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魔族の手がかり

 早朝だというのに、すでにいくつかの店は開いていた。


 見てみると、主に食料品を取り扱っている店だった。


 買い物客は少し身なりの整っている商人のように見えた。




「そう言えば、どういう方法で殺されてたんだ?」




 被害者のデータは目にしただけで全てAIに記録させるだけだったから、俺はほとんど把握していなかった。




「資料に書かれていたはずだが……被害者は全て遠距離からの魔法攻撃によって殺されている」




 レオルが説明した。




「それって避けたり防いだりはできないものか?」


「魔法が使えるものは防いで、その後に警察や国軍に助けを求めたりしてきたが……」




 被害者の数がきっちり毎日十人出たことを考えると、守り切れなかったってことだろう。


 いつどこから狙ってくるのかわからないんじゃ、四六時中見張ってる必要がある。


 人間だから気を抜いてしまう瞬間もあるだろうし、そこを狙われたのか。




「ってことは、殺された警官は防御魔法みたいなものが使えなかったってことか?」


「それは、現場を見ればわかると思う。その角を曲がったところだ」




 レオルに言われて入り組んだ道を入っていくと、その一角だけがメチャクチャに荒らされていた。


 まるで空から爆撃でも受けたかのよう。


 ただし、恐ろしくピンポイントだが。




「一緒に行動していて助かった警官の話によれば、闇の矢のような魔法がどこからともなく飛んできたかと思ったら、その直後に雨のように同じ魔法が無数に降ってきたらしい。最初の攻撃は防げたが、この有り様だ」




