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同盟国の王子

 ミュウのクリスタルは金平糖のような形をしていて、大きさは野球のボールくらいだった。


 よく見ると、黒一色ではなく、紫がかっているようにも見える。


 見た目同様たいして重くはないが、こいつのせいで何人もの人間が死んだことを思い出すと、決して軽くはないような気がしてくる。


 俺はそれを手に持ったまま見つめていると、




「……もしかして、あいつの幻惑魔法を気にしてるの?」




 キャリーが覗き込んできた。




「いや、そう言うわけじゃない」


「大丈夫ですよ。それはもうただのクリスタルです。つまり、魔力の結晶です。生命力は残っていません」




 ヨミがクリスタルに手を添えながら教えた。


 やはり、魔物だからそう言うこともわかるのだろうか。


 ただ、俺もミュウの死を疑っていたわけではなかった。


 それだけ最期の一撃に手応えを感じていたから。


 感慨にふけっていると、




『彰、このまま町の魔物たちを倒しに行きますか?』




 AIに言われて思いだした。


 まだ王宮の外には魔物たちがいる。


 すでにファイトギアの使用時間はオーバーしていたが、AIが変身自体を解除しなかったのはそのためだったのか。




「どうしたの?」




 俺がヨミとキャリーとエリーネを見回すと、キャリーが聞いてきた。


 まだ戦えるかと聞いたら、きっと無理だと答えるだろう。


 三人とも魔力はもうほとんどさっきの魔法で消費してしまった。


 だけど……。




「王宮の外には、まだ魔物がいる。町の人たちだけじゃ、厳しいと思う」


「あ……」




 エリーネが俺の言っていることの意味に気がついた。




「……言われてみれば、確かにそうね。魔物たちを従えていた魔族と王様を倒したからって、消えてなくなっちゃうわけじゃないものね」


「倒しましょう。あいつらは人間をエサとしか見なしていない魔物です。生きていることを許してはいけません」




 やっぱり、そうなるよな。




「いや、残りの連中を掃討するのは、俺一人で十分だ。みんなはここで休んでいてくれ」


「やめてよ。そういうの。アキラだって無傷ってわけじゃないでしょ。その姿もいつまで保てるの? まさか永遠にそのまま戦えるわけじゃないんでしょう?」




 ここまでの戦いでみんな著しく成長しているが、キャリーにそこまでの洞察力が付いていたことに驚いた。




「……黙っていっても付いてくるだろうな、と思ったからあえて言ったのに、結局そうなるんだよな」


「大丈夫よ。複合魔法はさすがに使えないけど、外にいる魔物は一番強くてもクリームヒルトで戦った魔物と同じくらいでしょ。みんなで協力すれば何とかなるわ」




 クリームヒルトで戦った魔物たちは人間に変身するくらいの力を持っていた。


 オークデーモンのような連中よりは強い。


 みんなの魔力が万全の状態なら苦労はしないと思うが、楽観できるような敵ではないと思う。


 数も、クリームヒルトより多いんだよな。


