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勝利の鍵はキャリーの素顔

 俺の告白に、シャリオットとルトヴィナは笑い声を噛み殺し、キャリーとエリーネとヨミはキョトンとしていた。


 フレードリヒは頭の上に疑問符を浮かべている。




「この世界にはテレビがないからな。生中継と言われてもピンとこないか?」


「……アキラ、私もよくわからないんだけど」


「俺の世界にはテレビという文化がある。それは放送局が電波塔を通して映像と音を送り、テレビという受信機で放映させる。生中継って言うのは、その映像が現場からリアルタイムに送られてきて放映することを言う」


「…………そんなもの、この世界にはないわ。アキラって、一体何者なの?」


「キャリー、いいところだから口を挟まないでくれ」


「わかったわよ。後でちゃんと説明してよね」




 その前に、キャリーがぶち切れて俺を殺そうとしなければいいのだが。


 エリーネの視線が少し痛い。どうやらこの中で一番理解が早かったらしい。


 それでも文句を言わずに黙っているのは、フレードリヒの策略を粉砕する手段だと言うことにも気付いているからかも知れない。




「この世界にも映像と音を送るものは存在する。そう、魔法水晶だ。俺はあれを電話のようなものだと考えていたが、そうじゃなかった。テレビ電話のようなものだったんだ」




 このことに気がついたのは、俺じゃなくてAIなんだけど。




「クィンタスのギルド支部で代表のハイルフに確かめたのだが、魔法水晶ってのは複数の水晶で同時に会話できるらしいな」


「ええ。国王同士の会談も都合が付かない場合は、魔法水晶で全員と連絡を取り合って行うこともあります」




 シャリオットが捕捉すると、キャリーも経験があるようで、大きく頷いていた。




「つまり、俺たちを魔法水晶でずっと映し続けて、それが全世界のギルドの魔法水晶でいつでも見られる状態だったら?」


「……ま、まさか……」




 フレードリヒの目が大きく開かれた。




「それは、いわゆる生中継と同じだと思わないか?」


「ちょっと待って。私たちを誰が魔法水晶で映してたって言うのよ」


「気付けよ。エリーネはもう誰が撮影していたのかわかってるみたいだぞ」


「え? そうなの?」


「アキラが、すでにヒントというより答えを言ってます」




 エリーネは目を伏せてキャリーの追求に答えた。




「中継は、クィンタスの町を発つところから始まった」




 俺は大事なことを繰り返してあげた。




「――!」


「と言うわけで、そろそろ姿を現してもいいぜ」




 キャリーも気がついたようなので、俺がそう告げると、暗闇の中からマントを翻して、魔法水晶を抱えたままのエヴァンスが現れた。




「エ、エヴァンス!? あなた、アキラが重要な任務をって……」


「重要だろ。キャリーがどういう人間なのか、その日常を世界中の人に知ってもらえば、あんなつまらない捏造新聞を信じることはなくなる。結局の所、みんなキャリーのことをよく知らないから疑心暗鬼になってたんだからさ」


「ば、馬鹿な……。フレードリヒのギルドにはそのような情報は……」


「当たり前だろ。この作戦はあんたと……キャリーにだけは知られるわけにはいかなかったんだから」




 作戦を理解して了解を得たとしても、演技をされたら途端にうさんくさくなる。


 女王の自然な日常を見せることに意味があったのだ。




「ああ、それと。さっきも言ったけど、今あんたが言ってくれたことも全部この魔法水晶で全世界のギルドに映像が送られてるから、捏造新聞を書くのはやめた方が良いんじゃないか? きっと笑われるだけだぜ」


