70話 抜ける
「それが、かなりの軍勢と、その近くにAランクの魔物、ファイアードラゴンと、Sランクの……ヴォルカニックウルフがここに向かって来ているらしいんだ!」
「なんだって!?」
僕たちの元に走って来た彼はそう言うと、僕の方に向かって走ってくる。
「それと……クトー先輩。学園長が……至急部屋に来るように……と。あ、聖女様も一緒にという事でした。はぁはぁ」
彼は森から逃げてくる時に事情を聞いた彼で、今も急いで来たのか額に汗を浮かべている。
僕はレイラの方を向くと直ぐに頷いてくれた。
「今すぐ行くよ」
「ええ」
僕たちは走り出し、学園長室を目指す。
後ろからは当然の様にアルセラ達も付いてくる。
「学園長!」
僕は学園長の部屋に蹴破らんばかりの勢いで飛び込む。
中には、数名の教師が難しそうにして学園の周囲の地図を睨みつけている。
教師の中にはピュリー先生もいた。
ただ、僕が飛び込むと驚いた顔を向けてくる。
そんな中、学園長は受け入れてくれた。
「クトー。待っておったぞ。話は聞いておるか?」
「はい。学園に攻めて来ている軍勢があると」
部屋の中に入りながら皆がいる側に行く。
「レイラ嬢達も来たか。詳しい話をする事になる。落ちついて聞いてくれ」
「はい」
学園長はそう言って少し溜めた後、攻めて来ている奴らの事について話始める。
「ここを攻めて来ているのは〈選ばれし者〉あのローバーが属していた組織の者達じゃ」
「あの!? もしかして……ローバーを……取り返しに?」
「そうかもしれんし、そうでないかもしれん」
「というと?」
「〈選ばれし者〉の中に、あのロード・バルバロイを確認した」
「Sランク冒険者のですか……」
世界最強を謳うあのSランク冒険者が敵にいるだなんて……。信じたくない。
けれど、国に反旗を翻そうという思想を持っていたという話を聞いたことがあったので、それも仕方ないかと思ってしまった。
学園長が重々しく言うが、その言葉を聞く教師達の顔色も暗い。
彼は続けて言う。
「奴の場合はただの報復……という事もある。それに、少し前までにいた〈守護獣の兜〉は〈選ばれし者〉の第3席を始末したという報告を聞いておる。丁度いいと思ったのかもしれん」
「そんな事が……」
僕がローバーを倒さなければ……。
でも、そうしなければ僕や……サナは実験台として酷い事をされていたはずだ。
学園長は僕を真っすぐに見て話す。
「クトー。危険な事は百も承知じゃ。生徒を巻き込む事はするべきでない事は分かっている。じゃが、この学園を守るために共に戦ってはくれんじゃろうか」
学園長が頭を下げて来るけれど、僕は慌ててそれを止める。
「頭をあげてください! 僕も戦うのは当然ですよ。ローバーを倒したのは僕ですからね。その報復かもしれませんし。僕の方こそ巻き込んでしまって申し訳ないです」
僕は学園長や教師達に向かって頭を下げる。
学園を巻き込んでしまったのは僕のせいでもあるかもしれないのだ。
一緒に戦ってもらえるなら協力するのは当たり前だと思う。
「そうか……手伝ってくれるか」
「はい」
「感謝する……。作戦会議を開きたいが……その前にレイラ嬢。貴方は逃げられよ」
学園長が言った意味が僕は分からなかった。
レイラも同じようで、聞き返す。
「もう一回言って頂けるかしら?」
「レイラ嬢。貴方の身柄は教会から絶対に守るように言われておる。危険があってはならないのじゃ。だから逃がす」
「断るわ」
「じゃが……」
「あたしも戦う。学園が危機なんでしょう? 回復役がいて困ることは無いと思うけど?」
「そうじゃが……」
学園長が困っていると、レイラはため息をついて首に下げた白い白鳥の聖印を外す。
「じゃああたし教会から抜けるわ。元々入りたくて入っていた訳じゃないし。丁度いいわ」
「レイラ様!?」
「お考え直しください!」
「嫌よ。もううんざりだわ。あたしは別に教会の為の駒になる気はないの。困っている人を見つけたら助けてあげたい。教会にいるとそれが出来ない様だから。アルセラ、今までありがとう。これを持って教会に向かって頂戴。それでいいでしょう?」
「レイラ様……」
レイラはどうでもいいようだ。
でも、アルセラがそれを許してくれなかった。
「レイラ様。では私も共に教会を抜けましょう」
「何言っているのよ。貴方はやることあるんでしょう?」
「レイラ様をお守りする以外の事は小さな事。我が忠誠は貴方にのみ捧げられるのです。教会等おまけでしかありません」
「アルセラ……」
レイラはそう言われて困ったような顔を浮かべている。
そこに、他の護衛の子達も声をかける。
「レイラ様が抜けるのであれば私も抜けます!」
「そうです! この学園の為に戦います!」
「貴方達……。学園長。いいでしょ?」
「後悔しても知らぬぞ?」
「大丈夫よ。あたし達は勝つからね?」
レイラは僕に向かってそうでしょう? という視線を向けて来るので、大きく頷き返した。
「うん。僕たちは勝つ。絶対に勝つよ」
「全く……近頃の生徒は血の気が多いの」
「学園を守りたいと言ってくれているんですから。いいではないですか」
ピュリー先生が優しく笑いかけてくれる。
流石ずっと授業で話しているだけあって分かってくれている。
学園長もゆっくりと頷いて、これからの事を話し始めてくれた。
「よかろう。では、これからの作戦について話す。といってもそこまで作戦を練っている時間はないし、単刀直入に言う。我々は打って出る」
「打って出る……。ということは、籠城はしないですか?」
学園には確かに城壁等はないのだけれど、街自体にはそれなりの物が存在している。
なので、それを使って持久戦をするのかな?
という事を思っていたのだけれど、それはダメらしい。
「最初はそれでもいいと思っていたんじゃが……相手にはあの〈殲滅者〉がいる。城壁等数分も経たずに崩れ去ってしまうかもしれない。そうなってしまえば最悪じゃ。市民や生徒を盾に取られればどうする事もできん」
「そこまで強力なスキルですか……」
「ああ、ワシの魔法でも抑え込めるかどうかといったレベルじゃ」
「そこまで……」
学園長の渋い顔に僕は戦慄する。
学園長の魔法で僕のスキルすら抑え込んだのだ。
それでも抑え込めない程のスキル……。
考えるだけでもヤバい。
しかし、学園長はそこからニヤリと笑う。
「じゃが、どうしてこの学園がそこまで兵士を置いていないのに、問題ないかを知っているかのう?」
「え? それは……学園長が強いから……とかですか?」
「当然それもある。が、この学園には防衛用の魔法がこれでもかと仕込まれておるんじゃよ」
「防衛用の魔法?」
「ああ、それをまず使い、その後、戦闘員は前線に向かう。それで良いかのう?」
「あの……どれくらいの威力なんでしょうか?」
僕は少しドキドキしながら聞く。
それほどに、学園長の顔には自信が漲っていた。
「それは見てからのお楽しみじゃ」
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