狂気
それは生まれたその時から天才だった。それは胎内でその自我を持った。そして、それは何故か母体の聞いた言葉の意味を理解していた。
それは胎内から産道を通り、産まれた。それは性別上女に分類され、明るい子に育って欲しい、また皆んなを明るく出来るような子になって欲しいという願いから「明」と名付けられた。
彼女は両親の願った通りの子になる為、とても明るくそして、困っている人には優しく、皆んなを笑顔にするような子に育っていった。
彼女は6歳の頃に弟が出来た。彼は誠と名付けられた。両親は可愛い可愛いと弟を可愛がっていた。彼女も両親と同じような笑顔を顔に張り付け可愛いねと微笑んだ。
高校2年の夏。両親が死んだ。交通事故だと聞いた。トラックの運転手が居眠り運転をしていたらしく赤信号で止まっていたところを突っ込まれたそうだ。
母はいつも言っていた。
「皆んなを笑顔にできるように頑張っていれば必ず素敵な人生になれるの。だから明、誰かを傷つける事は1番してはいけないことなのよ。まあ、明は良い子だから分かってると思うけどね」
父は笑いながらこう言っていた。
「いいか、明。お前は誠が自慢出来るようなお姉ちゃんになるんだぞ。ってもう十分自慢できるお姉ちゃんだったか」
弟は泣いていた。まるで体の涙を堪える機能が全くもって働かなくなったのでは無いのかと思わせるほど涙を流し、嗚咽をもらしながら泣いていた。
私は生まれた時からどんな問題であろうと見た瞬間に何故か解くことが出来たし、一度見たことは二度と忘れることもなかった。しかし、私には分からない事があった。それは感情だ。だから、悲しいという感情も怒りの感情も分からなかった。しかし、目から涙だけは溢れて流れた。それは、弟のようにしゃくり上げ嗚咽をもらすわけではなくただ涙が自然と溢れた、そんな感じだった。
私はそれから両親の代わりになって弟を育てることにした。何故なら私達を引き取ってくれる親戚が誰もいなかったからだ。弟は両親が死んでからというもの塞ぎ込んでしまい、学校にも行かなくてなってしまった。
私は疑問に思い始めた。母は言っていた。他人に良い事をしていれば自分に返ってくると。父は言っていた。弟の手本となれるような人になれと。
しかし、現実を見てみれば、親戚は誰も私達を引き取ってくれず、私は高校に通いながら引きこもりの弟を養うため夜遅くまでバイトをし、朝は弟と自分のご飯を作り、学校に通う。学校につけばこれまで楽しそうに共に話していた友人達は気まずそうにし、私に笑顔を向けて来ることなど無くなった。
そもそも、両親の言っていたことは間違いだったのではないか。また、両親には私には言っていない良くないことがあったのではないか。
そう思い、私は両親について調べ始めた。調べ始めて2ヶ月になる時、私は両親が駆け落ちして結婚した人達である事を知った。だから、私達は親戚の誰からも疎まれているということを。
しばらくすると、私は人間に興味が湧いた。人間は自分とは違うものを嫌い、排除するらしい。だから、異質な私達は排除されるのかと思った。
調べるとどうやら人は人どうしで殺しあえば醜いだの、悲惨だだの周囲の人間がのたまうらしい。また、他の生物でも知能が高いものや哺乳類を殺すのは残酷だが、虫などの知能の低い生物を殺すのは残酷で無いとする者が多いらしい。
私はだんだん人が醜く見えてきた。もちろんそれは私自身も弟も含めてだ。
だから、私は初めて自分のこの何をしても上手くいく頭を自分自身の欲求の為に使うことにした。
私は医者や研究者を洗脳し、道具と資材を手に入れた。そして、人体実験を始めた。孤児院の子供を引き受けて、その子供の人体を弄り回した。腹を裂かれ内臓を弄られ泣き叫んでいたが、心は何一つ痛むことなどなかった。
当然、いくら私が天才だからといっても何度かは失敗して死んでしまったり、原型も留めないなにかよく分からない生物となってしまったりした者も出してしまった。また、ウイルスを体内に打ち込んだ後、暫くしてから拒絶反応が起こり発狂して臓腑をぶちまけながら死んだ者もいた。
途中からクローンを使った実験に切り替えた。勿論クローンは自分と弟のものだ。理由は拒絶反応が人によって違ったからだ。何度も繰り返した。失敗した時はウイルスの特効薬を使い速やかに処分した。
しかし、研究から3年私は遂に作り上げた。銃をその身に受けてもすぐに傷を癒し、爆破されればその飛散した血と肉が付着した人間を蝕み新たにその生物を生み出すといった特徴を持ち、そして人間だけを襲って喰らい増殖する生物兵器を。
寝ている弟にそれを注射した。
そして、私にも注射した。これで世界は変わる筈だ。こんな醜い世界は終わり、新しい美しい世界に、
「どうかされましたか」
「うむ、わしが星を生み出し、生を与え、進化していた生物が星とともにその生を全て一つ残らず消えてしまった。そして、見たこともない化け物が現れたと思うと星を丸ごと呑み込んでしまった。あれはおそらく暴走してあるのだろう」
「それは大変な事ではないですか。早く神敵に認定し速やかに駆除しなくては」




