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向かうべき国

 アイレーリスにいないのは、俺の前に妹が現れない時点で確定しているとは思っていた。


 さすがに、あれだけ派手に活躍していて、同じ国にいるなら会いに来ない方が不自然だ。


 ただ、キャリーが国王たちにお願いしたのは昨日で、どうしてホルクレストとメリディアの報告だけはそんなに上がっているのか。


 答えは簡単だった。


 ジェシカの話によれば、戦後の処理が終わったすぐ後に、同盟国にはすでにキャリーがお願いしていたらしい。


 国際会議でキャリーが頭を下げたことにシャリオットとルトヴィナが驚かなかったのはそう言うことだった。




「それじゃあ、改めて聞くけどどこの国へ行った方がいい?」


「そうね……。飛翔船が使えるなら一番近いのはリンドヒルーツ王国よね」




 あの山脈の向こうか。


 歩いて行くのはしんどいだろうが、飛翔船なら一っ飛びでいける。


 だけど、ジェシカはまだ考えていた。




「何か問題でもあるのか?」


「ここだけの話、リンドヒルーツ王国って謎が多いのよ」


「なんだそれ。でも、ギルドはあるんだろ?」


「あるにはあるわ。ギルドの理念も理解してくれている。ただ……何となく閉鎖的なのよね。リンドヒルーツ王国で冒険者として登録した者はまだいないのよ」


「それじゃ、むしろ俺が行かないと妹の情報は手に入らないんじゃ……」


「いいえ、リンドヒルーツ王国のギルドからも情報は送られてるわ。別に、ギルドを置いていない国のように冒険者の往来が禁止されてるわけじゃないから」


「よくわからないな。やっぱり俺の目で見てきた方がよさそうだ」


「無駄足になるかもよ」




 リンドヒルーツ王国に対するジェシカの意見は否定的なものばかりだった。




「何かリンドヒルーツ王国に恨みでもあるのか?」


「そうじゃないわよ。これを見て」




 そう言って一枚の地図を出した。




「これって、世界地図?」


「いいえ。大陸の地図。この地図で表すと、ここがアイレーリスね。それで、こっちの山脈の向こうがリンドヒルーツ。ちなみに、金華国――今は新クリームヒルトね。エリーネ伯爵が治めてる地方がこの辺りよ」