「き、貴様――」


「ちょっと!! アキラ!!」




 怒りに震えるフレードリヒを俺の視界から遮るように、キャリーが俺の胸倉を掴んだ。




「ここまでの旅路が全部、世界中の人に見られていたって言うの!?」


「ああ。っていうか、せっかくキャリーのイメージが良くなったんだから、そういう短絡的な行動に出るのはやめておいた方が良いと思うぞ。今も絶賛放映中なわけで」


「そうよ!! エヴァンス!! もう魔法水晶をしまいなさい!!」


「え? いやあの、アキラさん!」




 咎められてエヴァンスは俺に泣きついてきた。


 キャリーの目はつり上がっていて顔は赤く、血管が浮き出ている。


 まるで鬼のようだった。




「キャリー。真面目な話、ここは最後まで見せてやろうぜ。俺たちを嵌めやがった野郎がどういうことになるのか。きっと、今もこれを見ている王都の連中だってそれを望んでるはずだ。我らの女王様が、自分の思想を押しつけるためにアイレーリスを危機に陥らせた馬鹿な貴族を痛快に退治してくれる姿をさ」


「私を騙しておいて、まだそんなことを言うつもり!?」


「騙したってのは違うな。言ってなかっただけだ。キャリーの自然な姿を見せるには、知られるわけにはいかなかった。下手な演技をされたら、いくらリアルタイムの映像でも真実味に欠けるからな」


「詭弁だわ!! 同じことよ!!」




 思っていた以上にキャリーの感情が爆発していた。


 結果が良かったんだからそれで納得すると思っていたが、俺の考えが甘かったのか。




「キャリーさんが怒っているのは、アキラの行動が慮りに欠けていたからだと思います」




 ヨミは少しだけ悲しそうな表情をさせた。




『私の作戦は何か間違えていたのでしょうか』




 みんなの表情を見て、AIが戸惑いながらそう言った。


 いや、作戦自体は成功している。


 それが余計にキャリーの怒りの矛先を失わせてもいる。


 だから、ここはこの作戦を実行に移した俺が悪者になるべきだ。


 せっかくキャリーへのイメージが良くなったのに、キャリーがそれを否定することだけは避けたかった。




「わかった。謝る。キャリーの許可無しにキャリーの姿を世界中に晒して悪かった。俺のことはもう許してくれなくてもいいけど、エヴァンスのことは許してやってくれ。あいつは俺に言われて頑張っただけだ。それと、魔法水晶を通して見ていた人たちのことも、怒らないで欲しい。王都での熱狂を見ただろ。みんなキャリーの本当の姿を見て好きになったんだ」




 俺はキャリーに土下座をした。ファルナやクラースがそうしたように、それがこの世界での最上級の謝罪だと思った。




「……ちなみに、ホルクレストには僕のファンクラブがあるんですけど、最近キャロラインさんのファンクラブも出来るそうです」




 シャリオットがフォローのつもりなのか、よくわからないことを言った。




「アキラ、立ちなさい」


「え? あ、ああ」




 キャリーの表情は落ち着きを取り戻していた。


 ただ、俺の目を覗き込んでくる瞳には、まだ怒りの炎が揺らいでいるような気がした。




「歯を食いしばりなさい」




 その言葉の意味を聞き返すつもりはない。


 俺は目を閉じて言われるままにした。


 パアンと派手な打音が俺の体を駆け巡った。




「イタタッ……、アキラの体って丈夫すぎじゃない? どうして叩いた手の方が痛いのよ」


「いや、今の一撃は結構効いたぜ」


「とてもそうは見えないけど」


「……他に、何かして欲しいことはあるか?」




 たったこれだけで、許してくれると思うほど馬鹿ではない。


 それなのに、キャリーは挑戦的な瞳で微笑む。




「そうね。ルーザスを倒して頂戴。そうしたら、本当に今回のことは許してあげる」




 それはつまり、もう怒ってないといっていることと同じじゃないか、と思ったが口にするのはやめた。


 言っておくべきことと、言うべきでない野暮なことくらいは、さすがにもう判断できる。


 今はただ、キャリーの望みを叶えることに全力を尽くす。




「そう言うわけだからフレードリヒ。できる限り生かしてキャリーに突き出すつもりだが、殺してしまっても文句は言うなよ。お前が下らん捏造新聞なんか書くから、キャリーの日常を晒すことになったんだから」


