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星を集めて願い星

「ねぇ、あなた、誕生日はいつ?」


 4月も終わりが近づく頃。雲一つない夜空に星が広がっている。

 今夜は春先にしてはやけに暑くて、じゃんけんに負けたーー正確には、最後に私と弟が残って勝ちを譲った形だけどーー私、影山かげやま 玲央名れおなは家族の分のアイスを買いにコンビニへ向かってる最中だ。


 家からコンビニまで徒歩10分。その短い時間に厄介ごとに巻き込まれる可能性は無いに等しいし、ある訳ないのが一般的だ。

 しかし、どうも私の人生は一般的ではなかったらしい。


 異様な制服姿の女の子が私の誕生日を尋ねてきた。薄暗い紺色で地味目なブレザー、スカートも同じ紺色で気持ち程度に赤チェックがあしらわれている。背丈からして私と同じ女子高生のようだし、私含め夜中に出歩く女子高生自体はなんらおかしくない。


 けれど、それを異様と表したのはブレザーの合間から見える彼女の胸が、輝いていたからだろう。


「だから、あなたの誕生日は?」


「は、八月ですけど」


 必死な顔で問い詰められたら、私みたいな一介の女子高生は同じように、答えてしまうと思う。


「で、何日……?」


「ーー11日です」


「うんうん、じゃあ獅子座であってる?」


 それなら、最初から星座を尋ねればいいんじゃないのか。それはそれで怪しさは増すのだけれど……。

 にしても星座なんて、占いでしか気にしたことない。まして、他人の星座を聞く状況とはなんだろうか。


「そうですけど。それが……どうかしたんですか?」


 唐突に他人の誕生日を、もとい星座を知ろうとした理由。それを知る権利がわたしにはあるはずだ。

 そんな小さな反抗心で彼女に問い掛ける。


「だったら、本題に入るね。あなた星座まほう少女しょうじょになってくれない?」


ーー耳を疑った。


 学生とはいえ、いい歳をした女の子から出てくる言葉としてはファンタジーが過ぎる。もう魔法まほう少女しょうじょを夢見る歳ではないだろうに……

 聞き間違いかもしれない。もう一度言ってもらおうと、聞き返してみる。いや、正確には聞き返してみようとしたところで……


「安心して、星座まほう少女しょうじょよ。あなたの耳は正しく機能してる」


 まだ声に出してない疑問への答えが返ってきた。超能力に興味のない私でも聞いたことくらいはある。まさにテレパシー、私の心が読まれてるようだ。


 特殊な力を披露され、私の中で魔法少女への現実味が増していく。故に彼女の話を信じ始めている。


「あぁ、それとね。魔法まほう少女しょうじょじゃなくて星座まほう少女しょうじょなの。マジックじゃない。星座に《まほう》ってルビが振られてる。でも、【まほうしょうじょ】なのは間違いない」


 何の違いがあるというのか。けど、私の星座を尋ねた理由がそこにあるのだろう。


「その説明をするには、星座少女の仕組みの話が先かな。星座少女になれるのは、それぞれの星座に対応した生まれを持つ者だけ。で、引退したいなら自分で後継を探す必要があってね……。私は獅子座の星座少女だから同じ獅子座の子を探してた。そこで、あなたに出会えた」


 はじめの質問について納得はした。だが私が態々、星座少女とやらになる魅力を感じられない。


「ごめん。肝心な事を言ってなかったね。私達はこの街に落ちてきた【願われ星】を集めてるの、どんな願いも叶えられる座につく為にね」


「………【願われ星】? 願いを叶える? り、理解が追いつかない」


 彼女がテレパシーに準ずる魔法を使えると。そう分かっているにもかかわらず、声が出ていた。


「そうよね、でもね考えてみると簡単な事。あなたは流れ星にお願いをしたことはある?」


「ありますけど……」


「じゃあさ、その流れ星は誰のものだった? あなただけのもの? それとも隣にいた誰かのもの? ううん、星はみんなのもの。一人ひとりの視界に同じ流れ星を捉えて、それぞれが別々に願う…… そんなのっておかしくない? 星のかけらが燃え尽きようとしてるのに、自分勝手に願うなんて流れ星が耐えきれる訳ない。願いには人の想像を遥かに超える力があるの。それを消滅の寸前まで供給され続けられた流れ星は、物質としての死を皮切りに、新たに生まれ直してしまう。人々の願いを歪曲した邪悪なものとして……っていうのが私の信頼する先生(・・)が立てた仮説」


 長々とした説明を噛み砕くのに暫し時間がかかる。


 なら邪悪なものとは敵、なのだろうか……


「それは……実際に見て見ると分かるよ。とりあえず、それは置いといて。汚れた【願われ星】を綺麗にできるのが星座少女の特権であり義務。落ちてくる星も色々でね、自分の星座の星を全部集めてやっと、真に願いが叶えられる……どう? やってみない?」


