65話 ジェレと学園長
僕は学園長室に来ていた。
学園長はいつもの執務机に座り、その隣には体に包帯を巻いて顔には真っ白い仮面を被った水色の髪の少女、ジェレがいた。
「よく来てくれた。クトー。この学園……いや、この国を代表して感謝を述べさせてもらう」
「学園長……僕は出来る限りの事をしたまでですから」
「そういう訳にもいかん。ワシも……いや、先にジェレ。お主から話すようにするか」
学園長がそう言うと、彼の側に控えるジェレが前に進み出て仮面を外す。
ジェレの顔は人形の様に整っていて、どこにもケチをつけることが出来ないほど美しい。
ただ、その表情は一切動く事もなく、淡々と口を開く。
「感謝する。貴方のお陰で助かった」
「どういたしまして……いえ、こちらこそ助かりました。貴方がサナの部屋に手紙をおいてくれていなければ、僕は追いつけなかったかもしれません」
「そう……。それは良かった。私からの話は以上。何かやって欲しい……誰かを殺して欲しいとかだったら言うといい。出来る限りはやるから」
「そ、そうですか……」
真顔で誰かを殺すという話は流石にちょっと怖い。
というか、そんな簡単に言う事が出来るとは、僕とそう歳は違わない感じがするのにどんな人生を送っているのだろうか。
「話は以上。でも、感謝していることは伝えた。他の……私の部下も貴方に感謝している」
「あ、いえ、助けられて良かったです」
「……それじゃあ。私はこれで」
ジェレは再び仮面をつけて、一瞬で消え去ってしまった。
僕は学園長を見ると、彼はかなり驚いた顔をしていた。
「学園長? どうかしましたか?」
「いや……。ジェレが自ら仮面をとるとは……。驚いてしまっての」
「そうなんですか?」
「ああ、ジェレは絶対に仮面を取ろうとしない。彼女は元Aランク冒険者じゃったが、仮面を取らないことと、あの無愛想な態度で貴族からの依頼で問題を起こした事もある。しかし、それでも彼女は決して取らない。ワシでさえ、彼女の素顔をみせてもらったことは1回しかないからの」
「そうなんですか……」
「それほどに彼女は仮面を取ることを嫌う。まぁ……助けてくれたお主への感謝のつもりか……誠意じゃろう」
「なるほど」
ジェレという少女の事をほとんど知らないけれど、それでも、彼女は僕に本当に感謝しているのだろう。
感謝するのは僕だと思うのだけれど……。
サナをずっと……本当にずっと守り続けてくれていたのだから。
そんなことを思っていると、学園長に話かけられる。
「さて、それではワシの話じゃな。クトーよ。感謝……という言葉では効かないかもしれん。それほどに、今回の事はワシも……国も感謝している」
「そこまで……ですか?」
「当然じゃ。国の大事な人間であるフェリス王女に呪いをかけていた者を消し、フェリス嬢の呪いを解除したのじゃ。国としてはそれだけでもお主に感謝しない等ない。今まで誰も成し得なかった事なのじゃぞ?」
「それは……そうかもしれません」
「それに、国の中枢にも呪いをかけられて、操られていたかもしれない。そんな話がたった1日で聞こえて来るほどだ」
「そんなに直ぐですか?」
「ああ、それほどにあのリャーチェの呪いは恐ろしく、隠匿性が高かったという訳じゃ。これでは国も気が付けないはずじゃ……」
「確かに、リャーチェは……恐ろしく強い方でした」
今思い返しても、彼女の本来の戦い方は正面戦闘ではなく、後ろから操って戦うスタイルだったのだろう。
それなのに、僕との正面戦闘で、あれだけの力を見せつけて来た。
思い返してももう戦いたくない。
学園長も知っているのか、それに頷く。
「ワシが小さいころから……リャーチェは活動をしておった様じゃしな。ワシも最近であれば呪いをかけられたら対応できたかもしれんが……。昔からひっそりと刷り込まれていたら対応は出来ん」
「それでですか」
学園長に危険と言っても、〈守護獣の兜〉は大丈夫と言って聞かなかった時の事を思いだす。
「そうじゃ。どうしてか、ワシ等はあの〈守護獣の兜〉が安全でもっとも信頼できる冒険者パーティ。そう思いこまされておった」
「ただ、それが解けたのは良かったです。これで、〈黒神の祝福〉を討伐に国も乗り出してくれるんでしょうか?」
