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魔族討伐の報酬

「いてててて……兄ちゃん、もうちょっと優しくしてくれよ」


「無理だ。変身してないときの俺の筋力は普通の人よりは高いが、人間のレベルを超えるほどじゃない」




 敵の消滅を確認できたので、俺は変身を解除した。


 そして、力を使い果たして倒れたままだったアスラに肩を貸してヨミたちの所へ戻った。




「あの、魔族は……倒したのでしょうか?」




 恐る恐ると言ったようにローライドが聞いてくるので、俺は証拠を差し出した。




「これがあいつのクリスタルだ」


「ヒィ」




 怖い物でも見たときのように声を上げてレイラの後ろに隠れた。




「いや、さすがにここから復活するってことはないって」


「そ、そうなんですか? 魔物を倒すとクリスタルになるのはわかりますが、魔族は初めてなので……」


「アキラ殿、ありがとうございました」




 ローライドとは対照的に、レイラは静かに頭を下げた。




「礼を言われるほどのことはしてない。っていうか、だいぶ町を壊しちゃったからな。後で問題になったりしないよな」


「ご安心ください。全て、魔族の仕業だった。と言うことで大統領に発表していただきますから」




 マジなのか冗談なのかわからない表情でレイラが微笑む。




「と、取り敢えずアスラとヨミの怪我を治療してあげてくれ」


「はい」




 レイラの治療魔法はエリーネにも劣らぬものだった。


 二人とも致命傷は受けていなかったと言うこともあり、すぐに完治した。


 俺たちは全員連れだって大統領府へ戻った。


 すると、大統領府の門が開かれ、敷地内は人で溢れている。


 どういうことかと思っていると、警察や市民に指示を出しているレオルの姿を見つけた。




「何かあったのか?」


「おお! アキラ殿! せっかくだから市民を一番安全な場所に避難させようと思って、大統領府の敷地を開放していただいたのだが……」




 レオルの表情が段々驚きへと変わっていく。




「……アキラ殿、戻られたと言うことは、まさか……」


「ああ、魔族は排除した。これが魔族のクリスタルだ」




 そう言って差し出してみせるが、あからさまに引いていた。




「いや、いい。そのような禍々しいものはしまってくれ」


「レイラさんも、ローライド大臣も御無事のようで何よりだ」


「いえあの、レオルさん。私のことは今まで通り呼んでください。大臣と呼ばれるのはちょっと……」




 ローライドは恐縮しながらそう言ったが、レオルは大きく笑ってローライドの背中を叩いていた。




「何を言う。大臣の活躍はしっかり見させてもらったからな。これからはもうただの若造扱いは出来んよ」


「私の活躍なんて……二度ほどあの魔法からレイラさんを守っただけで、結局魔族はアキラ殿が討伐してくださったわけで……」


「私には何も出来なかった。今回のことで、国防軍の大臣が戦士ではなく魔道士だと言うことがよくわかったよ。私も魔法について学ばなければならないのかも知れないな」


「そうですね。警察の方も魔法に詳しい方がいざというとき戦力になれると思います。さっそく大統領に進言しておきましょう」




 レイラはこんな時でも変わらずに冷静に分析していた。




「そうだ、大統領は執務室でお待ちだ。早く報告して差し上げてくれ。市民への説明は私がしておく」




 そう言ってレオルは警察官が集まっているところへ向かってしまった。


 俺たちはレイナを先頭に官邸に入る。


 さすがに建物の中には避難させなかったようで、官邸の中は外の喧騒とは対照的に静かだった。


 右側に伸びる廊下の突き当たり、執務室の扉をレイラがノックする。




「そのノックは、レイラだな。入れ」




 別に特徴があるとは思わなかったが、それだけ二人の絆が強いってことか。




「はい」




 レイラが扉を開けて、俺たちを先に入れた。


 クリストフはレイラの身を案じていたのだから、俺たちのことは気にしなくてもいいのに。


 レイラが最後に内側から扉を閉めるまで、俺はその場に留まった。


 そして、俺たちの前に出るように促す。


 少し迷いを見せていたが、すぐに足を進めてクリストフの前に立った。




「ただいま戻りました」


「ああ、無事で何よりだ」


