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ルオリスタの奪還

 ルオリスタの町の構造はクリームヒルトに似ていた。


 木の壁で囲われ、町の入り口は門になっている。


 門扉は閉められていて、中の様子は窺えない。


 俺たちは町を囲う森の中に身を潜めていた。




「どうやら、外の見張りは人間のようだな」


「そうですね。私もそう思います」




 AIのセンサーだと魔物ほどの魔力を感じられなかったから、人間に変身している魔物ではない。




「それで、どうするのよ」




 ついでに、中にいる敵の数もセンサーで把握済み。


 魔物の数はあっている。


 ちなみに、人間の兵士は合計で二百二十六人。魔力の高い方が魔道士だとするなら、魔道士の方がやや多い。


 ブラッドファングは八十七頭だった。




「まず俺とヨミが先行して、ワーウルフとオークデーモンを片付ける。クロービーストって奴を倒したら、全員に投降を勧めるが……それでも戦うつもりなら仕方ない。門扉を開けるから敵を手当たり次第倒してくれ。さすがにあれだけの数が相手だと俺一人で相手するのはしんどいからな」


「それって、ほとんどアキラ一人で片付けるってこと?」


「敵の数が多いからな。奇襲で一気に勝負を付けるべきだろう。ヨミの魔法と俺のネムスギアならそれが可能だ」


「もし失敗したら、勝手に助けに行くわよ」


「それは、その時の判断に任せるさ。ただ、一分でケリが付くと思う。それ以上経っても事態が変わらなかったら、町に乗り込んでも構わないぜ」


「は? 冗談でしょ」




 俺は立ち上がり、ヨミにあの魔法を使ってもらうことにした。




「先に確認しておきたいんだが、離れると効果がなくなるんだよな」


「はい」


「じゃあ」




 俺は左手を差し出した。


 ヨミはそれをじっと見つめている。




「あの……これは一体……?」


「握っていれば、離れないですむだろう」


「ああ! はい、そうですね!」




 少し顔を赤くさせながら、ヨミが俺の手を握った。




「……あんたたち、これから戦いに行こうっていうのに、まるでデート気分ね」




 それを見ていたキャリーが面白くなさそうにそう言った。




「それでは行きましょう。闇の神の名において、我が命ずる! 私たちの姿を覆い隠して! ヴァニシングシャドウ!」




 影が足下から上がってきて俺たちの体を隠す。


 ヨミの姿も見えないが、手を握っているからすぐ側にいるとわかる。


 俺はそのままヨミを連れて壁の所にまで近づいた。




「変身」




 小声でつぶやく。




『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』




 ファイトギアによる身体能力の向上は、この程度の壁だとその場で飛ぶだけで難なく越えられる。


 町の中の至る所に兵士とブラッドファングがいた。


 どうやら人間の兵士とブラッドファングで混合のチームを作っているようだ。


 それよりも、俺の目的であるワーウルフとオークデーモンは町を巡回している様子はない。


 家や店の中にいるようだ。


 人間のようにくつろいで生活しているのか。


 それならそれで構わない。


 標的が動いていないなら、こちらとしても好都合だ。


 ただ、家の壁はぶっ壊すことになるが。




『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』




 魔法で姿を消した状態で、さらに速度を上げて全ての目標を捉える。




『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』




 人間を相手にしたときのような、手加減をするつもりはない。


 次の瞬間、ワーウルフとオークデーモンは家や店の壁ごと爆散してクリスタルだけになった。




「なんだ!? 何が起こった!?」




 町を巡回していた兵士とブラッドファングの混合チームが右往左往する。




「何を騒いでいる!!」




 町の中央には三階建ての大きな屋敷が建っていた。


