38話 火の鳥②
「はぁ……はぁ……」
僕はクラーケンの触手を足元に持って行き、着地の衝撃を和らげる。
クラーケンの触手は流石の強度で、この程度の高さから落ちてもびくともしない。
ただ、この触手を維持し続けるのは中々に厳しいものがあった。
すぐに触手を元に戻そうとしたけれど、嫌な予感がして思いとどまる。
「……?」
僕は火の鳥が燃え尽きて灰になった後の残骸を見る。
火の鳥は死んで灰になったはず、けれど、その灰が動いている様に見える。
もごもご……ポン
「ピィィィィィ!!!」
「嘘でしょ!?」
その灰の中からさっきよりも一回り小さい火の鳥が誕生し、僕に向かって炎を吐いてくる。
ただし、その炎はクラーケンの触手で受け止めた。
流石クラーケンの触手だ、何ともない。
「こっちから行くぞ!」
僕は走って奴に近付き、その体を触手で握りつぶそうとした。
灰になって復活したとしても、それのサイズは小さくなる。
であれば、復活できなくなるまで殺すだけだ。
「ピィィィィィ!!!」
「くそ!」
奴は僕が近付くよりも速く飛び去ってしまい、警戒しながら宙を飛び続ける。
しかも、さっきよりは速度を落として、ランダムな軌道を描いていた。
「どうしたら……遠距離攻撃があれば……」
クラーケンの様に水を自在に操ったり、時空を越えて攻撃したり出来れば……。
「ん?」
考えた時に、またしても頭の中に何かが浮かんでくる。
そして、そちらに集中しようとして、慌ててクラーケンの触手を維持するのに意識を戻す。
「危ない……。また乗っ取られる所だった……」
意識をしっかりと持っていないとクラーケンの力に飲み込まれる。
だから、戦闘全てに意識を割ける訳ではない。
ただ、こうして実戦の中で使い始めているからか、さっきよりも意識を割かなくても持たせられるようにはなっている。
命を賭ける事によって強くなれる。
そういうことかもしれない。
「ピィィィィィ!!!」
そうやって考えている間も火の鳥は炎を吐き続けてくる。
けれど、クラーケンの触手の防御力が高くて一切ダメージは負わない。
けれど、このままではじり貧だ。
クラーケンの触手で防いでいるといっても、他の部分は自分のままなのだから。
何とかして奴に攻撃を……。
そう強く思った所で、頭の中に新たなスキルが浮かんだ。
僕は、なぜかそれを使いこなせる、そう確信してクラーケンの触手を奴に向けて発動した。
「【水流切断】!」
シュパ!
「ピィ?」
僕も……高速で飛ぶ火の鳥も何が起きたのか分かっていない。
クラーケンの触手の先から、何か細い水が火の鳥に向かって真っすぐに伸びた。
そして、火の鳥は気が付いたら体を半分にしながら地上に落ちてきていた。
「え……」
自分でも何が起きたか分からない。
けれど、確実に僕がやった様に思う。
「は! 復活する!」
そこまで考えて、僕は奴に向かって走り出す。
次に復活する時にはもっと小さくなっているはず、だから、復活した直後に更に殺す!
