7話 side グレーデン
「クソがあああああ!!!」
俺様は近くのイスを思い切り蹴りつけ、叩き壊す。
「何でこの俺様がこんな部屋に閉じ込められなきゃなんねぇんだよ!」
「グレーデン様。お静まり下さい」
「これが落ち着いてられっか! ダンジョンであのタコ野郎と痺れ虫を消したと思ったらこんなことになってんだぞ!」
そうだ。
俺様は平民の分際で成績上位者になっているタコ野郎共を消して来たのだ。
わざわざやってやったと言うのに、帰ってくるなり閉じ込められた。
学園長の部下という騎士達に囲まれ、他の2人もそのまま連れて行かれてしまった。
俺様の護衛であるこの男は元Bランク冒険者。
それも斥候系なので、気付かれなかった。
その時に騎士を殺しておけば良かったものを、こいつは騎士を殺さずにようやく俺様の前に姿を表したのだ。
ふざけてやがる。
今度実家に帰った時にこいつの代わりを見つけて来させよう。
俺様は心に誓った。
「それが、不味いことになっていました」
「あ? 不味いことってなんだ」
「グレーデン様のお部屋が暴かれ、そこに捕らえていた女生徒等が見つかったそうです」
「は? 何かあったら始末しろと伝えてあったはずだろうが」
「それが……どうやってか、生還していたようです。それも、主導していたのが学園長との事で、ヴェルズダル公爵家としても証拠である者達が囚われてしまっては……」
「さっさと殺してこい」
「は……」
「お前が行ってさっさと殺してこい。そう言ったんだ。聞えなかったのか?」
俺様は奴をぎろりと睨む。
しかし、奴は首を振るだけで決して頷かなかった。
「出来ません。既に試みて失敗しました」
「何?」
「これを……」
奴は右腕の袖をまくると、そこには痛々しい火傷のような傷跡があった。
「それは」
「これは侵入しようとした時の傷です。数秒でこうなったので、やむなく引き返しました。まずはグレーデン様に状況を報告しなければ……と思った次第です」
「っち……。クソが……」
あのおもちゃ共は失っても構わない。
なんならこの後潰して消そうとしていたくらいなのだから。
あの小娘で遊ぶのも趣味じゃない。
さっさと兄の所に送ってやるのが優しさと言うものだ。
それよりも、タコ野郎の妹だ。
黒蛇病という事で、足が全く動かないらしいけれどそんなのはいい。
むしろだからこそ遊びがいというものがある。
と思っていたのだけれど、今はそんな所ではなくなってしまった。
このままでは実家に連れ戻されてしまう。
そこでまた遊び相手であるおもちゃを見つければいいが、学園長にやられたままでは気が済まない。
「何とかしろ」
「そう言われましても……。それに、学園長は中央高等院にかける……と」
「は? 何をかけるんだ?」
「その……グレーデン様の今回のことを……です」
「はぁ! 普通は学園内のことは学園の裁判で決めるべきことだろうが! なぜそんな場所で決める!?」
学園はかなりの人数と貴族や平民が存在しているので学園独自の裁判機構を備えている。
勿論、大それた判決は出来ないけれど、それでも、基本的に生徒間同士のことはここで処理される。
そして、中央高等院というのは、貴族を裁くための裁判所だ。
それも、男爵や子爵と言った下級貴族ではまず行なわれず、俺様の様な公爵家等でなければ行なわれない。
その為、裁判官は王自らが取る。
部下は俺様の様子を伺うように話す。
「それが……今回の件は相当悪質……との事で……。更に王もそれを承認されたと」
「ふざけるんじゃねぇ! この俺様が裁判にかけられるだけでもあり得ねぇのに。それも中央高等院だと!? 俺様を誰だと思ってやがる!」
俺様は怒りで全身が熱くなり、既に半壊のイスを更に蹴りつけてぶち壊す。
それでも怒りは収まらないが、やらずにはいられない。
「【九つの命】という圧倒的なスキルを持ち、更には次期公爵である俺を……裁判だと……!」
【九つの命】という8回死んでも復活するというスキル。
貴族である俺様達が心配する暗殺を心配しなくても良くなるもの。
公爵になる為に与えられたと神を認めてやってもいいと思った能力だ。
そんな物を持っている俺様に……。
というか公爵として、証拠の隠滅はかなり厳重にやったはずだ。
それがどうしてバレたのか。
まさか……裏切者が?
「第一。どうしておもちゃの存在がバレた! 決してバレないようにしていたはずだろう!」
裏切者の線を考えたが、こいつではない。
こいつは裏切れないように父が契約を結ばせたはず。
「それが……どうも殺したと思っていたクトーが生きて学園長に直訴したと……」
「あのタコ野郎が生きていたのか!? どうやって!? どうして!?」
「分かりません。騎士たちが密かに情報共有しているのを聞いた程度なので。それ以上やっていればバレていたかもしれません」
「クソ……あのタコ野郎が生きていた……? どうやってだ……。ということは、痺れ虫ももしかして……?」
「分かりかねます」
「クソ……クソクソクソ! クソがぁ!」
どうする。
どうすればいい。
中央高等院に連れていかれればきっと父の援護も意味を為さない。
少し考えて、やりたくはないが手を借りるべき……いや、利用するべき者達を思いだす。
「仕方ない。〈選ばれし者〉に連絡を取れ」
「……あの……連中をですか? 信用してもいいのでしょうか?」
「どちらにしろこのままだと終わりだ。使えるものはなんでもつかえ。以前俺様に勧誘をかけてきたのだ。断りはすまい」
それにしても忌々しい。
俺様が奴らの手を借りねばならないなんて……。
しかし、それも今回のことが終わるまで、それまでだ。
奴らの手を借り、いや、利用し終わった後には、俺が〈選ばれし者〉の奴らのトップに君臨してやってもいい。
そうすれば、今よりも住みやすい。
俺様にとって都合の良い世界が作れるだろう。
そう考えれば今回の件は丁度いいかもしれない。
俺を裁くと抜かす王もいつかこの手で……。
一人考え事をしようとしていると、一向に消えない部下の姿にイラつかされる。
「何をしている。サッサと行け。話は終わりだ」
こいつからの話は十分に聞いた。目障りだ。
「しかし……。〈選ばれし者〉とはどの様に連絡を取ればいいのでしょうか? あちらから話をして来たことしかなく、こちらからの連絡手段を知りません」
「何……いや。確かに……。音もなく現れて、消えていったな……。分かった。こい! 〈選ばれし者〉! 貴様らの仲間になってやる!」
確かこうすれば奴らは来るはずだ。
こんなことをさせた奴は俺様がトップになった時に晒し首にしてやる。
「それでは失礼します」
「ああ、さっさと下がれ」
俺様は、〈選ばれし者〉の連絡員が来るのを待つ。
しかし、グレーデンの学園で行なわれる裁判の日まで、彼らから連絡が来ることはなかった。
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