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魔物の棲む町

 俺たちは倒すはずだった金華国の兵士たちに見送られてルオリスタの町を後にした。


 キャリーは見向きもしない。


 エリーネは複雑な表情をしている。


 ヨミだけが元気に手を振っていた。




「一応、認めたんだろ」


「あの町のことはオリヴィエに任せてるからね。私がそこで口を挟むつもりはないわ」


「納得できない気持ちはわかるけどな」


「当たり前でしょ。そりゃ、あの兵士たちは魔物の部隊と一緒にいたってだけで、たいして戦闘では役に立たなかったって言っても、少なくとも魔物に殺されていく町の人たちを見殺しにしたのよ!? 許せるわけないじゃない!」




 裏切る心配はあまりしていなかった。


 キャリーが脅しをかけていたから、ではなく。


 オリヴィエとオリヴィエの子供たちは少なくとも中級冒険者くらいの実力はあった。


 魔物がいなくても、あの程度の兵士なら十分押さえ込めると思った。


 武器はキャリーが魔法で地中深くに埋めてしまったし。


 あれを掘り起こせるほどの魔法が使える魔道士もいなかった。


 何より、オリヴィエの心には彼らを救ってやれるような何かがあるように思えた。


 それを信じてみたくなったんだ。


 きっと、キャリーも心のどこかでそう思っているんじゃないかと思った。


 戦後の処理は、いずれキャリーにもやってくる。


 それはキャリーが決断しなければならないことだからな。




「それで、ここからクリームヒルトってどれくらいなんだ?」


「この速度なら二日くらいじゃない?」


「それって、ライオーネルの町よりも近くないか?」




 以前、逆の道を通って王都に向かったから、素朴な疑問だった。


 エリーネに向かって聞いたが、答えたのはキャリーだった。




「あのねえ、ルオリスタ側から迂回するとクィンタスを通って王都に向かうことになるのよ」


「あ、納得」




 それじゃさすがに時間がかかりすぎる。しかも、あの時は馬車がなくなったから歩きだったし。




「クリームヒルトも、ルオリスタのように魔物と人の混成部隊なのかしらね?」




 ふと、思いついたようにキャリーがそう言った。




「どうだろうな。何しろ、町の建物は跡形もなく吹き飛んじまったからな」


「……悪かったわね。私の魔法が強力な上に正確無比で」


「事実を言っただけで拗ねるな」


「あのねえ、少しはエリーネちゃんに気を遣いなさいよ」


「……あの、女王様。私はもう、気にしてませんから」




 逆に俺たちがエリーネに気を遣わせてしまったようで、いたたまれない気持ちになった。




「でも、もし人間の兵士が魔物たちに使われていたら、エリーネはどうする?」


「私?」


「オリヴィエのように許してやるのか?」


「私はもう貴族じゃないわ。それに、オリヴィエさんほど大人でもない」


「……そうか。でも、子供なら全部を背負ったりするなよ。俺を頼ってもいいんだからな」


「うん。番犬の森での、約束だものね」


「いや、あれはもう関係ないだろ」


「そうなの?」


「今は、エリーネの仲間として守りたいと思ってるだけだ」


「え……」




 弱音も吐かずワガママも言わず、逃げることなくここまで一緒に戦ってきたんだ。


 エリーネも俺にとってはヨミと同じくらい大切な仲間だ。




「……アキラって、子供にまでそういうことを恥ずかしげもなく言うのね」


