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同盟と安全保障条約

 キャリーの提案は実にシンプルだった。


 つまり――。




「我がアイレーリスとホルクレスト、メリディアは同盟関係を結んでいましたが、今回の戦争と事件を受けて、お互いの国の安全を相互に守ると約束し条約を結びました」




 いわゆる安全保障条約だ。


 同盟関係だったにもかかわらず、その辺りの合意が曖昧だったことに驚いた。


 シャリオットやルトヴィナは、自分たちの判断で俺やキャリーの手助けをしてくれたってことだ。


 魔法水晶での生中継の影響もあっただろうが、あの時シャリオットが国家としてではなく個人的に動いたと説明したのはそういう意味だったのだと納得した。


 ただ、これからはそうじゃない。


 国同士が交わした約束として、どれかの国の安全が脅かされたとき、自分たちの国と同じように助けることになった。


 キャリーの目的はもちろん、そこにあるんだろう。




「ダグルドルド共和国、エオフェリア王国、グライオフ王国。あなた方の国とはまだ同盟関係すら結べていませんでしたが、これを機に同盟と条約を結べませんか?」


「……私としては是非そうさせていただきたいのだが、出来れば安全保障だけでなく貿易や経済分野でも協力したいと思っている」




 クリストフの狙いはそこだったらしい。


 交渉ごとにはどちらかの要望だけが通るなんて都合のいい話はない。




「具体的に何を求めているのかわからないのですが」


「ハハハッ、キャロライン女王陛下。誤魔化すのが上手い。簡単なことだ。我が共和国の商人も条約を結んだ他の国々で商売をさせていただきたい」




 それはごく当たり前の要求に思えたが、逆に考えればこの世界では国を越えて商売をする者はいないってことだろうか。


 移動手段が馬車だし、外国で取り引きをするには物流関係があまりにも脆弱だ。


 飛翔船が量産できたらその辺りの環境も一気に変わりそうだが、魔族のクリスタルが必要だとなると、まだまだ難しいか。


 そういう意味では魔族が人間の世界にやってくるのも、悪いことばかりじゃなさそうだ。


 ……いや、ミュウのせいで魔界から人間界にくる魔族は人間に害をもたらすイメージになってしまっているが、そうと決まったわけじゃないってことは忘れちゃいけない。




「僕は構いませんよ。すでにダグルドルド共和国とは交易していますし。ただ、一応登録制にしていただきたいですが」


「細かいところはお互いの担当大臣に詰めてもらえばいい。あ、いや……王国には大臣とかはいないのか?」


「私の国だとそういう仕事は宰相に任せていますが」




 キャリーがシャリオットとルトヴィナを見た。




「僕の国には大臣を置いています」


「私も同じですわ」




 どうやら一言に王国と言ってもその中身の政治はそれぞれ違うようだ。




「クリストフ大統領の提案は私も受け入れましょう。ルトヴィナ女王陛下は?」


「私も同意いたします。商人が集まって生まれたというダグルドルドのお手並みを拝見させていただきたいですし」


「商談成立ってことだな。キャロライン女王陛下、すぐにでも条約にサインをしよう」


「ありがとうございます。それでは、ウェンディ女王陛下と、ギデオルト国王陛下はいかがでしょうか?」


「キャロライン女王陛下の提案は私の国にとって、よい話であると言うことは理解できました。ですが、この場で決められるような話ではありません」


「そうですか……」




 ウェンディの表情はやはり動かないままだった。見るからに落胆しているキャリーとは対照的だ。




「女王なのに、即決できないのか?」




 クリストフが暴言とも取れるきわどい発言をした。


 正直、俺もちょっとは思ったが口にはしなかった。




「エオフェリア王国は私が治めますが、王国の憲法によって私の権限は制限されています。国家間の約束事となると一度議会を通す必要がありますので、この話は保留させていただきたいのです」




 特に気を悪くした様子も見せず、と言うよりまったく表情が変わらないから内心どう思ってるのかはわからないが、ウェンディは淡々と事情を説明した。




「わかりました。出来れば早めによい返事をいただけることを期待します」




 国の在り方や政治について他国が口を挟むのは筋違いだと言うことはキャリーもわきまえている。


 それ以上は求めたりしなかった。




「……ギデオルト国王陛下は、私の王国がすでに同盟の条約を結んでいることを気にされているのですか?」




 急にルトヴィナが問いかけた。


 この話は、キャリーが……つまりはアイレーリス王国が中心になって進めてる話だ。そこでどうしてメリディアが出てくるのかよくわからなかった。




「別に、そのようなことは」




 センスで口元を隠していたが、焦りの表情は隠しきれていなかった。


 こうして見ると、ウェンディはポーカーフェイスが得意ってのがわかる。


 それにしても、どうしてこうルトヴィナとギデオルトは意識し合っているんだ?


