59話 サナを狙う理由
「ここは……」
僕は目を覚まして周囲を見ると、そこは森の中のポカンと開いた広場だった。
近くには真っ黒い格好の少女に、両手が黒い少女。
そして、その近くには車いすに乗った可憐な……サナがいた。
「サナ……」
「!?」
僕が言葉を言葉を呟くと、彼女たちは驚きの表情で僕の事を見つめて来る。
「アンタ……一体どうやって? この子の呪いはあの方の力も入れて施したものなのに……」
「あの方って誰?」
僕は人間の体に戻っていて、ゆっくりと立ち上がりながら彼女に話しかける。
「アンタにいう必要はない。そう言わなかったかい?」
「そっちが答えてくれないなら僕も答える必要がないよね」
僕はそのまま彼女に近付いていく。
彼女は僕をかなりきつく睨みつけるけれど、僕にとっては涼しいそよ風の様なもの。
「……いいだろう。なら、もう一度試してやらせようじゃないか。フェリス。行け」
「い……嫌です」
「人形が口答えするんじゃない。カスク達の様に殺して人形にしてやろうか?」
「……」
フェリスはいつの間にか意識が戻ってきているのか、震えながら僕に近付いてくる。
でも、僕はそんな彼女を責めることはない。
誰だって死にたくないのだから。
「安心してフェリス。さあ、おいで」
「しかし……」
「大丈夫。僕に任せて」
「……」
彼女はゆっくりした足取りで僕の方に近付いて来る。
僕は、いつでもスキルを発動させられる様にして彼女を待ち受けた。
彼女の手がゆっくりと僕に向かって伸びてくる。
そこで、僕は両手を4本の触手にしてスキルを使う。
「【闇の牢獄】」
「きゃあああ!!!」
僕は彼女を真っ黒な棺のような場所に閉じ込める。
このスキルはクラーケンから借り受けたものの一つ。
フェリスが閉じ込められ、リャーチェは鼻をならした。
「ふん。その程度で遠くに送れたと思ったのかい? あたしの人形はそんな簡単に消せないよ!」
彼女はそう言って杖を持ちあげるけれど、何かが起きる事は一切ない。
不思議そうな顔をして、杖を振るっている。
「どうしたの? 早く見せてよ」
「くっ……アンタ……何を……」
「そんな物じゃないんでしょ? 早く」
僕は何が起きたか知っているから問題ないのだ。
【闇の牢獄】このスキルは空間を別の次元に飛ばすため、こちらからの影響を一切受けない。
だからリャーチェが何かしようとしても、一切影響を与える事が出来ないのだ。
「く……まぁいい! あんな雑魚、いてもいなくてもあたしには勝てないんだからね! 『黒炎』」
僕の周囲全てを真っ黒い炎が囲む。
「あははははは! これでアンタはもうお終いだよ! 〈黒神の祝福〉に盾突いて……あの方に盾突いて勝てると思わない事だね!」
「あの方……さっきから言っているけど、本当にそんな凄い人なの?」
僕がそう聞くと、彼女は大きく目を見開き僕を睨みつけてくる。
それこそ、殺気すら宿っていると言ってもいい。
「当たり前だろうが! お前の様な雑魚と一緒にするな! あの方は素晴らしく、高貴で、非の打ちどころのない圧倒的なカリスマ性を持つお方! あの方がいるからあたしはここまで続けて来れた! 長い時を生き抜いて来れたんだ!」
「長い時……? もしかして……500年前から生きていたり……?」
流石にないだろう。
そう思っていたけれど、もしかして……。
思ったらつい口に出てしまっていた。
彼女の目はスッと細まり、僕を見抜こうとしている。
「へぇ……学園にいるっていうことは……禁書庫に入れたのか。まぁ、それだけの実力があれば当然か」
「……おかげさまでね。でも、まさか本当に500年も生きている人だったなんて。もう引退して休んでもいいんじゃないの?」
僕は周囲に気を配り、炎が近付いている事を確認する。
でも、今はまだ彼女と話す時だ。
少しでも情報を集めなければならないし、クラーケンの力をどうやって使うのか頭の中で整理させなければ。
「お年寄りは敬うもの。さっさとここは引いてくれるとありがたいんだけどね?」
「若い者に道を譲ってくれてもいいんじゃないの? サナもまだまだ若いんだよ? 黒蛇病をばらまくぐらいなら、治す方法も知ってるんじゃない?」
「あはははは! あたしたちは確かに黒蛇病をばらまいている。でも、治し方なんて知らないよ。第一、何でばらまいているのか知らないだろう?」
「……そうだね。でも、それにサナが関係しているっていうのは分かるかな」
「……どうしてそう思うんだい?」