「……恥ずかしいことか?」


「自覚していないなら、より質が悪いと言えるわね。エリーネちゃん。こういう男には気をつけた方が良いわよ」


「……それ、女王様が言うんですか?」


「そうだ。エリーネちゃんも私のこと名前で呼んでよ。仲間外れみたいで嫌なのよね」




 あからさまにキャリーは話題を変えやがった。


 だけど、エリーネはクスクス笑うだけでその事を指摘したりはしなかった。


 ちなみに、エリーネにとって女王は憧れのままで、気安く名前で呼ぶことは絶対に出来ないと拒絶したので、少しだけキャリーは落ち込んでいた。




 クリームヒルトの近くまで来ると、元番犬の森が見えてくるのでだいたいの位置がすぐに把握できる。


 ここに来るのももう何度目か。


 俺たちは馬車を元番犬の森の入り口の奥に隠した。


 ヨミが縄張りにしていた辺りは、複合戦略魔法の余波でほとんど木々が吹き飛んでしまったから、隠せるような場所はなかった。


 ここから、町の方へ向かうともう隠れられるような場所もない。


 森の中から改めてキャリーの複合戦略魔法の威力を思い知らされる。




「あの、女王様に聞いておきたいことがあるんですけど」


「エリーネちゃん。やっぱり、町ごと吹き飛ばしちゃったこと、怒ってるわよね」




 名前で呼んでもらえないことの意味をそう解釈していたのか。




「あ、いえ。そうじゃなくて……」




 エリーネはそれをすぐに否定して、言葉を続けた。




「女王様って複合魔法は使えるんですよね」


「そうでなければ複合戦略魔法は使えないわ」


「でも、ここまでの戦闘では使っていないような気がするんですよ。女王様の魔力はとても強く感じられるのに、どうしてかと思って」


「……私が、十四歳で学生を辞めて女王になったのは、知ってるわよね」


「はい。それはもちろん」


「複合魔法自体は、エリーネちゃんくらいの年には使えるようになっていたわ。でも、魔力が強すぎて上手く制御できないの。それで、級友を怪我させてしまったこともあって、あまり実践では使いたくないのよ」


「そうだったのか? ってことは、実力を出し切れていないわけだ」




 ブラッドファングの群れは倒していたが、オークデーモンやワーウルフに対して自信がなかったのは、そのせいでもあったわけだ。




「仕方ないでしょ。実戦に出たのもこれが初めてだし」


「それでよく、複合戦略魔法は使えたな」


「あれは、制御する必要がないもの。全力で撃てばいいだけだから……」




 人ごととは言えないな。俺も最初にこの世界で変身したときは必殺技の調整なんて出来なかった。


 オークデーモンなんて雑魚を相手に一気にエネルギーを放出するなんて馬鹿げたことをしてしまったからな。




「それなら、クリームヒルトもルオリスタのように魔物に支配されていたら、全力で戦ってください」


「……あなたたちを私の魔法で傷つけたりしたくないわ」


「それなら大丈夫です。私の防御魔法なら防げると思います。それに、アキラは多分複合魔法に巻き込まれても大丈夫ですよ」


「おいおい、あまり物騒なことを言うな」


「……確かに、そうね。二つ……いえ、三つくらいまでの複合魔法ならアキラは耐えられそうよね」


「俺を巻き込むことを前提に話を進めるな」


「アキラのためにも言っているのよ。アキラの強さが普通じゃないことは理解できたわ。だからこそ、私が複合魔法を使えばもっと戦力になれる。複合戦略魔法に頼らなくてもね」