 最初の攻撃は殺すことが目的じゃなかったのかも知れない。


 獲物の位置や状況を確かめるためのマーキングのようなもので、それを目印に殺すための魔法を撃ったと考えるのが自然だろう。




「他の被害者も同じような状況だったってことか?」


「ああ、魔法が使えず攻撃が防げなかったものも、最初の一撃が致命傷だったにもかかわらず、同じような波状攻撃で追撃されていた」


「それでよく、もう一人の警官は助かったな」




 辺りも破壊されていることを考えると、流れ弾が当たっても不思議じゃなさそうだが。




「不思議なことに闇の矢は近くにいたほかの人間には当たらずに、まるで追いかけるようにして飛んでいたと」


「その魔法について知っているものは?」


「レイラさんが調べていますが、なにぶん闇の魔法を専門に使う人間は少ないので……」




 自信がなさそうにローライドが言った。


 ローライドも服装からして魔道士のように見えるが、わからなかったってことか。


 俺は一瞬だけヨミを見たが、微笑みを返すだけで何を求めているかはわかっていなかった。


 ヨミの魔法の知識はエリーネから学んだことと、敵から学んだことだけだからな。


 聞くだけ無駄か。


 この場にエリーネがいれば……。




「あ……」




 俺はもう一度ヨミを見て言う。




「魔法水晶でエリーネを呼び出せるか?」


「え? エリーネさんですか? 確か、新しいクリームヒルトにいるんですよね?」


「ああ、以前のクリームヒルトの屋敷にも魔法水晶があったし、エリーネも伯爵なんだから家に置いてるだろ」


「……あの、ですがどう呼びかけたらいいのかわかりません」


「どうって……魔法なんだから呼びかければ応えるものじゃないのか?」


「それではどの魔法水晶に繋がるかわかりませんよ。設置してある場所やそれを連想させるキーワードのようなものを知らなければ……」




 携帯電話の番号やメールのアドレスのようなものだろうか。




「……それじゃ、あれだ。まずはアイレーリスの王宮に連絡しろ。キャリーかクラースなら知ってるだろ」


「それなら」




 ヨミが連絡すると、果たしてクラースが魔法水晶の呼びかけに応じた。


 当然、王宮はエリーネの連絡先も知っていて、俺たちにはすぐに教えてくれた。


 そして、改めてヨミがエリーネに連絡する。




「あのねえ、こんな朝早くにいきなり呼び出すってどういうことよ」




 魔法水晶のに映し出されたエリーネはまだ寝間着で、髪だけはタオルでまとめられていた。


「悪いな。ちょっと辺りを見せるからエリーネの見解を聞きたい」


「はあ? 何を言って……」




 俺はヨミに促して俺ではなく魔法攻撃を受けた辺りを魔法水晶で見せた。


 そして、再び画面を俺に向ける。




「今のは何?」


「恐らくは魔族による魔法攻撃だ」


「魔族!? え? アキラは今何をしてるの? まさか、またアイレーリスに魔族が来てるってこと?」


「いや、アイレーリスじゃない。ダグルドルドって言う……」


「ああ、アイレーリスの同盟になった国ね」




 さすがは伯爵ともなると国の事情には詳しいようだ。


 ついでに俺がどうしてここにいるのかも説明すると、少しだけ機嫌が直った。




「……妹さんの捜索はいいの?」


「まあ、それも自分の足でしたかったから、そのついでに助けようと思ってな」


「アキラらしいわね。それで、その魔法攻撃だけど……形状はダークアローに似ているけど、効果はナイトメアチェイスってところね」


「あのな、魔法の使えない俺にそんな魔法名を言われただけで理解できるはずが……」


「そう言うことでしたか!」




 ローライドが手を叩いて納得していた。


 そして、俺の横から魔法水晶を覗き込む。




「あの、私はダグルドルドで国防大臣を任されているローライドというものです。貴重な情報をいただき、ありがとうございます」


「え、いえ……。こちらこそこのような姿で申し訳ありません。私は、エリーネ=クリームヒルト。伯爵です」


「お噂はかねがね。アキラ殿と一緒に魔族と戦い、祖国を救ったと」


「あの、ローライド。悪いけど、今はそんな話をしてる場合じゃないだろ。数時間後には最初の犠牲者が狙われる。俺たちは今そのあたりさえ付けられていないんだから」


「あ、申し訳ありません」




 ペコペコ頭を下げて小さくなっていた。


 ……これで国防大臣を任せてるって、この国の軍隊は大丈夫なのか?


 心なしかレオルの態度もイラついているように見える。




「……アキラ、他にも一緒の人がいるなら先に言ってよ。ちゃんと支度してから魔法水晶に出たのに」


「悪い、こっちも急いでるんだ。この埋め合わせはいずれ」


「そう言えば、数時間後には最初の犠牲者が出るっていってたわね。まあ、アキラのことだから魔族なんかには負けないと思うけど、一応気をつけた方が良いわ。さっき私が教えた魔法を使うってことは、たぶん遠距離攻撃魔法の得意な魔族らしいから」


