36話 スキル検証②
僕は学園長の後に続き、いつもの学園長の部屋に到着する。
「さて、今日は……これじゃ」
そう言って彼は ドン! っと以前小さなタコの入っていた壺を出した。
「その中には……」
「勿論、タコが入っておる」
「どんなタコなんですか!」
僕は壺に詰め寄って中を覗き込む。
「え……?」
どんな珍しい、もしくは、特殊な能力を持ったタコかと思ったのに、中に入っていたのは普通のタコだ。
特に変な所もない。
「これ……普通のタコですよね?」
「そうじゃ……じゃが、普通のタコとは違う所がある」
「?」
「手を入れて触って見るがいい」
「分かりました」
僕は袖をまくって、壺の中の冷たい水に手を入れる。
そして、タコを触ろうとしたら……。
「わ!」
水の中で思いっきり黒い液体を吹き付けられたのだ。
「な、何ですかこれ!?」
手を急いで引き、黒い液体に触らない様にした。
黒い……これも何かクラーケンの力と関係があるのだろうか。
色も黒だし、何かあるのかもしれない。
そんな警戒する僕に学園長は笑って見せる。
「ほっほっほ、全く危害はない。ただそうやって目くらましに黒い液体を吐いて、相手が怖がっている最中に逃げる事に使う種類もいる様なのでな。因みに、その液体の名前は墨という。せっかくなら使えるようになるかと思って連れてこさせたんじゃ」
「そうだったのですか。ちょっとやってみますね【タコ化】」
僕は体をタコにして、墨を吐くように……。
中々出来ない。
口から吐く……という感じでは出来ないのだろうか。
いや、そもそもこの墨をまだ一回しか見ていない。
「学園長、この壺の中に入ってもいいですか?」
「それは……構わんが、濡れるぞ?」
「問題ないです。タコになっている間は服も同化しますから」
「なんと!? そこまでじゃったのか?」
「え? ええ、そうですけど……」
「これは……どういう原理なんじゃ? もっと詳しく……同化出来る範囲がどこまで……」
学園長は一人の世界に入って行ってしまったので、僕も壺の中にはいることを決める。
壺の縁をよじ登り、中に体を投げる。
ちゃぽん。
壺の中の水は冷たく、水の中には墨が残っていてかなり黒い。
どこにさっきのタコがいるのかも分からない。
けれど、それは今はいい。
この墨とやらを余すところなく感じるようにしたいのだ。
水の中でその墨を飲んでみる。
特に味はあるようには感じない。
ただ、なんとなく粘り気がある様な気がする。
(他には……臭いは……そこまで……ない……? いや? かすかにだけどある)
タコの墨を出来る限り自分に取り込んで、その全てを把握していく。
どれくらいの時間が経ったのか分からないけれど、長いこと墨を触っていたと思う。
いつの間にか、墨は大分減ってしまった。
(墨……もっと欲しい……)
そう思って回りを見ると、壺の奥底に縮こまるようにしてうずくまっているタコがいた。
ちょっと親近感が湧く。
僕は、そのタコの方に近付くと、タコは思い切り墨を吐き出してきた。
「!」
なるほど。
そうやって出しているのか。
タコが墨を吐いている所を至近距離でいることが出来たし、どうやって出しているのかも、その威力もしっかりと見ることが出来た。
(よし、出よう)
僕は触手を使って壺を登り、外に出る。
外では学園長も未だに一人でぶつぶつと独り言を話していた。
「よし……それじゃあ……」
僕は頭の中で先ほどの墨を吐くイメージを強く持つ。
すると、頭の中に、ふと言葉が浮かんで来るのだ。
僕はその言葉を口から出し、スキルを発動する。
「【墨吐き】!」
ドバッ!
その瞬間、僕の目の前が真っ暗になった。
僕の口の辺りから真っ黒な墨が飛び出し、周囲一帯を真っ黒に染め上げる。
「……」
「……」
いつの間にか独り言をやめていた学園長が僕の方を見ている。
「ごめんなさ……」
「今のはスキルかね!?」
「はい!?」
「今のはスキルかと聞いているのだ!?」
「あ、は、はい! そうですけど」
「素晴らしい! もう習得したという訳かね!? 流石だよ。流石というほかない。そんなに簡単にスキルを派生させられるなんて!」
「あ、ありがとうございます」
タコの状態でも関係なく詰め寄って来る学園長が中々に怖い。
「あ、でも……すいません。僕のせいで……」
周囲を見ると、吐き出した墨で真っ黒になっている。
しかし、学園長は気にした様子もない。
「何、この程度は問題ない。『清掃せよ』」
学園長が魔法を唱えると、部屋中に付いていた墨は一瞬にして消え去ってしまう。
「凄いですね……」
「これくらい出来ねばな。それで……」
それから僕は先ほど成功した【墨吐き】のスキルについて学園長に徹底的に調べられた。
ただそのお陰で、僕もどれくらいの性能を持っているのか知ることが出来た。
かれこれ2時間はやっていただろう。
それが終わったら、今度は違う練習が始まる。
「それではいいですか?」
「いつでもいいぞ」
「行きます。……【タコ化:クラーケン】」
僕は両手をタコにして、4本の触手を肩の辺りから出す。
そして、1本ずつクラーケンの力を浸透させていくのだ。
1本1本を全力で気合を入れていないと、一瞬で意識を持って行かれそうになる。
けれど、もう二度とあんなことはさせられない。
サナをさらわせる事も、レイラを殺しかけることも絶対にしない。
僕が弱かったからあんなことになったんだ。
僕が強くなって、この力を自由に振るえるようになれば、きっと……きっと僕はもっと多くの人を……サナを守れるようになるのだから。
「ふ……く……」
既に触手の2本をクラーケンの力に変える事には成功した。
だけれど、毎回同じことをやっていても成長はない。
僕は、初めての3本目に突入していた。
最初は今は右手の3本目をやっているけれど、少しずつ、少しずつ気を付けながら力を受け入れていく。
こうでもしないと、一気に力が入って来てしまいそうだ。
そうして粘る事5分。
僕は、初めて3本の触手をクラーケン化させる事に成功していた。
「よくやった! もうそれで十分じゃぞ!」
「まだ……まだ……です! 僕は……もっと……強くならないといけないんです。この力をキープして、そして、欲を言うなら自由に使えるようにならないと……」
僕の大事なサナを守るためには、力がいる。
これからローバーの様な連中がまた現れないとも限らない。
サナはそれだけ美しく、素敵な少女だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
僕はそれから5分間。
触手にクラーケンの力を維持することに成功した。
「やりまし……た……」
僕は【タコ化:クラーケン】を解き、普通の腕に戻った。
「よくやったぞ。クトーよ。まだスキルのトレーニングを始めて少しであるのに、驚くべき成長ぶりじゃ。中々ここまで行ける者は知らぬ」
「ありがとう……ございます」
「そこで……相談がある」
「相談?」
「ワシが敵を用意する。その相手と、勝負してみないか? 実戦練習の方が、圧倒的に実力の伸びが早いぞ?」
学園長から提案されたそれは、願ってもない事だった。
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