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異世界筋肉美女図鑑~肉体美で異世界を征する~

 異世界でともに旅をするのは、いつだって可愛い女の子がいい。

 でも、可愛いだけじゃいずれ見飽きるからちょっと変わっているとなおさら良い。


 ……というのが大昔に異世界転移したことがある(らしい)祖父、長篠いぐさからの金言だった。

 確かに冒険をするにあたって男の背中や筋肉が視界に映ってもひたすらむさ苦しいだけだしね。


 でも、なんでただの美少女じゃ駄目なのか。そこに納得がいかなかった。

 だって、可愛いじゃん(思考放棄)。可愛ければいいじゃん。嘘、性格が壊滅的だと困りそう。


 ちなみに、祖父――爺さんの場合はどんな美少女がご所望だったか。

 一年前に他界した彼は遺言書にこう、記していた。


『やっぱり、美少女には引き締まった筋肉がつきものだよねぇ!』


 滅茶苦茶達筆だった。ビリッビリに引き裂いてゴミ箱に投げ捨てたい衝動を抑えるのに苦労した。

 なんやかんやで、その遺言書は未だに僕の学習机にしまってある。


 性欲魔神かよ、うちの爺さんは。


 時は過ぎ、僕――長篠勝頼は16歳になった。ちょうど、爺さんが異世界転移をした年齢である。


 始まりは唐突だった。学校からの帰り道、河川敷を寄ったときに事件は起きる。


 河川敷と言えばえっちな雑誌がそこらじゅうに捨ててあるよな。


 僕も一介の男子高校生。思春期真っ盛りってわけだ。TSU○AYAの一八禁コーナーを夢見るお年頃。


 発散の手段は、ネットでにアップされたいやらしい動画か、河川敷に捨てられた成年誌。


 田舎特有の大人のおもちゃ自販機があればよかったんだけど最近取り壊されてしまった。ファック。


 で、僕は例の如くえっちな本を物色していたわけだ。その日はやけに大量だった。

 

 女優のヌード写真とか、エロ漫画がわんさか積まれて、まるで近所の河川敷が夢の国だった。


 で、しばらく雑誌を漁っていたんだけど、


「ん? ……なんだよ、これ」


 雑誌の山から出てきたのは『異世界筋肉美女図鑑』という一風変わった雑誌だ。どうせ、コスプレものなんだろうなーと期待半分で眺めてみたはいいものの、クオリティがすごい。


 エルフとかドワーフとか、ゲームの知識がほとんどない僕でさえ、知っているような種族(のコスプレをした?)女の子が、化け物と戦闘しているシーンがずらーっ、と載っているのだ。


 おまけに写真一枚につき事細かなコメント付き。


 何より、戦っている女の子の筋肉が強調されて撮影されている。


 メリハリのついたヒップにバスト。剣のような上腕二頭筋。槍のように伸びたふとももとふくらはぎ。


 ……ビビビッ、と僕の中で電流が弾ける感覚が迸った。


 不覚にも祖父の遺言を思い出す。



『やっぱり、美少女には引き締まった筋肉がつきものだよねぇ!』



「わかる。わかるよ、爺さん……!」


 僕はパラパラパラ、とページをめくりながら祖父の嗜好に賛同していた。蛙の子は蛙らしい。


 ページ数は100を超え、ようやく雑誌の終わりが見えてきた。


 一番に目を引いたのは、大々的に見開きページで特集された『天使族の王女』の写真だった。


 顔立ちはもちろんのこと、翼の毛並みやその肉付き、羽の量――天使としての側面が幻想的で、しかし、人間と同じような身体の作りに秘められた腕や胸や背中やお腹や、ふとももやふくらはぎや……ともかく、肉体美なのだ。ギリシアの彫像も顔負けなくらい。


 筋肉の部位ごとの名称とかさっぱり分からないけど、筋繊維の一本一本が皮膚越しに鋼のように、見える。


 僕は『天使族の王女』に一目ぼれしていた。


 もっと、彼女の写真を見たい。次のページを開いて、


「あれ……、白紙……?」


 写真は切れていた。次のページもそのまた次のページも。


 未完成だったのだろうか。だとしたら仕方がない。見開きページだけを切り取って自宅に飾ろう。


 そう目論み、ページを戻そうとした次の瞬間――僕の視界はぐにゃりと歪んだ。


「え!? 何が起きてるんだよ!? ――まさか、異世界転移なのか!?」


 そういえば、祖父が異世界転移した年齢になったのだ。


 僕にだって、同じような機会があってもおかしくない。


 きっと怖かっただろうけど、僕の唇は意外にも自然に吊り上がっていた。


 この日のために、実は鍛錬をしていたのだ。


 していた、というか、爺さんに施されたんだけど。


『異世界では、最強の肉体こそが最強だ。魔法さえも打ち砕かなきゃならぬ』


 生前、爺さんは確かそのように忠告していた。まさか自分が異世界に転移するとは思ってもみなかったけど、筋力があって不便なことはなかったのでなんとなく、鍛錬を続けてきたのだ。


