50話 フェリスとサナ
わたくしはサナと一緒に次の授業が始まるのを待っていた。
次の授業はAランク冒険者の方々が来てくれるもので、わたくしとしても恩のある方が来てくれるので楽しみにしている。
サナはわたくしの隣の席に……といっても車いすに座ってだけれど。
彼女はわたくしの手など、何も問題がないかのように話かけてきてくれる。
「それでねフェリス。兄さんがね。私にはなんでも似合うっていうのよ? もう……信じられないでしょ?」
「ふふ。わたくしもそう思いますわよ?」
「もう……フェリスまで……。でもでも、兄さんは本当に優しくって、私に学園の案内をしてくれたり、街の案内までしてくれて……」
「サナは本当にクトー様がお好きなんですね」
サナは口を開けばいつもクトーの事を言う。
わたくしまでクトー様を兄と錯覚してしまいそうになるけれど、仕方ない事かもしれない。
「だって、お兄ちゃんは私のヒーローだもん。当然だよ」
「そうですね……。確かに、わたくしの兄もそんな方だったら良かったのですが……」
クトー様から言われた事が頭から離れない。
わたくしの兄が……わたくしを殺そうと……いや、死んでも構わないと思ってあんな事を話していたかもしれない。
そう言われた事が。
「フェリス? 大丈夫? 顔色が悪いよ?」
わたくしが考え事をしていると、サナが手をとって優しく握ってくれる。
この両手になってから、人に触られること等無かった。
それを、サナは大丈夫とばかりに触ってきてくれる。
こんな友人を持てて、わたくしは本当に幸せだ。
「大丈夫です。わたくしは問題ありませんわ」
「そう? ならいいけど」
「それで、クトー様がどうされたのですか?」
「そうだった! それでねそれでね」
それからわたくしはサナのクトー様の話を聞く。
少しすると、授業の開始を告げる鐘がなった。
「それでは授業を始めるぞー」
先生が入ってくるのと同時に、その後ろからAランク冒険者パーティ〈守護獣の兜〉の皆さんが入ってくる。
わたくしはお世話になっているリャーチェ様にお辞儀をするけれど、彼女はチラリとわたくしに視線を送ってくるだけだった。
いつもの彼女らしいと苦笑してわたくしはそれを見送る。
彼女はいつもそうやって、誰かとコミュニケーションを取る様な事はあまりしないのだ。
そんな事を思っていると、先生は話し始める。
「さて、我がルインドワーズ高等学園では、戦闘訓練の指導も当然している。その為、今回依頼の都合で来ていただいたAランク冒険者パーティの方々に、戦闘の基本を教えて頂ける事になった。心して聞くように」
先生がそう言うと、獣人の大剣士、カスク様が前に出る。
「前に出て戦う剣士の奴は俺の所にこい。そんで、後衛の奴らは全部フルスタ……神官の所に来い。リャーチェ……そっちのちっこい黒い奴は何かあったときに話すだけだ。基本的にいないものと思ってもいい。質問は?」
Aランク冒険者パーティのリーダーをやっているだけあって、かなりテキパキと指示をしていった。
誰も質問はないようで、それぞれ別れて話を聞きに行く。
「サナは後衛だよね?」
「うん。そうだよ。フェリスも?」
「そう……ね。わたくしはどちらでもいいのだけれど……。サナと一緒に聞きましょうか」
「うん。ありがとう。フェリス」
「いいのよ。それじゃでは行きましょう」
わたくしは立ち上がってサナの車いすを押し、フルスタ様の方へ向かう。
しかし、それはすぐに止められた。
「ねぇ」
「!」
「!」
少しびっくりして心臓が飛び出るかと思ったけれど、声のした方を見ると何てことはない。
見知ったリャーチェ様だった。
「リャーチェ様……」
「様はいらない。どう? 調子は」
彼女はわたくしがしている手袋を作って下さった高名な冒険者の呪術師の方だ。
彼女のお陰で、今わたくしは学園に通えているし、サナという得難い友人を得ることも出来た。
本当に感謝してもしきれない。
「はい。問題は何もありません。リャーチェ様の腕が確かな証拠です」
「そう……」
「それで、今回はどうしてまた学園に?」
「元公爵家の護送」
「あのグレーデンですか」
「そう」
彼女はこうやって必要あることしか話さない。
けれど、わざわざわたくしの元に来てくれたのは心配してくれているからだろうか。
優しい方だと思う。
そう思っていると、リャーチェ様は視線をサナに向ける。
サナのことを紹介すれば、Aランク冒険者パーティの1人とでも知り合いになれる。
それは彼女にとってもいいことになるはずだ。
「彼女はサナ。わたくしの友人ですわ」
「そう。貴族?」
「いえ? 平民だったと思いますが……」
わたくしは確認の為にサナを見ると、彼女は頷いて自己紹介を始める。
「初めまして、リャーチェ様。私はサナと言います。そして、今言われた通りの平民です」
「その足は?」
リャーチェ様は構わないという様に聞いてくる。
普段は口を開かないが、興味を持ったらこれでもかと口を開く。
でも、これは止めた方がいいだろう。
「リャーチェ様、それは……」
「いえ、大丈夫よ。フェリス。私の足は黒蛇病によって動きません。ですが、これが人に移る事も確認されていませんので、ご安心して頂きたく……」
サナは強かった。
自分が黒蛇病であることも包み隠さず話す。
「知ってる。歳は?」
「歳……フェリスと同じ14歳ですが……」
「そう。スキルは何を持っているの? 魔法系統?」
「それは……」
サナは何か言い淀んでいる。
何か言えない事があるのだろうか。
「それは……どうしてスキルを聞かれるのですか?」
「……知った方がいいかもしれないから」
「あまり人には言いたくありません。ダメでしょうか?」
「それでもいい。けど、貴方のスキルを使って進行を遅らせられるかもしれない」
「本当……でしょうか……?」
サナは信じられないのかリャーチェ様を疑っている。
でも、それは彼女の事を知らないからだ。
リャーチェ様は信頼出来る方。
わたくしもサナには長く生きて欲しい。
「サナ。リャーチェ様は信頼できる方です。スキルを話して何か黒蛇病の手がかりになるかもしれません。お教え願えませんか?」
サナはわたくしとリャーチェ様を何度か見た後、少し考えてから話す。
「……フェリスがそう言うなら。私のスキルは【器】という物です。どうやって使うのか……何に使うのかまるで分からないんです」
サナが自分のスキル名を言った瞬間、わたくしを……いや、部屋全体を何か重苦しい物が包んだ。
「貴方が……」
リャーチェ様がそう言いながら、ゆっくりと……ゆっくりとサナに向かって手を伸ばす。
彼女の口元は歪なまでに曲がっていて、まるで恐ろしい存在であるかのような表情を浮かべていた。
彼女の手がサナに触れる……その時、
シュッ――カッ!
何かがサナとリャーチェ様の間を切り裂いた。
音がした方を見ると、投げナイフが床につき立っている。
「……」
リャーチェ様はどこか天井近くを見つめた後、すぐにわたくし達に背を向ける。
「また今度話がある」
「は、はい……」
彼女がそういう頃には、重苦しい雰囲気は消え去っていて、カスク様とフルスタ様が驚いた顔でリャーチェ様を見ていた。
「なんだったの……今の?」
サナはどこかキョトンとした顔をしていたけれど、どこか怯えているのか体は震えていた。
「分かりません……」
わたくしは、リャーチェ様の背を見つめる事しか出来なかった。
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