60話 VSリャーチェ①
「ぎゃあああああああああ!!!」
リャーチェはその場に膝から崩れ落ち、地面にうずくまってこちらを睨みつける。
「アンタ……許さないよ」
「それはこっちのセリフだけど?」
僕も下から見上げてくる彼女の視線を受け止める。
サナを神の降臨に使う? 彼らの目的自体は分かったけれど、まだまだ詳しいことは分かっていない。
痛めつけてでも、もっと詳しく聞かなくてはならない。
「『白黒覇気』」
「くっ!」
すぐ真下の彼女から白と黒の入り混じる閃光が放たれる。
僕は触手でそれを防ごうとするけれど、隙間からも出てくる光でさえ目を焼き尽くしてくる。
ただ、触手から伝わってくる振動によって彼女が近づいて来れば分かるので、問題はない。
閃光が収まり次第確実に潰す。
僕は閃光が収まった後に彼女を見ると、そこには何もいなかった。
「どこに!?」
僕が周囲を見回すと、彼女は左手で杖を持ち、目を閉じて何かに集中している。
彼女は詠唱をしていて、僕が気付いた時にはそれは完成していた。
「全ての生命は我の元に、万物の寿命は我が命に。【生命共鳴】」
「【水流切断】!」
僕は彼女が何かするのを止めようとスキルを放つけれど、それは間一髪で止められてしまう。
彼女の周囲には白と黒の紐の様な物が何重にも巻きつき、彼女の体をさなぎの様に覆っていく。
そして、彼女に巻きついているそれらが一瞬で消えると、そこには少女ではなく、妖艶な美女が立っていた。
彼女はリャーチェが着ていた服をそのまま着ているのか、色々な部分が盛り上がりかなり煽情的な見た目になっている。
表情もこちらを誘惑しているような視線で見ていた。
「お前は……」
「ふふ、あたしはリャーチェだよ。びっくりしたかい?」
「手も……元に戻ったの?」
そう。
僕が潰したはずの手は何事もなかったかのようについていた。
「ふふ、あたしのスキルは生命を操れる。完璧だろう? この見た目も……本当は力を使い過ぎるのはやりたくないんだけどね? アンタにはこれだけやらないと不味そうだから特別だよ」
「それが貴方の本気……っていう訳か」
「そうだねぇ。でも、そこまでの技を使うかねぇ? 『灰紫蛇』!」
彼女が呪術を詠唱すると、彼女の側に灰色の蛇と、紫色の体長2m程の蛇が生まれる。
「行け」
「シュロロロロロロロロロロロ!!!」
2体は僕の方に向かって来るので、僕は迎え撃った。
「【水流切断】!」
シュパッ!
直ぐ近くの2体に当たるように放ったけれど、どちらにも効果は無かった。
灰色の方はまるで存在しないようにすり抜け、紫の方は完璧に弾かれてしまう。
次は何で迎え撃つ? 触手で掴んで握りつぶすのがいいのか?
少し考えていると、リャーチェがまたしても詠唱をして来る。
「『黄金の閃光』!」
彼女から僕に向かって一本の閃光が放たれ、僕のクラーケンの触手を貫通した。
焼き切られるような痛みが走る。
「くっ!」
「痛がっている暇はあるのかい?」
「シュロロロロロロロロロロロ!!!」
そこに先ほどの蛇2体が飛びかかってくる。
でも、こいつらは問題ない。
「【闇の牢獄】」
近距離に来てくれればこれが使える。
2体とも巻き込むようにしてスキルを使う。ただ……
「ぐぅっ!」
紫の蛇は捕まえられたけれど、灰色の方は全く手ごたえがない。
どころか、いつの間にか足元から首が伸びていて、ふくらはぎを噛み千切ろうとしていた。
それでこの蛇の能力を悟る。
こいつが出入り出来るのは影なのだ。
そして、さっきリャーチェが逃げた時も、きっと影を使ってどこかに移動していた可能性が高い。
「『黄金の閃光』」
「うお!」
その言葉が聞こえた途端、僕は体を横に投げだした。
すぐそばを金色の閃光が駆け抜けていく。
考える時間がほしい。
でも、奴は……そんなこと関係無いとばかりにいや、わざと僕に考える時間を作らないように攻撃をし続けているのだろう。
ならばこっちは……。
「【触手強化】」
ブチィ!
