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未来へ繋がる話

世界が滅ぼうが、愛した人と一緒に居ることができるのならそれで良かった。


魔族との戦争に参加したことがあるから、その最前線も、影響を受けた人達も見てきた。

それでもアーチが横にいることより勝るものなんてなかった。

けれど、そう思っていたのは俺だけで、彼女は勇者と婚姻し、子を儲けた。


え。何だよアーチ、その顔は。何を驚いているんだ。

救世主が腹にいたことを何で俺が知っているか。

そう言えば、お前はあの時一番に天職を告げられたから知らないのか。

あの後、俺の天職は神使だと分かった。それも、勇者と聖人が子をなしたことを女神より知らされる程度には、高位のな。


何で泣きそうになってるんだ。

まあ神殿に所属しないで、傭兵紛いに各地を渡り歩いていたから、もしかしたら俺の天職を勘違いしていたのか。

兎に角、その神の声を聞いて、俺は辛かったし、死のうと思った。丁度王都決戦の時期でもあったし、最期にお前を一目見て戦って、少しは人類のためになれるなら無駄死にでないだけ上等と思って、あの戦いに参戦した。


人のために死力を尽くして、なんて思ってあそこで戦って、王都が落ちて、後は周りのやつの面倒見て終わろうと思ったら、そいつらから次の理由を与えられたんだ。

聖人を守ってくれって。


そうやってずるずる死に損なって、後はアーチから何か理由が無くなれば、そこが本当に終わり。

初恋の相手を、人類の未来を守って終わる。達成すればこれ以上の名誉はない。


暫くアーチを守って、勇者が来て、一仕事終えたと思ったらだ。

アーチは、腹の子の父親を俺だとか言い出しやがった。


誓って俺と彼女にそういう関係はない。

女神の声も聞いたから間違いなく勇者の子だ。

続けて勇者の元には戻れない。予言を守れないなんて言う。

初恋の人は、聖人は、全てを裏切る最低なやつになっていた。

俺の最後の仕事にケチつけやがったんだ。

初めて、アーチに殺意を覚えた。


そうしたら魔王様が現れて、勇者と聖人を殺すという。

お前らも殺せと言う。

俺の怒りは、唯一の機会を得た。


「つまりは、そう言うことです」

「面白い。命惜しさだったら配下にする積りは毛頭無かった。しかしそういう訳なら、死にたいなら殺してやるし、配下になるなら迎えてやる」

「有難うございます。ならば、是非配下に」

「良し」


アーチは、後悔しているのだろうか。

歯を食いしばって涙を流している。

勇者は俺が自分勝手なやつと思っているのか。

魔王を相手にしていた時と、同じ形相で俺を見ている。


「さあ、私の前で聖人の首を刎ねてくれ」


魔王の命令で俺が剣を振り上げてもアーチは泣くだけだ。

勇者はあの怪我で這いずりながら近付いている。

けれども、ここにいる者が今さら何を思おうが関係無い。

全ては終わり尽くしているからだ。

勇者も聖人も俺も。

そして魔王もだ。


振り下ろした剣は魔王を両断した。


「先程の言は嘘だったのかな」

「嘘ではないさ」


勇者に嫉妬していたし、国、神殿を恨んだし、聖人に失望もした。

ただその前に。


「そもそも魔王がいなければと思うのは間違いか」

「成る程。道理だ」


死の間際、言葉と血を俺に浴びせて、渾身の一撃で縦断された魔王は息絶えた。

勇者とアーチは俺の行動に目を見開いている。

あ、こいつら俺が魔王を裏切ったから油断していないか。

俺の話を聞いていなかったのか。

なら勘違いされる前に言っておかないと。


「魔王は殺ったが、お前らに恨みがないわけではないからな。」


くたばるならそれで良い。

俺は二人を置いて、村を後にした。

魔王を斬ってから頭に響く声達を何とかしたかった。




村が完全に見えなくなっても暫く歩いた森の中。

頭の中の声はもう無視が出来ない程だった。


「女神様」

「やっと我が声に反応しましたね」


女神の声はこちらの都合を無視して届けられる。

