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100話 新しい一歩

「よく来たね」

「待っていたぞ」

「無事で良かったですわ」


 中に入ると、そこには学園長、アルセラ、フェリスが既にソファに座っていた。


 学園長は1か月近くあったお陰かかなり元気になっている。

 アルセラとフェリスはいつも食事の時に会っていたので元気なのは知っていた。


 僕たちも空いているソファに座り、学園長と向き合う。


「お待たせしました」

「大して待っておらんよ。とりあえず、ベネディラでは一体何があったのか。それについて聞いておきたいと思ってな」

「分かりました」


 それから僕は学園長にベネディラで起きた事を全て話した。

 サナが神の器にされそうになったこと。

 レイラが時の神に一時乗っ取られたこと。

 そして、ダークネスが復活して、今はサナの中にいること。

 教皇に真っ黒いコインをもらったこと。


 最初は顔を七色に変えて聞いていた学園長も、最後は穏やかな顔で聞いていた。


「と、言うことがあったんです」

「……そうか」


 学園長はそう呟いてから、かなり黙ったまま何かを考えているようだ。

 暫くしてから、思いついた様に話す。


「よし。クトー、サナ、レイラよ。3人ともスキルの研究に興味はないか?」

「……」


 学園長の目はじっと……じっと僕たちを逃がさない。

 というような目で見つめていた。


「が、学園長?」

「何。悪いようにはしない。スキル研究のためであれば授業など幾らでも休んで良いし、単位もワシが出来る限り融通しよう。何。悪い話ではないだろう? 卒業後の進路も思うがままだ」


 やばい。

 学園長の目が本気だ。


 そこにフェリスから助け船が出された。


「お待ちください」

「フェリス殿下」

「学園長。彼らはわたくしの元に将来くる事が決まっていますの。ですから勝手な事はなさらないでくださいます?」

「「「!?」」」


 僕だけでなく、サナやレイラも驚いてフェリスを見ている。


 そんな中、フェリスはそのまま話を続けた。


「彼らはわたくしの親衛隊に編入する事が決まっています。父様からの許可もありますわ!」

「フェリス殿下。ワシはその程度の事で引き下がるとお思いですかな?」

「く……では……クトー様! 教皇から頂いた物をお見せになってください!」


 フェリスが慌ててそう言って来るのだ。

 一体なんだろう。

 そう思うけれど、とりあえず言われた通りに学園長に見せる。すると、


「こ、これは……」


 学園長は目を丸くして、そのコインを見つめている。


「あの……それってそこまでのもの何でしょうか?」


 僕がそう聞くと、学園長はゆっくりと話してくれる。


「ああ、これは……教会が自分たちよりも上と認めた者にしか渡さぬものだ。教会の歴史は長いが……これが渡されたことがあるのは立った1人。それも、数百年前だ。そんな物を……まぁ、神がいるのだから当然か」

『そうであるなら、わらわに渡さぬのも納得が行かぬな?』

「ダークネスさん……」

「ちょっと待て、クトー。ダークネスさんとはどういうことだ!?」

「あれ? さっき言いましたよね? ダークネスさんはサナの中に入っていると」


 僕は思いだすように言うと、学園長は頭を抑えてそしてサナと僕を見る。


「言った。言ったが、こうして神と話す事が出来る等とは聞いていない! もういい。教会であろうが国であろうがワシは立ち向かう! じゃからスキルの検証に協力してくれ!」


 学園長が机を乗り越えて来てそう迫ってくる。


「【時の停止(タイムストップ)】」


 これはヤバい。

 という時になったらレイラがスキルで抑えてくれる。

 このスキル便利だな……。


 さっきも思ったけれど、またしても思ってしまう。


「クトー。スキルで縛り上げて」

「分かった。【闇の拘束(ダークバインド)】」


 僕が学園長をスキルで縛りあげると、レイラがスキルを解放する。


「む。何じゃこれは!? まさか、神の……ダークネスの【闇の拘束(ダークバインド)】か!? それなら大発見じゃ!? 強度は!? どれだけ持つんじゃ!? 他にも……」

