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変身ヒーロー対魔王の器

『システムエラーの原因は雷撃を受けている最中に無理なシステム変更を行ったせいで異常を誘発したことによるものでした。不良セクタの修理と今回のデータを元にしたアップデート作業も終えたので、同じことによるシステムエラーは起こりません』


「つまり、ネムスギアではなく、俺の使い方に問題があったんだと言いたいんだな」


『いえ、あの時はあれが最善の方法でした。ファイトギアでなければ、シャリオットさんとルトヴィナさんは助けられなかったでしょう』


「わかってるなら、いいさ――さあ、行こう」




 俺の意識はすでに、言葉にせずともAIに伝わっていた。




『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』




 変身と同時に右手にはマテリアルソードの感触が伝わる。




「はあっ!」




 横に一閃。剣を薙ぎ払うと、雷の檻は消滅した。


 そして、複合戦略魔法による土煙も、少しずつ風に流されていく。


 俺のすぐ側にシャリオットとルトヴィナが倒れていた。


 センサーが呼吸と熱を感知する。


 どうやら、二人とも生きているようだ。


 ただ、防御魔法に相当の魔力を使ったのか。ほとんど残っていなかった。


 魔法聖霊薬を飲めば回復するだろう。


 そして、奥に目をやる。


 あのマントはボロボロで、その下に三人が並んで倒れていた。


 呼吸をしているから、まだ生きてはいる。


 爆発の衝撃とそれに伴う熱風は、マントとエリーネの防御魔法で軽減できたのだろう。


 直撃したにもかかわらず生きていたのは、奇跡と呼ぶほかない。


 だが、やはり三人とも魔力はほとんど残っていなかった。




「……不思議な能力ですね。あなたのそれ。私が魔王の器の力を使って作り出した檻は、そう簡単に破られるようなものではないのですが」




 フレードリヒは首だけこちらに向けてニタリと笑う。




「しかし、魔王の器を持つ私には勝てませんよ。さっさとあなたを殺して、この者たちも始末しましょう。皆仲良く死ねるのです。私も女王様に劣らず優しいでしょう? ハハハハハハハハハッ!!」




 笑いながら体も俺に向けた。




「人間の正義は一つじゃない。みんなそれぞれ違う。人間が起こす戦争というものは、勝ったものが正義と呼ぶがそうじゃないんだ。負けた方にだって正義はあったんだ。お前の正義がいずれ、世界を救う可能性を秘めているのだとしても、俺はお前の正義だけは認めるわけにはいかない! 世界を救う力は、躊躇いもなく人間に向けていいものではない!」