「そこまで!」
「!」
僕は足を止め、声がした方を見ると、そこには学園長がゆっくりと歩いてきていた。
「クトーよ。そこまででいいじゃろう」
「でも、まだ火の鳥は……」
「しかしなクトー。お主が放ったスキルの跡を見てるが良い」
僕は学園長に言われて、火の鳥に放った先を見ると、その先の壁が完全に切り裂かれていた。
「す、すいません」
やばい、この先に誰か人がいた場合……。
「まぁ……大丈夫じゃろう。あちらの方角は幸いどこの建物も繋がっていない。じゃが……ワシが張った結界が切り裂かれるとは思わんかったぞ」
「結界?」
「そうじゃ。最初の炎で溶けた壁を見たじゃろう? もしワシが結界を張っていなければ、今頃この建物は崩壊しておる」
「そういえば……」
周りを見ても、確かに最初に溶けた壁と、僕がやった所以外はほとんど跡がのこっていない。
「しかも……まさかあそこまでの強さを見せてくれるとは思わんかった」
学園長が1人頷きながら納得している。
「にしても酷いですよ。流石に死ぬかと思いました」
初見の炎など直撃していたら黒焦げだっただろう。
「何、ちゃんと手立ては考えてあった故問題ない」
「本当でしょうね……」
「ほ、本当じゃ。しかし、よくぞたったこれだけの期間でそれほどの力を手に入れたものよ」
「それは……何というのか……。クラーケンの力を使えば使うほど、その繋がりが強くなっていて、力の使い方が分かるんです」
「ほう……」
最初は気のせいかと思っていたけれど、それは本当の様な気がしている。
もっと上手く……もっと強くなりたいと、そう思っている僕を応援してくれているのかもしれない。
なんて。
「そう言えば、火の鳥は大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、既に帰した。問題はない」
「ああ、もうやっていたんですね」
僕は火の鳥がいた場所に目を向けると、灰1つ残らずに消え去っていた。
「クトーよ。さっきの【水流切断】? じゃったか。あれについて詳しく聞いても良いかのう?」
学園長は尋ねる風を装って、かなり圧力をかけるように詰め寄ってくる。
「さ、流石に明日に響きますので……」
「なに。ほんの少し、ほんの少しだけでいいんじゃ。だから……の?」
「ごめんなさい!」
僕は走って学園長から逃げ出した。
「あ……」
演習場には、学園長の悲し気な声が残っていた。
******
「ハー! たく。何で俺達がガキのお守りしに行かなくちゃ行けねぇんだよ!」
そこは王都にある冒険者ギルドの酒場。
そこで、Aランク冒険者パーティ〈守護獣の兜〉の3人は料理の沢山のったテーブルを囲んでいた。
一人はこのパーティのリーダーで、獅子の獣人であるカスク。
大剣士で常に先人をきり、突破口を作る猛者。
「本当ですよね! カスク様。私もあんな所にいるよりももっと違う事をしていたいです! カスク様のお部屋に行く……とか」
神官の女性で、カスクに色目を使っているのはフルスタ。
基本的にカスクの言葉には従い、何かあると彼の側にいる。
「…………」
最後の1人は全身真っ黒に染めた服のリャーチェ。
常にフードで顔を隠した呪術師で、カスクが苦手とする敵を葬る少女。
「たく……ギルドマスターの依頼じゃなかったらぜってぇ行かねぇのによお」
「まぁ……ギルドマスターにはいつも助けれてますから」
「ほんとに、国の騎士は使えねぇ雑魚だ」
彼はAランク冒険者パーティとして、それだけの実力を誇っている。
それだけに、他の誰も彼らに文句を言うことは出来なかった。
「仕方ないですよ。あの学園長が守っている学園からここに連れてくるまで、一度襲撃されているんですからね」
「ああ、〈選ばれし者〉だろ? この前第3席次とか言う雑魚を殺したばっかじゃねぇか。俺達に歯向かう雑魚の分際で、何が〈選ばれし者〉だ。笑わせる」
「本当ですよね。カスク様にかかればあの程度、朝飯前です」
「ほんとだぜ。はぁ……行きたくねぇが……お前はどう思うんだよ。リャーチェ」
「…………別に」
「そうかよ」
彼女はどの依頼にも基本興味を示さない。
ただ、興味を示す時は必ずと言っていいほど譲らない頑固さを見せてくる。
以前王女の両手の呪いを見て欲しいと言われた時など、自分一人でも行こうとした位なのだ。
「ま、それがいつものお前だよな」
「…………」
彼女は無口。
これはこのパーティの基本だった。
このパーティのリーダーはカスクで、彼が率先して行い、それを補佐する形でフルスタがいる。
リャーチェは指示された事を完璧にこなし、彼らはここまで来たのだ。
暫くは食事を続け、食事を終えた3人は部屋に帰る。
「それじゃあ明日から学園まで3日。寝坊するなよ」
「リャーチェなら大丈夫ですわよね。さ、行きましょう、カスク様」
そう言って2人は同じ部屋に入っていく。
リャーチェはフードの中から彼らを一瞥すると、自分の部屋に戻って行く。
「いつになったら見つけられるのか……」
彼女はそう言って、自分の部屋に引きこもった。
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