 だから、ここで考え事をしている時間も惜しい。




「あ、君はここにいるんだぞ」




 ミュウとウェンリーから助け出した少女に話しかける。




「え? あ、はあ。でも、私も少しくらいなら魔法が使えます。それに、町にはお父さんとお母さんが……」




 そこでようやく少女のことを見ることができた。


 ボサボサの黒髪と垂れ目の瞳が特徴的。身長と顔立ちの幼さからエリーネよりも年下に見えた。痩せ気味で丈夫には見えないが、強い決意を感じられる。


 これは、厄介なことになりそうだ。




「本当に? どの辺りに住んでいるの?」




 エリーネが少女の肩を揺する。




「えっと、王宮からだとあっちの方向です」




 少女が指で示したのは、南東の方向。


 未だ散発的に爆発と火の手が上がっている。


 きっと魔物たちと戦っているんだろう。




「アキラ! 急ごう!」


「いやだから、さすがにその子は一緒に連れて行けないだろ」


「親が死ぬかも知れないって時に、子供が留守番なんてできるわけないでしょ!?」




 エリーネは少女の手をしっかりと握っている。




「もういい! 私たちだけでも行く!」


「待て待て、わかったから。勝手に行動するな」




 俺はヨミとキャリーに耳打ちした。




「魔物は基本的に俺が相手をする。エリーネたちは多分止められないから、二人はとにかくエリーネたちを守るように立ち回って欲しい」


「はい。わかりました」


「まあ、さすがにね」


「ほらほら、いつまでも作戦なんて考えないでよ。立ち塞がる魔物を蹴散らして、まっすぐ行けばいいだけなんだから」




 簡単に言ってくれる。それが今の俺たちの戦力だと難しいってのに。


 それでも、悔しいがエリーネの言うとおりなんだよな。


 最短距離で行けば周りを魔物に囲まれる危険性があるが、時間をかければ少女の両親が助けられるのかわからないし。


 どっちを優先するかと言ったら、エリーネはきっと俺の言うことなんか聞かない。


 少女に自分の境遇を重ねているのは誰の目にも明らかだった。


 だったら、せめて二人とも俺の視界の中にいてもらった方がまだ安心できる。




「よし、行こう。でも、油断はするなよ。特にエリーネは勝手に先行するなよな」


「わかってるわよ」




 俺が先頭に立って王宮を出ようとしたら、辺りが急に暗くなった。




「何だ? 誰か魔法を……」


 使ったのかと思って振り返ると、背後の鉱山の向こう側から巨大な飛行船? のようなものが姿を現して、太陽を隠していた。




「な、何なのあれは?」


「わかるわけないだろ!?」




 ……っていうか、ちょっと……。




「あの……こっちに向かってきてませんか?」




 ヨミが冷静にそう言ったが、見る間にもどんどん高度が下がっているのがわかる。


 ここに着陸させるつもりか?


 影が俺たちをすっぽりと包み込んでいる。




「みなさーん!! 逃げてくださーい!!」




 巨大な飛行船? の上から怒鳴り声が聞こえてきた。


 着陸じゃなくて、墜落してるんじゃねーか!