「あれ……」


 学園長は僕がスキルで止めたのだけれど、レイラが時間を止めているのには気が付けなかったようで勘違いをしていた。

 でも、正直これは丁度いいように思う。

 このまま一旦出直させてもらおう。


「それじゃあ行こうか」

「そうね……」


 学園長の姿に流石にここには居たくないと思ったのか、僕たちは外に出た。



 男子寮と女子寮の別れ際、そこで、今日はとりあえず別れる事となった。

 時刻はまだ昼頃だけれど、これまでの移動などで疲れたからというのが理由だ。

 それから、フェリスに声をかけられる。


「クトー様。先ほどの話……覚えています?」

「僕が……フェリスの元に行く。っていう話?」

「はい。その事についてなんですが。わたくし。本気ですから。いつでもお待ちしています。いえ、もし来てくださらないのなら、迎えに行きますから」

「え?」

「それでは、今日はこれで」


 フェリスはそうにこやかに笑うと、直ぐに立ち去って行く。


 そんな姿を見て、今度はレイラが僕の側に寄ってくる。

 彼女の後ろには当然の様にアルセラがいた。


「クトー。あたしが聖女になったって言うことはどういうことか分かる?」

「どういうこと?」

「あたしは聖女……。つまり、教会の代表でもある訳なのよ」

「……うん」

「それで……貴方は……教会の上にいる訳で……。あたしと仲良くする為には……その……」


 レイラはもじもじと顔を赤らめてなんと言おうか四苦八苦している。


 それを、アルセラが言う。


「つまり、レイラ様はクトーにレイラ様を嫁にもらえと言っているのだ」

「アルセラ!?」

「クトー。女心位わかってやれ。レイラ様は自分からあまり言えないのだ」

「あ、ああ……うん」

「アルセラ! ちょっと話があるわ! クトー! 今のは聞かなかったことにしなさい!」


 レイラはそう言ってアルセラを引っ張って部屋に戻って行く。


 僕とサナはその後ろ姿を見送った。


「サナ……もし……もし疲れて無かったら、この後一緒に街に行かない?」

「え……いいの?」

「うん。まずは……サナと行きたいんだ」


 フェリスに言われたことや、レイラのこともあるけれど、僕としては、まずはサナとの事をしっかりとさせたい。

 だから誘った。


「いいわよ。1時間後にここで?」

「うん。それで」

「それじゃあ」

「また後で」


 僕たちは別れ、自分の部屋を目指す。


 その時に、僕はクラーケンに話しかけた。


「クラーケン」

『なんだ』

「なんていうか……本当にありがとう。君が居なかったら……僕も……サナも今頃生きて居なかった」


 これまで多くの問題があった。

 グレーデン、ローバー、リャーチェ、ロード、ギーシュ。

 クラーケンが居なければ僕が生き残っていた可能性は0だと思う。


『気にするな。我もダークネス……母と出会えて嬉しいのだ。それも……貴様のお陰だ』

「うん……これからも……よろしくね」

『ああ、時間はまだある。誰にするか……しっかりと考えろ。全員という手もあるからな』

「クラーケン!?」

『はは、何もおかしいことではない。強いオスが複数のメスを囲む等当然の様にあることだ。ただ、後悔だけはするなよ』

「分かってるよ」


 僕とクラーケンの関係性も変わった。

 最初の頃はこんな風に話すなんていうことは無かったのに、今では気軽に話せる間柄になった。


 でも、僕はそんな彼との関係が嫌いな所か好きなのだ。

 こうやって話して、楽しく会話出来る相手。

 それが直ぐ近くに居てくれるというだけで嬉しい。


 それから少し休憩したり、準備をして、約束の場所に行くと、サナが既に待っていた。


「お待たせ」

「ううん。待ってないよ」


 そう言って、サナは僕の隣に立つ。


 僕は……今更ながらにそれを見て、涙が浮かんで来るのを止められなかった。


「どうしたの? 兄さん?」

「ううん。何でもない……」


 今まで、サナとどこかに出掛ける時、僕はいつもサナの後ろにいて、隣を歩くことはなかった。

 ずっと彼女の背中を見て……。自分自身のやってしまったことを後悔し続けていたのだから。


 彼女はそんな事気にしないで、と言ってくれるだろう。

 でも、それでは僕が許せなかった。


 それが、今はサナの病は消え去り、普通の生活を送れるようになっている。

 彼女の姿が……僕は、たまらなく嬉しかった。


「兄さん……」


 サナは僕をそっと抱き締めてくれる。

 何をいうでもない。

 そんな彼女が……僕は……とても大事なのだ。


 暫くそうしてから、僕は泣き止んでサナを見る。


「もう大丈夫?」

「うん。大丈夫。これからは……一緒に歩けるね」

「うん!」


 サナの笑顔を見て、僕も微笑みあった。

 そして、


 僕とサナは一緒に新しい一歩を踏み出した。


FIN

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。


毎話いいねを下さったりブクマ、評価してくださった方々、書くモチベーションにさせて頂きました。


それと、もしよかったら新作も投稿しているので、良かったら覗いていってください。


不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて好きに生きる

https://ncode.syosetu.com/n2000hq/


本当にありがとうございました。

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