 そのベランダに騒ぎを聞きつけたのか、大きな熊の魔物が現れた。


 あれが、クロービーストか。


 魔力は確かにオークデーモンたちよりは上だ。




「ヨミ、俺の魔法だけ解除してくれ」


「いいんですか?」


「あいつだけは、直接俺が倒すところを見せないとならない」




 ヨミが俺の手を離し、魔法を解除させたことで徐々に俺の影が地面に戻る。




「え?」


「なに?」


「お前、誰だ?」




 近くにいた金華国の兵士が、当然の反応を見せるが、驚いてばかりで手を出してくるそぶりを見せるものすらいなかった。


 兵士としては三流だろうな。


 この町の防衛にとって要の魔物たちが倒されて、突然見知らぬものが現れたら取り敢えず捕まえるべきだろう。


 俺を相手に、それが無意味な行動だとしても。


 ただ、金華国の兵士のレベルがこの程度なら、俺の思惑通りに話は進められそうだ。




「何をしている! そいつを殺せ!」




 ベランダからクロービーストが叫ぶが、兵士たちは手に持った武器を構えもしない。




「おい! でかいのは図体と態度だけか? 降りてきて俺と戦えよ! それとも、お前らは人間と仲良くしようって考えてる魔物なのか!?」


「舐めたことを……人間など所詮エサに過ぎん! 役に立たないなら、後で処分してやる!」




 そう言うと、ベランダから飛び降りた。


 重みと力強さで、クロービーストの足下の地面にひびが入る。


 ……残り十秒ってとこか。


 それ以上はファイトギアで戦うのは危険だな。


 俺の体の負担を考えると。




「八つ裂きにしてくれる!」




 クロービーストは両手から爪が生えてきた。


 長さは三十センチくらい。


 鋭く、剣のように研ぎ澄まされている。




『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』




 クロービーストがわざわざ殺されに向かってきてくれたので、俺はその場で四方八方から敵を捕捉する。




「な、何だ!? 分身した!? 幻惑魔法か!」


『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』




 赤く光る拳を構えるとクロービーストは防御の姿勢を取ったが、同時に八発も叩き込まれて、無事なはずはなかった。


 ほとんど声を上げることも出来ずに、クロービーストの上半身は消し飛んでいた。


 そして、下半身も消失し、その場には大きめのクリスタルだけが残される。


 俺はそのままソードギアフォームに変身した。


 これ以上のファイトギアの連続使用は危険だ。


 ちなみに、一度解除やソードギアフォームに変わってからすぐにファイトギアに戻しても連続使用と見なされるのか、筋肉痛には襲われる。


 筋肉痛を完全に回避するには戦闘時間を一分以内で、再度ファイトギアを使うまでに三十分のインターバルが必要だった。


 AIの説明だと、俺自身が体を鍛えることで筋肉痛を防ぐことが出来るようになるらしいから、生身でもある程度鍛えておく必要があるんだろう。


 この世界に来る前の俺だと、三分は筋肉痛にならずに連続使用できたみたい。


 記憶と一緒に鍛えた体もどこかへ行ってしまったのか。


 精神的なことが原因なのかAIにもわからないと言われた。




「さて、と。この町の防衛に付いていた主要な魔物たちは全滅させたが、あんたらも戦うか?」


「ぶ……ブラッドファング、お願いします!!」




 兵士の一人がブラッドファングをけしかけようとしたが、ブラッドファングの方が実力の差をわかっているようだ。


 頭を地面にこすりつけるほど低くさせて唸るだけでジリジリと後ろに下がっていく。




「くそっ! 何なんだよ! いつもあいつらと偉そうな態度取ってるくせに!!」




 兵士がブラッドファングを睨むと噛みつかれていた。




「うわっ! いててててて! やめろ! 俺じゃない! こいつに襲いかかれ!!」




 見ていてアホらしくなってくる。


 こうなるとブラッドファングを殺すのも可哀想だ。


 とっくに戦意喪失しているってのに。


 俺は兵士に噛みついたままのブラッドファングに剣を向けて追い払った。




