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2話 ウィリアム

 ウィリアムにスキルを使われた上で更に抱きつかれたまま僕は大穴の中に落ちる。

 このままだと無事には済まない、だからスキルを発動した。


「【タコ化】!」


 スキルを使って全身をタコのようにし、腕や足をちょっと黒めの触手にする。

 こうしたら、生身で落ちるよりはマシだ。

 それと同時に、触手を全方位に伸ばして壁をつかもうとする。

 少しでも落下のダメージを軽減出来れば、生き残れる可能性も高い。

 ウィリアムも……。


 ガリガリガリガリガリガリ!!!


「っく!」


 動かない腕、触手を何とか伸ばしたけれど、ただのタコの力では少し緩める位で精一杯だった。

 そして、僕たちは底に辿(たど)りついた。


 ビタン!!!


「……」

「……」


 僕もウィリアムも動けない。

 僕が下になるように落ちたけれど、本当にもう……どうしようもない位に全身が痛い。

 ただ、生きているのは幸運だった。

 ウィリアムの呼吸も聞こえる。


「ウィリアム……大丈夫……か?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「ウィリアム?」

「ごめんなさい……クトー。僕の……僕のせいでこんなことに……」


 ウィリアムは独り言をずっとぶつぶつと言っている。

 ただ、スキルは既に切っているのか体の自由は戻ってきた。


 僕はウィリアムを思い切り触手で叩く。


 パァン!


 いい音がして、ウィリアムの顔辺りに当たった気配がした。


「ウィリアム。何があったか教えてくれ。どうして僕にこんなことしたんだ」

「クトー……僕を……まだ僕の……言うことを聞いてくれるの?」

「ああ。君はこんなことをする奴じゃない。何か事情があったんでしょ?」

「く……う……」


 ウィリアムは優しい奴だ。

 誰が相手でも公平に接し、僕と違って友人も多い。

 平民だけれど、貴族連中からも一目置かれていた。


 そんな彼が、わざとこんなことをするはずがない。


「ウェーレが……人質に取られたって……」

「あのウェ―レが!?」


 ウェーレとはウィリアムの妹で、10歳と彼とは少し離れているが、いつもお兄ちゃんと近寄って仲良くしていた子だ。


「それで……この前……ウェーレがいなくなって……。それで……。ダンジョンに行く前に……やることを……説明されて、断ろうとしたら……ウェーレの髪の毛が……」

「そんな……」

「ウェーレを無事に返して欲しかったら、クトーと一緒にこのAランクダンジョン。《魔狼の谷底》に飛び込めって……。じゃないと……。他のおもちゃみたいにするぞって……」

「……」


 彼の説明にどこから聞けばいいのかわからない。


「Aランクダンジョン?」

「そう……ここは《初心の迷宮》なんだけれど、通行禁止の……さっき来た道を通ってくると(つな)がっているらしいんだ」

「そんな……戻り方は?」


 ウィリアムは首を振ったような仕草をする。

 暗くて良く見えないけれど、空気の振動で分かるのだ。

 タコになった時によく伝わってくる。


「知らない。片道のお前には必要ないだろう……って」

「それじゃあ。ここの出方も分からないのか!?」

「ごめんなさい……」

「いや、いい。だけれど、もう一つ聞いておきたい事がある」

「何?」

「奴のおもちゃになると、どうされるの?」


 ウィリアムは暫く沈黙した後、ゆっくりとさっきよりも震える声で話す。


「……詳しいことは知らない。けれど、少なくとも楽しい事じゃない。1年の時に、頭の良かった平民の女子何人かがいなくなっていたのは知っている?」

「ああ……確か……実家に帰るとか……いなくなったって……まさか」

「そう。全部グレーデンの仕業みたい……」

「そいつは……本気で戻らないといけないな……」


 奴は絶対に奴は許せない。

 俺の大事な大事なサナもそのおもちゃにするとほざいたのだ。

 絶対に殺す……とはいかないまでも、恐怖を体に刻んでやらなければならない。


 かと言って、ここはウィリアムのいう通りであれば、Aランクダンジョン。

 どうやって出られるのか……。


「何か攻略のヒントとか知らないか?」

「知らない。僕もこんな場所があるなんて知らなかったんだ」

「その……《初心の迷宮》の噂話とかでもいいから」


 何か知っていれば、多少は変わるかもしれない。

 もしかしたら、突破の糸口になるかもしれないのだから。


「学校の噂で……《初心の迷宮》の中には、秘密の部屋がある……とか?」

「それは僕でも知ってるけど……もうちょっと具体的にどこの方に出口がある……とかない?」

「ごめん……」

「ないなら仕方ない。何とかして帰ろう。ウェーレもサナも待っているはずだ」


 僕がそういった瞬間。その場の空気が変わったのを感じる。


「グルルルルルルルルルルルルルル」


 周囲では魔狼というのだろうか。

 狼の(うな)り声がこれでもかと聞こえて来る。

 ウィリアムと話している間に囲まれてしまったらしい。


 ここが低ランクのダンジョンであるなら、この狼達もフォレストウルフ等の低ランクに違いない。

 けれど、ここはAランクダンジョン。

 僕がタコになっても、ただ食われるだけな気がする。


「ウィリアム。何か逃げるいい手ってある?」

「ないよ……。というか、クトーは走って逃げられるの?」

「まぁ……今は全身タコになってるし、下半身だけ人間に戻せば多分いける」

「そう……じゃあ時間を稼ぐから、クトーは行って」

「何を言ってる。ウィリアムも一緒じゃないと」

「……明かりをつけるよ」


 パチ。


 道案内の為か、ウィリアムが持っていた明かりの魔道具をつける。


 僕の目に入って来たのは、周囲にいる全身から緑の液体を流す狼でも、優し気な目をしたウィリアムでもなく、潰れてしまった彼の下半身だった。


「逃げられないでしょ? ごめんね。助けてくれるって言っているのに」

「僕が……連れて逃げるから」

「ダメだよ。そんなことしたら、君まで食べられちゃうよ」

「ガウウウウウウ!!!」


 僕とウィリアムが話している所に、狼達が踊りかかってくる。

 全方位から隙間など全く無い。

 僕たちを絶対に逃がさないようにしている。


「時間を稼ぐから……! 【痺れ動きを止めよ(パラライズウェイブ)】!!!」


 バリバリバリバリバリ!!!


