31話 レイラとアルセラのスキル
「あたしのスキルを使うのよ」
「へ……スキル? 回復するのか……? 誰に……?」
グレーデンが間抜けのような顔で頭に? を浮かべているけれど、それは僕も同じかもしれない。
というか、そもそもレイラがスキルを使っているところを見ていない。
回復系統のスキルではあると思うけれど、彼女はずっと回復魔法で回復していた。
「まぁ、あたしはスキルを使う準備に入る。アルセラ、説明は任せたわよ」
「畏まりました」
レイラはそれだけ言うと目を閉じて集中し始め、胸の前に杖を掲げて詠唱を始める。
「花の宴、木の演奏。際限なく続くこの世に果てはない。海は踊り空は泣く世界は全てが時の上に……」
「詠唱!?」
詠唱は普通魔法を放つ時に使う物で、スキルで使われることはほとんどない。
一応あるにはあるが、地形を変えるような大規模な物や、世界の法則を捻じ曲げる時のスキルだけだ。
だが、レイラはその詠唱をし続けている。
それもとんでもなく長い。
そのことの説明はアルセラがし始めてくれた。
「レイラ様のスキルが秘されている理由は2つ。その回復スキルがとてつもなく、場合によっては死すらも覆す可能性を秘めていること」
「!」
「そしてもう一つは、その代償の重さだ」
「代償?」
「レイラ様はスキル発動するごとに寿命をスキルに奪われるのだ」
「スキルに……寿命が?」
グレーデンが驚いていた。
僕も彼女の話が信じられず、驚いて聞くしかない。
「ああ、それほどのスキルということだ」
「それで……聖女に……」
グレーデンがそう言うとアルセラはキッと睨む。
そして、ハッキリと言い切る。
「違う。違うのだ。当然、そのスキルのお陰であることは否定しない。だが、レイラ様がすごいのはそのスキルを、人を救う為であれば躊躇いなく使う事なのだ」
「ためらいなく……? 寿命が短くなるのに?」
「そうだ。それが自分の寿命を短くする。そう言われた時はショックを受けていたけれど、それでも、彼女はスキルを使うことを止めようとはしなかった」
じゃあ今も彼女は使っているのだろうか?
僕が思ったことは、グレーデンも思ったらしい。
「では今も実は?」
アルセラは首を振る。
「使っていない。教会が……いや、私が止めているからだ」
「お前が?」
「ああ、そろそろ発動する。見せよう。我がスキル。【|全ては貴方の為にわが身を《サクリファイスフォウユー》】」
アルセラがスキルを使った途端、彼女とレイラが一瞬光る。
彼女は自信に満ちた表情でグレーデンを見た。
「私のスキルは……私が決めた対象の傷、後遺症、スキルや魔法によるデメリット等を全て私が肩代わりするというもの。レイラ様が減らす寿命も全て私が受ける。そうすることによって、レイラ様はスキルを勝手に使うことは無くなったのだ。私の為に、私が寿命を減らさないという事の為に!」
アルセラはむしろ誇りであるかのように笑う。
「これが私の……レイラ様に対する忠誠である!」
その瞬間。レイラの詠唱が完了する。
「流浪の月は荒野を歌う。全ては戻りて秩序を為せ。【時空因果の遡行】」
次の瞬間、僕の周囲全ての時間が止まった。
これは……?
「ん……? これは……この力は!? だから消しておくべきだと言ったのだ! この力は……この力は!」
スキルが何か言っているけれど、僕はただただこの流れに任せるだけだ。
ただ、周囲が青黒くなり、さっき見ていた光景に戻って行く。
グレーデンは先ほどの位置に逆再生するかの様に後ろ歩きで、その後はレイラ達が僕に向かって叫んでいる。
それから直ぐに水が何事もなかったかのように引いていき、レイラ達は触手から逃げ回る。
ここまで見せられれば、僕にも何が起こっているか分かる。
(時が……戻っている?)
「そうだ……これは時間遡行のスキル。く……貴様……いつか……後悔……する……ぞ」
そう言って僕の体は僕の元に戻ってくる。
気が付くと、僕は先ほどの場所にスキルを解放する前の状態で立っていた。
さっき見た光景と違って水はこの場に残ったままだけれど、水浸しにしていた存在が居なくなったのか、水は徐々に減っていく。
「これが……レイラ様の……スキルだ……」
近くにいたアルセラはそのまま地面に倒れる。
バシャン!