 事情を説明してもらいたいものだが、あまり余計なことを聞くと俺がこの世界の人間じゃないってことが俺の意志とは関係なく知られることになりそうだしな。




「でしたら、よい話だと思いませんか?」


「……それは、承知しています……。我がグライオフ王国の国力は帝国と向かい合うにはあまりに小さすぎる。ただ……一つだけ確認しておきたいことがあります」


「何でしょうか?」




 そこでようやくギデオルトはキャリーに話しかけた。




「安全保障の意味で同盟の条約を結ぶのはいいと思います。ダグルドルドとの交易についても、反対ではありません。ですが、我が国との条約には魔法技術の保護を明記して欲しいのです」


「魔法技術の保護?」


「我がグライオフ王国は新たな魔法の発見やそれを使った道具の開発に力を入れています。それは我がグライオフの産業を支え、他国と対抗するための手段になっているのです」




 魔法を研究しているってことか。


 それでようやくメリディアを意識している理由がわかってきたような気がした。


 国として行っているかはわからないが、ルトヴィナも魔法の研究に力を入れている。


 あの飛翔船もルトヴィナのアイディアをホルクレストの造船技術と組み合わせたものらしいし。


 俺の世界でも新しい技術開発ってのは争いの種になってきた。




「つまり、独自に開発した技術――この世界だと魔法か、それを他国に流出したくないってことだな」


「そうなのです……アキラ殿は魔力がないのに、よく私の求めていることがおわかりになりましたね」




 純粋にギデオルトは俺の発言に驚いていた。




「アキラ。わざわざ言わなくてもわかっていたわよ」




 キャリーが口を尖らせた。余計なお世話だったらしい。




「……グライオフ王国がそこまで魔法に力を入れていることは知りませんでしたが、でしたらむしろ協力し合った方がより魔法の研究も進むのではありませんか?」


「キャロライン女王陛下。それでは私たちにもあの戦略複合魔法の使い方を教えてくださる、と言うことですか?」




 その言葉に、キャリーは口を詰まらせた。


 あの魔法は王家の者だけに伝えてきたものだ。


 そう簡単には教え……って、確か魔法を使ってるシーンはほとんど全部エヴァンスが撮影して中継してたはずだが。




「ちょっと待てよ。使い方なんて、呪文も含めて詳しく見ていただろ?」


「ええ、ギルドの魔法水晶を通してその威力についても確認させていただきました。ただ……我が王国の魔道士では再現できなかったのです」




 さすがは国家を上げて魔法を研究してると言うだけある。


 あれだけの威力の魔法をすぐに試そうとしたわけか。




「……わかりました。グライオフ王国との条約には魔法の保護を明記させていただきます。ですが、もしグライオフ王国と魔法を共同で研究したいと思う国が現れたとき、どうされるのですか?」


