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4話 学園長

 良かった。

 体の自由がやっと戻ってきた。

 僕の体を操っていたのは一体何だったんだ……。


 そう思っていたのも束の間、老人が杖を僕に向かって構えている。


「これでスキルは使えなくなった。投降しろ。さもなくばここで滅ぼす」


 老人の目つきは真剣で、本気で僕を敵として見てるようだ。

 先に殺そうとしたのは僕なのだから当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど。


「ま、待ってください! 僕は敵じゃありません!」

「先ほどの攻撃。当たっておればバラバラにされていたじゃろう。それでも敵ではないと申すのか?」

「う……そ、そうです! さっきのは……誰かに乗っ取られていたんです!」


 体の自由は効かなかったので間違いは無いようはず。


「何? 誰に乗っ取られていた?」

「分かりません……ネクロウルフに襲われて……死にそうになっていた時に……スキルを使ったら……」

「スキルに乗っ取られたと言うのか? そんなことあるはずが……いや、しかし、貴様、クトーじゃな?」

「はい。そうです。でもどうして貴方が僕の事を……」

「……ワシはルインドワーズ高等学園の学園長じゃぞ」

「え……あ……」


 ちょっと苦々しい顔をしている学園長と名乗る老人。

 確かに、どこかで見たことがあるな。

 と思っていたのは、ちょっと前にあった入学式で挨拶をしていたからだ。

 挨拶も短かった為、生徒からも好評だったこと位しか覚えていない。


「数日前にあったばかりじゃと思うが? ……まぁよい。それよりもどうしてここにおるんじゃ。ここはワシしか知らない秘密の研究部屋じゃぞ」


 学園長が僕を責めるような目で見つめてくる。

 学園長の秘密の研究部屋を壊して、更に殺そうとしたのだ。

 怒られても文句は言えない……。

 いや、こうして話を聞いてくれているというだけでも優しいのかも知れない。


 僕は申し訳ない気持ちを持ちつつも、ダンジョンに入った時からの事を全て学園長に打ち明けた。




「すまんかった……。ここを壊した事を怒るよりもまず先にするべきことがあったようじゃ」


 学園長が深く頭を下げている。


 最初こそ僕の話を警戒しながら聞いていたけれど、途中からは構えていた杖を下げ申し訳なさそうにうつむいてすらいた。


「頭を上げて下さい! というか、信じて下さるのですか?」


 自分で言うのもあれだけれど、嘘にしか聞こえないから不安だった。


 けれど、学園長にとっては違ったようだ。

 頭を上げて説明してくれる。


「君の噂は聞いておる。教師陣からの評判もいい。そして、グレーデンの悪い噂もこれでもかと聞いておる」

「ああ……」


 ウィリアムの話では過去に成績のいい女生徒に何かやっていたみたいだし、学園側としても調べていたのかもしれない。


「それにその腕についた緑の液体はネクロウルフのものであろう?」

「え? ああ、はい」


 そういえば腕についていたけれど、全ては取り切れなかった分が残っていた。

 それを学園長は見ていたらしい。


 考える僕とは違い、学園長はじっと僕の目を見て尋ねてくる。


「ウィリアムの死体はここから近いだろうか? 出来れば連れて帰りたい。というか、グレーデンの罪を公にして排除したいのだ。協力をしてくれんか」


 またしても学園長が頭を下げてくる。

 というか、グレーデンを排除してくれるのであればそれは願ってもないこと。

 僕の方からお願いしたいほどだ。

 それに、ウィリアムの死体も……。


「僕の方からお願いします。ウィリアムを……連れて帰りたいんです」


 1年も一緒に学生生活を送った、僕にとってはかけがえのない友人だ。

 せめて彼の死体は家族の元へ返してあげたい。


「では……その……魔法を解いても構わないかね? スキルに乗っ取られるような事にはならんか?」

「大丈夫だと思いますけど……一度解いて貰ってもいいでしょうか? 危なそうなら言います」

「気を付けてくれ。あれの相手はワシでは荷が重い。解除」


 学園長は魔法を解き、スキルを使えるようにしたけれど僕は何も問題がなかった。


「大丈夫みたいです」

「ほっ……。それでは行こうか」

「はい。こっちです」


 僕は道を案内した。