 フレードリヒたちとの対決の前に、試しておきたいと言うことか。


 どう見ても人数では負けるからな。


 ファイトギアで一掃する手もなくはないが、相手が千人単位だと一分で決着を付けることは出来ない。


 敵の中に魔族がいるから尚更だ。




「わかった。こっちとしてもキャリーがどこまで力を発揮して戦えるのか見極めておきたいしな」


「じゃあ、行くわよ」




 俺たちは森から出て、荒野に成り果てたクリームヒルトの町へ向かった。


 だが、近づくにつれて様相が変わっていることに気がついた。


 建物が見える。


 それに、人も何人か歩いているような……。




「どういうこと?」




 キャリーの問いかけに、俺もエリーネも答えられなかった。


 ヨミは質問の意味がわかっていないのか、首をかしげる。




『気をつけてください。センサー内に人間は存在しません』


「なに!?」


「どうしたの?」




 俺たちの声に気がついたのか、町の中を歩いていた人の形をした何かがこちらを向いた。




「あれは、魔物が変身した姿なのか?」




 キャリーにAIの警告について説明するのも面倒だったので、無視して確認する。




『それも、魔力は一番弱くて先ほど倒したクロービーストくらいです』


「エリーネ。防御魔法の準備を。キャリーには、複合魔法の威力に期待するぜ」




 ぱっと見だけで魔物の数は数十体。


 その最低レベルがクロービーストじゃ、みんなを守りながら全滅させるってのは難しそうだ。


 だからといって、隠れて奇襲するという手段は使えなかった。


 俺もオリヴィエのように甘いんだろう。


 確認せずにはいられなかったんだ。


 人間の町があった場所に、家や建物を立てて人間の姿で生活しているように見える。


 だから、彼らがヨミのような魔物なのではないかと言うことを。




「このまま真っ直ぐ町に入るつもり?」


「あいつらはすでにこっちに気がついてる。そもそもここからだと隠れられるような場所はないだろ」




 以前のクリームヒルトのように木の壁による囲いはない。


 木や石でできた建物が点在しているだけ。


 それでも一応町のように見えるのは、人間が生活しているような雰囲気があるからだろう。


 何人かの人がこっちに向かってきた。人ではないのだが。ややこしい。




「何だ? お前たちは?」




 人間の姿の魔物がそう言って訝しげな表情をさせる。




「お前らはそんな姿をしているが、魔物なんだろう?」


「なあんだ。バレてるのか。この格好をしていれば上手く人間に近づけるはずなのに」


「一応、確認しておきたいんだが、人間と共に生きていきたいと思っているのか?」


「ハハハハハハッ! 馬鹿なことを言うなよ。人間は俺たちの食い物だ。養殖しなくたってお前らはいくらでも生まれてくるだろ? そんな面倒なことするかよ!」




 俺たちを囲む魔物たちは揃って笑い声を上げた。


 そのまま彼らの体を邪悪な空気が纏っていくのを感じる。


 真ん中の男が二回りくらい大きくなり、頭がライオンになった。


 周りの人間は、蟻の頭に人間の体。カマキリのカマと頭を持った人間。蛾のような羽を持った人間など。


 次々変身していく。


 ヨミを見たときも思ったけど、変身する魔物のデザインってやっぱりどことなくデモンを想起させるよな。




「おい、俺が一番上手そうな人間の女を喰う。後の三匹はお前らに……? ちょっと待て、どうして――」


「変身!」




 ライオン頭の魔物の言葉を遮って、俺はソードギアフォームを展開させた。


 マテリアルソードで斬りつける。


 ライオン頭は手から爪を伸ばして俺の斬撃を受け止めようとしたが、それを難なく斬り落としたので、すぐにバックステップで距離を取った。


 どうやら、ただの雑魚ではないらしい。




「余所見してんじゃねえ!」




 カマキリ人間のカマが俺を斬りつけようと振りかぶる。




「風と雷の神の名において、我が命ずる! 荒れ狂う稲光よ、舞い踊れ! ライトニングトルネード!」




 キャリーの放った魔法は風が渦を巻き竜巻のようになると同時に、雷が纏わり付いた。




「ぎゃあああ!」




 カマキリ人間はその渦に巻き込まれ、竜巻に体を引き裂かれながら雷に焼かれていた。


 すでにエリーネが防御魔法を使っているからか、エリーネやヨミの周りを淡い光が包んでいて、竜巻による風はそよ風のように、辺りを焦がす雷も静電気くらいにしか届いていなかった。