「とにかく走れ!!」




 俺がそう言ったときにはみんなすでに走り出していた。


 丁度王宮の出口を塞ぐように落ちて来たので、俺たちは王宮の庭の東側に走った。


 俺たちが王宮の壁際まで駆け抜けたところで、その巨大な飛行船? のようなものは王宮の真ん中を押しつぶすように降りた。




「凄い魔力を使ってるわね、あれ」


「確かに」




 AIがすでに分析していたが、あれだけの質量を浮かせるだけでも魔力は相当必要とするだろう。


 飛行魔法は人間の世界では実用化されていないって、キャリーが説明していたし。


 しかも、王宮を半壊させたのに、巨大な飛行船? のようなものはまったく壊れていなかった。


 全体を防御魔法で覆っている。


 そして、降りてきた姿を見てようやく全景を見ることができたが、俺の世界でよく知るいわゆる飛行船ではなかった。


 どちらかというと、空飛ぶ大きな船。


 甲板には大きなマストとが立てられていて白い帆がいくつも張られいている。


 船尾の下の方には巨大なプロペラが一つと、その周りに小さなプロペラが左右に八個並んでいた。




「……完全に出入り口を塞いじゃってるけど、どうする?」


「どうするって聞かれても……」


「何なの? あれ? 早くカトリナの両親を助けに行きたいのに」




 エリーネは歯がみしていた。っていうか、いつの間に少女の名前を聞いたのか。


 気持ちはわかるし、俺もどうにかしたいと思うが、さすがにあれを退かして王宮を出るのは……。


 仕方ない。あれを破壊するよりは壁を壊した方が早いだろう。




「取り敢えず、壁を壊して外へ出よう。少し下がっていろ」




 マテリアルソードを握り、構えたところでキャリーが俺の方を握った。




「何だよ」




 キャリーの顔が引きつっている。視線は空飛ぶ船に向いたままだ。




「何か、出てきたわよ」


「はあ?」




 振り返ると、船の中央の扉が開いて、そのまま地面に階段が降りてきていた。


 その階段も、まるでアイレーリスの城の階段のように広く大きい。


 先頭には魔道士のような服装とマントを羽織った男が立っていて、その後ろからは剣を腰に下げたり背負っている戦士と杖を持った魔道士がぞろぞろと降りてきた。




「おいおい、こっちに向かってくるぞ」




 あれが、敵だとしたらさすがに全員相手にするのはしんどいんだが。


 いや、そもそも何者なんだ。


 逃げるか。話し合うか。




「あ! 待ってアキラ」




 そう言ってキャリーが向かって行った。


 わけがわからないが、とにかくキャリーの表情が明るかったので、信じることにして一緒に向かう。




「お久しぶりです。シャリオット殿下」


「ごきげんよう。キャロラインさん。それから以前にも言いましたが、僕のことも敬称を抜きにして呼んでいただきたいのですが」


「わかりました。シャリオットさん。相変わらずのようで安心しましたが、これは一体?」


「もちろん、キャロラインさんたちを助けに来たのです」


「え? ……あの、私がここで戦っていたことは、アイレーリスの人も知らないと思うんですけど、どうして……?」


「それはもちろん、見さ――」


「うわああああ!! ちょっと待った!」




 俺は声を上げてシャリオットとかいう奴の言葉を止めた。


 あ、いや。奴という言い方はないか。キャリーが殿下って呼んでたってことは、どこかの国の王子なんだろう。


 確かに王子みたいな姿をしていた。


 髪の色は茶色だがさらさらで常に手入れされていることが窺える。


 優しげだが心の強さを感じさせる瞳。あごのラインから顔のパーツまで全てが整っていて、まさに甘いマスクと言った雰囲気だが、決してちゃらけたような感じではない。


 俺はシャリオットに詰め寄った。どうやら、俺よりも背も高いようで、少し見上げるようになる。




「悪いが、見ていたことは黙っていてくれないか。まだここでその事をキャリーに知られたくない」




 せっかくの作戦が台無しになる。俺は絶対にキャリーに聞こえないように小さく耳打ちした。


 後ろの戦士たちがみんな揃って剣に手をかけているのが気になるが、シャリオットがすぐに手で制した。




「大丈夫ですよ。彼は悪い人ではありません。すみません、キャロラインさん。ちょっと彼とお話をさせていただきたいのですが」


「ええ、構いませんけど……アキラって、シャリオットさんとも知り合いだったの?」


「キャリー、今はそんなことを説明している時間が惜しいだろ」


「まあ、そうね。でも、落ち着いたら話してよ」


「ああ、全部な」




 取り敢えずは納得してくれたようなので、シャリオットは俺を連れて少しだけ離れた。




「先に自己紹介をしておきましょう。僕はシャリオット=ホルクレスト。次期国王に内定しています」




 俺のことを紹介する必要はない。


 キャリーを助けに来たと言うことは、それくらいのことは知っていて当たり前だから。




「キャリーが王子と呼んでいたからそれくらいは想像できるが、ホルクレストって確かアイレーリスの同盟国だったよな」


「そうですが、今回のことは国として動いていると言うよりは僕の個人的な行動に近いですよ」


「いや、次期国王が動いたら、そうも言えないんじゃ」




 そもそも、連れてきた戦力も騎士団一つなんて規模じゃないし。




「それはそうと、あのことはまだキャロラインさんに明かさないんですか? 僕の調査によると、すでにアイレーリス国内だけでなく、ほとんどの国がキャロラインさんの支持に回っていますよ」