触手を強化し、足に噛み付いている蛇を一瞬で殺す。
そして、
「【保護色】」
姿を消してリャーチェに向かって進む。
「姿を消すなんて! やっぱりあたしにビビってるのかい!?」
「……」
「それとも……そこだね! 『黄金の閃光』」
僕は彼女の狙いを躱す様に横にずれる。
すぐ横を金の光線が通り抜けて行くけれど、彼女に姿を消すのは通用しないらしい。
でも、動かなくてもバレないのだろうか。
「そんな所で立ち止まってどうしたんだい?」
彼女は僕をじっと見つめている。
やはり、姿を隠すのはこのレベルの相手になると意味がないらしい。
しかも、何だか彼女から圧し潰されるような圧力も強くなった様な気がする。
「ちょっと試しただけだよ。姿を消して意味があるのかってさ」
「アンタ……余裕だねえ。学園長も王族でさえ呪って見せたこのあたしを前に試した? なめてるのかい?」
「呪った?」
僕はそちらの方が気になって彼女に聞く。
「は! まだ気が付いて無かったのかい? まぁいいさ。アンタが消したフェリスの両手の呪いも、学園長があたし達をあれだけ信頼していたのも、少しずつ呪いを入れて洗脳していたからに他ならない」
「フェリスを呪った術者が……お前だったのか……。それに、学園長にまで……」
「この国を古くから支配する〈黒神の祝福〉。その副盟主たるあたしがその程度出来ない訳ないよなぁ!」
「副盟主……」
「そうだよ? 驚いたかい? それに怖気づいてあたし達の軍門に下ってくれるといいんだけどねぇ?」
彼女は本気で勧誘しているのだろうか。
確かに、その言葉に嘘はあるようには思えない。
「そうさ。アンタほどの実力者なら喜んで歓迎するよ?」
「サナを神の降臨に使うっていうのを止めてくれたり?」
「あの子は500年待ち続けた子だ。それは出来ないね」
「それなら……やっぱりダメだね」
「そうかい……っち。アンタの精神はどうなってんだい。普通これだけ呪力を浴びせれば廃人になっていてもおかしくないっていうのに……」
「僕にはサナがいるからね。お前程度の精神攻撃は効かないんだよ」
僕の会話に付き合ってくれていたのはそういう理由だったのか。
でも、僕としても彼女から話を聞くことは大いに役に立つ。
それに、クラーケンの力をもっと……もっと使いこなせるように動かすのだ。
「行くよ」
僕は彼女に向かって走り出す。
「【墨吐き】」
僕は彼女目掛けて墨を吐き掛け、一瞬でもいいので隙を作る。
「効かないよ! 『黄風』」
強風が吹き荒れ、僕の肌を切ろうとするけれど、クラーケンの触手なら効かない。
「【触手強化】」
僕は触手を2本彼女まで伸ばし、握りつぶそうとする。
クラーケンの触手はイメージでどこまでもサイズを変えられるのだ。
僕が望めば、学園を取り囲むほど伸ばせるかもしれない。
圧倒的な速度の触手を放ち、リャーチェにまとわりつかせる。
でも、
「甘いね。『白黒覇気』」
彼女は閃光を放ってその光に紛れて消えてしまう。
「く……。後ろががら空きだよ?」
「え?」
「はぁ!」
ドン!
僕は彼女の放ったロッドの突きに吹き飛ばされていく。
油断した。
彼女がずっと距離を取るから遠距離の人だと思っていたけれど……。500年も生きていれば、近距離も出来るようになるのだろう。
空中で体勢を立て直し、先ほどの礼をする。
「【次元の門】」
「何!? ぐあ!」
僕は吹き飛ばされる勢いのまま彼女の後ろに転移場所を作り、勢いを乗せた蹴りを放つ。
やられたままではいられない。
彼女は吹き飛ばされ、怒りの籠った目で僕を見つめ返して来た。
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