「ありがとうございます。それから、報告いたします。首都の人々を襲っていた魔族――ディルピアと名乗っていたものは、アキラ殿が討伐しました」




 そう言うと、クリストフの横に立って俺たちの方を向き、今度は俺たちが前に出るように目配せしてきた。


 俺はあのクリスタルを差し出して同じ報告をする。




「まあ、一応これが討伐の証拠みたいなものだな」


「やはり、魔族も死ぬとクリスタルだけになるのだな」


「ああ、そう言うことらしい」


「それにしても、何と禍々しい……」




 クリストフも不吉なものを視るような目をさせた。


 俺にとっては魔物のクリスタルとかと変わらないけど、この世界の人にとってはそうではないのだろうか。


 あるいは、百六十人も殺しているという被害が、そういう印象を与えているのか。




「わかったからしまってくれ。そのクリスタルはもちろん、討伐したアキラ殿の好きにして欲しい」


「いいのか? 魔族のクリスタルは武器や道具に加工できるんだろ? この魔族はこの町の人間を百六十人も殺してる。あんたたちもクリスタルの恩恵を受けるだけの権利はあると思うが」


「犠牲になった者たちは国葬で弔うからアキラ殿が気を回す必要はない。むしろ、そのようなものが国内にある方が市民たちの心が傷つく」


「……そういうものか」


「アキラ殿は冒険者ですよね。アキラ殿にこそ、それは必要なものではないのでしょうか?」




 レイラが素朴な疑問といった風に聞く。




「レイラは一緒にいたからわかるだろ。俺は魔法が一切使えないんだよ。だから、魔法道具は持っていても意味がない。武器も自前の方が使えるし」


「……そうでしたね……ところで、その“変身”という力は何なのでしょうか?」


「そうだな。あんたたちには教えておいても良いかもな」




 アイレーリスの同盟になった以上、ずっと秘密にしておくのはキャリーも気を遣うだろうし。


 たった二日しか見ていないが、クリストフたちはしたたかだが悪い奴らじゃない。




「ただ、俺と直接関わった者だけの胸の内にしまっておいて欲しい」




 そう前置きしてから、俺は異世界からこの世界にやってきたことを話した。




「……い、異世界……? 魔族の棲む、魔界とは違うんですよね……」




 クリストフとレイラは表情が変わらなかった。まあ、この二人はポーカーフェイスが上手いから内心どう思っているのかはわからない。


 ローライドだけは大きく動揺していた。




「まったく別の世界だ。それこそ、世界の理から違うと表現してもいいと思う。何しろ、俺の世界には魔法なんて力は存在しない」


「それは、とても不便ですね」




 少しだけ気の毒そうにレイラが言った。




「いいや、そうでもない。俺の世界は魔法がない代わりに科学技術が発達している。俺の変身も小さな機械――ナノマシンと呼ばれているんだがその最先端技術を使ったものだ」


「あれが、機械によって行われているのですか? 信じられません」


「ローライド大臣、私たちはそれを間近で見ているじゃありませんか。あれは、魔法ではとても説明つきません」




 ローライドは疑って口にした言葉ではなかっただろうが、レイラが窘めるように言った。




「そうだな、俺の世界の技術をわかりやすく説明するなら……飛翔船ってあるだろ? この世界じゃ空を移動できるものはあれしかないらしいが、俺の世界は飛行機っていう鉄の塊が毎日空を飛び交ってる。それも、飛翔船よりも数倍早く」


「落ちたりぶつかったりしないのですか?」




 好奇心を抑えられないといった表情でローライドが聞く。




「希にそういう事故もあるけどな、一日に何万とか何十万とか飛んでるんだから、そういうのは防げないだろうな」


「あなたの世界は、空が広いのですね」




 何だか詩的な表現で彼は納得していたようだった。




「まあ、アキラ殿が何者だったとしても、我がダグルドルド共和国が救われたことは間違いない。本当にありがとう」




 クリストフはそう言って俺に頭を下げた。




「礼は受け取っておくが、頭は上げてくれ。人間を襲う魔族は俺にとっても敵だ。話を聞いて放っては置けない」


「……キャロライン女王陛下が気に入っているわけがよくわかった。ところで、魔族を討伐してくれたことに対する報酬だが、本来ならギルドに依頼すべき仕事だったからな……魔族が相手となると、相場だといくらくらいになる?」