「アキラ。それはさすがに責任転嫁しすぎじゃない」




 キャリーがいつもの調子でツッコミを入れた。




「アキラくん。もし、キャロラインさんに嫌われたら、私を頼ってくださっても結構ですわ」




 ルトヴィナがいつもの微笑みでキャリーを見ながら言った。


 俺に言ってるのに、こっちはまったく見ていない。




「ルトヴィナ女王陛下。このような場で、私の友人を配下に置こうとしないでいただけませんか」


「あらあら。そのようなつもりはまったくありませんのに」




 キャリーとルトヴィナが見えない火花を散らしている。


 今度こそ俺は、フレードリヒと向かい合った。




「…………初めてですよ。ここまでコケにされたのは」




 キャリーとは違った意味で、フレードリヒも怒っていた。


 まあこいつには俺たちの方がムカついてるから、やっと一矢報いたって所なんだけど。




「いいでしょう。見せてあげますよ。私の本当の力を」


「そんな暇を俺が与えると思うか?」




 大地を蹴り、「変身」と叫ぶ。




『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』




 変身が完了した瞬間には、すでに俺の拳の間合いにフレードリヒが入っていた。


 さすがに人間相手に技を使ったら一撃で殺してしまう。


 俺はそのままフレードリヒの顔を右のストレートパンチで打ち抜いた。


 手応えはバッチリで、フレードリヒの体が宙を舞う。




「地の神と火の神と風の神と雷の神と光の神と闇の神と天の神の名において、我が命ずる」


「アキラ! あの魔法を使うつもりよ! もう手加減しないで! 絶対に止めなさい!!」


「それは」




 殺せって言ってることと同じだぞ。




『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』




 頭上にエネルギーが集まってくるのを感知してAIが技をセットする。


 しかし、俺の迷いが拳に宿るエネルギーを減らす。




「神々の力よ、その理を紐解き、」




 フレードリヒの呪文がまだ続く。魔法によって集まってきたエネルギーが太陽を形成していく。




「くそっ!」




 さっきほどの質量ではない。


 だが、大きさからしてキャリーがミュウに使ったものよりも威力がある。


 俺は十分にエネルギーが集まらないまま、飛び上がってフレードリヒの腹を殴って地上に叩きつけた。


 フレードリヒの体によって大地がえぐれる。


 地面に仰向けになって体が半分埋まっていた。




「世界に終わりと始まりを与え給え!」


「まだ、生きて――」


「ファイヤーボール! アキラ、避けて!」




 魔法を撃ってからキャリーはそう言ったが、すでにセンサーが魔法の発動を把握していた。


 後はファイトギアなら飛んできた魔法を見てからでも躱せる。


 俺はバックステップでフレードリヒから離れた。


 あの程度の爆発でも、ファイトギアで喰らうとそれなりのダメージになる。


 ミュウとの戦いでその事はキャリーたちにも知られたからこそ、キャリーは警告したのだろう。


 炎の球は地面に埋まったままのフレードリヒに直撃して爆発した。


 結局、トドメを刺したのはキャリーだった。


 俺にはまだ、覚悟が足らないのか。




「ヘル・ヘヴン・カタストロフィ!!」


「え!?」




 驚愕の声を上げたのはキャリーだけじゃない。


 その場にいた全員が一斉に空を見上げた。


 複合戦略魔法が落ちる。


 ……町の東側に向かって。


 人がすっぽり隠れるくらいの大きさの太陽は、王国騎士団と魔物たちが戦っている場所に着弾した。


 一瞬だけ辺りを昼間のように明るくし、爆発音と共に煙が舞い上がる。


 その中に、王国騎士団の人と魔物たちが巻き込まれていた。


 ここから見ると、まるで人形が踊っているかのように空へ打ち上げられている。


