12話 side グレーデン2
ガタゴトガタゴト。
ひどい揺れだ。
ひと昔前だったらこんなひどい運転をしている奴の首を即刻刎ねることが出来たのに。
今では文句を言ってもうるさいと殴られるだけだ。
それだけでも不満なのに、馬車は全方位を布で覆われていて外の状況もまるで分らない。
時間的には夜も遅い時間だろうけれど、俺様の為にこの馬車が止まることはなかった。
「……」
何でこんな事になっちまったのか。
俺は未だに信じられずにいる。
今俺様は王都に向けて護送されている最中。
あの栄光あるグレーデン・ファン・ヴェルズダル様がこんな囚人服を着せられ、質の悪い護送馬車に載せられているとは。
1月前の自分に言っても絶対に信じられないだろう。
ここ最近ストレスで抜け毛も増え、それも更にストレスになる。
でも、俺様はまだ諦めない。
なぜなら、この護送の途中に俺様の奪還が行なわれるに決まっているからだ。
護送中は騎士2個中隊が護衛しているけれど、俺の手駒である元Bランク冒険者はその程度であれば蹴散らせる。
出来るほどの実力がなければ側に置いて置かないし、俺の命令は必ず聞くようにしてあったのだ。
だから、必ず奴が助けに現れる。
今は逃げることになるが、ゆくゆくは帰って来てここにいる奴ら全てに復讐をしてやると誓う。
学園長も、父も、部下だった奴らも、友人だと思っていたやつも、この原因になったあのタコ野郎も……。
ドオオオオオオオン!!!
外で何かが爆発する音が聞こえる。
「敵襲だ!」
「慌てるな! 数は少ないぞ!」
外の騎士の叫び声が聞こえて、俺はほくそ笑む。
まさかこの程度の騎士であいつに勝てる訳ないだろうが。
そう思っていると実際にその通りになったのか、15分もしたころには戦闘が終わったのか静かになっていた。
「お待たせしました! お迎えに上がりました!」
「遅いぞ。さっさと開けろ」
すぐに布を取り払い、奴が来る。
奴は左腕が切り飛ばされているけれど、まぁ、俺様を助けに来たのだから側には置いてやろう。
不格好なのは許せないから適当に義手でもさせるか。
奴が鉄格子を切り飛ばし、俺様は奴に続いて外に出た。
そこら中に騎士の死体が転がり、場所によっては焼け焦げた跡がある。
ただし、動いているものは誰もいない。
「生き残っている者はいないな?」
「はい。全員確実に息の根を止めました。急いで逃げましょう。異常を察知した者が増援を送って来るかもしれません」
「っち。面倒な事だ」
そう言いながらも、俺様は奴の後について歩き出すが直ぐに足が止まった。
目の前に急に何かが現れたのだ。
「おやおや。もう終わっていましたか」
「誰だ貴様!」
「何、貴方がたに用がありまして」
「貴様……学園長の手の者か」
奴がそう言って目の前のやつを警戒する。
「いえ? むしろ学園長と関りのある者達は今頃学園でしょう」
そう軽く言うこいつに俺はいらだって聞く。
「なんだ貴様」
「心外ですねぇ……。貴方とは面識があるはずなんですが……」
そういう奴は月明かりの陰になっているせいか顔が見えない。
よく見ようと前に出ると、元Bランク冒険者に止められる。
「お待ちください。彼は相当な実力者です。お気を付けを」
「は? 【九つの命】を持つこの俺様が警戒する必要があんのか?」
「……」
「っち」
元Bランク冒険者はじっと目の前にいる相手を凝視している。
それほどに危険な相手か。
「まぁいいでしょう。それでわたしは勧誘に来たのですよ」
「かん……ゆう……?」
「ええ、我々〈選ばれし者〉への」
「はぁ!? てめぇら! 俺様が入ってやると言っていた時に何も言わなかったじゃねぇか!」
俺様は怒りで目の前が真っ赤になりながらも足を進める。
「ダメですって!」
クソ、またしても止められた。
左腕も根元しかないのに、意外と力がある。
目の前の男はゆっくりと首を振って続けた。
「仕方ないでしょう? 我々が貴方を誘ったのは、貴方の次期公爵としての力も当てにしていたからです」
「その言い方だと……」
「そう。今の貴方には大して価値はありません。スキルくらいですかね? でも、それが欲しい」
「てめぇ……」
俺が更に前に出ると、元Bランク冒険者が片手で押しとどめる。
「待って下さい! これ以上は……」
ヒュパッ
「あ?」
元Bランク冒険者が崩れ落ちた。
俺様は何が起こっているか理解できなかった。
圧倒的な実力を持っている奴が、全身サイコロのように細切れにされて山になっている。
「な……え……な……」
「大人しくついて来て下さい。無駄話は嫌いですから」
「い……しら……やめ……」
「やれやれ、一度殺しておきましょうか」
「へ……」
俺様が何か言う前に、視界が四角に切り刻まれた。
全身が切り落とされるような、バラバラにされるような痛みが走り動けなくなる。
しかし、それも数分もするとなかったかのように俺様は元の形に再生していた。
「なるほど、死んだ位置から近くの安全な場所に移動して再生される。ただし、服や装備はついてくることはなく、裸のままである……と」
「あ?」
俺様は自身の体を見下ろすと、確かに服を着ていなかった。
自動スキルなので強制的に復活する。
「それでは、どうしますか? 今はとりあえず楽になるように殺しましたけど、次はもっと苦しむように殺しますか? それとも、大人しくついて来ますか?」
「行く……ついて行くから許してくれ……」
何か細い物が全身を締め上げるように俺を脅してくる。
少しでも動けば体が引き裂かれてしまいそうになるほどだ。
相手の目は先ほどと何ら変わらない。
元Bランク冒険者を細切れにした時と変わらない目で俺様……俺を見続けている。
「そうですか。ではついて行きなさい」
なぜかこの男は残念そうにそう言ってくる。
でも、その前に。
「あ、あの……服を……」
夜の寒さで全身を刺すような痛みがある。
せめて、馬車にかかっている布でも何でもいいから……。
「モルモットに服など必要ないでしょう? 行きますよ」
「え?」
「早くしなさい。また死にたいんですか?」
「ひっ! わ、分かりました! 行きます! 行きますから!」
俺は……彼に必死について行った。
この時の事を俺は生涯後悔することになる。
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