「そうですね。被害を考えると、金貨千枚くらいは差し上げても多くはないと思いますよ」


「そうか、それならすぐに用意させよう」




 レイラが出した試算もとんでもない額だが、それをクリストフは迷いなく差し出すつもりらしい。


 ダグルドルドはよほど金持ちの国ってことか。


 ただ、その金を受け取る気はなかった。今の俺に必要なのは、金よりも情報だから。




「ちょっと待った。金はそんなに必要じゃないんだ」


「しかし、それでは何を報酬にすれば良いのか……」


「キャリーがあんたたちに頭を下げたこと、忘れたわけじゃないよな」


「確か、アキラ殿の妹の捜索を手伝って欲しいと」


「それ。俺が欲しいのは妹の情報だ。この国には警察もいるみたいだし、冒険者だけじゃなく大統領の命令で警察にも妹の情報を探ってもらいたい。それと、この国には商人がたくさんいるんだろ。ってことは、きっと俺の知らない情報網ってのもあるはずだよな」


「商人たちの情報網をアキラ殿の妹のために使え、と」


「無理か?」


「……商人の情報網が彼らにとってどれほど価値のあるものか、知らぬわけではあるまい」


「だからこそ頼みたいと思ってる」


「……うーむ。こちらが先にキャロライン女王陛下とアキラ殿の関係を利用してしまったからな……断りづらいではないか」




 クリストフは腕組みをしながら苦笑いしていた。




「それで、何か手がかりになるようなものはあるのか?」




 なんだかんだ言いつつもクリストフは俺の求めに応じてくれるみたいだった。


 だから、AIのデータから描き起こした妹の絵を渡す。




「これはまた、随分上手い絵だな。まるで人物の姿をそのまま切り取ったみたいだ。アキラ殿は画家としての才能もお持ちのようだ」




 写真とほぼ変わらないほど精巧な絵であることは間違いないが、俺も苦笑いで返すしかなかった。


 AIのことを説明するのって、やっぱり難しいし。


 クリストフはそれをレイラに渡して「後は頼む」とだけ言った。


 それだけで話が終わると言うことは、レイラが優秀な秘書であることの表れでもあった。




「……アキラ殿、やはり妹さんが見つかって落ち着いたら、我が国で次の大統領を目指してはくれぬか?」




 改めて真面目な顔をして向き合ったと思ったら、クリストフがそう言った。




「は? どうしてそういう話になるんだよ」


「アキラ殿の交渉の仕方は私に似ている。その上、魔族をも圧倒する力がある。この国の未来を任せたいと思ったのだ。選挙での戦い方なら、私とレイラが教えよう。いや、いっそのことレイラを嫁に」


「待ってください! アキラは私と将来を約束しているのです! 小さな家を買って子供は二人か三人くらいで慎ましやかな幸せを……」




 大きな声でヨミが割り込む。そして、またさらに話が妙な方向で進んでいることを聞き逃すわけにはいかない。




「いつの間にか家族計画まで立てるな!」


「え? 子供の数はもっと多い方が良いですか? そうなると小さな家ではなくて、少し大きな家が必要に」


「そういうことを言ってるんじゃない!」


「そうだぜ、姉ちゃん。オレも一緒に住むから、子供は少ない方が良いんじゃないか」


「待て待て、アスラは男の子なんだから、自立しろっての」


「そうですよ。たまに遊びに来るくらいなら構いませんが、夫婦の生活に入り込もうなんて野暮ですよ」


「お前ら……いい加減にしろ!」




 執務室の中に怒鳴り声が響く。


 クリストフとレイラは声を上げて笑っていた。




 それから二日。


 俺は自分の足でもダグルドルドの首都で妹の行方を捜してみたが、成果はゼロ。


 警察や商人からの情報はアイレーリスに報告してもらうことにして、俺はダグルドルドを離れることにした。


 その事をクリストフに伝えると、一緒に向かって欲しいところがあると言われて馬車に乗せられた。


 レイラとローライド、それから国軍の馬車もいくつか一緒だ。


 何やら若干物々しい雰囲気すら感じられる。


 もう魔族との戦いは終わったというのに、まるでどこかに戦いにでも行くかのよう。




「アキラ殿、これから向かう場所ではあまり不用意は発言は控えて欲しい」




 同じ馬車に乗るクリストフが険しい表情でそう言った。




「そもそも俺たちはどこに向かってるんだ?」


「国境だ」


「国境? ってどこの?」


「ダグルドルドと帝国は隣り合っている」




 そう言えば、帝国はダグルドルドと戦争をしようとしているんだった。




「まさか、宣戦布告するわけじゃないよな」




 クリストフは戦争反対派だと言っていたし。




「冗談でもそのようなことはこれから先、口にしないで欲しい」


「悪かった」




 シャレにならない雰囲気だけは伝わってきたので、俺は素直に謝った。


 それからの道程は、皆緊張していて時間が経つのが遅く感じられた。


 首都を出てから三日かけて、大きな壁が大地を遮るのが見えてきた。


 その手前に砦が見える。




「あれは?」


「我が国が監視用に立てたものだが、帝国はこちらが応じない限り手を出さないから、最近はあまり意味を成してはいない」




 馬車は砦を通り過ぎて壁に近づいていく。


 そこには両開きの大きな門があった。


 だが、門番はいない。


 どういうことだ?