 爺さん、アンタの教えは無駄じゃなかったらしい。


 歪んだ視界が徐々に安静を取り戻しつつあった。


 ぼんやりと、両目が映したのは大きく開かれた……翼、だろうか。


「ふふ……、実験は成功しました」


 声は少女のもの。僕よりも幾分か大人びて聞こえる。


「こ、こは……?」


「ここは、『大天使』ガブリエルの間。ナガシノ・カツヨリ、貴方は別の世界から召喚されたのです」


 薄暗い世界に目が順応していく。真っ白な両翼がやけに眩しかった。


 ぶわさっとはためくそれに導かれるように、僕はひたすら声の主の下へと進んだ。


 そのうちに目が翼の奥に見える人の形を捉えた。


「……あっ、実物だ」


「実物……?」


「いや、あなたが『天使族の王女』様ですよね……?」


「いかにも、その通りです。まさか異世界人にまで知られているとは思いませんでしたが……」


 目の前には、先程の写真集で最後のページに掲載されていた少女が佇んでいた。


「改めまして、『天使族の王女』こと『大天使』ガブリエルです」


 偶然、手にしていた『異世界筋肉美女図鑑』と実物とを見比べる。


「やっぱり、実物の方がお美しい……」


「う、美しい、ですか……?」


「はい。それはそれはとても……。でも、写真で見たときよりも可愛らしい印象もありますね……」


「うにゃ!? こ、このわたしがか、かか可愛いですって……!?」


 天使族の王女様改め、ガブリエル様は酷く狼狽えているようだった。


 防御力がないのだろうか。確かに筋肉を鍛えていれば防御もできるし、攻撃は最大の防御ともいうし。


 納得である。攻撃に全振りをした結果、このような初心な反応をするのかも。


 なるほどなー、異世界って不思議だ。


「――で、どうして僕を召喚したんですか?」


 早速本題だ。


「一言で申し上げると、我々天使族の勇者になってもらうためです」


 話によると、この異世界にはいくつもの種族が争ったり和平協定を結んだりしつつ共生しているらしい。


 が、最近は資源問題やらで平和の均衡が怪しくなり、種族間戦争一歩手前とのこと。


 各種族は、異世界からそれぞれ『勇者』と呼ばれる選ばれた人々を召喚し、戦争へと備えていた。


 そんなさなか、僕は天使族の『勇者』として選ばれてしまったらしい。


「『勇者』は、召喚魔法陣によって召喚され、役目を果たすか死亡すれば元の世界に戻ります。たとえ、こっちの世界で死んだとしても元の世界に戻されれば生き返り、召喚されるより前の生活を再開できるっていう安心設計なので『勇者』様は心置きなく戦いに没頭することができるんです」


 要は残機1のバトルロワイアル、みたいなものか。


「で、どうして僕を勇者に選んだんでしょう?」


「それは召喚魔法陣のみぞ知ります。魔法陣に選ばれたということは何らかの適性があった、ということでしょう――現に、これまでの歴史で召喚されてきた『勇者』は何らかの特技を持っていました。貴方の場合は――、そうですね」


「殴るとか、蹴るとかか」


「ふふふ。そのようですね。わたしと似ています」


 ガブリエルが可憐にほほ笑む。


 ただそれだけで、ぞっ、と背筋が震えた。言われなくともわかる、戦闘の前触れだ。


「お手並み拝見といきましょうか、『勇者』カツヨリ様」


「――同じ武闘派としての血が滾るってことですか?」


「ええ。その通りです。……でも、せっかく戦うのに手を抜かれたら困りますね」


「だったら、賭けをするっていうのはどうだ?」


「なるほど、名案ですね」


 僕は指を鳴らして、手足をほぐした。アキレス腱をきっちり伸ばしながら、


「ガブリエル様はどんな賭けを用意するんですか?」


「ふふ、『様』とか敬語はこの際要りません。対等に行きましょう。――そのうえで、私は賭けます。『もし私が勝ったなら、貴方は絶対に私に逆らうことができない呪いをかけます』」


 ははっ、対等な関係じゃないじゃんか。まあ、いいけど。


 そもそも謀反を起こす気はないし。


「じゃあ、カツヨリ様は――いいや、カツヨリは何を賭けるんですか?」


「僕はっ!」


 人差し指でビシッとガブリエルを指した。


「えっ……私ですかっ!?」


「そう、ガブリエル。あなたを賭ける。――『もしも、僕が勝ったら』」


 『僕の恋人になってください』、と。


 大天使の間に盛大な告白が響き渡り、次の瞬間、顔をみるみるうちに赤くした天使の女の子が、


「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!?!?!?!?」


 と驚きの声とともに蒸発した。これもう僕の勝ちっていうことでいいんじゃないか? 

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