35話 呪われた姫君
僕は放課後にサナの姿を探していた。
「それにしても怖いな……」
レイラから〈呪われた姫君〉の話を聞き、サナにその事を伝えるためだ。
本当はすぐにでも学園長の部屋に行き、今日もスキルの練習をしないといけない。
でも、サナにこの事だけは必ず伝えなければならないのだ。
「サナ!」
暫く探すと、サナが肩口で切りそろえられた綺麗な金髪の女性に車イスを押されていた。
後ろから見るとスラリと背が高く白い手袋をしているのが印象的だ。
良かった、間に合った。
サナにさっきの事を伝えなければ。
車イスを押している女性が止まり、サナも首を回して僕を見る。
サナの顔が笑顔になっていく。
「兄さん! 丁度良かった! 探していたの!」
「本当! それは嬉しい!」
流石僕たち兄弟だ。
こんな所まで気が合っているとは思わなかった。
僕はサナに近付くと、サナごと振り返って来る女性に感謝を示す。
「サナの車イスを押していただけるとは……。本当に……あり……がとう……」
僕はそこで言葉が止まってしまう。
彼女の顔を正面から見たからだ。
彼女の顔が醜かった? 絶世の美女と言われてもおかしくない。
勿論、サナよりは下だけれど。
彼女の瞳に吸い込まれてしまいそうだったから? エメラルドの綺麗な瞳だった。
ナよりは下だけれど。
サナより上だったのは胸が弾けそうな程に大きいことだろうか。
まぁ、僕はサナの物が一番なので気にしないと言えば気にしない。
振り返った彼女の見た目は、先ほどレイラに聞いた姿と一致していた。
「〈呪われた……姫……君〉?」
僕は思わず口からこぼれていた。
その瞬間、彼女は悲しそうな顔をする。
「申し訳ありません。わたくしはもう彼女の側に近付きませんので」
彼女はそう言ってサナの車イスから手を放した所で、僕の鳩尾に拳が叩き込まれた。
「ぐふ!」
拳を叩き込んできたのはサナで、怒りの目を僕に向けている。
「待って! フェリス! もう! 兄さん! 何てこと言うの!」
「さ……サナ……何を……」
「それはこっちのセリフよ! 私の友達を紹介しようとしたのに! なんてこと言うの!?」
「サナの……友達?」
僕は中々強烈な一撃が入ったみぞおちを抑えながらフェリスと呼ばれた少女を見る。
彼女は僕たちを見てポカンと口を開いていた。
でも、今はサナの烈火の怒りが恐ろしい。
「そうよ! 前に話したでしょ! っていうか、その呼び方はフェリスが悲しむから二度と使わないで!」
「サナ……ちょっと……説明をしてくれないか……?」
「もう……分かったわよ。そこの空き教室でいい?」
サナはそう言って一番近くの空き教室を示す。
「いい……よ」
僕は何とか一人で立ち上がり、そちらによろよろと歩いていく。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
フェリスがそう言って心配してくれる。
意外と優しい人なのかもしれない。
「ああ、ありがとう……でも大丈夫だよ。サナの攻撃は痛くないから……」
「は、はぁ……」
ちょっと不思議そうな顔をしているけれど、一体どうしたのだろうか。
サナの拳を叩き込まれるのはご褒美だと言うのに。
それから移動して、僕たちは誰もいない部屋に入る。
「それで……説明って何をすればいいの?」
サナはムスっとした表情で見つめて来る。
「説明も何も、兄さん。フェリスの噂を聞いて私の所に来たんでしょ」
「そ……そうだけど……」
「触れられたら死ぬ? そんな訳ないじゃない」
「え? そうなの?」
「そうよ。まぁ……死んだ人もいるみたいだけど……」
「!」
サナはボソッとえげつない事を放り込んで来る。
「じゃぁ……」
「待って! でも、それは問題ないの」
「問題ない?」
「ええ、フェリスの姿を見て?」
「?」
僕は全身一通り見るけれど、確かに、学園の制服を長めの丈で着て胸が圧倒的に盛り上がっていること以外は特に分からない。
「兄さん? どこ見てるの?」
「いえ! 何でもないです!」
僕は何とかごまかして、他の部分を見る。
後は……真っ白で美しい手袋をしているという位だろうか。
「フェリス。話してもいい?」
「ええ」
頷くけれど、彼女はどこか不安そうな顔をしている。
サナは直ぐに俺を真っすぐに見て口を開く。
「フェリスに呪いは確かにかかっている。それも、彼女の両手に」
「両手?」
