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反転攻勢準備完了

 キャリーの言葉に圧倒されているのか、フレードリヒは言葉を失っていたが、




「フン、人殺しの女王がよく言えたものだ」




 口元を歪めながら言葉を吐き捨てた。




「それは、お前らの偽装工作だろうが」


「……フッ……スパイの冒険者が何を言ったところで無駄です」


「ああ、俺もそう思う」


「ほぅ。認めるのですか」


「そうじゃない。俺たちはもう言葉を交わすことに意味はないってことさ。理解する気のないものに話すことはない。お前とは戦って決着を付ける。せいぜい殺されないように鍛えておけよ。あるいは、泣いて土下座するんだったら、許してやってもいいぜ。俺は人がいいからな」


「ハハハハッ! 望むところです。上級冒険者ごときが、ケルベロスを倒したくらいで図に乗らないでいただきたい。あれは、元々私の獲物だったのですから。私はあなたのように甘くありませんから、命乞いをしても無駄ですよ。ハッハッハッハッ……」




 そこで魔法水晶の映像は消えた。


 すると、俺とキャリーとヨミ以外の人たちが、一斉に大きく息を吐いた。




「何だよ」


「……あれでは挨拶ではなく、ほとんど宣戦布告ではないか」




 ファルナがそう言って恨めしそうにこっちを見た。


 まさか、本当に普通の挨拶を交わすと思っていたのか。




「アキラと一緒だと、いくつ心臓があっても足りないわね。どう考えても私たちの方が不利な状況なのに」


「きっと、我々も仲間だと思われたのでしょうね」




 エリーネとレアードは愚痴をこぼす。




「でもまあ、遅かれ早かれこうなることは予想できました。むしろ、匿っている方が彼らに好きかってさせる理由を与えたと思います」




 ハイルフだけは、冷静に分析していた。




「少なくとも、フレードリヒたちがこの町に俺たちを捜しに来ることはないだろうな」


「それについては、ありがとうございます。私はこの町が好きですから、あんな連中に家捜しをされるのは黙って見過ごせません」


「う、うむ。そうだな。今は悲観するよりも、希望を持ちたい。女王陛下もアキラ殿も何の勝算もなくあのようなことを言ったわけではありますまい」


「え?」




 レアードの期待に満ちた瞳に、明らかにキャリーは動揺していた。


 女王なんだから、そこはしっかりしろよとツッコミたくなったが、それをするとレアードを心配させてしまう。




「そ、そうね。こっちにはアキラがいるし、ね」




 キャリーは行き場の失った瞳を俺に向けてきた。




「そうですな。何しろ、あのケルベロスを一人で討伐した冒険者殿だ。相手がなんであれ、必ずやアイレーリス王国を平和に導いてくださるはず」




 敵を倒すだけなら、あのフレードリヒがケルベロスより手強いとは思わない。


 妙な強がりを言っていたが、普通の人間が俺の敵であるはずはない。


 問題は、疑惑をどうやって晴らすかだ。


 フレードリヒを倒した後で、素直に白状すれば良いが、やり方を間違えると暴力で自白を強要したように受け止められかねない。


 その事を一番理解しているのは、多分ハイルフだけだろうな。


 だから、俺の新聞記事の依頼を受けるように言ったんだ。




「……この国がどうなったら救われるのか、俺にはわからない。ただ、少なくともキャリーと俺の汚名はそそがないとな」


「そうね」




 やっと自信を取り戻した女王の表情でそう頷いた。




「ところで、俺がこの屋敷に呼ばれた用事はこれで終わりか?」


「ああ、そうだな。キャリーにも会ってもらえたし、レアード殿にもアキラ殿のことを直接判断してもらえただろう」




 少しだけ頬を緩めてファルナが微笑んだ。




「そして、私もアキラ殿のことを見極めることができましたし」




 おまけであるかのように付け足したが、ハイルフこそが一番俺を試したかったんじゃないかと思った。


 結局、レアードって人とはあまり話さなかった気がするし。




「ジェシカさんが言っていたとおりの人でよかった。これで私は全面的にアキラ殿のバックアップができる」


「ジェシカから聞いてたのか?」


「ええ、それはもう自慢されましたよ。ジェシカさんが見込んで冒険者として登録させたって」


「道理でギルドの支部の人たちが俺のことを知っているわけだ」


「そのお陰で、私は新聞の情報に惑わされずにすみましたから」


「そう言われちゃ、ジェシカに文句は言えないな」


「それで、これからどうするんです?」


「あれだけケンカを売ったんだ。そりゃ、フレードリヒの町に乗り込むしかないだろ」


「正面からぶつかるつもりですか?」


「事前に戦力とか調べておかなきゃならないだろうが、そう言うことになるだろうな」


「えーと、参加するのは誰なんですか?」


「敵が人間だけなら俺一人でも――」


「私はいつ何時でもアキラと運命を共にします」


「私だって同じだわ。何しろ、ルーザスの狙いは私なんだから、いつまでも逃げ回ってはいられないわよ」




 俺が言い終わる前に、ヨミとキャリーが手を上げた。