「え……あ……そ、それは一度宰相や貴族たちと相談させていただきます」




 そこまで深くは考えていなかったらしい。


 あるいは、グライオフの要求が通ると思っていなかったのかも知れない。


 結局、グライオフとの話もまとまりかけたが、一度王国に戻って結論を出すと言うことになった。


 つまり、皮肉なことにこの場で同盟の条約を結べたのは、唯一選挙で選ばれた大統領とだけだった。


 王と言っても、勝手に何でも決められるものじゃないらしい。


 大統領は国民に選ばれているからこそ、こういう時はすぐに決断できると言うことか。




 こうして、国際会議は終わった。


 取り敢えずの成果はアイレーリスの同盟国が一つ増えたってこと。


 それと何より、他の国のトップに俺の妹のことを理解してもらったってことだろうな。




 その後の晩餐会は出席を断った。


 さすがに国家のトップが集まる場で食事なんかしたくない。


 キャリーには晩餐会が終わったら勝手に食堂で食べるとだけ伝えて客間に戻ることにした。


 廊下は魔法の明かりに照らされている。


 窓から外を見ると、二つの月が重なっているように見えた。


 俺が客間の扉をノックすると、ヨミが出迎えた。


 口に人差し指を立てて、静かにするように促してくる。


 意味がわからないが、とにかく頷いた。


 扉を静かに閉めて部屋の様子を見ると、ベッドの上でアスラが小さく寝息を立てていた。




「さっきまで一緒に本を読んでいたのですが、いつの間にか眠ってしまったようです」




 小声で耳打ちしてきた。




「そうか。それじゃ、夕飯は俺たちだけで行くか」




 同じように小声で返す。




「はい。それでその、会議はどうでしたか?」


「キャリーが俺のために力を尽くしてくれた、かな」


「そうですか。よかったですね」




 内容を伝えてもいないのに、ヨミは一緒に喜んでいた。




「詳しい話は夕食の時にでも話す。ただ、今はキャリーたちが食堂で晩餐会の真っ最中だから」


「でしたら、王都の食堂に行きませんか?」




 ヨミの提案は、俺の頭には全くなかった。


 だが、この時間ならまだ店は開いている。




「俺たちがいないときにアスラが起きたら、暴れたりしないかな?」


「書き置きを残しておきましょう。大丈夫ですよ。アスラフェルくんはアキラを困らせるようなことはしません」


「……そう、なのか?」




 信頼はしている、と思う。


 だけど、まだそこまで言い切るだけの自信はなかった。




「アスラフェルくんはたぶん……いえ、今はやめておきましょう。いずれ、アスラフェルくんがアキラに話すかも知れませんし」


「もったいぶった言い方をするなよ。何か、気付いたことでもあったのか?