「す、すまない……いや、そうじゃない! お前は何者なんだ!? なぜクロービースト様を殺した!」


「その前に、武器を捨てて投降しろ。そうしないとそろそろ……」




 言いかけたときに、町の門扉が爆発と共に吹き飛ばされるのが目に入った。


 約束の一分はとっくに過ぎてしまったからな。




「サンダーレイン!」




 キャリーが放った雷の魔法が、手当たり次第に兵士やブラッドファングを捉えて倒れさせる。




「アキラ! 大丈夫!」


「見ての通りだ」


「敵は!? こいつら全員倒せばいいの!?」


「ひぃ」




 ブラッドファングに噛みつかれていた兵士が、殺すような覚悟を秘めたキャリーの視線に尻餅をついた。




「ちょっと待て。今その話をしている最中なんだが」


「へ? どういうこと?」


「な、なあ。あんた。俺たちが武装解除して投降したら、この人たちを止めてくれるのか?」




 兵士はすでに武器を捨てて俺にすがりつきながらそう言った。


 これは、俺がクロービーストを倒したから戦意喪失したと言うよりは、どう見てもキャリーの視線に心を折られているよな。


 さすがは女王と言ったところか。


 覚悟を決めたときの表情は、鬼気迫るものがあった。




「約束しよう。ブラッドファングたちも、自然に帰してやれ」


「あ、ああ」




 こうして、ルオリスタの町は一時間とかからずにオリヴィエたちの元に戻った。




 オリヴィエの子供たちと馬車を呼び寄せている間に、町を占拠していた兵士たちを全員縄で両手を縛ろうとしたが、オリヴィエが反対した。




「なあ、俺たちはすぐにクリームヒルトへ向かうつもりなんだぜ。ってことは、この町にはあんたたち八人しか残らない。こいつらが反抗したら抑えられないだろ」




 人を殺すことに躊躇いのある俺でさえ、さすがにこいつらを自由にしておいて良いとは思えない。


 それなのに、オリヴィエの考えは俺よりもよっぽど甘かった。




「……少し、彼らと話をしたいわ」


「好きにしろ。でも、俺たちはすぐにでも出発するからな」




 俺がオリヴィエに強要しなかったのは、この町を治めているのが彼女だからだ。


 最終決定権はオリヴィエにあると思った。


 それが、俺から見て愚かな選択だとしても。




「あなたたちは、金華国の兵士、なのよね」


「はあ、まあ一応は……」


「一応? どういうことかしら?」


「俺たちは金華国のお荷物なんだ。頭も悪いし、戦うのも上手くねえ。魔法だって、ろくに使えない。だから、魔物たちに連れられてここへやってきた。役に立たねえ俺たちはせいぜい魔物たちのエサになればいいってな」


「……そう言えば、最初に町を襲ってきたときも魔物ばかりが戦っていて、あなたたちは確かに……」




 役に立っていなかったってのか。


 まるであの共生派の魔物と状況が似ているな。


 金華国の連中にとって、こいつらの生き死にはどうでもいいってことか。




「でも、あなたたちが魔物と一緒に私の町を奪い、町の人たちを殺したわ。それは理解しているのよね」


「……ああ、それはわかってる。でも、好きで戦ったわけじゃねえ。そうしねえと、俺たちがあの魔物たちのエサになってんだ。もっとも、エサになるまでの時間稼ぎにしかならねえんだけど」


「ふざけないで!!」




 話を聞いていて激高したのは、キャリーだった。


 兵士の胸倉を掴んで締め上げる。




「好きで戦ったわけじゃない!? そんなの当たり前よ!! もし、好きで私の国民を傷つけたなら、この場で私が皆殺しにしてるところだわ!!」


「うぐぐ……す、すまねえ。でも、国王様があんたたちアイレーリスは魔物のような恐ろしい連中で、あのケルベロスを倒したのも、俺たちの国を滅ぼすためだって……」


「魔物と手を組んでるのは、あんたたちの方でしょ!!」


「そ、そうだけど……でも、国王様が言ったんだ。俺たちの国がホルクレストとメリディアに襲われたのは俺たちの鉱山を奪うつもりだったアイレーリスが黒幕だって……」


「そんなわけないでしょ! そもそも私のお祖父様は戦争の仲裁に入ったのよ! だいたい、金華国は戦争に巻き込まれたんじゃなくて、戦争の終結によって生まれた国じゃない!!」


