5話 証拠集め
「それでは本当にこの作戦でいいのかの?」
「ええ、もしもいなかった場合、学園長の立場も悪くなりますから」
僕と学園長、それと、学園長が信頼を置いている少数の騎士を引き連れて、グレーデン部屋の近くに来ていた。
「しかし危険が……」
「大丈夫です。最悪逃げ切って見せますから」
僕は大丈夫だと言うように学園長を見る。
彼は心配するように僕を見つめた。
作戦はこうだ。
まずは僕がグレーデンの居室に侵入する。
彼の部屋は、公爵家が多額の献金と共に好きに改造しているようで、中がどうなっているか分からないという。
だから、僕がまず偵察する。
そして、ウェーレや……もしかしたら他に捕らえられた女生徒がいるかもしれない。
その姿を確認したら、持っている魔道具で学園長達を呼ぶ。
学園長は即座にグレーデンの配下を拘束して、グレーデンが帰って来た時には全てが明るみに出ている。
ということにするのだ。
「口封じをして来るかも知れん。本当に気を付けるのじゃぞ?」
「大丈夫です。学園長の魔法ですぐに来て下さい」
「……頼んだぞ」
「それでは行ってきます。【タコ化】【保護色】」
僕は全身をタコにして、自身の体の色を周囲の色と全く同じにする。
これを使ってしまえば、他の人から見つかる事はない。
このスキルは一度【クラーケン】になってからなぜか使えるようになったスキルだ。
学園長が僕のスキルを使ったのを見てからグレーデンの部屋に向かってくれる。
そして、グレーデンの部屋を守るように立っている2人に話しかけた。
「扉を開けよ」
「誰だ貴様」
「この学園の長である。扉を開けよ」
「な、何用だ! ここはグレーデン様の……ヴェルズダル公爵家の部屋だ。いかに貴様と言えど開ける訳にはいかん」
「では中の責任者を呼べ」
「……暫し待て」
騎士がガチャリと扉を開けるのを、今か今かと待っていた。
扉の上の方に張り付き、扉が開くと同時に中に入る。
学園長が時間を稼いでくれている間に、僕は部屋の中を物色する。
(趣味が悪い……)
そこら中に金銀財宝とでも言うような物がこれでもかと置かれていたり、見たこともない魔道具が積み上げられている。
一応、それらを守る騎士もいるのか、目を光らせていた。
この部屋にはないので、僕は奥の部屋に向かう。
ただし、当然の様に扉は閉められている。
それにここにも騎士が2人立っているので、どうしたものか……。
迷っていると、奥の扉の方で気配がした。
もしかしてと思い扉の上に張り付くと、扉が開く。
タイミングよく中に入ることが出来た。
恐らく、連絡の魔道具か何かで責任者に連絡が行ったのだろう。
ちょっと偉そうな執事だったから学園長の話しに来たのだと思う。流石学園長。
僕は新しく入った部屋を見てみると、先ほどまでの金銀財宝がない普通の部屋だった。
絵や花瓶等は飾られているけれど、落ちついた部屋で食事をするのか長い机がイスと共に置いてある。
僕は周囲を調べて一番厳重そうな扉にあたりをつけた。
その扉の前には燕尾服を着た2人が立っている。
どうしようか悩み、一番近くの額縁をバレないようにゆっくりと持ち上げ、花瓶に向かって投げる。
ガシャァン! パリン!
額縁と花瓶がぶつかって地面に落ちる。
燕尾服を着た執事たち2人が慌ててそちらの方に向かった。
(よし)
その隙に僕はそっと扉を開けて中に入った。
中は普通の寝室といったところか。
怪しい所は何もない。
至って普通の、次期公爵が寝起きするには普通すぎる部屋だった。
(ビンゴ)
部屋の中を探すと、案の定隠し扉があったので入る。
地下へと続く階段になっているようで、しかも防音効果も高められているようだ。
少し緊張しながら降りていくと、そこには石造りの部屋、まるで牢獄の様な……様々な道具から拷問部屋のような……部屋が存在していた。
部屋のあちこちに血痕がついていて、隅には少女が3人ほど柵に囲われておかれている。
しかも後ろ手だけでなく足も縛られている様だった。
僕は警戒しながら近付くと、その中にウェーレがいるのを発見する。
「ウェーレ。聞える? ウェーレ」
「……? 誰……」
兄に似てクリっとした栗毛の優しい目をした少女。
今はその目は泣きはらしたのか真っ赤に染まっている。
そのまま連れてこられたのか、昔見た服を着ていた。
「僕だよ。クトーだよ」
「クトーお兄ちゃん!?」
「し! 静かに」
「あ……ごめん……」
彼女が嬉しそうに声を上げる。
他の2人に気付かれるかもしれないと思ったけれど、他の2人は人形の様に動かない。
裸にされて体中に傷跡が残っているのは目も当てられない。
「無事だね?」
「うん……わたしは何もされてない……」
「分かった。ちょっと待ってて」
僕は学園長からもらった魔道具に合図を送る。
これは言葉は送ることが出来ないけれど、確実に相手に連絡が行く代物だ。
ズゴオオオオオオオン!!!