僕としては大事なのはそこだ。
彼らはきっとまたサナを狙ってくる。
だから、今のうちに潰してしまわなければならない。
「出来るだけ急がせるが……確実に……とは言えん。国の中枢も呪われていたからの。どれだけの者が呪いとは関係無くやつらの側についていたのかを把握することも必要になってくる。少なくとも、今すぐに……という事は出来んじゃろう」
「そんな……」
「じゃが、そう焦ることもあるまい。まずは体を休め、奴らの情報を集めるのじゃ。ワシが使える人脈は全て使う。そして、入ってくる情報は全てお主に渡す。それでは不満か?」
学園長がそう申し出てくれるのは嬉しい。
でも、サナには一刻の猶予もない。
それに、奴らのことに関しては情報がある。
「不満ではありませんが。リャーチェが話していた情報があります」
「なんじゃと? お主に情報を漏らしたと?」
「はい。彼女は褒美……と言っていましたが、〈黒神の祝福〉の本部は、教会の本部にある……。そう言っていました」
「ベネディラ……? そんなはずは……」
学園長が驚いたように目を見開き、僕を見つめてくる。
その視線は僕が嘘だ。
と言って欲しいようだ。
「本当です。もちろん、真実であるとは限らないので、確認する必要はありますが……。でも、彼女が死ぬ前に、ギーシュ……と名前を呼んでいました」
「ギーシュ……知らぬ名だな」
「でも、もしかしたら〈黒神の祝福〉に繋がりのある人かもしれません。ですから、是非とも調べて欲しいのです」
「分かった。最優先で調べさせる。他になにか情報はあるか?」
「それが……リャーチェよりも、強い人がいる……。彼女はそう言っていました」
「あ奴よりか……?」
学園長の表情が少し絶望に染まっている。
それほどに、リャーチェの行なっていた行為は、桁外れで、規格外の強さだったのだ。
「リャーチェは……そう言っていました」
「ギーシュ……それに……リャーチェより強い者……。そんな者がおるのか?」
「Sランクの冒険者はどうなのでしょうか? 彼らもその強さからSランクになっている。という話を聞いた事がありますが」
「確かにSランクの冒険者はおるし、強い。が、性格に難がありすぎて、扱いに困っておるしの」
「何という人なんでしょうか?」
「その者は〈殲滅者〉ロード・バルバロイ。【破壊者】という超強力なスキルを持つ者じゃ」
「【破壊者】? どんなスキルなのですか?」
「あくまで聞いた話でしかないが、彼の選んだ物質を全て破壊し、その破壊の波動を使って周囲にばらまく事も出来る。攻撃に特化したスキルじゃな」
「そんな人が……。その人よりも強いことなどあるのでしょうか?」
僕がそう聞くと、学園長は考えて話す。
「一応。リャーチェの様に絡め手でくれば、いけないこともないじゃろう。じゃが……ロードは正面戦闘では世界最強を謳っておる。じゃから何か絡め手があるのであれば、もしかしたら……という事じゃな」
「なるほど……。その人に手伝ってもらう。という事は出来ないのでしょうか?」
「〈黒神の祝福〉の討伐か?」
「はい。王家にも手を出したのですから、それくらいしてもいいのでは……と」
僕が提案すると、学園長は悩み、口を開く。
「そうしたいのは山々じゃが……。ロードはさっき性格に難がある。と言ったな?」
「はい」
「その難とは、奴は国を引っくり返したがっている。という噂があるのじゃ」
「そんな!」
「しかも、ワシの方でも調べさせたが、真実に近いらしい」
「それでは……」
「ああ、王家がロードに依頼をしたらどんな要求をされるかわからぬ。恐らく、出来ないであろう」
「分かりました……」
Sランク冒険者が味方になってくれれば、僕はそう思ったのだけれど、上手くはいかないらしい。
「しかし、ワシも出来る限り手助けをさせてもらう。今一度……信じてくれんか?」
「学園長……僕は最初から信じています。よろしくお願いします」
「……こちらこそ頼む。学園を守ってくれた英雄に、出来る限りのことはさせてもらうからの」
「……ありがとうございます」
こうして、僕たちは〈黒神の祝福〉に対するこれからの事を考えて行く。
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