 小さなキノコ雲が上がり、俺たちの正面から熱を帯びた風が吹き抜けた。


 その光景を背に、フレードリヒはまるで何事もなかったかのように立ち上がった。




「おやおや。これで王国騎士団も半分くらいは死んだでしょうか。次は南側の王国騎士団か。それとも北側を攻めているホルクレストの兵隊たちか」


「させません!」




 シャリオットが呪文を唱えると、ルトヴィナも後に続く。




「水の神の名において、我が命ずる! 大地を流れる命脈よ。竜のごとく飲み込みなさい! ドラゴンストリーム!!」




 シャリオットが手を触れた大地から、水が溢れ出す。


 それは文字通り竜の形になってフレードリヒを一呑みにした。




「氷の神の名において、我が命ずる! 世界の時を止める氷結の檻! アブソリュートゼロ!」




 ルトヴィナの魔法によって、フレードリヒは水の竜ごと氷づけにされた。




「やった!」




 キャリーが喜んだが、シャリオットとルトヴィナの顔は浮かない。


 そして、俺も楽観はしていない。


 最初から変だった。


 フレードリヒからは魔力をまったく感じない。


 複合戦略魔法を目の前で使ってもなお、フレードリヒの魔力を測ることが出来なかった。




「闇の神と雷の神の名において」


「……信じられません……あなたは、一体」




 呪文が聞こえてきて、シャリオットの表情が一層険しいものになった。


 ルトヴィナはまだ微笑みを崩してはいなかったが、冷や汗が一つ頬を伝っている。




『彰! 速くこの場から離脱してください! 周囲に電気的エネルギーの場が――』




 AIの警告よりも速く地面に雷が走る。




「ぐっ……」




 地面から足を引き裂くような痛みに襲われる。




「うわっ!」


「ああっ!」




 すでにシャリオットとルトヴィナの足も雷に絡め取られていた。


 俺は強引に足を出して雷を引きちぎるが、どうやら俺たちのいる辺り一帯の地面が雷の発生源になっている。


 足を降ろした瞬間、まるでそこに地雷があるかのように雷に絡め取られる。




「アキラ! 速く逃げて!」




 少し離れたキャリーの所までは魔法の範囲が及ばないらしい。


 必死に叫ぶが、そういうわけにもいかない。




「このままじゃ、シャリオットとルトヴィナが危ない!」


「ア、アキラくん!? 私たちのことよりも、自分の心配を――」


『このままでは危険です! ソードギアフォームへ変身してください!』




 それは、二人をここから助け出してからだ。




「ライトニングプリズン!」




 フレードリヒが魔法を発動するのと同時に、俺はシャリオットとメリディアを投げ飛ばした。




「ヨミ! キャリー! 頼んだ!!」




 無数の雷が地面から天へ昇る。




「変身!」




 雷はやがていくつかの雷と束になり、太さと長さを増していった。


 俺の体もそれに触れて爆発する。


 その衝撃で倒れ込んだが、ダメージはそれほどでもなかった。


 間一髪、俺の姿はソードフォームへ変身を完了させていた。


 そして、起き上がると。


 俺は雷の檻に囚われていた。




「な、何だ?」




 さっきの魔法は攻撃魔法ではなく、拘束用の魔法だったってことか?


 俺の周囲は円形に雷が地面から発生して頭の上で重なっていた。




「おやおや、他国の王様も閉じ込めておくはずだったのに。たった一匹しか捕まえられなかったとは」




 フレードリヒは自身の体を拘束する氷の柱を内側から破壊して姿を現した。


 その姿がマスク越しにノイズだらけになる。




「え? お、おい……?」


『シ――ムにエラーが発――ました。一度――テムをダウ――せて再起――後、不――クタ――復さ――す』




 AIが一方的にそう告げると、俺の変身が勝手に解除された。

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