84話 オリヴィアと模擬戦
「ちょ、ちょっと待って!」
「問答無用。死にたくなければ本気で戦え」
彼女は剣を振りかぶって僕に振り下ろしてくる。
「やば!」
口で止まってもらおうとしていた為、避けるに避けられない。
だから、氷で守った触手を剣線の間におく。
キィン!
「何!?」
僕の氷に守られた触手は彼女の剣を一切通さない。
少しだけ氷の表面が削られてしまっただけだ。
氷の鎧の威力に安心した僕は、先ほど練習したスキルを使う。
「【闇の拘束】」
オリヴィアの足元から黒の茨が伸び、彼女の足に絡みつく。
しかし、彼女は驚異的な速さで離脱した。
「なんだ今のは」
「僕のスキルだよ」
「スキル? タコになる他にそんなものも出せる等聞いていないぞ?」
「まぁ、なんでもいいじゃない。それに、知らない相手と戦う方が燃えるんじゃないの?」
学園長が僕に向かってそんな感じの事を言っていたのを思いだした。
ということであれば、きっと彼女もそうかもしれないと思ったのだ。
戦闘狂的な感じは彼女との出会いから思っていたので、それの方がいいかもしれない。
その予想は当たり、彼女は獣の様な笑みを浮かべて僕に向かってくる。
「そうだ。その方が燃える。熱くなれる。生きていると感じられる! さぁ、もっともっとその力を見せてくれ!」
「【墨吐き】」
彼女の走る速度は速く、こうでもしないと足は止められない。
「『突風よ』」
しかし、彼女は魔法と唱えるとそれだけで墨を全て吹き飛ばしてしまった。
そんな、あんなに簡単に吹き飛ばせるなんて。
「そら!」
彼女は片方の剣を僕の喉元につき込もうとする。
僕は触手を出して、それを受け止めた。
キィン!
「くっ。これだけ力を込めてもダメか」
「……」
僕は何も言わずに触手を彼女の剣に絡みつかせる。
元々触れ合っていたおかげで、彼女が引き戻す前に掴むことが出来た。
「【闇の拘束】」
「くっ!」
彼女が剣を取り戻さないうちに畳みかける。
剣だけではなく、彼女の体も拘束するように茨を伸ばすのだ。
「さっきより速い!?」
彼女は剣を手放して飛び下がった。
「【闇の牢獄】」
速度の出ない空間を作り、そこに彼女の剣を放り込む。
投げ捨てて再利用されたら堪らないけれど、壊してしまっては彼女が戦う時に困るからだ。
オリヴィアは警戒の目を僕に向けるだけで、向かって来ようとしない。
なら、こちらから攻めさせてもらおう。
「【保護色】」
「!?」
姿を消して、彼女が気付かないようにゆっくりと移動する。
足も触手に変えてしまい、靴で草原を踏み荒らすこともない。
彼女も近付き、触手で締め上げたらそれで終わる。
しかし、彼女も当然の様に実力者だった。
「そこか!」
「っつ!」
彼女は片方の剣を振り、僕のいる位置を正確に見抜いたようだった。
本当に嫌になる。
どうして透明になっているはずなのにこんなにも見つかってしまうのだろうか。
まぁ、相手がそれだけ強いという事なのかもしれないけど。
理由は彼女がわざわざ説明してくれる。
「殺気が漏れ過ぎだ。今から攻撃します。そう言っている様なもんだぞ?」
「そっか……ありがとう」
「気にするな。では、こちらから行かせてもらう!」
彼女はまたしても突撃して来る。
でも、今度は僕もただ接近されるだけではない。
「【闇の拘束】」
闇の茨で彼女が突っ込んで来る途上に茨を出現させる。
少しだけでも掴めてしまえばこちらのものだからだ。
「何を!」
しかし、そこは近衛騎士であるオリヴィア。
足元に起きた異変を見抜くと、すぐさまに飛び上がって僕に向かって来る。
でも、これも想定通り。
「【闇の拘束】」
「クソ!」
僕は新たに茨を出し、彼女の着地点で待ち構える。
彼女は片方の剣で6本のうち4本を切り飛ばす。
でも、残り2本に捕まった。
「よし」
僕は触手を伸ばし、今度こそ彼女を捕らえきった。
「これで満足?」
「クソ……やるではないか」
「離すけど襲って来ないよね?」
「敗北した程度で頭に来て襲うようなこと等しない」
「はい」
僕はスキルを解き、彼女を解放する。
「ふぅ……しかし、こんなあっさりと捕まるとは思わなかったぞ」
「それは……オリヴィアさんが手加減してくれたからでしょ?」
「そういう訳でもないぞ。こちらもそれなりに真剣にやった」
「そうだったの? スキルを使って居なかったからさ」
「常時発動しているのがわたしのスキルだからな」
「そうだったんだ」
「ああ、しかし、中々に良いな。やはり自分よりも強い者との戦いは最高だ。急に襲わないからもう何回かやらないか?」
さっきは急に襲われてかなり驚いたけれど、戦いっている最中に彼女は僕を殺す気がないのは分かっていた。
それほどに攻撃が遠慮がちだったからだ。
でも、彼女と軽く手合わせをさせてもらって分かった。
スキルの練習をすると言っても、やはり実戦に勝る特訓はないという事だ。
1人でやっていたスキルの短縮も、実戦でやった時の方が速く成長出来た気がするのだ。
だから僕からの返答は決まっている。
「よろしくお願いします」
「頼もしいじゃないか」
僕たちはそれからこれでもかと模擬戦を行ない、様子を見に来たレイラに怒られるまで戦い続けた。
******
「もう。クトーはいつまで戦っているのよ」
「ごめんって。つい熱くなって」
「そうだぞ。これから激しい戦いが待っている。そのための予行演習だ」
「だからって心配になるまで2人バトらないでください。全然帰って来ないから心配しました」
「……それは、申し訳ない」
「まぁ、いいですよ。厳しい戦いになるかもしれない。そんなことは分かっているんです」
そう話すレイラの声はどことなく重たい。
オリヴィアさんはなにを思ったのか、離れて行く。
「わたしはフェリス様の元に向かう。ではな」
「え?」
「……」
それと同時に、レイラが足を止める。
オリヴィアさんが離れ切ってから、レイラは口を開いた。
「レイラ?」
「クトー。あたしからもお願いがあるわ」
「お願い?」
「ええ、あたしは貴方の事を信じてベネディラに案内する。でも、1つだけ。絶対に1つだけ約束して欲しいことがあるの」
彼女は僕に背を向けたままで、どんな表情をしているのか分からない。
ただ、その声には鬼気迫るものがあった。
「どんな約束?」
「何があっても、生きて帰る。それだけは約束して。サナちゃんを救うためだったら他の人を犠牲にしてでも、絶対に生きて帰るって」
「犠牲って……」
「約束して。いいでしょう? クトー。貴方の中ではサナちゃんが一番大切。違う?」
「そうだけど……レイラも大切な人の1人だよ」
「……ありがとう。でも、もし何かあった時には、ちゃんとサナちゃんを優先してね」
「……分かった」
僕がそう言うと、レイラは笑顔で振り向いてくれる。
「よし。それじゃあ戻って寝ましょう? 見張りの番はフェリスの護衛の人達がやってくれるみたいだからさ」
「うん。分かった」
僕たちは一緒に皆の元に向かうけれど、何か、心の奥には奇妙な違和感が残り続けた。
レイラの表情が、笑顔だと思ったのだけれど、なんだか……作り物の様な気がした。
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