アルセラは水に受け止められるけれど、直ぐに水が引いて溺れる様なことはなかった。
「アルセラ!」
僕はアルセラに向かって駆け出す。
そして、彼女を助け起こすと、回復魔法をかける。
「『癒やせ』」
彼女に効くのかは分からないけれど、それでも、やらないよりはマシだ。
「あたしも……やるわ」
レイラもかなり疲れて苦しそうだけれど、それでも、アルセラの事が心配なのか回復魔法を放つ。
「『聖なる祈りよ届け』」
「大丈夫? レイラも休まないと」
「大丈夫よ。このスキルのデメリットは全てアルセラが受けてくれた……。魔力が残り少ないから……ちょっと厳しいけど……。ああ……でも、ごめんなさい……貴方の……妹も……助けにいけないわ……」
「レイラ!」
レイラはそう僕に言って、全ての魔力を使い切ったのかアルセラの側に座り込む。
「この程度じゃ……死にはしないわよ」
「レイラ……」
僕はほっとして、彼女の側にしゃがみ込む。
彼女は苦しそうな表情をしているけれど、無事なようだ。
良かった。本当に良かった。
僕がどうするべきか考えていると、笑い声が聞こえた。
「あはははははははははは!」
「!」
「!?」
側にいるグレーデンもそちらの方を向く。
そこには、全身ボロボロのローバーがいた。
「うーん。どうしてか分かりませんがいいですねぇ! 私がどうしてここまでボロボロになっているのか分かりませんが……でも、今が絶好の好機であることは分かります! さぁグレーデン君! その3人を捕まえて行きますよ! 今ならまだ仲間が近くの森に潜んでいます! 合図も既に送りました! さぁ!」
仲間……だって……。
確かにさっきの戦いで〈選ばれし者〉(仮)とか言う組織に属しているって……。 まずい。それに、グレーデンまでもまた敵になると……。
「……」
しかし、グレーデンは動かずに、じっと下を俯いているだけだった。
「グレーデン君!? 一体どうしたと言うのですか!? 貴方が復讐したがっていたあのクトー君ですよ!? あれだけ痛めつけて同じ目に合わせてやりたい! そう言っていたではありませんか!」
「……」
グレーデンはそれでも何も言わない。
「よろしい。では、君たちの首を即座に刎ねて……」
「無理」
「はえ?」
いつの間にかローバーの後ろに真っ白な仮面をつけた水色の髪の少女が立っていた。
そして、ローバーがそれ以上何かを言う前に、彼の意識を狩り取った。
敵ではないと思うけれど、新たな人の出現に僕は警戒感を強める。
「誰!?」
「学園長の使い」
「学園長の?」
彼女はこくりと首を縦に動かす。
そして、指を指した。
「あっち」
「?」
彼女は森の中を指しているけれど、その先に何があるのだろうか。
僕は何のことか分からずに首を傾げるけれど、彼女はそれ以上何も言わない。
助け舟を出してくれたのはグレーデンだった。
「その方向にこいつのアジトがある。そこにてめーの妹もいるんだろうよ」
「分かった」
僕はサナを助け出すために向かおうとするけれど、直ぐに思いとどまって足を止める。
レイラはもう一歩も動けず、アルセラに至っては意識すらない。
そんな2人を置いて行けるのか。
薄情……サナの為であればそう言われるのは別にどうでもいい。
けれど、僕の為に助けに来てくれた2人に対して、そんな仕打ちをすることは僕は出来なかった。
でも、レイラが僕の背中を押してくれる。
「何……止まってるのよ……。さっさと助けに行きなさい。あたし達は大丈夫……だから……」
「でも……」
「いいから! 大丈夫だって言っているでしょう?」
レイラは俯いた顔を少しだけこちらに向け、鋭い視線を放っている。
僕は少しだけ止まり、彼女に背を向けた。
「ごめん……ありがとう」
「3回は奢りなさいよ……」
「任せて」
僕は、サナを助けるために走った。
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