 けれど、斜めにダンジョンを壊しながら来たので、降りるのに苦労する。

 そこで、学園長が魔法をかけてくれた。


「『飛べ(フライ)』。これで飛んで移動できる。その方がいいじゃろう。慣れが必要じゃが、このまま進むよりはいいはずじゃ」

「ありがとうございます」


 少し苦労しながらも、ウィリアムの死体があった位置に戻る。

 狼は残っておらず、シンとした空間に、ウィリアムの使っていた明かりの魔道具が灯っていた。


「……」

「……」


 ウィリアムの死体はそこにあり、顔からは涙が零れた後が映っていた。


「『浮遊せよ(レビテーション)』。戻るぞ」

「……はい」


 学園長がウィリアムの死体を魔法で持ち上げ、秘密の部屋に戻る。

 そして、ウィリアムが腐敗しないように処理をした所で、詳しい話をすることになった。


「とりあえずの目的はグレーデンを学園から追放する。ということでいいかの?」

「はい。それに、出来ればサナを守って欲しいのと、ウィリアムの妹であるウェーレを救出して頂きたいです」

「なるほど。グレーデンはまだダンジョンから帰って来ないのじゃな?」

「ええ、あそこに行くまで1日は使っていましたから」

「では1日はあるのじゃな。その間に打てる手は全て打っておく。協力してくれるな?」

「勿論です。僕としてもサナをおもちゃにすると言ったグレーデンは絶対に許せませんから」


 僕の中でまたしても怒りが込み上げてくる。

 クラーケンの力を使ってでも奴を殺した方がいいのか。

 そう思えるほどに許せない。


「結構。ワシも大事な生徒に手を出されておったのじゃからな。許せん」

「僕は何を行なえばいいのでしょうか?」

「一応聞いておくが、ヴェルズダル公爵家と事を構える気はないじゃろう?」

「勿論ありません」


 ヴェルズダル公爵家とは、グレーデンの実家だ。


「では、ワシが前に出てやらせてもらうが良いか? グレーデンの悪事を暴いたという功績もワシがもらうことになってしまうが……」

「いりません。サナが無事ならそれで……。というか、僕が前に出たらヴェルズダル公爵家に目をつけられてしまいそうですから」

「まぁの。じゃが、何かあったらワシが力になる。それは忘れずにおってくれ」

「ありがとうございます」


 僕たちはこれからどうするか話し、細部を決めていった。


 ******


「話はこれくらいじゃろう」

「はい。ありがとうございます。学園長」

「こちらこそ感謝するぞ、クトーよ。お陰でゴミが排除出来そうじゃ」


 ワシは目の前にいる黒髪黒目の中性的な少年を見て話す。


「あの、ここから戻るにはどうしたらいいのでしょうか?」

「ん? ああ、こっちじゃついて来るがいい」

「はい」


 まずは学園に住まうゴミムシを排除する為に動かねばならん。

 彼の……クトーのスキルを研究させてもらうのはその後だ。


 本当のことを言うと、ゴミムシをサッサとダンジョンで消してクトーのスキルをもっと詳しく研究させてもらいたい。

 だが、立場上そんなことをしたらヴェルズダル公爵家が乗り込んできて面倒になる。


 だから公に処分して、それが終わってからスキルの研究をさせてもらうのがいい。


 【タコ化】最初にそのスキルがあると聞いた時は喜んで調べようとしたけれど、本当にタコの力をその身に宿すだけと言う話だった。


 それも、一般的に海にいて、人によっては食材にされているただのタコだ。

 その話を聞いた時はワシのスキル研究の役にそこまで立たないかと思ったけれど、先ほどのクトーの体を乗っ取った話を聞いたのならば話は別だ。


 ただ海の幸の力を宿すだけではない何かがある。

 これはスキル研究を命とするワシが取り組むべき事の様に思えた。


 幸いに、クトーは学園に入学した時から言っていることがある。

 彼の妹であるサナ。

 その少女が患っている黒蛇病という不治の病を治す。


 彼は常日頃から言っているのだ。

 ワシがそれに手を貸し、クトーはワシのスキル研究に手を貸す。

 完璧な関係を築ける。


 ワシはその時を想像しながら首を振った。


(いかんのう……。まずはゴミムシを徹底的に叩く所から始めねば……)


 ワシらは2人して地上に戻り、ゴミムシ掃除の行動に移った。

「面白かった!」


「続きが気になる、もっと読みたい!」


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