合図を送った瞬間、ここまで響くような轟音が上の方で聞こえた。
「……何?」
「多分……学園長が来てくれてるんだと思う。それまでは僕がここにいるから、待っていて」
「うん。分かった。クトーお兄ちゃん」
僕らは暫く待っているけれど、学園長達は中々来ない。
こちらから行くべきかと迷っていると、2人が声を荒げて怒鳴り合って降りてくる。
僕は階段の横で待ち伏せた。
「さっさとおもちゃを処分しろ! 消してしまえばグレーデン様は問題ない!」
「分かっている! それにしても対魔法防御を施してあんのになんて威力だ!」
「学園長は桁違いの魔法使いだ! 表も魔法無効化がどれけ持つか分からん!」
「クソが! しかもあの人がいない時に限ってこんなことに!」
現れた2人は手に短剣を持っていた。
でも、階段を降りた瞬間に先頭の方を狙う。
「【触手強化】」
「っ!?」
先頭の燕尾服の1人の頭を出来るだけ強化した触手で殴りつける。
殴り飛ばされた彼は床を転がり動かない。
もう一人は僕の触手を警戒しながらも、ウェーレ達の方に向かう。
「【触手強化】」
「殺気で丸わかりなんだよ!」
「つぅ!」
僕の触手攻撃は残った一人に防がれる。
それどころか反撃に切りつけられてしまった。
ただ、奴は僕を警戒して足を止めている。
「出て来い。誰を相手にしているのか知っているのか?」
「知っているよ。グレーデンの犬でしょ?」
「貴様……!」
僕は無視されないようにウェーレ達の前に立ちはだかるように姿を見せる。
それと、腕の部分から計4本の触手を生やした状態にまで戻す。
この方が地上では速い。
「その姿……スキルで侵入していたのか。気が付かないはずだ」
「透明になれる魔法はあるけど、スキルは普通ないもんね」
「目の前に例外がいるがな! シッ!」
燕尾服の男は僕に向かって短剣を突き出して来る。
僕はそれを避ける。
ずっと躱し続けることは出来るけれど、このままではいけない。
燕尾服の男はゆっくりとウェーレ達の方に向かっているのだ。
避け続けているだけではいずれ辿りつかれてしまうけれど、こちらからの攻撃は全て反撃で切り裂かれるのだ。
(どうしたら……)
残り数mでウェーレ達の元に届いてしまう……。
あの力を使うしかないのか。
体の自由を奪われたクラーケンの力。
圧倒的な力を僕に与えてくれる。
しかし、もし使って体の自由を飲まれてしまったらどうする?
学園が滅ぶかもしれないと言われたあの力を使う事が僕に出来るのだろうか?
でも、使わなければウェーレが……ウィリアムに託された彼女が死んでしまう。
そうだ。僕はウィリアムの願いを聞き届けるんだ。
(力を貸してくれ、サナ)
僕は全身をクラーケンにする事はしない。
少しだけ、ほんの少しだけ力を引き出すようにしてスキルを使った。
「【タコ化:クラーケン】」
「クラーケン!?」
奴はクラーケンの名前に驚いて飛びのいてくれた。
今の内に、右手の触手1本だけにクラーケンの力を宿らせる様に集中する。
僕に従え、僕のスキルは僕がコントロールする。
誰にも自由は奪わせない。
しっかりと自分のスキルだと意識を保ち、触手1本だけを漆黒の触手に変貌させることが出来た。
ただ、すぐにでも漆黒の部分は全身に拡がり、体の自由を奪おうとして来る。
これに抗うことが出来ず、受け入れた時、僕は以前のように僕でなくなるだろう。
そうなる前に決着をつける。
「ち! 脅しか!」
燕尾服の男は短剣を構えて僕に向かって走り込んで来る。
僕は漆黒の触手だけを動かして奴に向かわせる。
「は! 刻んでやる!」
さっきまでの優勢が忘れられないのか、先ほどと同じように切りつけようしてきた。
僕は逆に短剣を受けとめ、つかんで奴のバランスを崩す。
「な!」
「ごめんね」
僕は漆黒の触手を振り、彼の両腕をねじり切る。
「へ……う、うわああああああああ! あぶっ」
僕は普通の触手に戻して、彼の意識を奪う。
そして、学園長が来るまで警戒を続けた。
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