「偉そうなことを……お前は何なんだ!!」


「世界を救ったヒーローだったんだが、人類にとっては脅威でもあるらしい、ぜ」


「ふざけるな! ダーククロースアーマー!」




 呪文の詠唱無しにいきなり魔法を使った。


 闇を身に纏い、向かってくる。




「変身!」




 俺はすぐにファイトギアへ変身した。


 あの魔法はミュウとヨミが使っていたのでほぼ分析は終えている。


 魔力の違いによる能力の変化。


 身体能力の強化と防御力は、フレードリヒの全力でもファイトギアには及ばない。


 繰り出されるパンチは、重さも鋭さも今までよりも一番強いだろう。


 だが、恐らくフレードリヒに格闘経験はない。


 素人が能力に任せてただ手を振り回しているだけ。


 そんな雑な攻撃が見切れないようなファイトギアではない。




「くっ! ちょこまかと……」




 パンチが当たらないことに焦りを見せたのか、キックも織り交ぜてきた。


 それがまた素人の発想だ。


 足技こそ適当に使っていいものじゃない。


 しゃがんで躱すと、フレードリヒの体を支える一本だけの軸足が狙ってくれといわんばかりに目の前にあった。


 俺はそれを足で払う。




「うおあっ!」


『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』




 赤く輝く拳に、もう躊躇いも手加減もない。


 倒れ込んできたフレードリの顔を全力で撃ち抜く。


 拳の先から足の先まで駆け巡るようなズドンと言う重い音が響き、フレードリヒの体が数メートル先までゴロゴロと転がっていった。




「なんて奴だ……」




 クリーンヒットの感触があったからこそ、俺は思わずそうつぶやいた。


 今の一撃は、デモンでさえ幹部でなければ死んでいるほどだった。


 にもかかわらず、フレードリヒは立ち上がってけろりとしている。




「おや、口の中が少し切れてしまったようですね」




 そう言って左手の甲で口元を拭っていた。




「やっぱり、必殺技しかないな」


『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』




 俺の体がさらに速度を増す。


 フレードリヒを四方八方から視界に収める。




「フッ、確かにすさまじい速度です。今の私でも見切ることは出来ないでしょう。ですが、私を直接攻撃することだけは変わらない」




 フレードリヒの体を覆う闇がさらに濃さを増す。




『チャージアタックスリー、イラプションアッパー!』




 それで守れると思うなら、そうすればいい。


 俺はお構いなしに二つ目の技を同時に放つ。


 まさに噴火するようにいくつものアッパーを重ねてフレードリヒの体を空中に吹き飛ばした。




『スペシャルチャージアタック、スターライトストライク!』




 地面を蹴って空中のフレードリヒを追う。

 自由落下し始めたフレードリヒを追い越して、俺は光り輝く拳を大きく振りかぶる。


 そのまま拳を叩きつけるように地上を目指してフレードリヒの体を巻き込む。


 はずだったのだが、空中で体勢を整えたフレードリヒが右手のクリスタルを俺の拳に合わせた。


 空中で力と力が激突し、その衝撃波が大地を揺らす。



「こ、こいつ……!!」




 ヨミの全力のキックでも傷一つ付かなかった、魔王の器。そのクリスタルは俺の拳をも受け止めていた。




「おおおおおおお!!」




 お互いの力と力、意地と意地のぶつかり合いが、俺の拳にさらなる光と魔王の器にさらなる闇を纏わせる。




「フハハハハッ! この時を待っていたのです! 闇の神と雷の神の名において、我が命ずる! 空の闇間に煌めく黒き稲妻。ブラッディボルト!!」




 まさかこいつ!


 二人分の魔法が使える!?


 フレードリヒの全身から黒い稲妻が現れる。




『危険です! 離脱してください!』




 俺はさらに右拳に力を込めて振り抜いた。


 その瞬間、フレードリヒの左手から延びてきた黒い稲妻が俺の体を貫いた。


 痛みが体を駆け巡る。


 衝撃で体の自由が利かない。


 俺はそのまま地上に落ちていくしかなかった。


 ファイトギアで地面に叩きつけられたら、そのダメージは勝敗を左右するレベルかも知れない。




『彰! ソードギアへシステムの変更を』




 そうしたいんだけど、痛みで集中できない。




『このままでは……』


「ア、キラ……」



 俺の視界に、急に現れたのはヨミだった。


 ふらふらになりながらも、蜘蛛の糸をクッションのようにさせて優しく俺を受け止めてくれた。




「……ヨミ、無茶しやがって」


「良かった。無事、なのですね」


「ああ、ヨミのお陰で助かった。そこで俺があいつを倒すところを見ていろ」


「フフフッ……特等席、ですね」




 冗談を飛ばす元気がまだあることに驚いたが、俺は小さく頷いた。


 俺はその場にヨミを寝かせて、フレードリヒの所へ行く。




「お前の強さのわけがやっとわかった」


「ほぅ……」


「魔王の器自体の力も確かに大きいが、お前は二人分の魔法を一人で使えるんだな」


「やっと気付いたのですか。女王陛下たちはその事すら気づいてくださらなかった。ですから、あなたにはご褒美としてもう一ついいことを教えてあげましょう。このクリスタルに呪文を任せて、私は魔法を発動するだけでもいいのです」




 ダーククロースアーマーを急に使ったりしたのはそのためだったのか。




「複合戦略魔法も、そういう使い方が出来るのか?」


「さあ、どうでしょうか」




 さすがに切り札のことまでは教えるつもりはないらしい。




「ですが、こういうこともできるのですよ。闇の神と雷の神の名において、我が命ずる! 空の闇間に煌めく黒き稲妻。ブラッディボルト! そして、ダーククロースアーマー!」