 俺の作戦は思っていた以上に成果を上げていたってことか。


 しかし、それでもまだ話すのは早い。


 ここで無駄な争いを起こすのだけは避けたい。


 できれば、フレードリヒとのどさくさに紛れて話せば、有耶無耶にできるかも知れないし。




「明かせばどういうことになるか、容易に想像できる。今はまだその時じゃない」


「……わかりました。アキラさんも覚悟を持って行動しているというわけですね」


「…………まあな」


「それではみんなの所へ戻りましょう。アキラさんたちに紹介したい人もいるのです」




 俺たちがキャリーたちの所へ戻ると、シャリオットはまず戦士や魔道士たちに指示した。




「皆さんはこの町に蔓延る魔物たちを倒してください!」




 それだけ言うと、戦士と魔道士たちは数人ごとにチームを組んですぐに散開した。


 王宮を囲む壁を壊して出て行く。


 この空飛ぶ船を動かして王宮の出入り口を開けることは出来ないとわかっているようだった。




「私たちも行こうよ!」




 エリーネがさっそく戦いに行こうとするが、シャリオットがそれを止めた。




「お待ちください。皆さん負傷していますし、魔力も残り少ないのではありませんか?」


「それは、そうですけど……」




 エリーネの言葉にさっきまでの勢いが感じられないのは、シャリオットの顔が格好いいことと無関係だとは思う。




「魔法聖霊薬を運んできてください!」




 シャリオットが船に向かって叫ぶと、メイド姿の女性と、白衣を着た女性と、冒険者のような服装の女性が木箱を抱えて階段を降りてきた。


 俺は、その中で白衣の女性にすぐに目が行った。




「ク、クラリッサ!?」


「久しぶりね。無事で何よりだわ」


「それは俺のセリフだろう。よく生きていたな」


「そうね。ジョサイヤさんのお陰ね。あの人が私とグロリアを逃がしてくれたのよ」


「グロリア?」




 聞いたことのない名前だと思ったが、名前を呼ばれたと思ったのか、冒険者のような服装の女性がにこやかに返事をした。




「はい、何でしょう?」




 顔を見てすぐにわかった。


 クリームヒルトのギルド支部で受付嬢をやっていた人だ。


 エヴァンスの思い人でもある。今この場に現れることは出来ないが、きっと安心しているに違いない。


 ……恋が実るかどうかは、わからないが。


 死んでしまったら希望もないわけだし。




「さ、治療をするからその鎧を外しなさいよ」


「いや、だからこれは別に鎧じゃなくて……」


「そう言えば、機械だったわね。どうでもいいけど、肉体に直接触れないとどの程度の怪我なのかわからないじゃない」




 怪我はそれほどたいしたことはない。


 せいぜい打撲とかその程度だろう。


 問題は、変身を解除するとファイトギアで二分以上戦ってしまった反動で筋肉痛に襲われるってことだ。


 それも、前回よりもひどいと思う。


 あの時は一日で動けるようにはなったが、数日はかかるんじゃないか。


 だからといって、いつまでも変身してるわけにもいかないが。


 取り敢えず、町の魔物たちを全滅させるまではこのままでいるしかない。




「たぶん、一番ひどいのは筋肉痛だから。数日寝れば治るだろ。今は魔物たちを何とかするのが先だ。俺よりもキャリーたちの方を……」


「馬鹿ね。筋肉痛も怪我の一種よ。私の魔法で治せないはずないでしょ」


「……そう、なのか?」


「任せなさい。機械を直すことは出来ないけど、体のことなら私に治せない怪我はないわ」




 クラリッサの腕は信用している。


 あの瀕死だったガイハルトやディレックを治したんだ。


 ただ、俺の体はもう普通の人間の細胞だけでは無い。


 それが気がかりだったが、そこまで言わせて断る気はなくなっていた。


 俺は変身を解除する。




「――!!」




 足の先から指の先まで、全身を痛みが駆け巡った。


 もはや声を上げることも出来ない。


 立っていることさえ、今の俺には難しかった。


 体の自由が利かず、そのまま後ろに倒れそうになったところで、ヨミが俺の背中を支えた。


 きっとヨミは優しく手を添えてくれたんだろうが、それでも体に響くほど痛い。




「あの、早く魔法でアキラの体を治してください」




 俺の気持ちをヨミが代弁する。




「聖なる神の名において、我が命ずる! 命を癒やす息吹を与えよ。リザレクション」




 クラリッサの手から緑色の柔らかな光が波のように現れて、俺の全身を包み込む。


 すると、痛みが消えていくのを実感した。


 一分もかからずに、俺の体は完全に復活した。




『やはり、魔法というものは不思議な力ですね。ファイトギアによる肉体の酷使に伴う細胞の損傷とそれによる炎症があの光を浴びただけでなくなったことを確認しました。ですが、どういうことが起こって治ったのかまったく分析が出来ません』


「……魔法だから、としか言いようがないということか」


『その謎が解明できれば、ファイトギアのリスクを軽減できるかとも考えたのですが……』




 AIは残念がったが、そこまで求めるのは無理だろう。


 俺たちはこの世界の人間ではないのだから。魔法が使えるようになるとは思えない。


 学習しようという意欲はたいしたものだけど。




「次はあなたたちね」




 クラリッサはヨミとキャリーとエリーネとカトリアという名の少女の怪我を治した。


 ちなみに、一番ひどかったのが俺の筋肉痛だったらしく、みんなにはリザレクションを使わなくても治せたとクラリッサは笑っていた。


 その間に、シャリオットたちから魔法聖霊薬を渡されたのか、魔力も回復している。




「さてと、それじゃあ魔物たちを倒しに行くか」


「その必要はありませんよ」


「は?」


「この町を支配している魔物程度なら僕の兵士たちが何とかします。一番の脅威だった魔族はあなた方が倒してくれましたし。それよりも、皆さんは、と言いますか。キャロラインさんには早急にアイレーリスの王都へ戻っていただきたいのです」




 シャリオットは初めて真面目な表情をさせてそう言った。

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