「は? 何言ってんだ? 金華国は人間の始まりの地で、人間の世界は俺たちの国から始まったって、学校で習ったんだ」


「無茶苦茶じゃない! 何なのそのわけのわからない歴史は!!」


「ぐぐぐっ……」


「おい、それ以上首を絞めたら本当に殺すことになるぞ」




 俺がキャリーの肩に手を置くと、我に返ったように手を離した。




「あ、ありがとう」


「はぁ、はぁ……やっぱり、アイレーリスの人って恐ろしいんだな」


「何か言ったかしら?」




 兵士のつぶやきをキャリーは聞き逃さず目で射殺した。




「ひぃぃ」




 兵士はオリヴィエの後ろに隠れて小さくなっている。




「女王陛下、怯えてしまって話になりませんから。少し席を外していただけませんか?」


「……わかったわ。アキラ、このまま休まずにクリームヒルトに向かうのよね?」


「ああ」


「それじゃあ、馬車の準備をしてくるわ」




 ちょうど、馬車が町へ入ってきた。


 ヨミとエリーネも一緒だ。


 キャリーはヨミとエリーネにこの後の予定を伝えたようで、三人ですぐに移動の準備に取りかかっていた。




「女王陛下のおっしゃった言葉の意味は理解できるわね」


「……俺たちには、罪がある」


「そうよ。命令を出した人が一番悪いわ。でも、それであなたたちの罪がなくなったわけじゃない。それで、どうやって償うつもり」


「……死ねば、いいのか?」


「それは、お勧めできないわ。きっと、そこの男の子に止められるわ」




 ……ついさっき、オリヴィエが自殺しようとしたのは止めたけど、こいつらに対してもそうする義理があるかどうかはわからないな。


 っていうか、男の子っていう年じゃないんだが、オリヴィエからしたら俺も子供に見えるのだろうか。




「でも、俺たちの国じゃ国王様の命令に従えなかった奴はみんな殺される。魔物や魔族のエサにされるんだ」


「それじゃ、もしこのままあなたたちが金華国に戻ったら……」


「ああ、国に戻ったら死ぬ。ここで死ぬか、国で死ぬか。俺たちにはもうそれしかねえ」


「そんな……」




 オリヴィエは絶句していたが、俺は胸くそが悪くなるような話だった。




「お前らは、そんな国王に従ってないで、それこそ革命でもした方が良いだろ」




 この国で起こっている権力争いのクーデターとは違う。


 国民の生き死にを国王が決めるような国の在り方が正しいはずがない。


 そんな国王こそ、その座から引きずり下ろすべきじゃないのか。




「できるわけねえ。国王様には魔物の軍隊と、強い魔族が味方に付いてんだ。あんなのと戦ったら命なんていくつあっても足らねえよ」


「それでよく国民は逃げ出したりしないな」


「逃げても殺されるからな。魔物や魔族は見逃しちゃくれねえ」


「魔物と魔族が国民を管理してるのか?」


「さっきあんたたちも見ただろう」




 金華国では魔物と魔族と人が共存しているのかと思ったが、間違っていた。


 魔物と魔族が人間を支配している。


 でも、国王はその魔族たちが守ってる。


 どういう関係なのか、いまいち力関係がわからない。




「わかったわ。あなたたちはこの町の復興を手伝いなさい。そして、ちゃんと償いをすませたら私がしっかり教育し直してあげるわ」


「へ?」


「おいおい、そんなこと言って大丈夫なのか?」




 兵士たちよりも、俺の方が驚いていた。


 オリヴィエの案はどう考えてもキャリーが良い顔しないだろ。




「この子たちに責任がないとは言わないわ。殺されたのは私の町の人だからね。でも、この子たちの置かれた環境が間違っていたことも事実よ。私は、この子たちに本当の罪を理解させるためにも教育したいのよ」


「それが、あんたの考えた贖罪か……」


「ええ。女王陛下にも報告するわ」




 そう言って、キャリーの所へ向かった。


 キャリーがどう判断するのかも見物だが、俺はそれよりもこいつらに確かめておきたいことがあった。




「なあ、金華国の王様を守ってる魔族って、赤い髪の美少女のような姿をしていないか?」


「ああ、そうだけど。あんた、アイレーリスにいるのに見たことあるのか?」




 やっと繋がってきたな。


 あいつは、フレードリヒだけじゃない。


 金華国の国王とも関係していた。

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