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魔物に支配されている王都

 ミュウが俺たちの前から消えてからどれくらい時間が経っただろう。


 あまり考えたくはないな。


 猛スピードで走る馬に乗りながら、俺はキャリーに叫ぶ。




「あいつが空を飛んだとき、随分驚いていたけど、どうしてだ!」


「決まってるでしょ! 空を飛ぶ魔法はまだ人間の世界では実用化されていないわ!」




 互いの言葉が、風に乗って後ろに過ぎ去っていく。




「呪文はあいつが唱えていたし、複合魔法が使えるキャリーなら使えるんじゃないのか!?」


「無理よ! 魔力を消費し続けるから私でも数分で力尽きる! どうしてあの魔族があそこまで使いこなせたのか、理解できない!」




 それで驚いていたということか。


 あの時、俺から与えられたダメージを回復させるために魔物の魔力を吸い取ったのかと思ったが、むしろ逃げる方法を得るためにそうしたんじゃないかと思った。


 あれだけ多くの魔物の魔力を吸収したってことは、魔力の心配はなくなる。


 問題は、そうまでして逃げて、なぜわざわざ魔力を増やすために人間を喰うのか。


 魔物からの吸収と、人間の魔力を取り込むことは何か違いがあるということか。




「ヨミは、どう思う。なぜ魔力を増やすために魔族は人間を食べる」




 ヨミにだけ聞こえるように聞いたが、この速度で走っていると叫ばなければ後ろの二人に声が届くことはないか。




「私は魔物ですから。魔族とは違うのかも知れません。魔物から取り込んでも魔力の最大値が上がります。ですが、魔族は魔物からでは最大値が上がらないのかも知れません。魔物は魔族の下ですから」




 ヨミも十分魔族と遜色ない強さだと思うが、種族としてのカテゴリーって意味だろうな。




「それじゃ、人間を喰うのはなぜだ?」


「わかりません。ですが、魔族にとっては意味のあることなのかも知れません」




 ……人間は種族としては魔物よりも魔族から遠いと思っていたが、よくよく考えれば外見はどちらかというと魔族と人間の方が近い。


 詳しいことはわからないが、ヨミの言っていることが正解に近いのかもな。


 理屈では理解していなくても、本能の部分ではわかっているんだろう。




 乾いた大地、ひびが割れて荒廃した土地には雑草すら生えていない。


 金華国の風景は荒野と岩山のせいで殺風景で色味のない世界が広がっていた。


 程なくして、大きな岩山が視界に入ってくる。


 あれが例の鉱山だろうか。


 だとしたら麓に見えるあれが王都か。


 さすがに王都と呼ばれるだけ合って、ここからでも壁と門によって守られているのがわかる。


 外には当然のように魔物たちがいた。


 ただ、そのほとんどが町の外ではなく内側を向いている。


 外から敵が現れることを想定していないのか。


 あの魔物たちの目的が中の人間を逃がさないことだからか。


 それならそれで好都合。




「アキラ! 個別に戦うなんてまどろっこしいわ! アキラはミュウと戦うまでにあまり消耗して欲しくない!」


「それじゃ、あれをキャリーが相手にするのか!」


「ええ、一網打尽にするのよ」




 キャリーはそう言うと、手綱を前に抱えたエリーネに握らせた。




「地の神と天の神と風の神と雷の神の名において、我が命ずる! 大地を裂き空を貫く、嵐と閃光を巻き起こせ! フェノメノンサイクロン!!」




 空が急に暗くなる。


 厚く黒い雲が金華国の王都を覆っていた。


 稲光が雲の間を走り、俺たちの背中から風が吸い込まれていく。


 雲はやがて渦を巻き、細い竜巻がいくつも発生していた。


 それらは稲光を巻き付けて、まるで踊るように絡み合う。


 王都の壁や門を破壊し、見張りや門番の魔物を根こそぎ巻き込んでいた。


 魔法によって現れた台風は、俺たちが近づく頃にはすっかりなくなっていて、辺りは青空と静けさを取り戻していた。


 無論、それ以上に多くのクリスタルと壁や門の残骸をそこら中にばらまいていたが。




「……今のも複合戦略魔法と言っても良いんじゃないか?」


「そうでもないわ。攻撃範囲と威力の割に魔力を使うのよ。何しろ反発し合う神様同士の力を使った魔法だからね」




 キャリーは実戦経験が不足しているからと自分の力を過小評価していると思う。


 ここ数日の戦闘を通して、魔法の効果的な使い方を学び成長している。


 俺のネムスギアは対デモンを想定して作られたものだから、どうしても単体戦闘向きだ。


 今回のような戦争だと、複数の敵を同時に倒せる魔法に分がある。


 キャリーに俺の助けが必要だったのか、ちょっと疑問になってくる。




「あ、あまり期待しないでよね。今の魔法は複合戦略魔法を除くと私が使える中で最も攻撃力の高い魔法なんだから。これ以上はないわよ。それに、魔力も結構使っちゃうから今日はもう使えないからね」