 スパイ疑惑がかかっているのは俺だけじゃないし、女王は狙われる身だ。


 だから、エリーネもエヴァンスも含めて一緒に行動することは反対じゃない。


 むしろ、俺の目の届くところ。あるいはネムスギアのセンサー内にいてくれないと安心は出来ないが、戦う必要はない。




「いやいや、戦うのは俺だけで十分だろ」


「アキラ、止めても私は勝手に参加しますから。ですから、最初から私が一緒に戦うと考えておいた方がよいのではありませんか?」


「私は自分の運命を誰かに委ねて待ってるなんてことはできないわよ。そんなの、女王としてと言うより、お父様から受け継いだアイレーリスの名が泣くわ」


「女王様は魔法の知識があるから心配してないけど、アキラとヨミさんは魔法について詳しくないからね。仕方ないから私も参加するわ」


「……ぼ、僕だって……」




 エリーネとエヴァンスまで戦うと主張し始めた。


 全員を守りながら戦うと、俺のリスクが増えるんだけど。


 そう言ってやりたかったが、みんなの目が真剣すぎて、冗談を言える空気ではなかった。




「アキラ殿。皆の覚悟はきっと軽いものではない。それをわかってあげて欲しい。キャリーの命令がなければ、私も共に行きたいのだ」


「わかったよ。勝手なことをされるよりは、はっきりさせておいた方がよさそうだ。でも、生き残ることを優先してくれよ。誰かが死ぬのは見たくないからな」


「当然よ」




 キャリーの言葉に、皆静かに頷いた。




 その後俺たちはさっそく出発の準備を始めることにした。


 エリーネはこの町に保護されている母の所へ、これまでのこととこれからのことを報告させに行かせた。


 ヨミには傷を治す薬や魔力を回復させる薬を買いに、キャリーには水と食料の調達に行ってもらった。


 そして、俺はエヴァンスと共に、この町のギルドへ向かった。


 俺自身はギルドで情報の整理をしたかったのだが、AIが思いついたことを二人に話すことの方がより重要なことになっていた。


 だから俺たちだけ、レアードの屋敷から一緒に出てそのままギルドの支部へ向かう。


 この町でも、やはりギルドは外れの方にあって、建物の作りも同じだった。


 正面の扉から入って、カウンターには目もくれずに奥の階段を上る。


 ハイルフの部屋も、ジェシカと同じく最上階の奥の部屋だった。


 部屋の中は微妙にしか違わない。


 本の数とか書類の数とか。


 それ以外の、テーブル、ソファー、机、本棚。さらには植物こそ違うが鉢植えも同じに見えた。




「これってギルドが一括して用意してるわけじゃないよな」


「え? ああ、家具のことですか?」


「ああ、何か揃えたみたいにギルドで見るものが同じだからさ」


「私がここに配属される前からあるものなので、経緯はわかりかねます。調べればわかるとは思いますが……」


「いや、そんなつまらないことに時間を使ってる場合じゃないだろ」


「でしょうね。では、さっそく新聞の依頼について、説明しましょうか?」


「あ、いや。その事なんだけどさ。実はそれを知るためにここに来たんじゃないんだ。ちょっと思いついたことがあったらしくて、エヴァンスとハイルフの協力が必要なんだって」


「……まるで人ごとのようですが、女王様が何か思いついたと言うことですか?」




 ああ、そうか。俺じゃなくてAIが思いついたって言ったから、ついややこしい言い方をしたな。




「説明の仕方が悪かった。俺が思いついたんだ」


「ほぅ、何をです?」




 ハイルフが楽しそうに目を細めて腕を組んだ。


 こういう所がいまいちこの男を信用させないのだが、AIは信用できるかどうかはあまり関係ないと言っていたからな。


 俺はAIに作戦の概要を聞きながらそれをそっくりそのまま二人に伝えた。


 話している俺も初めは訝しげな表情をさせていたと思う。


 だが、聞いているうちに俺たちの世界にある、日常的なことを利用したいい作戦だと思うようになり、ハイルフとエヴァンスも徐々に聞き入るようになった。




「……そのような使い方は、思いもよりませんでした。しかし……確かに私が別の新聞を書くよりも効果がありそうですね」


「そうだよな」




 作戦の概要がわかって、俺もやっとAIの狙いがわかった。




「……僕も、同じ意見です。これなら、きっと王女様の悪い印象も一気に変えられると思う。だけど……」




 そう。AIの作戦の要はエヴァンスだった。


 影の薄さと隠密能力。そして、時に大胆な行動力。全ての要素がエヴァンスが適任であると告げている。




「僕は、自分の命が危ないとわかったら逃げるような人間だ。そんな僕にこんな大役を任せてもいいと思ってるんですか?」


「どっちかって言うと、今回の件で一番割に合わない目に遭ってるのは、エヴァンスだろ。最初にクリームヒルトを取り戻そうとしたとき、俺はヨミとエリーネの三人だけで行くつもりだった。エヴァンスは俺にとっていてもいなくてもどちらでもよかったんだ。それなのに、一緒にいたせいでスパイ疑惑までかけられた。もっと早くに逃げ出してもおかしくはなかったんだ。でも、今も俺たちと一緒にいる。だから、俺はエヴァンスのことも仲間だと思ってる」