 ジェシカの言いたいことがそれでわかった。


 リンドヒルーツ王国の大きさは新クリームヒルトより小さい。




「人の数も少ないし、もし見知らぬ人が紛れ込んでいたらすぐに気付かれると思うわ。それなのに、冒険者からの情報も芳しくない」




 確か、妹はどこかの大きな都市にいるといっていた。


 小さな国の都市じゃ規模も知れたものだろう。


 ジェシカの言うとおり後回しにしても良さそうだ。




「ってことは、後は……昨日の会談で知った国か」




 ダグルドルド共和国に、エオフェリア王国、グライオフ王国。


 ……帝国ってのは、規模が一番大きそうだが……。




「なあ、帝国にはギルドはないんだよな」


「当たり前でしょ。彼らの考え方はギルドと正面から対立しているわ。しかも、ギルドを置かせてもらえないか打診したら、ギルドが戦争で勝ったらいいとまで言ってきたのよ」




 鼻息荒くジェシカが捲し立てた。




「ギルドと戦争って、意味がわからないけどな」




 国際組織と国が戦争するなんて聞いたことがない。


 そもそもギルドの役割は冒険者の仲介に等しい。


 登録している冒険者はギルドのために戦うわけじゃないから戦力なんてないわけで、戦争なんかできるはずがない。




「これだから力が全てだと思ってる脳筋は嫌なのよ。思い出すだけでも腹が立つわ」




 ジェシカの興奮は悪態をついても収まらないほどだった。




「それじゃ、俺が帝国に入ることは無理だよな」


「……戦って勝てばいいと言うかも知れないわね。ただ、アキラくんは上級冒険者よ。下手なことをすれば、ギルドが戦争を仕掛けたと取られかねないわね」




 そこまで言われると、勝手な行動は出来ないか。


 だが、逆に考えると帝国に妹がいるのが一番自然ではある。


 大きな国の都市。


 国力を考えれば、安全だってことも納得できる。


 問題は、帝国内部の状況がまったくわからないってことだ。




「あの、アキラ。ルトヴィナさんからいただいた魔法水晶が反応しています」




 ヨミがポケットから板状の形の魔法水晶を差し出した。


 こうして見ると、ちょっとスマホに似てる。


 それが全体的に淡い光を発して点滅していた。




「えーと、どうすればいいんだ?」




 そう言えば、使い方を聞いていなかった。




「形は変だし小さいけど、それも魔法水晶なら使い方は同じよ。魔法道具を使うときのように魔力を使って発動するの」




 魔法が使えない俺にはさっぱり意味がわからないが、ヨミはジェシカの説明ですぐに要領を得たのか、魔法水晶に呼びかけた。




「ご連絡をいただいたのは、どちら様でしょうか?」




 ヨミが呼びかけると、点滅が消えて映像がはっきりしてくる。


 俺もヨミの隣りに並んで覗き込むと、そこにはクラースが映し出されていた。




「アキラ殿。おはようございます」


「挨拶はどうでもいいけど、この魔法水晶って誰でも連絡できるのか?」




 そもそも、魔法水晶の仕組みがよくわかってないんだよな。


 機能的にはテレビ電話だけど。


 まあ、それを作戦に組み込んだAIの大胆さには驚くばかりだ。




「何を言う。以前アキラ殿がその魔法水晶に呼びかけるためのキーワードをメモにして渡してくれたではないか」




 あ……、そんなこともあったような。


 クラースを助けに行くときだったか。


 そう言えば、あのメモ書き意味がよくわからなかったからよく覚えていないんだよな。


 でも、キーワードを伝えておけば、相手からも俺たちに連絡できるってことか。


 後でヨミに聞いておくか?


 俺が覚えていないことをヨミが覚えているか、微妙な気がするが。


 いやいや、だったらこの場でクラースに聞けば良いか。




「クラース。悪いんだけど、この魔法水晶に呼びかけるキーワードを教えてくれないか?」


「は? え? あの、どうしてアキラ殿がそれを知らないのだ?」


「俺には魔法水晶が使えないから、メモはほとんど見ずにヨミに渡したんだよ」


「……だったら、ヨミ殿に聞いて欲しい。さすがに見ている前であのようなセリフを言うのは……」




 クラースが歯切れの悪い声でバツが悪そうにしていた。


 一体ルトヴィナがこの魔法水晶に設定したキーワードって何なんだ?


