結論は変わらない。どちらにしろ、そっちはサナを器にしたい。僕はサナを助けたい。戦うしかないよね」
「そうでしょうね」
「【タコ化:クラーケン】」
僕は右手を触手にして、それを目の前の壁に叩きつけた。
バン!
しかし、それは壊れる様な気配が一切存在せず、僕の侵入を阻んでいる。
もう一度叩きつけようとしていると、ギーシュがニコリとして僕の方を見ていた。
「何か言いたいことでも?」
「いえいえ、ただ、親切心で言わせてもらうと、貴方にそれは壊せません。それに壊す事を考えるよりも、後ろをご覧になられては?」
「?」
そう言われて、僕は後ろを振り返る。
後ろでは、頭を抑えるレイラにアルセラが駆け寄っていた。
「レイラ!」
僕は一目散にレイラの側に行く。
「レイラ! どうしたの!?」
「うぅ……わかんな……い……。頭の中で……何か……声が……」
「【|全ては貴方の為にわが身を《サクリファイスフォウユー》】」
レイラが頭を抑え続け、アルセラが当然とばかりにレイラに向けてスキルを使う。
これでレイラは良くなるだろうけど……。
そう思っていると、アルセラが驚愕に顔を歪ませる。
「レイラ様……」
「アルセラ。どうしたの? 何があったの?」
「わからん。私のスキルではレイラ様の痛みは取り除けない。であればどうするか。奴をレイラ様がどうにかする前にあいつを殺すだけだ」
アルセラはそう言って剣を抜き放ち、ギーシュに向かって突撃をしていく。
「アルセラ! そこには壁が!」
「はああああああああ!!!」
彼女は僕がぶつかった当たりの壁を知っていた様でそこに向かって剣を振り下ろす。
「砕けろ!」
ガギィン!!!
しかし、アルセラの剣は容易にその壁に弾かれてしまう。
それを見て、僕も彼女の助けに向かう。
レイラを助ける為に、出来ることはなんでもしなければならない。
「【触手強化】おりゃあああああ!!!」
今度は僕も全力で触手を壁に向かって叩きつける。
ダアアアアアン!!! ビリビリビリビリ
僕がそれを叩いた衝撃で周囲の空気が揺れるけれど、ヒビ一つ入った形跡はない。
「くそ! どれだけ固いんだ!」
「当然でしょう? それは私のスキルで入念に作った物です。こんな時の事を考えてね。簡単に突破されるほど、弱い物ではありませんよ。まぁ、大人しくそこで見ていてください。神の降臨等、そうそう見られる物ではありませんよ」
目の前の彼はにこやかに笑い、僕に背を向けてサナの方にゆっくりと向かっていく。
「待て!」
「待ちませんよ。しかしそうですね。後ろにいる……。その方を倒せたら、考えてもいいかもしれませんね?」
言われて、僕が振り返ると、レイラがその場に座り込んでいた。
頭が痛いのか抑えているけれど、先ほどまでと割った様子はない。
「レイラ様!」
アルセラが再びレイラの元に駆け出して行く。
僕は彼女の事をアルセラに任せて、目の前の壁の破壊をもくろむ。
「この……この! 壊れろ。壊れろよ!」
レイラに何かをしているのは絶対に奴の仕業なんだ。
早くここを突破して、それでぶちのめす。
しかし、その壁が壊れることはない。
「レイラ様!?」
「!?」
後ろでアルセラの悲鳴が聞こえ、急いで振り返る。
レイラが両手を拡げ、ぐったりした様子で立っているのかと思ったら、ゆっくりと上に上がって行く。
「レイラ?」
僕の口から思わず声がこぼれた。
レイラはそのまま高さ5ⅿ位の所に留まっていると、一瞬にして水色の光を放つ。
「くっ!」
僕は慌てて腕で光を防ぐ。
暫くそうしていると、レイラの体がぼんやりと水色に光っていた。
何が起きたのか分からずに彼女を見ていると、彼女の口から彼女とは違った女性の声が聞こえた。
「貴様ら。何故我を起こしたのか」
「誰……?」
「誰……じゃと? 我を知らぬと申すか」
そう言われても僕には誰か分からない。
姿形はレイラだけれど、彼女から放たれる存在感はまるっきり別人だ。
「だって……レイラの姿だし……」
「む……なるほど、確かに我が寵愛を受けた者の姿を借りておるから仕方のないことかも知れぬ」
「それで……貴方は……」
彼女の口ぶりからなんとなくは察しがついているけれど、認めたくなくて、彼女の口から否定して欲しくて僕は彼女に尋ねた。
彼女はニヤっと笑うと、教えてくれる。
「我は時の神、××××であるぞ」
そうであってほしくないと思った神だった。
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