いつか褐色白髪最強槍姫を救う話
彼女が欲しい。
そのシンプルな欲望は俺を焦がし続けている。
どれほどガチャに金を溶かしても、嫁を見つけても、その感情は抑えることはできない。
学科同期は部活動を通してすでに彼女を手に入れていて、時たまナチュラルに自慢してきてうざい。
彼女を作るために、服装に気を使って、髪を染めた。
だが、出会いはない。
入っているサークルはイラスト研究会で、ほぼ幽霊なので今更顔を出すこともできない。
第一、可愛い女子がいない。
それでも俺は信じてる。
どこかに俺と最高に相性のいい女の子がいて、すごく気が合うということを。
彼女ができたら、膝枕したりキスしたりいちゃいちゃしまくる。
決して浮気せず、彼女一筋でいくんだ。
やっぱり、相手はいないが。
五千円を払って合コン会に参加したが、気後れして話しかけられなかった。
こういう肝心なところで気が小さくなるのがよくない。わかっている。
俺は、退路を断つことにした。
一日ナンパ三回。
それをしないと家に帰らないと決めた。
ナンパは正直めちゃくちゃハードルが高い。
長らく男子校で大学の学科もほとんど男ばかりだから、女性と話す経験が圧倒的に不足している。
まず話しかけるのさえ一苦労。
そこからお茶に誘うスマートなやり方がわからない。
「へいそこの姉ちゃん。ちょっとお茶しない?」
ってのがナンパ男の敗北フラグであることは知っている。
これは言ってはならない。
だが、ならどうすればいい。
俺はネットにある書き込みをかたっぱしから試すことにした。
最初の方は酔狂な友人が付き合ってくれて、俺がナンパを諦めるたびに励ましてきた。
諦めて帰宅しようとする俺を帰らせなかった。
だがこいつは彼女がいるから俺の敵だ。
感謝しつつも決して心は許さない。
この特訓のおかげで、俺の対女性トーク技能は大幅に向上した。
今なら吃どもることもない。立て板に水のトークを繰り出せる。
まあ、今のところは全戦全敗だが。
そろそろ100敗くらいになるか。もう一ヶ月以上もダメだ。服も髪も気を使っているはずなのに。
何がいけないんだ。やはり顔か。
この世の不条理め。許さないぞ。
でも整形に踏み切るほど肝は座ってないんだよな。
このままやり続けるしかない。
研究室も夏季休暇に入り、学校に行く必要のなくなった七月末の夕方。
俺は街に繰り出して、いつ果てるとも知れないナンパをしていた。
しかしやはりすげなく断られる。
なんでだよ。俺はこんなに頑張ってるだろうが。
心が荒んだ。
人影のまばらな通りの方に歩いて行く。
このままいけば家だ。
ただ、今日の分のナンパはまだ出来ていない。
誰でもいいから声をかけるんだ。
夜が帳を下ろして、闇が街を覆う。
明かりがポツポツとつき始めた。
家路につく人影が目に付く。
彼女たちにナンパしても効果は薄い。
疲れ切って帰って休みたい場合がほとんどだ。
じゃあ、なぜ俺はここでナンパをしようとしているんだ。
ナンパのしすぎで頭がおかしくなったのか。
気分を変えたくなったっていうのが正しいだろう。
たとえダメでも挑戦し続けることには意味がある。
また、断られた。申し訳なさそうにしてくれるのはいい人だった証拠だろうが、それじゃあ彼女は作れない。
高台の公園で、一息つく。
見上げた夜空はただひたすら星が綺麗だ。夜空の膜が消えたように震えて、より解像度が上がった。
今までで一番綺麗な夜空だ。
一つだけ、赤く輝く星が目を引いた。火星なのか金星なのか。
惑星事情には詳しくないからわからないが、あの明るさはそのどちらかだろう。
ちょっとずつ近づいている気がするけど、疲れた頭が見せる幻覚だろう。
それはまるで流星のようで。
後ろに尻尾を引いて、こちらへ迫っていた。
⋯⋯ひょっとして、現実か?
いやでも、流星群の話なんて聞かなかったぞ。
もしかして、隕石かもしれない。
あの明るさの流星が隕石だったら、東京は壊滅するから、慌てても仕方ないや。
俺は、ただひたすらその赤い流星に見入っていた。
空を走る星は、少しづつ角度を変える。
尾が左を向いて、右を向く。
⋯⋯どう考えてもこっちに近づいてるよねあれ。
考えても仕方ないことだ。
轟々と音が鳴っている。
上空から降ってくる。
少し、東か?