 益々気になってくる。




『私が覚えていますからご安心を。今はそんなことより連絡してきたことの理由を聞くことが先決だと思います』




 久しぶりにAIが話しかけてきた。


 思わず返事をしそうになるが、また妖精の話になるのも嫌だったので我慢した。




「それで、一体何の用事で連絡してきたんだ」


「おお、すまぬ。話が逸れてしまったな」




 逸れさせたのは俺だが、そこにツッコミを入れると余計に話が長くなりそうだったので、ただ頷いて続きを促した。




「ダグルドルド共和国の大統領が先ほど同盟の条約にサインをしたのだが、その席でアキラ殿の力を借りたいと直接キャロライン女王陛下に要請されたのだ」


「……あのさ、俺は一応ギルドに登録してる冒険者なんだから、キャリーに話を持って行くのは違うんじゃないか?」


「それは女王陛下も直接伝えている。ギルドでアキラ殿を指名して仕事を依頼すればいいと」


「それで?」


「クリストフ大統領は、それではアキラ殿は引き受けてくれないから、キャロライン女王陛下の友人として頼んで欲しいと言われた」




 あの大統領。俺と直接面識があったのは昨日の会談が初めてだってのに、俺の性格をよくわかっている。


 こっちはやっと戦争を終結させて腰を据えて妹の捜索を始めようと思ってるわけで、そんな時にギルドの仕事なんか見向きもするはずない。




「キャリーはなんて言ってるんだ?」


「条約にサインをする席でしたから、無下には出来ず……断られるかも知れないと前置きはしたが……」




 それでクラースが連絡をしてきたってわけか。


 緊急じゃなかったってことは、キャリーにとっては本当にどうしても引き受けて欲しいってわけじゃないだろうな。




「内容は?」


「ダグルドルド共和国が魔族の脅威にさらされている、と言うことだった。それ以上の詳しい話はアキラ殿に直接伝えたいそうだ」


「大統領はまだ城にいるのか?」


「ああ。他の国賓の方々はすでに例の飛翔船で送り届けたのだが、クリストフ大統領には条約にサインをしていただかなければならなかったからな」


「わかった。ギルドでの話が終わったら会いに行くと伝えておいてくれ」


「いいのか? 女王陛下は、アキラ殿にそこまでしてもらう必要はないとお考えのようだが……」


「魔族ってのが気になる。それに、妹の情報を自分の足でも捜そうと思っていたところだ。行き先に迷っていたから丁度いい」


「申し訳ないな。せっかく戦争が終わって、アキラ殿は自由に動けるはずなのに」


「クラース。それは違うんだろ」


「違う?」


「昨日聞いた話じゃ、まだこの世界は戦争中らしいじゃないか」


「帝国のことか。その話は長くなる。今はやめておこう。では、女王陛下と大統領にアキラ殿の返答を伝えてくる」




 そう言うと、魔法水晶から輝きが失われて暗くなった。


 うーん。まさしくテレビ電話機能のみのスマホのようだ。




「よかったわね。行き先が決まって」




 映像は見ていないが俺たちの話はしっかり聞いていたようだ。




「それに……もし、本当に帝国に行きたいなら、ダグルドルド共和国に一度行っておくのはいいことかもね」


「どういうことだ?」


「ダグルドルド共和国と帝国はお隣なの。そしてここ数年、吸収することを求められて戦争をしないか迫られているのよ」


「帝国ってのは、そんなに戦争がしたいのか?」


「力を示して世界を制覇する。と言うのが帝国の考え方ね。だけど、強制的にではないのよ。戦争を仕掛けるときは先に条件を提示して正面からぶつかり合うの。相手が拒絶している場合は、無理矢理襲ったりはしないわ」


「それじゃ、戦争なんてどこの国もしないだろ」


「そうでもないのよ。帝国の条件が魅力的で戦ってしまった国もあるわ。それに、ダグルドルドも今国民の間で意見が割れてるの。何しろ勝ったら帝国の全ての権利がもらえるからね」


「それのどこが魅力的なんだ? 戦争に勝った国が相手の国を得るのは当たり前じゃないのか?」




 金華国がまさにそう言うことになったわけで。




「金華国は国民がそれを望んだからスムーズに領土がアイレーリスのものになったけど、普通は戦った国のものになるなんて国民感情的に上手くいかないのよ。その点帝国の条件ははっきりしてるわ」




 ジェシカが説明してくれた帝国との戦争条件。


 勝利した国は帝国の全てを得る。


 帝国の人間全てを殺しても構わないし、奴隷にしても構わない。


 家も土地も何もかもを勝利した国のものとする。


 そして、敗北したときは帝国と共に魔族と戦うことを誓う。




「負けたときのペナルティがやたら曖昧じゃないか?」


「そうでしょ。帝国は負けたら全てを失ってもいいって宣言してるけど、勝っても相手の国を奪ったりするつもりはないと言ってるのよ。家も土地もそのままでいいし、帝国の奴隷になる必要もないの。ただ一つ、魔族との戦いに参加することだけ守れば後は今までと同じでいいと言ってるわ」