「うん。だから、彼女の両手に触るのは確かに危険かも知れない。教会や高名な冒険者に治るか聞いてもみたのよね?」
「はい……かなり強力なものだから治らない……。術者を殺せば解けるかもしれないと聞きましたが……誰が犯人かも分かっていません」
「でも、その代わりとして、呪いを封じ込める為の手袋を高名な冒険者から頂いた。違う?」
「……違いません」
サナの質問に答える形でフェリスが話す。
「という訳で、彼女の呪いは手袋越しであれば問題ないんです。ね」
サナはそう言って後ろを向き、フェリスの真っ白な手袋の手を握った。
「サナ……」
フェリスはサナの手を嬉しそうに握り返す。
「そうだったんだ……」
僕は申し訳ない思い違いをしていた。
一方的に決めつけられる悲しみを知っていたはずなのに、違う人に同じことをする所だった。
今までサナの黒蛇病はうつることはないと何回も言ったのに、聞いてもらえなかった時の事を思いだしていたのだ。
自分は絶対にしまい、そう思っていたはずだったのに……。
僕はフェリスのもう片方の手を取り握る。
「ごめんなさい。フェリス……様。どうか許して頂きたい」
僕は彼女の手を握り、頭を下げる。
「あ……え……でも……。本当に……いいのですか?」
彼女は戸惑いながらも僕に聞いてくる。
「? 勿論、サナが言ったのなら正しいと思います。なら、僕も貴方のことを信じることにします。という事と、サナも……うつることはないのに、それで悲しい思いをしたことがありますから。僕もそういう事はしたくないんです」
「でも、わたくしの手が呪われていることは本当で……。もし、もしも破れでもしたら、貴方の命が失われるかもしれない。本当にいいのですか?」
フェリスはそう言いつつも、どこか祈るような目で僕の事を見つめてくる。
「大丈夫ですよ。学園に来られている。っていうことはその手袋、かなり頑丈なんですよね? そういうことをしっかりとしているからこそ、学園に来る許可をもらっていると思います。違いますか?」
「……はい。そうです。そうなんです」
「なら、大丈夫だと思います。こちらこそ、勝手に噂だけで判断してしまって申し訳ありませんでした」
僕は頭を下げる。
そこで、フェリス様が慌てた声で僕を止めた。
「あ、頭を上げてください。今まで……この様に言って頂ける事はありませんでした……。ですから。こちらこそありがとうございます。手をとって頂いて、わたくし……とても嬉しいです」
フェリス様は目に涙を浮かべて喜んでいる。
やはり彼女としても、ずっとそう言われて来たのだろう。
サナの側には僕がいたけれど、彼女の側にはそう言ってくれる人はいなかったのかもしれない。
「やっぱり兄さんなら分かってくれると思っていたの」
「サナ……ああ、フェリス様。これからサナの事をよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願い致しますわ」
良かった。
これでサナにフェリスさんという友人が出来た事を、とても喜ばしく思う。
「それとクトー様、わたくしの事はどうか普通にフェリスとお呼びください」
「いやいや、それは流石に」
「大丈夫よ兄さん。私とフェリスはもう友達だから、兄さんも仲良くして頂戴」
「うん……。そこまで言うなら……これからよろしくね。フェリス」
「はい! こちらこそよろしくお願いしますわ」
彼女はそう言って笑ってくれる。
良かった。
これから彼女達と仲良くしてくれると嬉しい。
そこにサナが言って来る。
「あ、そうそう、兄さん。もしもフェリスの両手の呪いを解いたら嫁にくれるって国王様が言っているらしいから、兄さんが治してくれてもいいのよ?」
「サナ……それは……」
そこまで思った所で、後ろに何か気配を感じる。
「?」
「……」
僕が振り向くと、そこにはにこやかな笑顔をした学園長が立っていた。
「……」
「……」
「クトーよ。ワシが何を言いたいか分かるかね?」
「すいませんでしたー!」
僕は速攻で頭を下げる。
「では……行こうかの?」
「はい……」
僕は囚人のような気持ちで学園長について行く。
学園長との約束をすっかりそのままにしていた為だ。
サナとフェリスさんは、ポカンとした顔のまま僕の背を見ていた。
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