俺のいる場所からは逸れている。なら大丈夫だ。
思っていたよりも小さいみたいだ。最初に目撃した時すでにかなり近くだったんだろう。
東京を壊滅させるサイズの隕石が落ちてくるなんて情報があったら、この世の終わりとして評判になっていたはずだし。
俺は安心してその輝きに目を奪われていた。
墨田区の方に落ちていく。
もう、そこまではっきりとわかった。
いきなり、赤の輝きの勢いが弱くなる。
まるで何者かに押しとどめられたかのように。
そこに行かせないという強い意思が流星を弾く。
よく見えない。だが、軌道が変わったのは確かだ。
雲のそばに輝きが見える。10000mくらいには落ちてきているということだ。
尻尾が見えなくなった。
高度が落ちたからか。それとも、俺の方に向かっているからか。
どんどん眩しくなってくる赤い光に後者であることを悟る。
隕石って当たったら流石に死ぬよな。
今更逃げられやしない。
俺は覚悟を決めて、目を瞑つむった。
これで、終わりか。最後に一回くらい、ナンパを成功させて彼女を作りたかった⋯⋯。
予想していた衝撃と閃光はなくて、俺は恐る恐る目を見開く。
赤の膜に包まれて、褐色の女の子が仰向けに宙に浮いていた。髪は白だ。
露出の多い軽鎧を纏っている。意識は失っているらしい。
まぶたをパチクリとする。
飛行石⋯⋯? 受け止めるべきだった⋯⋯?
パズーに負けた。いや、そうじゃなくて。
恐る恐る、彼女に手を伸ばす。赤の膜は、少しの抵抗感の後に、俺の手を通した。
彼女の背に手を回す。赤の膜はいきなり消えて、重みが手のひらに加わた。
ふらついて、支えるのを諦めて、そっと地面に下ろす。
背中だけ支えて、彼女の表情を見つめた。
落ち着いてみると、思っていた以上に美人な子だ。
今までナンパしてきた女の子と比べて何百倍も綺麗だ。
褐色の肌もエキゾチックな魅力として映る。
年齢は俺と同じかもう少し上くらいだろうか。
それにしては幼い表情をしているのが気になった。
しばらく待つと、彼女は意識を取り戻した。
「⋯⋯君は?」
だいぶ弱々しい音だが、とても綺麗な声だ。
顔が近い。だが、ビビっている場合じゃない。俺がやるべきことはただ一つだ。
今までの全てを思い出せ。
俺が欲しいのは可愛い彼女。
そして、その手段は、ナンパ一択だ。
「疲れているだろ。俺の家で休んで行かないか?」
いや。これじゃねえだろ。なんで家だよ。
少なくとも喫茶店だろ。初めて会った人を誘うところじゃないぞ家は。
慌てすぎていた。これは、ダメだ。また失敗だ。いつになったら、俺のナンパは成功するんだ⋯⋯。
「いいよ。でも、君が、運んで⋯⋯。」
「へっ? 今なんて?」
彼女は意識を失って。そして、再び俺の腕に体重を預けた。
俺はただただ混乱した。彼女が言ったことを吟味する。
いいよって言ってくれたよな。さっき。
これは、どう考えてもナンパ成功で間違いない。
俺の一ヶ月が身を結んだんだ。
思わず叫んだ。勝利だ。俺が勝った。
しばらくして我に帰る。
あんまり騒いだら迷惑だ。
よし。とりあえず彼女を家に連れて帰ろう。
背に背負う。
モテるためにやっていた筋トレが身を結んだ。
ダンベルアニメの影響ではないので誤解しないで欲しい。
彼女の身は引き締まっていて、少し重かった。
▶︎ダンジョン由来のものとの接触により、システムが解放されます。
名前 直方仁
Lv 85
職業「異世界主人公(召喚予定なし)」
能力「鑑定」「言語理解」「威圧耐性」
称号なし
▶︎鑑定の効果が発動します。ダンジョン由来のもののシステムを鑑定します。
名前 トライヘキサ
Lv 666
職業「槍使い」
技能「縮地」「槍捌き」「水魔法」「収納」「人柱力」
称号「血槍姫」「魔物の敵」「ダンジョン踏破者」「滅ぼせしもの」「逃亡者」