「考えたら簡単に分かると思わない? 貴方達はこれまで長年国と信頼関係を築いてきた。でも、今回それを崩すことになってまでサナを強引に連れ出したよね? それに、今ここにいるのはフェリスとサナだけ。でも、フェリスがほしいなら、もっと前、王城にいる時から何とかできただろうし、今もサナを少し離れた所に置いている。傷つけたくない。それは本当に大事だからでしょ?」
僕がそう言って彼女を見つめると、彼女は声高らかに笑い始める。
「あっはははははは! なるほど、なるほどなるほど。よくわかったねぇ。そうだよ。その通りだよ。確かにあたし達の目的にはサナ。彼女が必要になってくる。だから彼女を人質に取る様な事は絶対にしない」
「無事に返してくれると嬉しいんだけど」
「それは出来ないねぇ。あたしたちの500年の悲願なんだから」
彼女にそう言われて、僕は考える。
彼女たちの目的、一体なんなんだろう。
黒蛇病をばらまき、そして、長年待ち続けること。
そして、サナだけがそれに該当することとは一体……。
サナは可愛い。
本当に可愛い。
世界で一番可愛い事は揺るぎない事実だと思う。
けれど、だからと言ってそれを使うということは考えにくい。
彼女で無ければならないもの。
それを考えると、一つだけ心当たりがある。
けれど、それは普通、彼女が決して言わないことだ。
でも、もし……もしも、フェリスにそそのかされて言ったのだとしたら……。
もしもの可能性があるかもしれない。
「スキルか」
「ほぅ……よくわかったねぇ。こんな短時間で直ぐに気付けるなんて」
「僕が一番サナの事には詳しいからね。【器】っていうスキルを何に使うのかな?」
「何を言っているんだい? 器は器だよ。器は満たされる為にある。違うかい?」
「何で満たすのか聞きたいんだけど? 【黒墨吐き】!」
僕はそろそろ周囲に近付いて来た炎に、クラーケンの力を込めた墨を吐いて消す。
両手の触手を4方向に向ければ完璧だ。
それだけで炎は消え去ってしまう。
「やるじゃないか! 『赤黄砂嵐』!」
彼女が何か呪術と唱えると、炎が再び巻きあがるように赤と黄色の砂嵐が巻き起こった。
それらが体に当たると皮膚が焼け、裂傷を生む。
僕はこのままでは不味いと考えてリャーチェに向かって傷を受けながらも進んでいく。
しかし、彼女に行く途中で、クラーケンの触手で叩いてもびくともしない壁にぶち当たった。
「あはははははは! それに捕まったが最後、じわじわと削られながら死んでいくしかない牢獄だよ! アンタの物とは違って、ゆっくり死んでいるのをこうやって見ることが出来るのさ!」
「そ、そんな! 【触手強化】」
触手を強化して叩いてもダメ。
「くっ! これなら! 【墨吐き】!」
壁に阻まれて意味はない。
「あははははは! 結局それだけしか出来ないのかい!?」
リャーチェは僕が脱出できずに、体中傷だらけにしているのを見て笑っている。
「これなら……【水流切断】!」
シュパッ!
僕の触手から勢いよく出るけれど、壁を切り裂くことは出来なかった。
いや、正確には切り裂いているけれど、逃げる前に塞がってしまう。
「そんな……」
「あはははははははは!!! いいねぇ……その表情はそそるねぇ! 最高だよ! もう1分もしない間に動けなくなるだろうしねぇ! 何か聞きたいことでもあるかい!?」
リャーチェは楽しそうに聞いてくる。
「それなら……どうしてサナを狙ったのか教えてくれ! せめて……せめて死ぬ前に!」
僕は命乞いをする様に彼女に懇願する。
「あはははははははは!!! いいよ! その声は最高だよ! あたしたちはね。神を降臨させるのさ!」
「か……神? あの……世界に9柱いると言われている……あの?」
「その神以外にどの神がいるっていうんだい!? 当然その神さ!」
「その話……もうちょっと詳しく教えてもらえるかな。【次元の門】」
僕は彼女の側に移動用のゲートを作り、そこに入る。
僕一人分が入れる円形の大きさで、そこに入れば直ぐに彼女の側に出た。
「は……え……」
「もうちょっと詳しく。そう言ったよね?」
僕は彼女の杖を持つ右手をクラーケンの触手で握りつぶした。
「え……ぎゃあああああああああ!!!」
彼女の悲鳴が周囲に響き渡った。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
と思っていただけたなら
下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。