85話 ベネディラ
とある盟主の話。
そこは薄暗いけれどかなり大きな部屋。
ただし、明かりは女性が持つ物しかなく、石作りの床しか分からない。
「さて、これから準備にかかります。よろしいですね?」
「勿論でございます。お帰りなさいませ。ギーシュ様」
そう頭を下げるメアのメガネ越しの瞳は歓迎している。
「ただいま、メア。彼女が黒の神の【器】だよ」
ギーシュは両手で抱えた少女をメアに見せるように話す。
彼に抱えられている少女の名はサナ。
クトーの妹である。
彼女は今、時が止まったかのようにピクリともしていない。
胸を見ても息をしているようには見えないのだ。
「彼女ですか。準備は既に行なっています。彼女も1週間もあれば降臨される事でしょう」
「うん。ありがとう。500年待った甲斐があったよ……。メア。君もここまで私について来てくれてありがとう。本当に……君が居なかったらと思うと恐ろしいよ」
「滅相もございません。ギーシュ様に仕える事が我が喜び。貴方の為に命をも簡単に捨てましょう」
「メア……リャーチェが居なくなった今、昔からの大事な友人は君だけなんだ。だからそんな悲しい事は言わないでくれ」
「……そうですね。あのおしゃべりも……いざ居なくなると聞くと寂しい物です」
「うん。それでは準備を頼むよ。私は邪魔が入られないようにこの教会……いや、ベネディラ全域を止めておくよ」
「そんなに力を使われて大丈夫ですか?」
「問題ないよ。これを突破出来るのは、私と同格しかいないからね。出来る限りの事はやっておきたいんだ」
「畏まりました」
ギーシュは両手に抱えているサナをメアに渡し、元来た道を戻る。
「クリス……待っていて……。ここまで時間がかかってしまったけれど……必ず。君を助けるから」
「……」
メアはギーシュが行ったのを確認して、サナを目的の箇所に運ぶ。
「ごめんなさいね。貴方にはなんの恨みもありません。ですが、我々の目的の為に、貴方の体を使わせて頂きます」
メアはそう言って彼女を台座に載せる。
台座には、女性らしき人の手に蛇が巻きついた様な姿で、周囲には炎の様な掘り込みがあった。
「しかし、安らかにお眠りください」
メアはサナに対して少しだけ祈ると、何かの準備をし始めた。
******
それから僕たちはべネディラに着くまでスキルの練習などをして過ごしていた。
休みの時にはオリヴィアさんと毎日模擬戦をやっていたのもかなり戦闘経験はあがったと思う。
そして、遂に教会本部があるベネディラに到着した。
「ここがベネディラ……」
「ええ、教会本部にして、聖地。ここには毎年多くの参拝客が来るわ」
そう話すのはレイラだ。
彼女の口調はなんだか楽しそうで、ベネディラの話を色々とし始めてくれる。
「ベネディラは元々ただの田舎町だったんだけどね。ここで神の降臨があったということからここを聖地にしようと時の教皇が考えたのよ。それで、見て」
僕はレイラに言われた通りに窓の外から先の景色を見る。
そこには断崖絶壁に、寄り添う様に白磁の教会が建てられていた。
本山とでも言うべき教会がもっとも大きな建物で、そこから手前に……扇状に拡がって来るほどに建物の高さは低くなっている。
「あそこの一番大きな建物。見える? あれが教皇とかその下の枢機卿が色々と取り決めを行なう場所。ディオス・エフィーメラ。因みに、神が降臨されたという場所もあそこよ」
「あそこが……」
「ええ、ただ、あそこに行くには面倒だけど手続きとかが少しはいるから、数日は街に滞在してもらうことになるわ」
「そんな。直ぐに入る事は出来ないの?」
「無理よ。あそこは許可証を持っていないと入れない。クトーのスキルを使って、もしも警戒されてしまったら面倒でしょう? あたしがちゃんと許可をとってくるから。その間は街で情報でも集めていて」
「……分かった」
本当は今すぐにでも行きたい所だけれど、レイラの言うことももっともな為、僕たちは街で宿屋を探す。
ただ、街に入った辺りで不思議なことに気が付く。
「ねぇ……これって……」
「ええ、どう考えてもおかしいわ」
馬車の外に見える光景がどう考えても異変しか感じない。
具体的に言うと、まるで動きが止められてしまったかのようにした人々しかいない。
普通に歩いている人の動きも途中で止まっているし、これからこけるところ、というので止まっている人もいる。
扉を開けている人もいれば、何か物を買おうと代金を渡そうとしている人もいるのだ。
それら全ての人が時間が止められたかのように動いていない。
少ししてから、何故か馬車の動きも止まってしまった。
「何が起きているんだ?」
そう思っていると、急に扉が開けられる。
「レイラ様! 急ぎお逃げください! これは……」
馬車に飛び込んで来たのはレイラの護衛の1人。
彼女はそう叫びながら飛び込んできて、そのまま一切の動きを止めた。
「ファナ? どうしたの? ファナ!?」
レイラがファナに近寄って肩を揺すろうとするけれど、まるで石になったかのように微動だにしない。
「これは……時が止められている?」
「! それならあたしのスキルで……」
レイラが目を大きく開き、覚悟を決めたような瞳をする。
けれど、それは流石に早過ぎる。
「待ってレイラ。それを使っている途中にレイラが止められたらどうしようもない。一度街から出よう」
「でも……」
「今はそんな事を言っている場合じゃないよ! アルセラも!」
「きゃっ!」
僕はレイラの手を取り、急いで馬車から降りる。
馬車の周囲を守っていた護衛の人達は皆時が止まってしまったかのように動きを止めていた。
急いで街の外へ向かうと、僕たちよりも後ろにいた馬車からフェリスとオリヴィアも出て来た。
「何が起きているんですか!?」
「分からない! でも、ここは危険だ! 一旦街の外に!」
「畏まりましたわ!」
そうして僕たちは走って街の外に出る。
僕たちの他に無事だったのは、どこかに潜んでいたジェレだけだった。
「一体どうなってるんだ……」
「街全体がの時が止まっている……?」
皆でどうしようか話合うけれど、答えが見つからない。
どうしていいのか困っていると、頭の中で声が聞こえる。
『困っている様だな』
「クラーケン?」
『貴様。あの街を抜けたいのだろう?』
「方法が分かるの?」
思ってもみない助力だった。
彼が僕に力を貸してくれる様になった。
けれど、助言してくれるとは思っていなかったのだ。
その理由は至極単純だった。
『我の嫌いな奴の力を感じるからな。手助けをしてやろう』
「嫌いな奴……?」
『忌々しい犬ころだ。気にするな』
「犬ころって……。気にするよ」
『それよりも先に進みたいのではなかったのか』
「そうだけど……」
『なら気にするな。貴様、スキルで【異次元の交錯】は使えるな?』
「うん。一応使えるけど……」
クラーケンに言われたスキルは、別次元とこちらの次元を交錯させるというもの。
正直効果も分からないし、使っても何が起きたのか分からなかったので一度使って放っておいたスキルだ。
『それを使えば、問題なく進める』
「え? どうして」
『……』
クラーケンはそのまま何も言わずに、黙りこくってしまった。
説明したんだから後はやれ、とでも言わんばかりだ。
ただ、クラーケンがくれた解決策。
一度試して見るのも悪くない。
「皆、ちょっと話があるんだけど」
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