 ウィリアムの体から黄色い光が見え、それが周囲の狼にぶつかっていく。

 すると、狼達は麻痺してそのままの姿勢で固まった。


「今の内に……早く!」

「ウィリアムも一緒だ!」


 僕は下半身を人間に戻し、彼を背負って狼の間を歩き出す。

 触手の方が力も強く、数も多い。

 普通のタコにしかなれないとは言え、普通のタコの力を僕のサイズで使う事が出来るのだ。

 普通の人間よりも圧倒的に強い。


「ダメだよ……。きっと直ぐに追いつかれる」

「ダメじゃない。俺が回復魔法を回復技術を習っているのは知っているだろ?」

「だけど……まだ初期の魔法だけでしょ? この状態は治せない。だから……諦めて」

「置いていけないよ! ウィリアムは……絶対に連れ帰る」

「クトー……分かった。そこまで言ってくれるなら……頑張る」

「ああ。そうしてくれると……」

「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」


 僕たちの少し前で、さっきまでの集団とは違う。

 圧倒的な声が聞える。

 その何かがのしのしと僕たちの方に近付いてきた。


「ネクロ……ウルフ……」


 ウィリアムの声は僕の耳に届く。


「ネクロウルフ?」

「殺した者や死んだ狼を配下にするAランクの魔物だよ」


 Aランクの魔物は、現れれば村はほぼ確実に滅び、町等であっても滅ぶ可能性が高い。

 街であれば何とか耐えられるかもしれないけれど、それでも甚大な被害は確実と言われる程の存在。


「これが……Aランクダンジョン……」

「ガウウウウウウ!」

「ぐぅ!」

「ウィリアム!」


 僕が目の前にいるネクロウルフをどうしようかと思っていると、後ろからウィリアムのスキルの効果が切れた狼達が食いついてくる。


「ウィリアム! 【触手強化(テンタクルフェイズ)】!」


 僕は触手を強化して、狼達を追い払う。

 これを使うと、普通の触手よりも力が増し、耐久力も速度も上がる。

 但し、疲れやすくなるけれどそれは仕方ない。


「ああ、……ごめん……クトー。やっぱり、友人を裏切っておいて、生きて帰ろうなんて言うことがダメだったんだよね……」

「そんなことない! 『癒やせ(ヒール)』!」


 僕は回復魔法をウィリアムにかけるけれど、所詮初期魔法。

 ウィリアムに効くには弱過ぎる。


「ああ……ちょっとだけ楽になった……。ありがとう……クトー……。最期にお願いがあるんだ……」

「諦めるな! きっと何とかなる! 『癒やせ(ヒール)』『癒やせ(ヒール)』『癒やせ(ヒール)』!!!」


 僕は回復魔法を何度も放つ。

 ウィリアムを助けたい。

 彼はこんな所で死ぬべき人間じゃない。

 彼はもっと多くの人を幸せにする素晴らしい人間なんだ。

 だから、だから助かってくれ!


「ああ……ウェーレ……ごめんね……。もっとうまくやれてれば違った道もあったのかな……。クトー。最期のお願いだ。どうか……ウェーレを……助けてあげて……。サナちゃんも……おもちゃになんてさせないで……」

「ウィリアム! ウィリアム! おい! 起きろ! ウィリアム!」

「……」


 僕が幾ら揺すっても、彼は、彼は動くことはなかった。


 ウィリアムが……死んだ。誰のせい? 僕のせい? 彼のせい? グレーデンのせい? それとも、こいつら狼のせい?


「ガウウウウウウ!!!」

「……」


 狼たちがウィリアムに噛み付き、僕にも噛み付く。

 何度も何度も噛み付き、骨のないタコは簡単に引きちぎられていく。


 ふと頭の中にサナが浮かんだ。


『お兄ちゃん』


 サナもこんな目にあうんだろうか。

 グレーデンの好き勝手にさせていれば、サナも僕やウィリアムと同じようなこんな目に、生きたまま食われて行くのだろうか。


 目の前が真っ暗になった。

 そんな事はさせられない。

 真っ暗な中から何かが僕に向かって伸びてくる。


 真っ黒な何かから、8本の何かが僕に向かって伸びてくる。

 そして、僕はそれを受け入れた。

 意識はハッキリとしているけれど、体のコントロールは任せる。


「【タコ化:クラーケン】」


 僕の体が僕じゃなくなり、だけど何が起こっているかははっきりと理解できる。

 僕から真っ黒な……漆黒よりもなお暗い黒い触手が生まれ、周囲の狼を一瞬で千切り殺した。


 なぜクラーケンと分かったのかは分からない。

 ただ、頭の中にその言葉が浮かんだ。


 クラーケン。

 それは神話に謳われる伝説の魔獣の名前。

 海の奥底に潜み、敵対すれば神といえど無事には済まさないと言われるほどの魔獣。

 神殺しの魔獣クラーケンの力を、僕は振るっていた。


「面白かった!」


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