「ああ、ありがとう」




 礼を言ってからヨミに魔法水晶の使用を止めさせた。


 改めてローライドに聞く。




「今のエリーネの話で、何かわかったのか?」


「相手が魔族ですから、恐らくは私たちの知らない方法で二つの魔法を組み合わせているのかも知れません。警察官の証言から未知の魔法だとばかり思っていて、盲点でした」


「複合魔法ってことか?」


「あれは、複数の神の力を使いますから。今回は呼びかける神の力は闇の神だけです。ですが、二つの魔法効果が現れている」


「そのあたりの魔法の構造については俺たちは素人だからな。それこそエリーネならわかるかも知れないが」


「何が言いたいのかはっきりしてもらえないか」




 レオルが腕組みをしたままそう言った。




「元となった魔法は人間でも使えます。つまり、効果範囲がわかるということです」




 それは重要な手がかりになるかも知れない。




「どれくらいの距離から撃てる魔法なんだ?」


「そうですね、着弾地点からだいたい半径三キロくらいといったところでしょうか」




 三キロか、結構広いがこの情報もAIは計算に入れるだろう。


 攻撃地点が割り出せれば、こちらから仕掛けることも難しくはなさそうだ。


 後は、もう一つ。




「遠距離から魔法で殺されたことはわかった。それで、どうしてその後魔族と接触した? 攻撃に成功したのを確かめに来たってことか?」


「それは、わからん。確かに死体を漁っているような様子だったと……」


「アキラ、それは恐らく……ミュウと同じということではありませんか?」




 歯切れの悪いレオルに代わるように、ヨミが答えた。




「ミュウと同じ? ……人の魂から魔力を喰うって、あれか?」


「魔族が人間を襲う目的といったら、それしか思いつきません」




 魔物たちも人間を襲う奴は食料のような扱いだった。


 あいつらにとっては人間は牛や豚とたいして変わらないってことか。


 ヨミやアスラとは根本的なところで価値観が違うんだよな。


 同じ魔族や魔物でどうしてこうも考え方が変わるのか。


 いや、それは人間も同じか。


 ほとんどの人間にとって魔物や魔族は害獣のように考えられているからな。




「アキラ殿、この後どうする? この辺りも目撃者はいるし、聞き込みをしてみるか?」


「そうだな、一応そのために来たわけだし」




 AIが分析を終えるまで、何もしないというのももどかしい。


 少しだけ通りを戻って、すでに開いている店の前で呼び込みをしている店員に聞き込みをした。


 レオルやローライドが一緒のお陰でどの店の店員も快く事件について話をしてくれたが、特に目新しい情報はなかった。


 被害者をまとめた資料になかった点でいうと、魔族は長身のイケメン。黒とシルバーでメッシュの髪の色をしていたってこと。


 そして、国軍や警察の警告も聞かず、魔法で攻撃しても気にするそぶりすら見せずに人の溢れる通り紛れて逃げたと言うことだった。


 この辺りの情報はもちろんレオルやローライドも知っていたので、聞けば彼らも答えただろう。


 それ以上の手がかりもなく、最初の被害者が出るまであと一時間といったところで俺たちは一度大統領府に戻った。




「お疲れ様でした。軽いものですが、朝食を用意しております」




 出迎えたのはレイラだった。


 俺たちは執務室ではなく、官邸の一階右側にある食堂へ案内された。


 すでにクリストフは食事に手を付けている。


 そう言えば、コーヒーを飲んだだけでまだなにも食べていなかった。




「いただきまーす」




 嬉しそうにアスラがいってパンにかぶりついていた。


 よほど腹を空かしていたらしい。


 言ってくれれば、商店街で何か食べ歩きできそうな物を買ったのに。


 そういう出店のようなものいくつかあったし。




「……それで、何かわかったのか」




 クリストフがレオルとローライドを見た。




「はい、魔族の使った魔法の特性から、攻撃範囲がわかりました」




 レオルは視線を下げたが、ローライドは一応の成果を報告した。




「それだけか?」




 あからさまにガッカリしたような声を出した。




「ですが、被害者のデータと照らし合わせれば、攻撃位置が割り出せるかも知れません」


「特定するのにどれだけ時間がかかる。もう間もなく魔族の攻撃が始まるんだぞ」




 ローライドが意味のあることだと説明しても、問題の解決にすぐ繋がりそうな情報ではなかっただけに、クリストフのいらだちは隠しきれていなかった。




『分析を終了しました』




 険悪な雰囲気になりそうだったが、俺の意識は食堂から脳内に切り替わっていた。


 みんなに聞こえない声でAIに話しかける。




「結果だけ教えろ」