「……わかったよ。あまり心配するな。ミュウには今の魔法があまり効果がないことくらいはわかってる」




 それに、攻撃範囲が問題になる。


 複合戦略魔法と同じで広すぎる。


 今のように離れた位置から狙い撃ちしないと、俺たち全員が巻き込まれることになる。


 だから、使える条件は結構限られる。




「キャリーは最大で七つの複合魔法が使えるんだよな」


「それは、複合戦略魔法が七つってだけよ。それ以外だと今の四つの複合魔法が限界だわ。それに、ここまでの戦いで気付いたけど、実戦では二つくらいまでの複合魔法が制御も含めて取り回しやすいわね。三つを掛け合わせると、とっさに呪文が唱えられないかも知れないわ」


「それがわかっただけでも十分じゃないか」




 取り敢えず、今使った魔法はフレードリヒとの戦いでも使える。


 きっとAIもその事を記録しているだろう。


 あえて俺が覚えておく必要もない。


 俺たちは改めて周囲に警戒しながら、金華国の王都に馬を進めた。


 魔物の反応はないが、どうにもミュウのいるところだとセンサーが正常に反応しないことがあるからな。


 ちゃんとこの目でも警戒しておくべきだと思っていた。




「……よかったわ。あまり町の中は壊れてないわね」




 キャリーはあの魔法が魔物以外を傷つけることを気にしていた。


 敵国の人間でも、容赦はしないんじゃなかったのかと思ったが、そこがキャリーのいいところでもある。


 それに、魔物から金華国の人間を助けようと言った俺には言えた義理じゃないか。


 町の中は建物が建ち並んでいた。


 道は真っ直ぐ前方に伸びていく。さすがに王都と呼ばれるだけあって、馬車二台がすれ違うくらいの道が整備されていた。


 奥に鉱山があるから、徐々に道が上りになっているのがわかる。


 そして、ちょうど小高い丘のようになっている場所に、一際大きな建物が見えた。


 その建物からは放射状に道が延びていた。


 俺たちがいる場所は、ちょうど正面に降りた道の一番下に当たる。


 高い壁と門に囲まれたあの建物が、金華国の王宮だろうか。




『彰。戦闘準備を。魔物たちが向かってきます』




 ネムスギアが警告をした。


 俺は馬車から降りて、ソードギアフォームに変身した。




「どうしたのよ?」




 キャリーはそう言ったが、すぐに表情を引き締めた。


 何やらブツブツと呪文を唱えている。


 ヨミも馬車から降りて、ダーククロースアーマーの魔法で闇の衣を身に纏っていた。


 程なくして街道の脇道から魔物たちが湧いて出てくる。


 ライオン頭や蛇頭。亀の甲羅を持つものや、サイの頭を持つものなど。


 やっぱりこいつらデモンの親戚か何かじゃないのか。


 デザインがそっくりなんだけど。


 その事を聞いていられるような雰囲気ではなかった。


 俺たちを見つけた途端に、目を血走らせて殺気をぶつけてきた。




「お前らか!? 壁を壊して見張りの魔物を殺しやがったのは!」


「今日が食事の日になったからよかったものの、そうでなければ巻き込まれて無駄な死人が増えるところだったじゃないか!」


「人間のクセに、なんて野蛮な」




 あれ? なんか正論を言ってやがる。


 これには気合いを入れていたキャリーも集中を削がれたようで、言葉を返していた。




「この国の魔物は人間をエサにしてるんでしょう。あんたたちにだけは人間の心配なんてして欲しくないわ」


「何を言ってるんだ? エサだからこそ俺たちは大事にしてるのさ。お前ら人間だって、食い物を粗末には扱わないだろう」




 あくまでもこいつらにとって人間はエサらしいな。


 心配していたのは人の命ではなく、食い物に傷が入るかどうかだけだった。




「一応、聞いておく。人間と仲良くする気はないんだよな?」


「お前は明日の朝食べるパンと仲良くする趣味でもあるのか?」


「それを聞いて安心したぜ。一匹残らず斬り捨てる」




 マテリアルソードを構える。




『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』




 技をセットすると、剣の刀身部分が輝き、震える。




「やれるものならやってみろ!!」




 サイの頭をした魔物が大きな角を向けて突進してきた。


