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11話 ローバー先生

「クトー君。ちょっといいですか?」

「ローバー先生? どうかしましたか?」


 僕はいつもの様に授業が終わると次の授業に行く準備をしていた。


 しかしこの時は、仲の良いローバー先生が話しかけてきたのだ。

 彼は茶色の髪を少し伸ばした男性の先生だ。

 丸眼鏡をかけていて、研究者という言葉がぴったり。


「ちょっとクトー君に、心苦しいですがやって欲しいことがありまして……」

「何でしょう?」


 いつも優しい笑顔を浮かべている先生が悲しそうな顔を浮かべながら言ってくるとは。

 一体何なのだろうか。


「ちょっと来てください」

「? はい。分かりました」


 僕が先生について行くと、まさか外にまで出てしまったではないか。

 先生が止まった場所には、何か細長い縦穴が伸びていた。

 奥は曲がっていて最後まで見ることが出来ない。


「ここは……?」

「実は、この中に飼っているネズミが入り込んでしまったんです。ですので、助けていただけないでしょうか?」

「いいですけど……魔法でだしたり?」

「かなり繊細な生き物ですので……出来れば優しく出して上げて欲しいのです」

「先生のあの……糸を使うスキルはダメなんですか?」

「それが……何回かやってみたのですが、かなり警戒しているみたいで……それで噛み付いて来て切られてしまうんですよ……」

「それじゃあ人が手を入れても?」

「ええ、噛んで来るかもしれません。そこで、本当に心苦しいのですが、【タコ化】でネズミを出して頂けませんか? あのスキルなら回復出来ると聞きましたし……」

「勿論。それくらいならお安い御用です。いつも先生にはお世話になっていますからね」


 ローバー先生は回復の授業の先生で、彼のスキルである糸を使って傷口を塞いだりする新しいやり方の先駆者だ。


 最初は異端だ。

 という事で大変だったらしいけれど、ある時から認められてこうして学園で教鞭を振るうまでになっていた。


 僕も何か学べることはないかと、よく話を聞いたりしてお世話になっていたのだ。

 何か力になれることがあるのなら力になりたい。


「【タコ化】」


 僕は右手をタコにして、触手を2本生み出す。

 けれど、この細長いのには1本で十分だろう。

 触手を入れて奥にやると、確かに何かが……痛い!


 触手がすごい勢いで噛まれている。

 というか、食べられている気すらするんだけれど……。


「あの……めっちゃ痛いんですけど」

「すいません。何とか急いで出して頂けませんか」

「分かりました」


 僕は何とか齧られながらもネズミをつかんで引っ張り出す。

 触手からは真っ赤な僕の血が流れ出ているけれど、多少は仕方ないだろう。


「ここにお願いします」


 ローバー先生が持っている袋に僕はネズミを落とす。

 先生は直ぐにその入り口を締めて、僕に頭を下げた。


「ありがとうございます。クトー君。問題はないですか?」

「はい。【自己再生(オートリペア)】」


 僕の触手が再生を開始する。

 これがタコの能力? と聞かれると分からない所はあるけれど、それでも出来るのだから使わない手はない。

 触手の先っぽを(かじ)られただけだったので、数十秒もあれば回復しきる。


「これで大丈夫ですか?」

「……え? ああ、はい。本当にありがとうございます」


 僕の触手を凝視していたローバー先生がまた頭を下げてくる。

 先生は生徒からも優しいと人気の素晴らしい人だ。

 そんな人の役に立てて僕も嬉しい。


「それでは失礼します」

「あ、いえいえ、待ってください。これをどうぞ」

「これは……これは!?」


 僕はローバー先生が差し出した物を見て驚愕(きょうがく)した。

 それは、昨日欲しいと思っていた『不治の病についての研究』という本だったのだ。


「君が黒蛇病について調べようとしていることは知っていますから。是非読んでみて下さい。あ、流石に上げる訳には行かないので、ちゃんと返して下さいね?」

「え……でも……。本当にいいんですか?」

「はい。勿論ですよ。いつも真面目に授業を受けて下さって、私としても嬉しい限りなんですよ」


 優しく笑うローバー先生に何も言えない。


「それでは、私はこれで失礼します。それと、本を読むのはちゃんと寮に帰ってからにするんですよ?」

「はい! ありがとうございます!」


 僕は先生に感謝して、本を借りる。




 その日の夜。

 僕は出来る限りの速度でやることを終わらせ、1人机に座って本を開く。

 やることはやった、明かりの準備も問題ない。


「どんな中身なのかなー」


 僕はサナを助けるための力になれることが嬉しくて、本を開く。


「最初からでいいよね。何が役に立つのか分からないんだし、黒蛇病のことだけっていう訳にも行かない気がする」


 そう思って僕は最初から読み始めるけれど、中々に難しい。

 本自体もかなりの厚さを誇っていて、しっかりと理解しながら読み始めたら1か月はかかってしまうだろう。


 それでも、サナを助けるためならば僕は出来ることは全てするのだ。


「こんな時……聖女様候補の話でも聞けたら良かったんだけどなぁ……」


 僕が通うルインドワーズ高等学園には、圧倒的な回復スキルを持ち、更に上級回復魔法を使える少女が通っている。


 最初にそのことを知った時、サナを治療してもらえないかと思って頼みに行ったことがあった。

 けれど、彼女の周囲を囲む護衛の女騎士達に追い返されてしまったのだ。


「もしも頼むなら教会を通してもらわないと出来ない……か」


 確かに最初はショックを受けたけれど、今考えれば分からないでもない。

 彼女は聖女候補としてその力を振るっているのだ。

 好き勝手に治療していたら聖女としての……いや、教会としての評価が落ちてしまうのだろう。


「お金を稼げば行けるんだろうけど……」


 この辺りで稼げる場所なんてない。

 学園に通いながら冒険者になる人もいるけれど、ダンジョンに潜ってゴブリンを狩ったりする程度。

 後は休みの日に遠出するくらいか。


「そんなことをするくらいなら勉強するよなぁ……」


 その金を稼ぐ時間を勉強に当てたいし、何より聖女様といえど、黒蛇病が治る保証はなかったのでその選択肢は取らなかった。

 もしも聖女様が治せているのなら、きっと大々的に教会が宣伝しているだろう。

 聖女は不治の病を治せます……と。


「はぁ。今はこっちに集中しないと」


 せめて聖女様と話くらいは出来ないかと考えて、頭を振る。

 今はしっかりとこの本に集中しなければ、サナを早く助けるためにはそれしかないんだ。

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