「何か罠でもあるんじゃないか?」




 話がうますぎる。




「その辺りのことを調べるためにも、今のダグルドルドに行くことはお勧めってことね」




 ジェシカは言葉を濁したが、詳しい話はそれ以上知らないのかも知れないな。


 そもそも帝国にはギルドがないんだし。


 アイレーリスのギルド本部の代表だから、そう簡単に他国へ行くこともできないだろうし。




「わかった。いろいろありがとう。それじゃ、アスラフェルの登録をお願いしたい」




 そう言ってヨミとつまらなそうにしていたアスラを呼んだ。




「兄ちゃん、やっと話終わりか? ちょーつまんねーんだけど」


「そう言うな。ここで登録しておいた方がアスラのためになるんだから」


「チェッ、姉ちゃんと同じこと言ってる」




 愚痴を言いつつもジェシカと向かい合った。




「アスラフェルくんね。それじゃ、この書類にサインと……」




 アスラの登録はすぐに滞りなく終わった。


 しかし、魔王の器が初級冒険者か。


 俺のスピード昇進も速攻で抜かれそうな気がする。




「あ、そうだ。アキラくん。ヨミさんを上級冒険者にするのかどうか、今ギルドで検討しているから」


「そうなのか?」


「でも、扱いが難しいのよね。ヨミさんの戦いも魔法水晶を通してギルドは把握してきたわ。私は実力的には申し分ないと思ってるけど、魔族を倒せたのアキラと女王陛下の活躍が大きかったし、まだ様子を見るべきだという意見もあるのよ」




 難しいな。ヨミは俺とずっと行動をしているし、強敵をヨミに任せて高みの見物をするってわけにもいかないし。


 でも、ヨミの将来を考えたら昇進するのは悪いことじゃないだろう。




「何か、アドバイスがあったら聞いておきたい」


「そうね……アキラくんと共同でも、もう少し実績を上げれば、何とか……」


「それは、上級冒険者のみが引き受けられる魔物の討伐依頼をこなすってことか?」


「魔族でもいいわよ。取り敢えず、定期的にギルドへ来て欲しいのよ。昇進が決まったらすぐに手続きをしてあげたいから」




 それはつまり、ヨミにとっても魔族を討伐するチャンスかも知れないクリストフの話に乗ることは悪くないってことか。


 もっとも、その魔族がヨミやアスラのように話の通じる相手だと討伐するわけにはいかないが。




「どうしても魔族を倒す実績が必要か? 問題が解決しただけじゃ、実績にはならないのか?」


「魔族の問題が解決するには討伐以外に方法なんてないでしょ。魔族を倒したアキラくんの方がその辺りわかってると思ってたけど」


「兄ちゃん、魔族を倒したのか?」




 訝しげな表情でアスラが聞いてきた。


 そう言えば、アスラは俺たちがミュウを倒したところを見ていない。


 分身がフレードリヒのそばから消えたから死んだことはわかっているかも知れないが。




「ミュウって魔族を知ってるか?」


「うん。オレの力を狙ってた……兄ちゃんが倒してくれたのか?」


「俺の力だけじゃないけどな」


「そっか……」




 少しだけ落ち込んでいるように見えた。


 ミュウにも何か事情があったのだろうか。


 だからといって、あれだけ人を殺した魔族を放っておくことは出来なかった。




「あいつ、昔オレの父さんにケンカ売ってきやがったから、封印されてなければ、オレが倒したかったのに」




 ……落ち込んでいるんじゃなくて、悔しがっていただけだった。


 魔族同士でも争いがあるってことか。


 その辺りは人間によく似てる。


 ただ、この話をこれだけ人がいる前でするのは不用心だな。


 ジェシカもやはり魔物や魔族に対する価値観は、害をなす生物って認識だ。


 まあ、俺も偉そうには言えないけどな。


 最初に魔物の討伐依頼を受けたときは害獣駆除くらいに思っていた。


 それまでに出会った魔物がもれなく人間を襲うような魔物だったから、そういうものだと俺も認識していた。


 ヨミだけが特別だったから、討伐させたくないと思ったから助けたのだが……。


 ヨミに討伐依頼が出されたのは王国騎士団を邪魔してしまったからだった。


 だから、ギルドに出される魔物の討伐依頼は基本的に人間に害がある魔物の討伐ばかりだ。


 それでも、話の通じる魔物とは話を聞いてみるべきだと考えるようになっていた。


 ヨミ以外にも人間と共存したいという魔物に出会ってしまったから。


 あれだけ頑なだったキャリーもヨミとアスラのことを認めてくれている。


 いつか、ジェシカのような人も同じように思ってくれたら、少なくとも全ての魔族と争う必要はなくなる。


 ミュウのような魔族とは、戦いは避けられないだろうが。




「それじゃ、城に行ってくる」


「行ってらっしゃい。それから、飛翔船の約束、忘れないでよね」




 別れ際にジェシカは念を押すようにそう言った。

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