33話 後始末
僕はあの騒動から次の日、学園長室に来ていた。
ソファに座り、目の前で頭を下げている学園長を慌てて止めていた。
「ちょ、ちょっと待ってください学園長! どうして頭を下げるんですか!」
「これが下げずにいられるものか。この度の失態は全てワシの責任じゃ」
「そんな……全部だなんて……」
「いや、ワシの責任なのじゃ。ローバーが〈選ばれし者〉と繋がっていたのに教員として招いてしまった。そればかりか君の妹も警戒してしかるべき。そう言ったはずなのにさらわれることになってしまった」
「サナは無事だったんだから大丈夫ですよ。それよりも、頭を上げて下さい」
「むぅ……」
学園長は頭を上げるが、その表情は未だに困惑しているというか、申し訳なさそうな顔をしていた。
「じゃが、ワシほどの者にもなれば責任が……」
「学園長には感謝しています。僕が最初に暴走してしまった時に止めて下さいましたし、僕のスキルの特訓にも付き合って下さいました。それに、僕やサナにも護衛をつけて下さっていたではありませんか。僕はそれらのことを知っていますよ。サナも気にしないと言っていましたから……」
学園長は全て自分が悪い。
そう言っているけれど、本当にそうだろうか?
グレーデンの問題は……あれは国や公爵家の問題だ。
確かに学園で起きた問題ではあるけれど、全て学園長のせいにするのは違う。
あれから詳しく調査をしたらしく、その時にはグレーデンの息のかかっていた連中を処理したとも言っていた。
ローバー先生だってそうだ。
というか、彼のことについて言うのであれば、僕も気が付かなかった。
それほどにローバー先生が注意深くやっていたと言うことなのだ。
「そうは言ってもな……」
「そう思うのなら、これから気を付けて学園をより良くして欲しいです。ウィリアムの様な……事がもう無いように」
僕の頭に浮かぶのはウィリアム。
それと、彼の死を知って泣き崩れていたウェーレだ。
彼女とはあれから一度も会っておらず、一度会いに行ったけれど彼女の両親に今は……と言われて断られてしまったのだ。
僕は思っていることを言うと、学園長は深く頷いた。
「そうまで言ってくれるのであれば分かった。ワシが……ワシがこの学園をより良くして見せよう」
「はい。よろしくお願いします」
学園長は先ほどまでのような表情から変わり、使命感に燃えているようであった。
と、思ったら直ぐにいつもの飄々とした顔に戻る。
「さて、それはそれとして、クトー君。君には今回感謝してもしきれん。それほどのことをしてくれたのだ」
「そう……でしょうか?」
「ああ、〈選ばれし者〉は国を上げて警戒している組織でな。その第5席を捕まえたという事で勲章と報奨金が出るんじゃ」
「本当ですか!?」
やった! これで……これで色々な本が買えるかも知れない。
「ああ、勲章と金貨100枚を進呈させて貰うことになっている。それに、これでローバーやグレーデンから襲われる心配も無くなるからのう。妹と好きに出掛けるようにするといい」
学園長はそう言ってくれるけれど、僕は心の中で引っかかりがあった。
「あの……ということは、僕のはいいんですが、サナの護衛がいなくなる……という事でしょうか?」
「そのつもりじゃが……。今回の騒動が終わったんじゃ。もう必要あるまい?」
確かに、そうなのだ。
グレーデンは捕まり、僕に何かしようとしていたローバー先生も捕まった。
だから、サナにはこれ以上の護衛は必要ない。
「……」
「不安かの?」
「……はい。その……お願いがあります」
「何じゃね?」
「ローバー先生の報酬は勲章も金貨も僕は要りませんので、サナの護衛を続けて頂けないでしょうか?」
「それは……どうしてもかの?」
「どうしても……です」
正直に言ってかなり図々しいお願いであるように思う。
敵はいなくなり、もう襲われる心配もないはず。
その為に、護衛をつけておけ、というのだから学園長としても面倒に感じるかも知れない。
しかも、護衛をつけ続ける。
ということを考えたら金額もきっと金貨100枚では足りないかもしれない。
「分かった。そうするように手配しておこう」
「いいんですか!?」
「ああ、今回はこちらに落ち度がある。もうこの様な事が無いようにしなければならんからの。任せて欲しい」
「良かった……ありがとうございます!」
サナを守る。
それは僕がやることで、絶対だけれど、僕はずっと一緒にいられる訳じゃない。
それに、まだまだ自分の力を磨かねばならない。
確信出来ることがあったのだ。
だから、僕は少しの時間が必要だった。
自分のスキルをこれでもかと磨く時間が。
「ああ、そうじゃ。話がまだあったの」
「何のお話でしょうか?」
「ローバーとグレーデンの事じゃよ」