 っていうか、やっぱり俺には防御魔法をかける気はないのか。


 いくら何でも、あんな威力の魔法に巻き込まれたくはないんだが。


 カマキリ人間の黒焦げになったバラバラ死体を見て、他の魔物たちも若干引いている。




『大丈夫ですよ。ソードギアフォームの防御力なら、今の魔法は耐えられます』




 程度によると思うが。




『ただ、ファイトギアを使うのはやめておいた方が良いと思います。きっと怪我をするでしょう。キャリーさんの魔法がピンポイントで使えるのなら、連携できると思いますが』




 複合魔法は制御が難しいと言っていた。


 つまりはだいたいが今のように範囲攻撃になるってことだろう。


 AIの忠告は素直に聞いておくべきだな。




「チッ! こいつは俺が相手をする! お前らはあの方を呼んでこい!」




 言うや否や、ライオン頭が立ち塞がった。




「キャリーは逃げた奴らに魔法を! こいつは俺が倒す!」


「わかったわ!」


「舐めるなよ!」




 さっき斬り落とした爪がすでに復活している。


 それでパンチを繰り出してくる。


 同じように爪を斬り落としても、ライオン頭はお構いなしにそのまま殴ってきた。


 ならばそのまま腕も斬ってやろうとしたが、弾き飛ばすので精一杯だった。


 マテリアルソードの切れ味でも傷つけられないってことは、相当頑丈な肉体らしいな。




「火と風と雷の神の名において、我が命ずる! 雷の牢獄の中で焼き尽くせ! トライデントバーストストーム!」




 逃げていった魔物たちの上から三つ叉の槍のような雷が落ちてくる。


 その雷の衝撃によって動きを止められた魔物たちを炎と風が包み込んだ。


 俺の所から結構離れてるのに、その熱を感じることが出来る。


 キャリーの使う複合魔法ってのは、殺傷能力が高過ぎな気が。


 ルオリスタでは、と言うか。


 森の中でこんな魔法を使われたら、俺たちの方が危なかっただろ。


 使わなかったのも納得だ。




「嘘!? あれでも、生きてるの?」




 キャリーが驚きの声を上げる。


 逃げた魔物のうち、蟻の頭の魔物だけはよろよろと動き出した。




「これ以上は、やらせん!!」




 ライオン頭は俺を無視してキャリーを狙う。




「!!」




 キャリーの魔法に見とれてる場合じゃなかった。


 ライオン頭の爪が、キャリーの頭を襲う。


 だが、ガギッと鈍い音を上げるだけで、爪はキャリーに刺さらず、その手前で止まっていた。




「セイントシールド!?」




 キャリーが声を上げる。


 その後ろで、エリーネが冷や汗をかいていた。


 エリーネの防御魔法か。


 あの爪の攻撃を防ぐとは。




「ダークホール!」




 すかさず呪文を唱え終えていたヨミが、魔法を唱える。


 それは、敵の魔法を打ち消す防御魔法だろと言いたかったが、ライオン頭の腕を闇が飲み込んだ。




「ぐおおおああああああ!」




 マテリアルソードでも斬れなかった腕を、あっさりと消した。


 それでも魔物だからすぐに再生させたが、ダメージはかなり与えている。


 あの魔法、もし人間に使ったら、跡形もなく消せるんじゃ……。


 エリーネが怖いものを見たような目で見ていたのもうなずける。


 俺でも防げるものなのか、甚だ疑問だった。




『魔法が発生する場所に、空気の揺らぎのようなものを感じられるので、避けることは可能だと思いますよ。ただし、センサーの情報をダイレクトに届けることができる変身中に限りますが』




 生身のままだと、やばいってことか。


 ヨミが人間の味方で助かった。




「貴様ら~!!」




 ライオン頭の魔物の注意が俺から逸れた。




『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』




 それを見逃すつもりはない。


 輝きを放つマテリアルソードを振り下ろすと、ライオン頭の背後を無数の斬撃が襲う。




「カハッ」




 さすがに技を使えば、斬り刻むのは不可能ではなかったか。


 ライオン頭の体は細切れになって、クリスタルだけが残った。




「ありがとう、助かったわ」




 キャリーが俺にそう言ったが、一番の功労者はエリーネだろう。俺は首を振ってエリーネとヨミを見た。



「わかってるわよ。エリーネちゃんとヨミさんもありがとう」


「い、いえ」


「それよりも、今の魔物は強かったですね」




 それは俺も実感させられた。


 やはり、人間に変身できる能力を持った魔物はその強さも違うようだ。


 そう考えると、あの共生派の魔物たちの強さもそれなりにはあったはず。


 それなのに、素直に軟禁されていたのは、どうしてだろう。


 あの人数なら、協力すれば見張りの奴らだって倒せただろうに。


 戦い自体を好まなかったと言うことなのか。


 今となってはその理由をはっきりさせることは出来ないか。




「エリーネちゃんの防御魔法も、随分難易度が高い魔法が使えるのね」


「アキラたちと旅をしていて気がついたんです。私には攻撃魔法よりも、補助とか回復の方に適性があるみたいなので、そちらの魔法を優先的に勉強してました」


「ヨミさんも、さっきの闇の魔法は多分使いこなせる魔道士はそんなにはいないでしょうね。私でも無理だわ」


「そうなんですか? いつもは防御に使ってたんですけど、エリーネさんが直接敵に使ってみても効果があるって教えてくれたんです」


「そ、そう。そんなことで使いこなせるような魔法じゃないんだけどね」




 三人は勝利の余韻にひたっているようだが、そうも言っていられない。


 キャリーの複合魔法にも耐えて逃げた魔物がいたのを忘れてはいけない。


 この町にはまだ数十体の魔物がいる。




「あまり気を抜くな。キャリーはさっきの魔法を連発できるか?」


「はい? そんなの無理に決まってるでしょ。今の戦いだって、結構魔力を使ってるんだから」


「そうか……だったら、もうちょっと警戒しておいた方が良い。逃げた魔物が一匹だけいただろう」


「あ……そういえば……」


「この町の魔物たちが全員で襲いかかってきたら、キャリーのことも戦力として期待したくなるからな」


「え、ええ。そうね」




 俺たちは逃げた魔物を追うように町の中心へ向かった。

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