 闇に重なるように黒い稲妻がフレードリヒの体に纏わり付いた。




「……変身」


『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』




 あの雷撃は近づく者を攻撃する。


 ミュウの爆発攻撃よりも厄介だった。


 ファイトギアは封印されたも同然だった。




「やはり、ミュウの情報は正しかったようですね。赤い姿は素早く攻撃力も高いが、防御力が低い、と」


「ミュウがあんたに教えたのか?」


「ええ。あなたが本体を倒してくれたお陰で、私を見張っていた分身が消える間際にね」


「お前の動きは、その魔法を使ってもケルベロスより速くない。このままでも十分さ」




 俺はマテリアルソードを片手に、フレードリヒに向かって行く。


 剣で斬りつけると、フレードリヒはクリスタルでそれを受け止める。


 さっきと同じ状況だ。


 雷撃が俺の体を襲うが、ほとんど痛みはない。


 やはり、ソードギアなら耐えられる。


 俺は雷を薙ぎ払いながら、さらに斬りつけた。


 フレードリヒは左腕に闇を纏って刃を受け止める。


 ブラッドファングくらいなら技など無くても一撃で斬り伏せる切れ味でも、フレードリヒの使うダーククロースアーマーを斬り裂くことは出来なかった。




『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』




 マテリアルソードの刀身が輝き、振動する。


 右、左、そして上から斬撃を繰り出すと、それに追随して無数の斬撃のエネルギーがフレードリヒを襲う。


 攻撃の効果か、いつの間にか黒い稲妻が消えていた。


 このまま押し切ろうと、さらに袈裟懸けに斬ろうとしたところでフレードリヒと目が合った。


 それは、俺のファイトギアを破ったときと同じような微笑みだった。


 その不気味さに、体が勝手に反応した。


 剣を横にして盾のように構える。


 その上に、狙い澄ましたかのように黒いレーザー光線のようなものが走った。


 そのエネルギーに押され、後退りしながらも何とかいなす。


 目標を失った黒いレーザーは明後日の方向に飛んでいき、地面を抉っていた。




「まさか、あのタイミングでガードできるとは思いませんでした。あなたの強さもその変化する鎧だけではないようですね」


「そりゃどうも。一応一度は世界を救ってるからな」




 戦闘経験は貴族のフレードリよりはあるはずだ。




「ですが。私の勝利は確定的です」




 そう言うとフレードリヒはダーククロースアーマーを解除した。




「どういうつもりだ?」


「赤い鎧の姿では、きっと避けられてしまう。ですが、今のあなたに本気で使うこの魔法が避けきれますか? ダークネスバレット」




 左手を銃のような形にさせて、人差し指を向けてきた。


 その指先が闇に染まる。


 そして、その闇が一際大きくなったと思ったら、黒いレーザー光線のようなものが発射された。


 反射的に体を傾ける。


 黒いレーザーは俺の肩を掠めて、ネムスギアのアーマーを貫いた。


 幸いにもショルダーガードの部分の端だったため、俺の体には傷一つ入らなかった。




『ファイトギアに変更しましょう。この攻撃はソードギアでは避けきれません』




 おまけに、ソードギアの防御力でも、貫通する。


 さっきは上手くマテリアルソードを使って受け流したが、そう何度も成功するとは限らない。


 恐らくは、それを見越してダーククロースアーマーを解除したんだ。こっちの魔法に集中するために。




「ほらほら、行きますよ」




 二度三度、指先の闇が大きくなる。


 俺はマテリアルソードを盾にしてそれを何とか受け流す。




「いつまで持ちますかね」




 さらに、今度は五方向から。


 一つ目と二つ目を受け流す。三つ目は体を横にしながら、剣を突き立てて飛び退く。


 四つ目と五つ目が方向を変えて、空中に逃げた俺に向かってくる。




「くっ」




 一つが脇腹を掠め、アーマーが貫かれてスーツが露出する。


 もう一つは頭の上で方向が変わった。




「……まだ、そのような力が残っていたのですか」




 フレードリヒの視線は俺の後ろ。


 キャリーに支えられながら立ち上がったエリーネに向けられていた。


 俺の頭を守っていた光の盾が消滅する。


 エリーネが防御魔法で俺を助けてくれたのか。




『彰、なぜファイトギアを使わないのです。今なら――』




 無理なんだよ。


 あいつはきっと魔王の器にダーククロースアーマーを待機させている。


 ファイトギアに変えれば、またあの闇と雷の連携魔法で迎え撃ってくるだろう。




『で、ですが。このままではどの道……』




 エリーネの魔法はもう当てには出来ない。


 今の防御魔法でほとんど力を使い果たしている。


 闇と雷の連携魔法は、ソードギアなら受けきれるが、闇の弾丸を避けきれない。


 そして、このままじゃもう近づくことも出来ない。


 近距離もで中距離でも戦えない。


 もっと遠くから攻撃する手段が欲しい。




「思い出してください。ネムスギア、第三の能力を」




 それは、途切れ途切れだった妹の声が、はっきりと繋がった瞬間だった。


 ネムスギアには、遠距離から戦うための手段があった。




『システム変更の準備は整っています。キャノンギアフォーム、スタンバイ。認証を求めます』




 妹が俺に教えてくれたヒント。


 それは俺がこの時のために求める力だった。




「変……身!」


『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』




 白を基調としたアーマーが青へと変わる。


 そして、上半身と肩の部分だけだったアーマーが、腕を包み込み、手の甲までカバーする。


 さらに腰から両足にかけて、余すところなくネムスギアのナノマシンがアーマーを形成していた。


 頭を覆うマスクのような兜も、目の部分と口の部分を二重にガードするように、フェイスガードが覆う。




 ファイトギアの時と同じで、もちろん姿が変わっただけではない。


 センサー系の情報が細かくマスクの内側に映像として映し出す。


 俺の視界に入るものの動きが全て情報として可視化されていた。


 フレードリヒが右手のクリスタルから魔力を引き出して、左手の先に集中させていた。



「見た目が変わったからどうというのです! それがどのような性能なのか確かめてあげましょう」




 黒いレーザー光線のような弾丸が指先から発射される。


 そのエネルギーの質量は、細かく数値化されていた。


 俺にはその意味までは理解できなかったが、分析を終えたAIが脅威ではないとの判定を出す。


 だから俺は避けもせず顔で受け止めた……というよりは、アーマーが重くて普通に動くのがやっとだったから、避けようと思ったところで不可能だった。




「ハッハッハッ! どうやらその姿は先ほどの白い鎧よりも動きが遅いようですね。失敗だったのでは……」




 フレードリヒの声が段々勢いをなくしていく。




「どうやら、キャノンギアフォームはその程度の攻撃では無意味らしいぞ」


「ば、馬鹿な! 傷一つ付いていない……!?」


「さあ、今度はこっちの番か」


『バスターキャノンを形成します。両手で構えてください』




 AIの指示に従うと、砲身が一メートルくらいの大型の銃が現れた。

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