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第三の変身

 右手はトリガーのあるグリップ。左手は大型の銃を支えるためのグリップを掴んでいた。


 マスクの中から見える映像が、目標をロックオンしている。




「何かの間違いだ!」




 フレードリヒはダークネスバレットを立て続けに撃った。


 それは確実に俺の体に命中したが、まるで何も感じない。


 ぶつかったという衝撃すらなかった。




『チャージショットワン、エレメントバスター!』




 AIが技をセットすると、まるで銃に弾丸が込められたような音を上げる。


 トリガーを引くと、砲身からエネルギーの塊が極太のビームのように放たれた。




「チッ! こんなもの……。ダークネスバレット!!」




 フレードリヒはそのビームを破壊するつもりなのか、何度も魔法を放つ。


 しかし、極太のビームから比較すると豆鉄砲のような闇をかき消して進む。。




「くっ」




 十発も撃ったところで破壊できないとやっと悟ったのか、射線上から逃れようと斜め後ろに向かって走り出した。


 それを追いかけるように、ビームの進路も変わる。




「こいつ、私を狙って……! 避け切れん! ダーククロースアーマー!!」




 闇を纏ってガードの姿勢を取った。


 ビームの太さは、人間の上半身をすっぽりと包み込むほど。




「ぐおおああああああああ!!」




 フレードリヒの体を貫いたところで、エネルギーのビームは消えていった。


 そして、フレードリヒがその場に片膝を突いて倒れ込む。


 だが、全身を覆っていた闇は引き剥がされ、服もボロボロ、露出した肌も所々が焼け焦げていた。


 もし、魔法で全身を守ってなかったら、今の一撃で上半身は消し飛んでいたんじゃないか。




『やはり、また性能について教えなければならないようですね』




 AIは俺がこのフォームのことを完全には理解していないことを見抜いていた。




『キャノンギアフォームは鉄壁の防御力と高出力のエネルギーをビームとして発射させる遠距離戦闘用のシステムです』




 よろよろと立ち上がりながら、それでもフレードリヒがクリスタルを掲げて武術家のような構えを取った。




「こ、この威力……その未知の武器から発射される魔法のようなものは、危険だ……。ですが、その大きさが欠点だ!」




 闇を纏って向かってくる。このまま撃ち抜いてしまえば、それで終わりそうなものだが、AIは説明をやめるつもりはないらしい。




『すでに気付いているようですが、注意すべき点が二つあります』


「うおおおお!! どうです!! これではそれで私を攻撃することは出来ない!!」




 俺の懐に入り込んだフレードリヒがパンチとキックを浴びせてくる。


 少し、ネムスギアのアーマーを通して体が揺れるような気がするが、その程度でしかなかった。


 俺も構わずAIに確認する。


 注意すべき点について一つはわかる。フレードリヒのダークネスバレットを避けようとしたが、間に合わなかった。


 身体能力がファイトギアはもちろん、ソードギアにすら及ばない。


 この姿では、スピードは生身の状態とほとんど変わらないだろう。


 恐らくは、パワーも。


 ソードギアは基本的にマテリアルソードを使って戦うが、変身による身体的な強化もされているので、生身の時と比べてスピードもパワーも高くなっている。


 ファイトギアはその部分をさらに強化させているわけだから言わずもがな。


 キャノンギアフォームでは、それ単体では戦闘能力は生身のレベルでしかなかった。




『体を守るためのアーマーの形成にネムスギアのエネルギーを使っているので、身体能力を引き上げることが出来ないと言うことです』




 それじゃ、も一つは?




「なぜだ!? なぜ倒れない!!」




 やはり素人格闘技のようだ。


 力任せにパンチやキックを繰り出すから、すぐに息が上がっている。


 ただ、確かにフレードリヒの言うように、ここまで接近されると俺には攻撃手段がなかった。




『攻撃手段はありますが、その前にもう一つ注意すべき点があるのです』




 こいつを倒してから説明を聞くんじゃダメなのか?




『ええ。キャノンギアフォームの武器は彰が両手で構えているそのバスターキャノンです。技……というよりはセットする砲弾によってバリエーションがあるのですが、一度の変身で撃てる砲弾は十発までです』




 それを超えて使うとどうなる?




『使えませんよ。十発撃った時点で武器が消失します』




 それじゃ、エネルギー不足で変身が解除されたりはしないのか?




『使っているエネルギーが違うのと、それではこのフォームのコンセプトと矛盾してしまいますから』




 何か難しい話になりそうだな。




『バスターキャノンの砲弾を形成するエネルギーはネムスギア自身のエネルギーと外界のエネルギーを効率的に変換させて作り出します。その変換システムが十発分しか用意されていません。変身を解除してネムスギアのエネルギーの消費を抑えることで、時間経過と共に再使用が可能になる仕組みです』