『被害者の情報から魔族が狙う人間はバラバラであると言うことがわかりました。職業も年齢も性別も、特定のパターンで殺しているわけではないようです』


「無差別ってことか」




 厄介な話だ。次にどのような人間が狙われることになるのかわからないなら、被害者が出るまで動けないってことじゃないか。




『ですが、最後に得た情報から魔族の攻撃位置が三つ特定できました』




 それは、今まさにローライドが言っていたことだ。


 人の手でやれば時間はかかるだろうがAIならばデータから割り出せる。


 俺とヨミとアスラ。それからどの程度役に立つのかはわからないが、警察と国軍にもその三カ所を張ってもらうか。


 ただ、もう残された時間が少ない。


 それで配置に付けるかが問題だ。


 俺はAIの分析結果をクリストフに報告しようと立ち上がった。




「きゃ……」




 すると、俺の席に食後のコーヒーを運ぼうとしていたレイラにぶつかりそうになった。




「あ、悪い」


『警告します! 魔法による攻撃が、こちらを狙っています』


「変身!」




 AIの言葉を遮るように、俺はネムスギアを展開させた。


 よろめいたレイラを抱き止めるその瞳の奥に闇が映っていた。


 俺の背後のガラスが割れる。


 レイラの頭を抱え込んで全身で隠すと、闇の矢はキャノンギアの背中に当たった。


 もちろん、俺にはまったく痛みは感じなかった。




「アキラ!」


「兄ちゃん!?」




 目には入っていないが、ヨミとアスラが立ち上がったのが気配でわかる。




「来るな! 全員伏せろ!」




 次の瞬間。さらに窓ガラスが砕け壁が破壊される音が響く。


 闇の矢が無数に降ってきているのがそれだけで伝わってきた。


 それが誰を狙っているのかは明白だった。


 俺はそのままレイラを押し倒すようにして全身で攻撃を受け止める。


 土砂降りの雨のような音のせいで周りの状況がいまいちわからないが、魔法攻撃による痛みはなかった。


 まあ、あの複合戦略魔法でも耐えられるキャノンギアだからな。


 いくら数があっても一発一発の威力はそれほどでもない。


 問題は、この攻撃がいつまで続くのかってこと。


 まさか、ターゲットに命中するまで続くとしたら、このまま俺が身動き取れないってことに……。




『彰。その心配は無用のようです』




 AIがそう言うと、攻撃は急に止まった。


 俺は立ち上がって辺りを見回す。


 官邸の食堂は見るも無惨な状況になっていた。


 メチャクチャに荒らされていた路地と同じ。


 一部の壁とガラス窓が跡形もなく破壊されている。


 俺とレイラが倒れていた辺りはガラスの破片と壁の瓦礫でいっぱいだった。


 放心状態のレイラに手を差し伸べる。




「大丈夫か」


「……え、あ……はい、ありがとうございます」




 さすがのレイラもいつもの冷静さを失っていた。




「そ、それが……あの魔族を倒したという力、か?」




 クリストフが声を震わせて驚いていた。




「ああ、そう言うことだ」


「ま、魔法ではありません。一体、どのような……」




 ローライドも同じような目で俺を見ている。




「今はそんなことを言ってる場合じゃないだろ。レイラが狙われたんだぞ!」




 俺が怒鳴ると、ようやくその場にいた全員の意識が目覚めた。




「レオル。確か、魔族の攻撃を躱したものはどうなるんだった?」




 クリストフがレオルの両肩を揺らして聞く。




「そ、それは……また執拗に狙ってくるはずです」


「諦めて他のターゲットに移るとかじゃないんだな?」




 魔族は死んだかどうかも確認できるのか?


 ってことは、おいおい……嫌な予感しかしない。




『彰、その想像は間違っていないようです』




 再び闇の矢が数本向かってきた。


 俺はそれを腕で受け止める。




「アキラ!」「兄ちゃん!」




 ヨミとアスラが叫ぶ。だがそれは俺の身を案じての言葉ではなかった。




「魔力反応を掴みました。敵の位置がわかったので、行ってきます! アキラはレイラさんを守ることに集中してください!」


「あ、ねーちゃん! ずるいぞ! オレも一緒に行くって!」


「ちょ、お前ら勝手なことを……」




 止める間もなく、雨のような魔族の攻撃がまた降り注いできた。


 俺はまたレイラを抱えて攻撃を受け止める。




『魔族の位置は私も特定できたのですが、彰もこの後向かいますか』




 そうしたいところだが、この攻撃が収まらないことには身動きが取れない。


 数分がやけに長く感じた。

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