 俺はそのまま剣を振るう。




「馬鹿か!? どこを斬っていやがる」




 まだ俺の間合いの外にいたサイの魔物が笑いながら勢いを付けてきた。


 その直後、剣の軌跡が描いた場所に、剣から放出されたエネルギーの斬撃が雨のように現れる。


 それはサイの魔物の角を粉々に砕いていた。




「ぐおああっ!! 何だ!?」




 剣の刀身はまだ技を解除していない。


 サイの魔物は立ち止まって驚いているので隙だらけだ。横から剣を薙ぎ払う。


 今度は一切のタイムラグ無しで、エネルギーによる斬撃の雨がサイの魔物の体をバラバラにさせた。




「お前!」




 魔物たちが一斉に俺を睨みつける。




 だが、ライオンの魔物は次の瞬間、後ろから蹴り飛ばされて俺の横に転がった。




「余所見をすると、危ないですよ」




 ライオンの魔物は頭を押さえながら立ち上がる。


 顔に青筋を立てて、今にも頭から湯気が出そうなほど怒っている。




「俺の頭を蹴りやがったのは、お前か!」




 さすがにライオンの姿をしているだけはある。


 叫び声で、辺りの建物の窓ガラスが割れた。


 威嚇するだけでなく、物理的なダメージもあるようだが、俺のネムスギアを破るほどの攻撃力はない。せいぜい少しうるさいくらいだった。


 ヨミは耳を塞いでいたが、ダメージはなさそう。


 キャリーとエリーネは大丈夫だろうか。


 振り返ると、魔法の光に包まれていた。


 戦闘に入ってからエリーネが防御魔法を発動させていたのか。


 抜け目ない。




「火の神の名において! 我が命ずる!! 火炎の拳で敵を爆発させろ!! バーニングナックル!!」




 ただの呪文だというのに、ライオンの魔物は同じように叫んでいた。


 魔法が発動すると、ライオンの魔物の拳が炎に包まれる。


 そのままヨミに殴りかかるが、闇を纏う魔法を使っているときのヨミはファイトギアほどではないものの素早く動ける。


 拳は当たらない。だが、魔物の口の端が歪んだ。


 大きく右拳を振りかぶって、弧を描くようにヨミを殴りつける。


 いわゆるフックというパンチだ。


 だが、あまりにも大振りすぎる。カウンターを狙ってくれといわんばかりだ。


 ヨミもそれはわかっている。


 しゃがんで躱し、跳び蹴りを繰り出そうとしたところで炎に包まれていた拳が爆発した。


 カウンターを狙っていたヨミの足を爆発が直撃した。


 その衝撃で、後ろに吹き飛ばされる。




「ざまあみやがれ。これでもうちょこまか動けないだろ」




 ヨミは、普通に立ち上がった。




「そうでもありませんよ」


「馬鹿な! 直撃させたはずだ!」




 ヨミの足は無傷だった。


 魔物だからといっても、吹き飛ばされて再生させたようには見えなかった。


 さっきとの違いは、ヨミの体が闇に覆われていないと言うことだけ。




「ダーククロースアーマーの魔法は便利ですね。身体能力の向上だけでなく、あのような魔法も防いでしまうようです」


「何だと!? お前の魔法は、まさか本当にミュウ様と同じ……」


「さすがに、破壊力が大きかったので、解除されてしまいましたが、もう同じ手は通用しません」




 そう言うと、再びヨミは構えた。




「闇の神の名において、我が命ずる! 闇の力をその身に纏い、破壊する力を与えよ! ダーククロースアーマー!」


「チィ! 火の神の名において――がはあっ!」




 ネムスギアのセンサーが瞬間的にヨミの魔力が消費されたことを捉えた。


 そして、その直後にライオンの魔物はヨミの闇に包まれた右足で胴体を貫かれていた。




「なるほど、魔力を一気に使うことで性能を高めることが出来るようですね。調整が難しいようですが」




 ヨミは戦いながら、覚え立ての魔法の使い方も学んでいたようだ。




「水の神の名において、我が命ずる! 大気を冷やし、霧を作り出せ! ミストブレス!」




 蛇の魔物たちに取り囲まれていたエリーネとキャリーの周りに霧が発生する。




「聖なる神の名において、我が命ずる! 我らを守る光の障壁よ! グレイスバリア!」




 さらに続け様にエリーネが防御魔法を自分たちと周りの建物に使った。