 そいつを増やすってことはできないのか。




『開発者である博士なら可能だと思いますが……。それでも相応の施設が必要でしょう』




 博士並みの技術者がいたとしても、パソコン一つすらないようなこの異世界では不可能だな。




『そして、必殺技に相当する砲弾は通常の砲弾を複数まとめて使うことになるということも覚えておいてください』




 それは、一番重要じゃないか。


 つまり、必殺技を全力で使ったらそれだけで武器が消失するってことだろ。




「ハァ……ハァ……これならどうだ!」




 まだ諦めていなかったのか、フレードリヒは左の拳を腰の辺りで構える。


 腰を落として大きく振りかぶり、全ての闇が左の拳に集中する。


 そのまま俺の胸の辺りに突き出す……が、ゴキンと音がしてフレードリヒの方が脂汗を

かいていた。




「ぐっ……貴様、何をした……」




 いや、何もしていない。


 単純にキャノンギアの防御力が高すぎただけだ。


 俺はバスターキャノンを上に向ける。




「くっ……この……させんぞ!」




 さすがに俺が攻撃すると悟ったのか、俺の動きを止めようと必死にパンチやキックを浴びせてくるが、いい加減に意味がないことにも気付いてほしいものだ。


 痛くもかゆくもないが、ひたすらウザイ。




『チャージショットツー、スプレッドバスター!』




 トリガーを引くと、空に向かって放たれたビームが花火のように広がり、降り注いできた。


 ロックオンしているフレードリヒを中心にビームが落ちる。


 この砲弾には追尾性能はないようで、フレードリヒはバックステップで全て躱していた。


 だが、距離を取ればこっちの思惑通り。




『チャージショットワン、エレメントバスター!』


「ダーククロースアーマー!」




 再びフレードリヒの体を極太の追尾するビームが襲う。


 体はもうボロボロで、立ち上がるのもやっとという程なのに、それでも立てるのはやはりあのクリスタルのお陰だろう。


 センサーがクリスタルの魔力が衰えていないことと、そこからフレードリヒに魔力が供給されていることを示していた。




「ククク……ど、どうやらあなたを殺すには、複合戦略魔法を使うしかないようです」




 そう言ったときにはすでに空には太陽のような輝きが現れていた。


 キャノンギアのセンサーでも拾いきれなかった?


