73話 討伐
「!?」
「ガゥ……!」
謎の閃光が走り、ヴォルカニックウルフを掴んでいた僕の触手が4本も切り飛ばされてしまう。
僕は慌てて下がると同時にそちらの方向を見る。
ヴォルカニックウルフも急いで後ろに下がるが仕方ない。
触手が切り飛ばされる様な状況で続ける事は出来ない。
僕が視線を向けた方にいたのは、少し破れた豪華な服を着て、口には立派な赤髭を蓄えた初老の男性だった。
彼はこちらに剣を向け、ヴォルカニックウルフに指示を飛ばす。
「ヴォルカニックウルフよ! そやつと戦い時間を稼げ! 俺は俺でやることがある!」
そう言ってその男性は片足を引きずりながら敵陣の奥深くに戻って行く。
もしかしてやつがロードという男だろうか?
本当にそうだとしたら、ヴォルカニックウルフよりも奴を先に……。
「グロロロロロロロロロロロロ」
「許してはくれないよね」
僕とロードとの間に立ちはだかったのは、当然の様にヴォルカニックウルフ。
命令された事は忠実にこなす様に逃げる様子は一切ない。
僕はそんな相手にわざと隙を晒すようにしてスキルを使う。
「【自己再生】」
先ほどロードに切られた触手を再生し、食いちぎられた部分も元に戻す。
全てが万全な状態に戻る。
しかし、奴は僕に向かって警戒するだけで近付く気配は一切ない。
(どうしようかな……)
奴は僕の事を激しく警戒している。
それも当然と言えば当然だけれど、少し前に殺しかけたのだから。
僕はゆっくりと触手を持ち上げると、奴が穴があく程見つめているのが分かった。
シュッ!
僕は奴に向かって触手を伸ばし、もう一度捕まえようとした。
「ガゥッ!」
奴はバックステップで後ろに下がる。
奴の後ろに味方がいることを気にした様子もなく。
「ぎゃあああああああああ!!!」
「と、溶ける! 溶けるぅぅぅぅぅぅ!!!」
他の兵士達がロウソクの様にその身を溶かして行く。
だが、奴にはそんな事は関係ないらしい。
だが、まさしく歩く災害。
存在そのものが人にとっての害にしかならない。
僕はそれでもゆっくりと奴に向かって歩いて行く。
ロードは既に見失ってしまったし、後ろからヴォルカニックウルフに追いかけられながらは正直やりたくない。
僕は自身の触手を上や横に伸ばしてから奴に向ける。
「【水流切断】」
シュパッ!!!
4本全てが奴に上から横から正面から、角度をつけて狙う。
「ガゥッ! グロロロロロロロロロロロロ」!!!」
奴は今度は横に飛び、攻撃を躱す。
しかも、今度はそれだけでなく僕に向かってマグマを放った。
今回のは僕の全身を埋め尽くすほどの量だ。
さっきまでのは手加減していたに違いない。
でも、
「【闇の牢獄】」
飛んでくる物であろうが全てを別次元に仕舞い込む。
マグマは飛んでくる速度もかなり遅い為、このスキルが使えるのだ。
僕に向かってくる物を全て仕舞い込み、奴に目を向けると、奴の毛色が変わっていた。
全身が真っ赤に染まり、遠くからでも目に見えるほどの高熱を放っているのが分かる。
「グロロロロロロロロロロロロオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
「ッ!?」
奴が吠えると、体が火山になったかの様に弾けた。
実際は奴の体から真っ赤なマグマが飛ぶように流れ出しただけだ。
けれど、そう錯覚するほどの勢いと熱量だった。
そして、僕はそれをただ見ていた訳ではない。
相手がそのつもりなら、こちらにもこちらのやり方がある。
「【始まりの海】」
ザァァァ
僕を基準にして水が周囲を満たす。
奴のマグマとぶつかり、お互いが全てを自身の領域にしようと消し合う。
水が蒸発して煙を上げ、マグマが固まり真っ黒な塊が出来る。
