74話 他の者の戦い
僕は他の人達の心配をして周囲を見回すと、レイラ達を見つけた。
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼女たちはアルセラが真っ先に突っ込み、それを他の子達が援護する様に立ち回っていた。
敵からの攻撃やヘイトはアルセラが全て一身に受け、体が傷だらけになるのも気にしていない。
「ぐぅ! だが、まだまだ!」
敵の強烈な一撃を受けても、彼女は立ち上がる。
そして、
「『聖なる祈りよ届け』」
後ろからは一番受けるダメージの大きいアルセラをレイラがずっと気にかけて回復を続けている。
「あいつだ! あの女から先に殺せ!」
敵も回復しているレイラの存在に気が付いた様で、回り込んだりして攻撃を始めている。
けれど、そこはアルセラのスキルの出番だ。
「【|全ては貴方の為にわが身を《サクリファイスフォウユー》】」
レイラに向いた攻撃は全てアルセラが引き受け、決して引く様子を見せない。
レイラもそんな彼女の事を信頼し続けているのか、一歩も後ろに下がる様子はない。
「ば……ばかな……ぐあ!」
そんな2人の様子を見て驚く敵は、周囲の護衛の子達によって倒されていく。
この調子では大丈夫そうだ。
僕は僕でやらなければならない事。
〈殲滅者〉ロード・バルバロイを倒しに行かなくては……。
僕は敵陣に向かって進み始めると、奥の方でかなり激しい戦闘音が響いてくる。
「だれだ……?」
誰か1人が敵陣空中で暴れまわっている様だった。
遠くから確認してみると、それは学園長だ。
僕は、彼のいる方に向かって速度をあげる。
******
学園長は1人空を飛び、目的であるロード・バルバロイを探していた。
「どこじゃ……どこにいるんじゃ……」
彼は目を皿にして奴を探す。
本当ならこんな危険な事は出来なかったが、少し前の魔法で敵の航空戦力は壊滅した。
だからこんな事が出来るのだ。
そして、彼は他の場所よりも豪華な天幕を見つける。
近くには〈選ばれし者〉のメンバーらしき、見知った者が数名学園長を見ていた。
その中の1人が飛び上がって来る。
「久しいの……チェルシー」
「お久しぶりですね。先生?」
2人は懐かしそうに声を交わす。
彼らの間柄は昔は学園長の秘書すらしていた女性だ。
共に寝食を忘れて研究に没頭し、研究に命を捧げていた。
そんな2人が10数年ぶりの再会を果たしたのだ。
「チェルシー。突然どこかに消えたと思っておったが……こんな所で何をしておるんじゃ?」
「簡単な事ですよ。私達の研究を認めない国なんて滅ぼして、私達の画期的な研究をしよう。そう思っただけです」
「画期的な研究……か」
それは、昔学園長が諦めた研究の1つ。
スキルを選べるようになるのではないかと、子供を使って実験するべきか否かを話し合っていたものだ。
学園長は研究狂いといっても人道的に非難されることまでは決してしない。
チェルシーはそれを乗り越えるべき……と思っていたのだ。
自分達の様な天才が、凡才を導いてやるのだ……と。
その為の多少の犠牲は仕方がない……と。
「そうです。学園長。貴方ももう分ったでしょう? 普通に研究をしているだけでは限界なんです。未だに生徒から協力をしてもらってやっているのでしょう? そんな事は無意味です。そんな事をするよりも、我々と一緒に来て下さい。貴方がいれば、研究は完成するはずなんです!」
「……チェルシー。ワシは教えたと思うが、そこまで愚かな娘じゃったか?」
「それは……」
「ワシは、スキルの可能性を知りたい、それが生きがいじゃ。じゃが、彼らはワシの生徒でもあるんじゃ。それを忘れた訳ではあるまいな?」
「……(ゴクリ)」
学園長から発せられる圧力に、チェルシーは思わず息を飲む。
今でこそ大人しいというか、スキル研究の変人として言われているだけだが、学園長は本来恐ろしい存在なのだ。
多くの政敵を消し、物理的に邪魔をしてくる相手を葬り去る。
そんな恐ろしい一面を持つ学園長。
チェルシーが大きくなった時には、学園長は既に権力を万全にしていたけれど、時々暗い事をしているのを彼女は知っていた。
そんな相手が今目の前にいる。
彼女にとってはロード・バルバロイの前に立つのと同じ恐怖を抱いていた。
「でも……私は私でやるべきことがある! それを教えてくれたのは……貴方ですよ。先生」
「ならば来るが良い。ワシに届くか見せてみろ」
2人はそう言ってから、同時に魔法を詠唱し始めた。
「『旋風よ巻き起これ』」
「『旋風よ巻き起これ』」
ビュゥゥゥゥン!!!
2人の間で突風が発生し、チェルシーは腕で顔を守るようにする。
その一方で、学園長は何も変わらないとばかりにじっとチェルシーを見つめた。
「クソ! 『百剣の召喚』」
「『百剣の召喚』」
「何で同じ魔法を!」
キンキンキンキンキンキンキンキンキン
2人の魔法は消え去り、苦々しい顔をしたチェルシーが学園長睨みつける。
チェルシーが魔法を使うと、学園長も同じ魔法を使って迎撃する。
しかも、手加減でもされているのか、同じ威力で完璧に相殺するのだ。
「クソがぁ! 『炎の礫よ』」
「『炎の礫よ』」
「また!」
ボボボボボボボボボボ!!!
またしてもチェルシーの魔法は学園長に相殺される。
学園長の実力があれば、簡単にチェルシーを殺すこと等出来そうなはずなのに、彼はそれをしない。
「先生……どうしてこんな事をするのですか」
チェルシーはにらみながら学園長の真意を図ろうとする。
学園長は少し悲し気に話す。
「チェルシー。お主も道を踏み外したと言ってもワシの生徒じゃ。出来ることなら……降伏して欲しい。本当は……ワシは誰も殺したくはない。研究は人を幸せにする物であって、傷つけあう物ではないのじゃから」
「それは……」
「じゃからチェルシー。大人しく降伏してはくれぬか?」
学園長はそう優しくチェルシーを諭す。
「先生……」
チェルシーの発音は、昔を思わせるような、学園長を過去に引きずり込むような語感を持っていた。
彼女はそう呟いて学園長に近付いていく。
学園長も、そんな彼女を受け入れるように微笑んだ。
ドスリ
「なん……じゃ……?」
学園長は自身の体から出ている剣を見た後に、後ろを見る。
そこには、王宮でみたことのある男……ロビンが口を吊り上げて笑っていた。
「学園長は強いというからどれほどのものかと思っていれば……昔の教え子に簡単に騙されるとか思いませんでしたよ」
「ほんと、そうやっていつも上から見てきて……せいせいしたわ」
「ぐぅ!」
剣は抜かれ、彼は地面に向かって落ちて行く。
そんな彼を、チェルシーとロビンは笑って見送った。
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