「どうと言われても……ほんの少し考えさせて」



 これは個人的な話だ。

 これまでの本筋とは異なる話だ。

 けれど、私にとっては必要な話だ。


 『情けは人の為ならず』


 近頃は、親切にするのはその人の為にならないと誤って使われることのある言葉だが、正しくはこう。

 人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、巡り巡って良いことが自分にもどってくるという意味なのだ。


 なんて利己的なんだろう。人は、自分の利益にならないと他人を助けることさえ出来ない。そう定義されているようで、嫌いだ。嫌いだから、私は……。


 私は、彼女の為に星座少女をやってやる。


 当然、既に読まれている思考だ。既に伝わっている思いだ。改めて言う必要はない。


「……っ! ありがとう、本当に。出来る限りのサポートはするから安心して! っと、じゃあ星座の明け渡しをしよう」


 あまりにも唐突すぎて、私は目を見張った。安心からか、彼女が顔を綻びさせていた次の瞬間。

 彼女は、自分の胸に腕を突き刺していた。


「……くぅ、はぁ……ぁ、【レグルス】……ごめんね。この子をよろしく」


 悲しげな声だった。初対面の私なんかが触れてはいけない関係性が垣間見えた。


ーーけれど、私はそれを受け取らないといけない。

 

 光り輝くそれを差し出す手に、私も手をかざし受け取る。彼女を真似てそれを胸に仕舞い込もうとすると、優しく飲み込まれていった。


 完全に飲み込まれたのち、私の胸は先程までの彼女と同じように光り出した。

 続いて、その光が私の全身を覆う。とても眩しくて目を瞑ってしまう。

 光が収まり目を開けると、この身は地味な紺色の制服を纏っていた。

 けど今なら分かる、この色は夜空を象ったものだと。


「うん……、完璧。そしたら、これも取り込んで。でも一個ずつね、一気にやっちゃうと身体に馴染み難いから」


 同じように光り輝くものを六個受け取ったが、これはさっきのとは違うようだ。あきらかに光が弱く、それに小さい。

 けど、今胸に光続けている星と同じくらい強い力を感じるのは間違いない。

 

「えっとね、これから取り込むのがおススメだよ」


 彼女が指差したのは薄っすらと黄色いやつだ。正直私からしたら何の違いもないのだけど、前任者が言うのなら正しいはずだ。

 助言を信じて取り込むのだけれど、これは口から飲み込むらしい。水もないのにどうしろと……とも思ったがそこはファンタジー、自然と口から体内へ吸収されていった。

 喉に触れると、そこに石がある気がした……。ほんとに大丈夫なのだろうか。


「ま、行こう。幸い今日は満天の夜空が広がってる、こんな日は星が堕ちやすいんだよ」


「早速ですか……」


「大丈夫! 初めてだから私も付き添ってくから、ね?」


 既に星座少女をやると決めてしまっている。きっと今後は一人でやっていかないといけないのだ。だから初陣を経験者と共にできて嬉しかった。


*****


 向かった先は住宅街のど真ん中。

 こんな街中に【願われ星】なるものはいるのだろうか、仮にいたとして近所迷惑にならないのか。


「ーー来るよ」


 あぁ……。あれは暗い、そして、醜い。


 【願われ星】は人型をしていた。その身を黒く塗り潰され、人型のシルエットだけが認識出来ているにすぎないけど。


 歪だったのは、滲み出る邪悪な何かが右腕に、とある形をとって現れている。その形状は、曲がりに曲がった角だ。その角だけは真っ暗でありながらもはっきりと視認できた。

 

「あれが【願われ星】。あなたがこれから先、願いを叶えられるまで対峙し続けるもの」


 あれに対して、負の感情が溢れてきている。それを無視出来る気がしないのは事実。


 けれど、あれは敵じゃないのだろう。あれは私が情けをかけるべきものだ。


「気持ちは決まったね。さぁ、さっき受け入れた星にどうしたいか願って! 願いが奇跡まほうを生み出してくれる」


「はい! 私の願い、それは……」


ーーー【ラス・エラセド・アウストラリス】ーーー


 『獅子たる玲央名の願いとは、あの醜い外見への嫌悪。つまりは【願われ星】の消滅…………


 いや情けである。

 歪曲した願いを払い除け、救いだすことこそ願いである。

 さぁ、高らかに叫べ、その咆哮が星を救う』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ーー星座まほう百獣の王よ、哮り立て(ワイルド・ハウル)》!!」


 彼女の喉から発せられる獣の咆哮を前に、邪悪な願い程度が形を保てるはずがなかった。



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