 いや、違うか。


 ミュウの幻惑魔法で隠していた。


 大きさは人の体くらい。


 さすがに全力で使えばフレードリヒ自身の体も危ないと考えたのだろう。


 だが、ここに落とされたんじゃ、キャリーたちも巻き込まれる。


 もう防御魔法は使えないだろう。




「変身」




 俺はすぐにファイトギアに変身した。




「それで私を攻撃するつもりですか!?」




 俺はフレードリヒの言葉を無視して誰もいない場所へ走る。




「逃がしません!! ヘル・ヘヴン・カタストロフィ!!」




 俺を狙って小さめの太陽が向かってくる。


 大きさから計算すると、これだけ距離を取れば着弾による爆発にあいつらが巻き込まれずにすむ。


 俺は複合戦略魔法と向かい合い、再びキャノンギアへ変身する。




「「「アキラー!!」」」




 離れているのに、ヨミとキャリーとエリーネの叫び声が届いた。


 だが、「大丈夫」だと伝えることは出来なかった。


 直撃による光と音と爆風に、人の声が通るはずはない。


 俺の周りは炎が渦巻き、周りは煙に囲まれている。


 爆発の衝撃による痛みも、光によって目が焼かれることも、音によって鼓膜が破れることもなかった。


 熱風も少し暑いなと感じるほど。


 真夏の日向の方が殺人的な熱さだと思う。


 それだけ、キャノンギアの防御力は優れていた。




『当然です。デモンの中にはアメリカの戦術核の攻撃に耐えたものもいました。つまり、デモンを倒すには我々も同等以上の防御力が必要だったのです』




 核兵器に耐えられるってことか。




『それが、キャノンギアのコンセプトでしたから。ちなみに、放射線からも守りますが、この魔法にはそれは含まれていませんから。その機能は不要でしたけど』


「ハハハハハッ!! 馬鹿めが!! 仲間を庇って死ぬなど!!」




 うーん。俺は生きてるんだけど、煙の中にいるとそれがわからないのか。


 フレードリヒの勝利宣言は俺には虚しく聞こえてきた。




「ア、アキラを……よくも……許せません!」




 怒りに震えるヨミの声も聞こえる。


 まずいな、魔王の器とやらの魔力はまだ健在だ。


 フレードリヒがボロボロでも、あれじゃヨミたちにはまだ勝ち目はない。


 勝手に俺の弔い合戦を始められたら厄介だ。


 敵の背中から撃ち抜くってのはちょっと俺の主義には反するが、バスターキャノンを構える。




『チャージショットワン、エレメントバスター!』




 煙に視界を遮られていても、フレードリヒのことはセンサーが呼吸や熱や魔力を感知しているから問題はなかった。


 トリガーを引くと極太のビームが発射され、それによって俺の周囲の煙が晴れる。




「アキラ!?」




 ヨミは俺の姿を見て喜びの声を上げていた。




「なに!?」




 それに反応するようにフレードリヒが首だけこちらに向けて驚愕の声を上げる。


 さらに大きく目を見開いたのは、すでにビームがフレードリヒに迫っていたからだろう。




「ダーククロースアーマーああああああああ!!」


 闇を纏わせるが、それが完全にフレードリヒの体を覆う前にビームが飲み込む。


 生身であのエネルギーを受け止めることは出来なかったのだろう。


 左腕が肘から先の部分が消失していた。


「フレードリヒ、もう諦めろ。これ以上戦うことに何の意味がある」




 倒れたままのフレードリヒに砲身を向けたまま俺は告げた。




「ま、まさか……複合戦略魔法でも、倒せない……とは……。で、ですが……まだ、終わりではない」




 クリスタルから魔力がさらにフレードリヒに供給されていく。




「もうやめなさい! ルーザス!」




 キャリーが泣きそうな顔でそう叫んだ。




「そ、そんな、まさか……」




 ヨミが口元を抑えながら驚いている。


 フレードリヒの失われた左腕が再生した。


 まるで、魔物や魔族のように。




「うあああああああ!!」


 その声は初めて聞いた声だった。くぐもっているような、何かに反響するような声。


 耳で聞こえてた言うより、何か頭に直接響くような声だった。




『彰! 見てください! クリスタルの中に子供の姿が!』




 AIの視力はもちろん、人間のそれとは違う。


 要はカメラだから俺には見えないような細かいところもはっきり視えている。


 その映像をマスクの中のモニターに映した。


 確かに、クリスタルの中に子供がいる。


 そして、その子供の左腕が消失していた。


 魔族の腕を自分の腕にしたのか。


 さっきの叫び声は、封印された魔族のものだったと言うことか?




「もう加減はしません! 生き残った方が正義となるのです!!」




 フレードリヒは跳び上がって距離を取った。




「地の神と火の神と風の神と雷の神と光の神と闇の神と天の神の名において、我が命ずる。神々の力よ、その理を紐解き、世界に終わりと始まりを与え給え! ヘル・ヘヴン・カタストロフィ!!」




 俺にはまだ覚悟が足らなかった。


 そういう意味ではフレードリヒの方が正しかったのかも知れない。


 だから、もう――迷わない。


 フレードリヒの町を消失させたときと同じ大きさの太陽が落ちる。




『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』




 残り全ての砲弾を一撃につぎ込む。


 トリガーを引くと、砲身の先から放射状にエネルギーが発射される。


 その反動で、俺の体が後ろに押し下げられていく。


 複合戦略魔法ですら、それほどの衝撃はなかったのに。


 エネルギーの渦は着弾寸前の複合戦略魔法に衝突する。


 二つの大きなエネルギーの衝突に、余波が大地を揺らす。


 そして、徐々に太陽が削られていく。




「ば、馬鹿な!!」


「嘘でしょ!?」




 フレードリヒとキャリーが同じような声で驚いていた。


 射線上にあった複合戦略魔法は全てが塵となって消失し大地も抉られる。


 さらには驚愕に目を見開いていたフレードリヒをも飲み込んでいた。


 全てのエネルギーを放出しきったところで、バスターキャノンは維持できなくなり、恐らくはナノマシンに戻ったのだろう。


 俺は自分で放った攻撃の衝撃が大きく、一つだけ息を吐いた。




「……これで、終わったの?」




 キャリーが近づいてきて聞いた。




「多分な」




 俺のセンサーはまだフレードリヒが呼吸していることは感知していたが、魔王の器とやらの魔力はほとんど消耗していた。


 さすがにこれ以上、立ち上がる力はない。




「エヴァンス、いるんだろ」


「あ、はい」




 魔法水晶を持ったまま、どこからともなく姿を現す。


 エヴァンスの隠密能力と危機回避能力は上級冒険者と言ってもいいくらいじゃないか。


 あれだけの戦いだったのに、ほとんど無傷だった。




「キャリー、アイレーリスの脅威が去ったってことを報告してやれよ」


「え? あ、そう……そうね……」




 キャリーはエヴァンスが抱える魔法水晶の前に立ち、少しだけ髪を整えてから真っ直ぐに宣言した。




「我がアイレーリスを混乱に陥れたルーザス=フレードリヒは倒しました。今回の戦争、そしてクーデターを発端とした一連の事件はここに終息を迎えたことを宣言します!」




 すると、すぐに魔法水晶が輝き出す。




「あ、向こうからもこちらに連絡を取りたいみたいです。アキラさん、もう応対しても構わないですよね」




 そう言えば、生中継をしている間は面倒だから相手からの連絡は一切受け付けないように言っておいたんだ。


 エヴァンスなら相手と話をしていても隠密出来そうだったが、リスクはできるだけ避けたかったから。




「ああ、ちなみにどこからだ?」


「アイレーリス王都のギルド本部からです」




 ってことは、ジェシカだな。




「もしもし、こちらはエヴァンスです」


「やったわね! アキラくん! 見させてもらったわ!」




 思った通り、魔法水晶に大きく映し出されたのはジェシカだった。




「それと、女王陛下! おめでとうございます! 町のみんなも喜んでますよ」




 そう言って向こうの魔法水晶が大きく動いたと思ったら、王都の中央――円形広場から町を大きく映し出す。


 そこには笑顔と熱狂に包まれる人々の姿が映し出されていた。

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