その間も奴は僕を睨みつけるばかりでそこから動く気配はない。
動かないなら……。
「【水流切断】」
水流をもう一度奴に向けて放つ。
「ガゥ!?」
奴はゆったりした動きで何とか僕のスキルをかわす。
ただ、そこに今までの様な俊敏性はない。
相手の動きをよく見ると、奴の体が足元のマグマから動かない様にしていたのだ。
もしかしたらあの技を使っている最中は動く事が出来ないのかもしれない。
「なら、こっちは隙に打ち放題だよね。【水流切断】」
今度は4本。奴が横に移動するだけでは躱せない様にして放つ。
水流は奴が伏せても躱せないように4本横なぎに払った。
「グロロロロロロロロロロロロ!!!???」
奴は体を思いっきり伏せ、僕のスキルを躱そうとする。
それでも1本は確実に当たる計算だ。
けれど、仮にもSランクの魔物、スキルのマグマで迎撃をしたお陰で何とか受けずに済んでいた。
奴は安心したように笑った。
「【水流切断】【水流切断】【水流切断】」
でも、僕はこの程度でひるんだりしない。
こいつを速攻で消して、早くロードを消さなければならないのだから。
何発も何発もヴォルカニックウルフに向かってスキルを放つ。
縦に横にななめに、あらゆる角度から、僕が放てる限りをする。
ここで奴の時間稼ぎに付き合う暇なんてないのだから。
「ガゥガゥ……」
奴は体を大きく動かせないからか、狭い範囲の中で色々と体勢を変えて何とか僕の攻撃を躱す。
けれど、ずっとそれが出来る訳ではなく、次第に傷が増えて行った。
奴の声も心無しか弱々しくなって行く。
ただ、それは奴もこのままでは良くないと理解したのだろう。
その場から大きく飛び退いた。
「【水流切断】」
「グロロロロロロロロロロロロ!!!」
奴はさっきまでのスキルを使わなくなったのか毛色も元に戻っていた。
そのままの速度を維持しながら、僕の周囲を走り始める。
僕から離れようとはしないけれど、かと言って積極的には近付いて来ない距離を保っている。
「待て!」
僕は少し動きやすくなった水の中を移動するけれど、奴はほとんど地上と変わらない。
多少速くなったけれど、奴に追いつく程ではない。
追いかけるそぶりを見せると直ぐに逃げて距離を稼いで来るのだ。
「このままだと埒が開かないか……」
これから他の奴……特にロードと戦うので、使うべきか迷っていたスキルを使う。
「【次元の門】」
僕は目の前に2つの門を作り、それに触手を入れる。
「ガゥ?」
奴が僕の動きを注視している後ろから、触手で締め上げた。
「捕まえた」
「キャウン!!??」
奴は何が起きたのか分からずに体をくねらせたり、爪を立てたりするけれど勢いが無ければ傷はつかない。
触手は奴を掴んだまま僕の方に引き寄せ、残りの触手で絶対に離さないようにする。
「【触手強化】」
奴の体を徐々に……徐々に絞めて行く。
必死の思いで抵抗しているのか、体温を出来る限りあげているようだけれど僕には通じない。
最初から熱い物に触ると分かっていればそれで済むのだから。
奴から目を放すことなく数分。
僕は他からの邪魔もないように周囲に目を配りながら奴を締め上げる。
そして、遂にその時は来た。
「ガ……ゥ……」
最後に一鳴きすると、奴の体からは全ての力がなくなった。
「【闇の牢獄】」
僕はヴォルカニックウルフの死体を棺の中に収める。
どうしてこんな事をしたのかは分からない。
もしかしたら、この死体を水に濡らすのが嫌だったのかもしれない。
「そんな事よりも他の人は……」
僕は周囲に目を向ける。
すると、そこでは様々な人が激戦を繰り広げていた。
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