23話 それぞれの思惑
レイラ視点
クトーとずっと話していて、アルセラが怒鳴り込んできたので彼は帰ってしまった。
(もっと話していたかったのに……)
あたしはそう思ったけれど、確かに時間もかなり遅い。
1つの部屋に男女でいるには不味い時間だろう。
それも、聖女である自分にとっては。
クトーは襲ったりしてこないと思うけれど、それでもアルセラは心配しているだろうから。
「レイラ様。大切なお体です。もう少し警戒なさってください」
案の定彼女はそう言って来る。
「大丈夫よ。呼べば直ぐに来てくれるでしょう? それに、彼が襲う気だったらダンジョンで襲っているわよ」
「それは……そうですが……あのタコの触手は少し……いえ、かなり嫌悪感が……」
「そう? 意外と可愛らしいと思うけれど……」
「レイラ様……」
何だろうか。
アルセラの本気か? という様な目は。
確かに最初は学園長に言われて仕方なく潜った。
護身用の魔道具もつけていたし、もし襲われたら学園に居られなくしてやるとも思っていた。
けれど、一緒に話している内に、そんな事をしてこない人だとは感じていた。
確かに触手での攻撃方法がちょっと……いや、大分危ない感じだったけれど、それでも、ダンジョンではあたしを守ってくれていたのは分かった。
白い装備のゴブリンジェネラルと戦った時も、あたしの方に来ないように気を引き続けてくれていたのは知っているから。
そう思っていたけれど、まさか2週間も放って置かれるとは思わなかった。
でも、こうして部屋にまで来てくれたのは本当に嬉しかった。
話していて楽しかった。
アルセラが来なければもっと話していただろうと思うほどには。
「それで、クトーはどうだった?」
「まぁ……悪い者ではないかと」
苦々しく言う彼女はちょっと面白い。
真っすぐなので嘘はつけないけれど、でも認めたくない気持ちもある。
という感じだろうか。
「でしょ? それに、すごく妹想いなのよ」
「妹……ですか?」
「ええ、黒蛇病の話をしていたでしょう? あれは妹がかかっているらしいわ。それで、その治療がしたいんですって」
「黒蛇病は……教会でも治療の成功例がありません。本当に治るのでしょうか?」
「さぁ……でも、彼なら治してくれるかもね」
「そうなったら大発見ですね。そして、引っ張りダコになるかもしれません」
「タコだけに?」
アルセラが冗談を言うとは珍しい。
「あ、いえ……そういう訳では……」
顔をちょっと赤らめているのも可愛らしい。
あたしの大事な騎士だ。
「冗談よ。それでも、明日から彼が来たら本当に追い返さないでよね」
「畏まりました」
「それじゃあもう寝るわ。あ、それと、黒蛇病の記録についてもっと教会に送ってくれるように伝令を出して頂戴。ふぁ~、夜更かしはお肌に毒ね……」
「はい。それではお休み下さい。失礼いたします」
「ええ、お休み」
「お休みなさいませ」
アルセラが出ていく時に明かりを消し、私はベッドに横になった。
そして、明日から昼に彼に会えることを楽しみに感じながら眠りにつく。
******
場所は学院長の部屋。
月明かりのみが部屋を照らし、学院長は窓の外をぼんやりと眺めている。
部屋には彼一人だけれど、2人目が音もなく現れた。
「何」
彼女はサナについている元Aランク冒険者の護衛だ。
いつものように護衛をしていたら、同僚に学院長に呼ばれていると言われたので来た。
「護衛する対象を変えようと思っての」
「なぜ」
彼女は端的にしか言葉を発しない。
真っ白なマスクをつけているので、何を思っているのかは一切分からない。
「重要度が変わった……というのと、妹の方は襲われる様子がない様なのでな。クトーの方を護衛して欲しいんじゃ。以前のように、襲われる可能性もあるかもしれん」
「何で今」
「つい先ほど触手2本のクラーケン化に成功してのう。是非守って欲しいんじゃ」
「妹は」
「そちらは……大丈夫じゃろう。流石にこれだけなかったら問題あるまい。グレーデンじゃったらすぐにでも報復に来るじゃろうが……それもなかった」
「どこ」
「グレーデンか? それは分からぬ。じゃが、奴が何かする気であれば、早々に動いておるじゃろう。それがなかったということを考えれば放っておいても問題あるまい。それに、Cランクはつけておく」
「そう」
彼女がそう呟くけれど、納得していない雰囲気を学院長は感じ取っていた。
「不満かの?」
「別に」
「そう心配せんでもいい。裏切者がおる訳でもない。気にせず護衛対象を変えよ」
「分かった」
彼女はそう言って姿を消す。
学園長は彼女の姿を見送ると、窓の外に目の遠くを見つめる。
「この学園はワシの為にあるんじゃ……こうしてスキルの研究を出来るようにの……。教師も信頼出来る者しか入れておらんし。問題はない」
学園長は自分に言い聞かせるように呟く。
そして、部屋を出ていくのだった。
******
「ほう……まさかまさか。そちらの護衛が外れましたか」
グレーデンが実験されている部屋で、彼は呟く。
「グレーデン君。貴方もそれと馴染んで来た事でしょう。実戦と行きますか? 君を落とし入れたクトー君と戦わせて上げますよ」
「やります……」
グレーデンはこうやって実験されているくらいなら、その方がマシだと思い答える。
「いいでしょう。では私は準備をしてきます。戦いは……明日には行なえるでしょう。それまでの実験は一応終了にしておきます。体を休めていなさい」
「分かりました」
「私は少しばかり誘ってみますかね。あの娘が居たら流石に少し考えましたが……いないのであれば簡単でしょうし、一応、他の者にも声をかけておきますか」
「?」
グレーデンには分からないことを彼はひたすらにしゃべる。
「それでは失礼」
彼はそれだけ残すとスタスタと歩き去っていった。
グレーデンはその背を見送ると、全てを忘れようとするかのように目を閉じる。
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