「……アスラフェルくんはアキラのことが好きだと言うことです」


「はあ?」




 少し声が大きくなってしまったので、慌ててアスラの方を見たが気持ちよさそうに寝ていた。




「も、もちろん私と同じような感情で、と言う意味ではありませんよ」


「当たり前だ。魔族どうこう以前に、男にそういう目で見られたくはない」


「アスラフェルくんにとって、アキラは自分を救ったヒーローなんですよ、きっと」




 ……それって、ヨミを助けたときと状況が似ていないか。


 まあ、深く追究するとやぶ蛇になりそうだからこの話題は終わらせておく方が良いだろう。




「それじゃ、行くか」


「はい」




 ヨミはベッドの横のサイドテーブルに書き置きを残して俺の腕に手を絡めた。




「……あのな。そういうのは恋人同士がやるものだろう」


「いけませんか?」




 上目遣いで見ながら胸を腕にくっつけてくる。


 こいつ、どこでそんなテクニックを……。


 振り解くのも億劫だからそのまま歩き出した。


 決して感触がよかったからだとかそういうのでは……いや、男だから仕方がないと思って笑えばいいさ。


 こんな所、アスラに見られていたら本当に茶化されそうだ。


 ヨミは鼻歌交じりに食堂までの夜道を楽しそうに歩いていた。


 すでにピークの時間を過ぎていたせいで、食堂の中は空いていた。


 俺たち以外に二組の客しかいない。


 だから、城の食堂のように注文してからそれほど待たずに食事が運ばれてきた。




「いただきます」




 行儀よく言ってヨミがフォークとナイフでステーキを切り分けて食べ始めた。


 俺はサラダから手を付ける。




「それで、詳しい話というのは?」




 ヨミに促されたので、俺は会議で出た話を伝えた。




「キャリーさんがアキラの妹さんのために、そこまで……」




 国家間の条約の話はヨミにはどうでもよかったらしい。


 しきりに感心していたのは、その部分だけだった。




「アキラはどうするのですか?」


「俺もそろそろここを離れようと思う。まあ、本来はもっと早くに動きたかったんだが、アスラとの約束やその後のことで動けなかったからな」


「では、妹さんの捜索に行くと言うことですね」


「ああ、さすがにキャリーや国王たち、それに他の冒険者頼みってばかりにもいかない」




 以前なら、移動に時間がかかって自分で捜すのはあまりに非効率だったから考えられなかったが、今は飛翔船をある程度自由に使わせてもらえる。




「私とアスラフェル君も一緒に行きますからね」


「わかってるよ。明日ギルドで捜索状況も聞くし、その時にアスラも冒険者として登録する」




 俺の返事に満足したのか、ヨミは食事を再開させた。




 翌日、王都はまだ物々しい雰囲気のままだった。


 王国騎士団が町の警戒にあたっている。


 まあ、あれだけの事件の直後に似たようなことが起こるとは考えにくいが、それでも外国のトップを多く迎えている以上は仕方のないことだった。


 以前は俺たちも追われる立場だったが、今は見かけるたびに敬礼される。


 それはそれであまり居心地のいいものではなかった。


 注目されるというのは、良くも悪くも疲れる。


 そんな中ヨミとアスラを連れ立ってギルドへ向かう。


 朝食を食べた後だったから、それなりに人で賑わっていた。


 ギルドへ入るなり、一斉に視線を浴びる。


 そして、まるで示し合わせたかのように俺たちの前の道を開ける。


 そこまで気を遣う必要はなかったのだが、ここで断るのも何だか面倒なことになりそうだったので、みんなの厚意を受け入れることにした。


 真ん中の受付には代表のジェシカがいつものように立っている。




「今日はどうしたの?」


「妹の捜索状況を知りたい。それと、アスラフェルをギルドに登録したい」


「ああ、その子ね。アキラくんと戦って町の外に大きな穴を作ったって噂の」


「もうそんなことまで知られてるのか?」


「あのねえ、あれだけの騒ぎに気がつかないわけないでしょ」


「いや、俺たちじゃないかも知れないし」


「近衛隊の隊長と王国騎士団に連行されたところを町の人たちが見ていたに決まってるでしょ」




 言われてみれば、通報したのも王都の人たちだったはずだ。




「女王様に怒られたんでしょ? どんな処分だったのよ」


「あまり嬉しそうに言うな。人の失敗を笑ってると、いつか自分もそういう目に遭うぞ」


「あら、言うわね」




 ジェシカは余裕の微笑みを返してきた。




「特に処分はなかったよ。国際会議に出席させられただけだ」


「うわぁ。それは、精神的に重そうな罰だったわね」


「そうでもなかったけどな。それに、キャリーにも気を遣わせたし」




 俺はキャリーが各国のトップにも妹の捜索に協力を要請してくれたことを伝えた。




「それで状況を知りたいわけね。でも、昨日の今日じゃ……」


「わかってるよ。あの人たちがどこまで協力してくれるかはわからないけど、今の時点でそっちの情報は期待していないさ。それよりも、俺自身の足で捜してみようと思ってな」


「足で? そっか……そう言えば戦争が始まる前にもそんなこと言ってたっけね」


「今はあの時より状況がよくなったぜ。何しろ飛翔船を使わせてもらえる。他の国へ行くのもずっと簡単になった」


「嘘!? アキラくん、あの飛翔船に乗れるの? あれって、ホルクレストとメリディアの共同開発なんでしょ? どうして?」




 受付の机から乗り出すようにして言葉を捲し立ててきた。


 よほどジェシカは飛翔船に興味があるらしい。




「あの飛翔船には、俺たちが倒した魔族のクリスタルが使われてるんだ。って、それは知ってるよな」




 魔法水晶を通してその辺りの経緯も見てきたはずだ。




「そっか、それで自由に使えるってことね。じゃあ、今度私も乗せてくれない?」




 まるで遊園地の遊具にでも乗るような感覚で聞いてきた。




「わかったから取り敢えず仕事に戻ってくれ」


「約束よ」




 そう言うと、ようやくジェシカは机に戻って書類の束を出した。




「これは?」


「決まってるじゃない。アキラくんの妹の捜索情報よ」


「こんなにあるのか?」




 ……これを全て確認しなければならないのか。


 これじゃ、すぐに旅立つなんて無理だろ。




「えーと、申し訳ないけどこれは見つからなかったって言う情報なの」


「ジェシカが確認してくれたのか?」


「報告書の確認は私だけじゃなくて、ギルドで行っているわ。特に、アキラくんの依頼のように情報が求められる場合、報酬を得るための嘘が交ざっていないかも確認するの」


「大変そうだな」


「人ごとみたいに言わないでくれる。アキラくんが新聞の信憑性を地に落としたから、ギルドで取り扱う情報にも相応の検証が必要になったのよ」


「あれは俺のせいじゃなくて、それを利用していたフレードリヒのせいだろ」




 結局、あの事件以降、ギルドは新聞の発行を取りやめた。


 今はその仕事に関わっていた冒険者が新たな情報の売買方法を考えているらしい。


 近いうち、この世界にも新聞社が設立するんだろうか。


 やっぱり、新聞記事には裏付けと責任者をはっきりしておくべきだからな。


 これでよかったはずだ。




「まあいいわ。それで、結論から言うけどホルクレストとメリディアにはいないわ。もちろん、アイレーリスにもね」




 そんなような気はしていたが、これで俺の行く先は他の国に絞られた。

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