そしてそれは反応を返さない限り際限はない。


「よくぞ魔王を倒してくれました」

「倒しはしましたが、結果貴女の予言は外れることになりましたがね」

「いえ。予言ははずれておりませんよ」

「は」


予言の子は生まれる前に魔王は死んだ。

女神の言葉は的外れなものになってしまったのだ。

けれど女神は否定する。


「そもそも、救世主が勇者と聖人の子とは言っておりません。正しくは、貴方がそれに当たります」

「何を、言って」


そこから女神が語る予言の真相。

救世主とは、次の魔王が現れた時に活躍する、英雄達の祖先のことだと言う。

数百年後、また新たな魔王が軍勢を引き連れた時に、それを防ぐ英雄達。

その英雄達の先祖に俺がなる予定なのだと言う。

俺には数百年前の魔王の時代に活躍した英雄達の血が流れており、それを一番濃く受け継いでいて、その血を広く繋げていくことを期待されていた。

ところが俺は一人しか愛そうとしなかった。

それでは役目が成し遂げられない。

だから予言でアーチと結ばれることだけはならないようにしたという。

魔王討伐が為され、世に平和がもたらされたとき、安全な環境が整って初めて繁栄せよという予言を出す予定だった。

早めに予言を出してしまっては、あの魔王のことだ。俺は狙われることになっただろう。だから俺を特定するような予言はなかった。

それが予言の真相という。


「既に主だった神殿には貴方が魔王殺しの英雄と伝えております。神殿に着きましたら、役目を果たしなさい」


そんなもの。


「断る」


まさか、まさか勝手に人に役目を与えて、それで人の意思は無視で、それが女神のやることか。

そんなもの、嫌に決まっている。


「まあ。そう言うことも予想しておりました」


言いなりにならない俺に怒るかと思われたが、女神は静かだった。


「ところで、なぜ神使という職は神使と言うか知っていますか」


「神使は、神に仕える者ではありません。神に使われる者なのです。つまり我が意思の下では、貴方の意思など関係無い」

「ははっ」


思わず笑ってしまった。


「何が可笑しいのです」

「いえ、ただ」


「出来るものならやってみろ」


そこで初めて怒りの気配を感じた。

女神は人を自然に見下しているのか、少し言っただけでこれだ。


けれど怒りから次第に困惑へと変わっていくのを感じる。

そろそろ女神は気付いたようだ。


「何を、しました」

「魔王からの伝言だ」


魔王を斬って、返り血を浴びてから声が聞こえていた。

それは魔王討伐を見届けた女神のもの。

そしてもうひとつは死んだはずの魔王のもの。

返り血を媒介に、俺の中に自分の魂を届け、少しではあるが、体を作り替えたという。

きっと今の俺が天職神授を受けたなら、昔とは違った結果になるだろう。


「次は負けない、だと」


女神の声はもう届かない。神が人を操るための何かが体から消えたのだろう。女神に俺が従わないですむ理由を教えてやるつもりも義理もないし、良かった。

魔王も女神の支配を受け付けないようにするのが精一杯で、完全に消滅すると言っていた。

俺の剣は魔王の核すら斬っていた。そもそも魂の損傷が激しかったのだろう。

今はもう、魔王の残滓すら感じられなくなった。




あの後、予言の勇者、聖人、魔王が消えても戦争は暫く続いていた。

そしていつまでたっても救世主が現れず、女神の予言が外れたことによって、少しだけ、神殿の影響力が落ちた。

するとある国が、女神より禁じられていた魔族との和解に乗りだし見事戦争を終わらせたという。

魔族は歴史上初めて魔王亡き後も国体を維持することができた。


世界は誰も知らない方向へ進みだしたのだ。



最後にあとがきと設定のメモだけあります。

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[一言] 女神がクソ女で草も生えん
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