「それは……確かに聞かないといけませんね」
「ローバーは〈選ばれし者〉の一員だったという事で王都に送られることになった。それと、グレーデンじゃが。もう一度王都の中央高等院に送られることになる」
「分かりました」
分かったとは言ったものの、本当に大丈夫なのだろうかとは思う。
実際に過去に一度逃がしているのだ。
大丈夫だとは思うけれど……。
そのことは学園長も考えていたのか、目に力を込めて言う。
「次こそは誰も逃がさん。そのため、王都からAランク冒険者パーティを呼ぶつもりじゃ」
「Aランク冒険者……」
「うむ。そやつらがいれば確実に送り届けられるであろう。心配はせんでもいい」
「なるほど。それは確かに」
Aランク冒険者……国に数人いればいいと言われる人……その集団が来るということだろうか。
「話は以上じゃ。今回は本当に申し訳なかった。もしまた何かあれば好きに来て構わん」
「はい。それでは、また次のスキルの練習の時にお願いします」
「……ああ。ではの」
僕は学園長の部屋から出て、自分の部屋に戻ろうとすると、2人の見たことのある女生徒に止められた。
「あの、ちょっといいですか?」
「? はい。どちらさま……ですか?」
「ええ……と。そこまで面識はないんですが……。あの……あいつに捕まっていた……」
「……!」
そう言われてピンときた。
確か、グレーデンの地下牢? 的な場所にいた内の一人だ。
そして、隣にいる人もそうだ。
顔色が大分よくなっているので見違えてしまった。
「あの時は……本当にありがとうございました。クトーさんのお陰でこうやってまた無事に学園に通える様になりました」
隣にいる彼女も一緒に頭を下げてくる。
「それは良かった。帰って来てくれて嬉しいよ」
「……はい! クトーさんには感謝してもしきれません。もし、教会本部のベネディラに来ることがあったら是非家を尋ねて下さい。宿をやっているので、サービスさせて頂きます」
「本当? ありがとう。いつ行けるのか分からないけれど、行く時は是非行かせてもらうね」
「はい。それと……」
彼女はそう言いつつも、体を横にすっと動かす。
そこには、俯いた小さな少女がいた。
「ウェーレ……」
僕の友人だった……いや、友人のウィリアムの大事な妹のウェーレがそこにはいた。
「……」
「……」
僕たちはお互いに何も言えず、黙ったまま時が過ぎていく。
流石にそれは不味いと思ったのか、一緒に来ていた先ほどの少女がウェーレを促す。
「ほら。お話するんでしょう? また今度にする?」
(フルフル)
「なら、ちゃんと言おう? 分かってくれるから」
「……分かった」
ウェーレが小さく呟き、顔をグワッと上げる。
僕を見る目は強気な様な泣きそうな複雑な目をしていた。
「あのね……あのね……。ウェーレね。帰ってから考えたの。いっぱい……いっぱい考えたの」
「……うん」
「それでね、クトーお兄ちゃんにひどいこと……しちゃったなって……そう思って……」
「どうして?」
「だって……だって……クトーお兄ちゃんもウィルにぃのお友達だったんだもん。悲しくないはずがないのに……ウェーレ……ウェーレ……」
彼女はそう言いながら涙がぽろぽろと零れ落ちる。
「一人で……勝手に……」
僕はウェーレを力強く抱き締めた。
「ウェーレ。違う。違うよ。ウェーレは悪くないよ。僕も悲しいけど、きっと……多分……ウェーレ程じゃない。だから、だから……今は泣いていいんだよ」
「う……う……うわああああああああん!!!」
ウェーレが大声をあげて泣き、僕は強く抱きしめるしか出来ない。
「ウェーレ。ごめんね……ごめんね……」
「ううん。そんなことない! そんなことないよ! お父さん言ってたもん! ウィルにぃの顔が笑ってたって! きっと、最後は笑って逝ったんだって。だから……だから……一緒にいてくれた。くとーお兄ちゃんの……お陰だろうって……」
「……」
「だから……だから、きっとウィルにぃは幸せだったって! だから、きっと、そうやって死んだんだって! そう……なの?」
ウェーレの縋るような視線を受けて、僕は彼女に対して嘘をつく。
「そうだよ。ウィリアムはウェーレのお兄ちゃんに生まれて幸せだったって言ってたんだ」
「う……う……うわあああああああああああああああん!!!!!!」
僕はそれからずっとウェーレを宥め続けた。
「ありがとう……クトーお兄ちゃん……」
ウェーレは疲れて眠り、僕は彼女を家に送る。
彼女の寝顔は深い眠りに入っているようだった。
これにて1章は終わります。
明日から引き続き2章を投稿していきますので、よろしくお願いします。
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