「アキラさん……」


「それに、この作戦でエヴァンスは確かに重要だが、むしろ敵には狙われる心配はないだろ」


「……それは、そうですね」


「ただ、キャリーには怒られるかも知れない。……エリーネもそういう意味だと怒るよな、多分」


「やっぱり、そうなりますよね」




 エヴァンスの顔色が見るからに悪くなった。作戦終了後に訪れるであろう悲惨な未来が想像できたのだろう。




「ま、まあ、その時は俺の作戦だったって言えよ。ちゃんとフォローはするさ」


「お願いしますよ」




 エヴァンスを納得させるためにそう言ったが、俺もただではすむまい。


 敵を騙すには、まず味方からとは言うが、敵を倒した後の逃げる算段もつけておくべきか。




「じゃあ、僕は作戦を成功させるための準備を始めます」


「ああ、頼んだぜ」




 これで、エヴァンスの戦闘参加は見込めない。


 元々戦力としてはあまり計算していなかったが、索敵と隠密能力には助けられたからな。


 少し残念だが仕方ない。




「新聞の件はどうする?」


「いえ、よりよい案があるのですから。同じことで対抗する必要はないと思います。それよりも……アキラ殿の戦い方、見させていただきますよ」


「ああ、よく見ていてくれ」




 俺はそう言ってハイルフの部屋を後にした。


 馬車はレアードの屋敷の敷地内に駐めておいたので、俺もそこへ戻った。


 すると、すでに荷物はすでに積み込まれていた。


 そして、馬車のそばには準備の整った仲間たちが待っている。




「あれ? アキラだけ? エヴァンスは?」




 エリーネがすぐにその事に気がついた。




「エヴァンスには重要な任務を与えた。俺たちがこの人数でフレードリヒの率いる部隊と戦うにはそれなりに下準備が必要だからな」


「そう。まあ、影が薄いエヴァンスくらいじゃないと、自由に敵の戦力を調べられないわよね」


「へぇ。あの気弱そうな冒険者ってそんな仕事が出来るの?」


「気弱そうな、と言ってやるな。エヴァンスも一応ケルベロスと戦ったときの生き残りなんだから。だいたい、王女として報奨も与えただろ」


「え? そう、だったっけ?」




 キャリーが本気で忘れていることに、さすがに可哀想になった。


 せいぜい気を落とさないで欲しいものだ。




「それじゃ、一緒に行動するのは私たちだけなんですね」


「まあ、そう言うことになるな」


「お馬さんが二頭いますが、どうしますか?」




 そう言えば、馬を操っていたのはファルナとエヴァンスだった。


 二人とも一緒には行かない。




「私は馬を操れるわよ」




 キャリーが少し誇らしげに言う。


 女王だから、乗馬も習ったのだろうか。




「それでは、もう一頭は私が乗りましょう」


「出来るのか?」


「言葉はわからなくても、元々は自然と共に生きてきましたから、通じるものはあると思います」


「アキラが心配することはないと思うよ。ヨミさんの学習能力って、思ってる以上に高いわよ」


「そうなのか?」


「この前魔法を教えたときにわかったのよ」




 エリーネはヨミの魔力の高さと適性を見て魔法を教えたらしいが、思っていた以上に時間がかからなかったらしい。


 あの後もことあるごとに魔法を教えているようで、そろそろ二つの神の力を同時に使う複合魔法に挑戦してもいいと言った。


 それがどれだけ凄いことなのか、俺にはまったくわからないが。




「それで、このまま真っ直ぐにフレードリヒの町を目指せばいいの?」


「その前に、ファルナとかに挨拶しておかなくていいのか?」


「その必要はないわ。ファルナはもう私の命令で動き始めているもの。すでにこの町にはいないわ」


「エリーネも、母親と話してきたんだよな」


「さすがに、今回はね。やっぱりイライザには反対されたけど、お母さんは許してくれたわ。血は争えないって、呆れてた」




 それなら、俺たちももうこの町に留まる理由はない。




「それじゃ、出発しよう。行き先は――ここから南。ルオリスタの町だ」


「は? え? どうして?」


「おいおい、キャリーはこの町で引きこもってたわけじゃないだろ。情報くらいは集めていたなら知ってるはずだぜ」




 ファルナに教えてもらったことの中に、クリームヒルト以外の町が金華国軍に襲われたって言うのがあった。


 それを確かめたかった。


 そして、もし本当に金華国軍に占領されているのなら、今度こそちゃんと取り戻したい。




「まあ、いいわ。どのみち領土は取り戻さなければならないものね」


「そう言うこと。俺の敵はフレードリヒかも知れないが、アイレーリス王国の人たちにとっては、領土を奪う奴らこそ戦うべき相手だからな」




 キャリーは国家安全保障会議の時、金華国とも話し合いたいと言っていたが、今もまだそう思っているのだろうか。


 あるいは、ルオリスタの状況を見て覚悟を決めるかも知れないな。

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