 門の前で馬車は停まり、全員馬車から降りる。




「アキラ殿。門の向こう側は帝国だ。もしそこで剣を抜けば、それは宣戦布告と同じ意味を持つ。くれぐれも気をつけていただきたい」


「そこまで言うなら、俺はここで待ってるけど」


「いや、アキラ殿が一緒でなければならない。それと、例のクリスタルを彼らに見せて欲しい」




 やっと話が見えてきた。


 帝国はダグルドルドが魔族に襲われていることをダシに戦争を仕掛けようとしていた。


 その必要はなくなったと証明するってことか。


 レイラが門をノックする。


 すると、門の真ん中辺りの小窓が開いて男が顔を覗かせた。




「これは、ダグルドルドの大統領と秘書さんではありませんか。今日はどのようなご用件で? あ、我が帝国と戦うというならすぐにでも」


「違います。その必要がなくなったと言うことを説明しに参りました。扉を開けてもよろしいですか?」


「……ええ、結構ですよ」




 そう言うと小窓が閉まる。


 それを確認してから、ローライドの部下たちが両開きの扉を引いた。


 すると、帝国側にも多くの馬車と戦士や騎士、魔道士たちが控えていた。


 今にも戦争を始められそうな雰囲気だ。


 先ほど小窓から顔を出した男が先頭に立っている。


 その風貌は、背が高く痩せ型。細長い目をしていて、茶色の髪はウェーブがかかっていた。


 ずっと微笑んでいて、この場の雰囲気にまるでそぐわない。




「アキラ殿、よろしいか?」


「ああ。ヨミは何があっても手を出すなよ。それから、アスラもな」




 どちらかというと、アスラのことはアスラ自身ではなく、ヨミに押さえるように目配せした。




「わかったよ」




 アスラはその意味をわかっていないのか素直に答えたが、ヨミは意味も理解してくれたようで静かにただ頷いた。


 俺はクリスタルを手に、帝国と向かい合うクリストフに並ぶ。




「見ての通り、我が国を襲っていた魔族はこの者が討伐した。もはや貴国の力を我が国が必要とすることはない。よって、貴国の要求に応えることはないと言うことを、国王陛下にお伝えください」




 不気味な微笑みの男はさらに目を細めて俺に近づいてきた。




「……あなたが、魔族を? そうですか……あなたが噂の……?」


「俺のことを知ってるのか?」


「話には聞いたことがあります。我が帝国にはギルドがありませんから、実際目にしたのは初めてですが」




 それは、俺が中継したことを知っているって意味でもあった。


 そうでなければ、ギルドのことまで持ち出したりしない。




「そのクリスタル。見せていただいてもよろしいですか?」


「貴殿は我々のことを疑われているのですか?」




 クリストフは俺の前に立って不気味な微笑みの男を遠ざけようとしたが、俺は肩を押さえて制した。




「クリストフ。構わないから下がってくれ」


「し、しかし……それはアキラ殿の」




 俺はクリスタルを投げて渡した。




「……ふむ。間違いないようですね。それに、これだけ綺麗に形を残すとは。アキラ殿は相当の実力者のようだ」




 しげしげ見つめてから、俺と同じように投げて返した。




「わかりました。国王には私が直接伝えましょう。ですが……いずれ帝国の力が必要になるときが来ますよ」


「どういう意味だ?」


「あ、アキラ殿」




 別にケンカを売っているわけでもないのに、クリストフが慌てていた。




「その程度の魔族でしたら、我が帝国でも簡単に処理できます。我々人間にとっての脅威はそのような雑魚ではないのです。世界に伝わる伝承や伝説は、ただの物語ではない、とだけ今は言っておきましょうか」




 不気味な微笑みの男がそれだけ言うと俺たちに背を向けた。


 そして、門の扉は帝国の戦士たちによって閉められた。

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