「火の神の名において、我が命ずる! 灼熱の嵐よ、焼き尽くせ! ファイヤーブラスト!」




 もはや霧で何も見えなくなってしまったが、キャリーが魔法を発動させた瞬間、霧が爆発した。


 助けに戻ろうとした俺もその場でガードするほどの破壊力。




『どうやら、水蒸気爆発のような現象を魔法で引き起こしたようです』


「大丈夫なのか?」


『そのために防御魔法を自分たちだけでなく周りの建物にも使ったようです』




 爆発による煙が風に乗って消えていくと、蛇の魔物たちはクリスタルだけになっていて、キャリーもエリーネも……そして、周囲の建物も無事だった。




「な、何なんだお前ら?」




 甲羅を背負った亀のような魔物だけが残り、俺たちを見回して後退りする。




「世界を救った変身ヒーローだった、かな」


「ふざけるな!」




 魔物とはいえ、逃げようとしている者を倒すのは気が引ける。


 ただし、見逃してやるかは次の質問の答え次第だ。




「お前も、人間をエサにしたことがあるのか?」


「当たり前だ! お前ら人間は俺たちの」


『チャージアタックワン、クレセントスラッシュ!』




 一気に間合いを詰めて、剣を振るえば、その場に三日月が描かれる。


 甲羅ごと、亀のような魔物は真っ二つになって倒れた。




「そんなことが当たり前であってたまるか」




 俺の言葉は、魔物には届いていない。すでに、クリスタルが転がっていた。




『この辺りの魔物は一掃したみたいですが、まだ魔物の反応はたくさんあります』




 町の至る所にいるってことか。


 さすがに全部を相手にしているほど余裕があるわけじゃない。


 今は一刻も早くミュウを見つけないと。


 そう思って馬に乗ろうとしたら、周囲の建物から人が出てきた。




「あ、あんたたちは一体何者だ? どうして魔物たちを倒してくれたんだ?」




 ボロボロの布の服を着ている男が話しかけてきた。




「俺たちの行く手を邪魔したから排除しただけだ」


「あなたたちは一体どこの町の人間なんですか?」




 男と違って少しこぎれいに布の服を着て、ケープを羽織った女が聞いてきた。




「俺たちはこの国の人間じゃない」


「おお、それでは外国の人が私たちを助けに来てくれたということですか?」




 またさらに別の男が聞く。


 俺たちはいつの間にか町の人に囲まれていた。


 よく見ると、女は服装がまともだが、男は見るからに貧しそうな服装をしている。


 それに、女は年齢が若そうだが、男の年齢層はバラバラだった。




「……この国の人間は、外国が嫌いなんじゃないのか?」


「それは、そうだが……しかし、命には替えられない。俺たちは魔物から救ってくれる誰かをずっと待っていたんだ」


「待っていた? どうして、自分たちで戦おうとしないのですか?」




 キャリーの言葉は冷たかったが、金華国の人々は興奮していてその事に気がついていない。




「魔物なんて、俺たちじゃ勝てっこねえ。無駄死にするだけだ」


「……そう思うなら、なぜ王が魔族と手を組もうとしたときに反対しなかったのです」


「そりゃ、王様が敵国であるアイレーリスと対等になるには政治制度を同じにして、より強い戦力が必要だと言ったから……」


「愚か者!!」




 キャリーの声が俺たちを囲んでいた人々の背筋を伸ばした。


 危うく俺まで直立不動になるほどの威圧感だった。




「目を覚ましなさい! あなたたちの王はアイレーリス王国を利用しているのです! この国の置かれている現状を顧みなさい! 王は魔族と手を組み、魔物たちに町を支配させ、魔物たちを使って戦争をする。あなたたちは魔物たちのエサでしかないではありませんか! それを、アイレーリスより強くなるためだという嘘で覆い隠しているに過ぎません!」


「し、しかし……アイレーリスはひどい国だって」


「あなたはその目でアイレーリス王国とそこに住む人々を見たのですか!?」


「そ、それは……」


「見たことがないのでしょう? それならば、今ここで判断しなさい!」




 キャリーは大きく胸を張って叫ぶ。




「私の名はキャロライン=アイレーリス! アイレーリス王国の女王です!」

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