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ライオーネルの町

 約五日間の旅路は、問題は起こらなかった。


 食料は野生動物や木の実を料理し、水は川を利用した。


 さすがに何も口にしないわけにはいかないから、生きるためには受け入れるしかなかった。


 そうして辿り着いた町は、石の壁に囲われた大きな町だった。


 さすがに王都ほどではないが、クリームヒルトよりは大きい。




「取り敢えず、あの町で魔法水晶を使えるところを探すか」


「その前に、まともな食事を取りたいわ」


「……僕も、エリーネさんに、賛成です」




 ぐったりとした様子のエリーネとエヴァンスがそう言った。


 エヴァンスの方が年上だってのに、なぜかエリーネに対して敬語を使っているのは元貴族の娘に気を遣ってるからじゃなくて、性格のせいだろう。




「わかったよ」




 俺たちはライオーネルの町の門へ向かった。


 門には扉はなく、石の壁が途切れてアーチのようになっているだけ。


 その両サイドに門番が立っていた。


 門に近づくと、持っていた長い槍で入り口を塞いできた。




「何者か? 身分の提示をできないものを町に入れるわけにはいかない。今は厳戒態勢中だからな」




 右側の門番にそう言われて、俺たちは冒険者の証を見せた。


 ディルカは御者の資格と馬の登録証を見せていた。




「……上級、冒険者……!? こ、これは失礼しました」




 門番はすぐに槍を真っ直ぐ持って俺たちに敬礼していた。


 どうやら、上級冒険者というのは、それだけでも価値のあるものらしい。




「それじゃあ、食堂を探すか?」


「大丈夫よ。私が知ってるわ」




 エリーネはこの町に来たことがあるらしい。


 先頭に立って俺たちを案内した。


 真っ直ぐ延びた道は碁盤の目のようで、初めての俺たちでは迷ってしまいそう。


 整然とした街並みだった。




「ここなら、全員お腹いっぱい食べても金貨一枚はかからないと思うわ」




 そう言ってエリーネが連れてきた食堂は、二十人くらいが入れそうな庶民的な食堂だった。


 すでに食事中の客も、冒険者っぽい風体の人から商店で仕事をしているような人、家族連れなど様々だ。


 エリーネが自信を持って紹介したから、てっきり貴族御用達のお店かと思ったんだが、メニューの金額も確かにリーズナブルだった。


 全員の注文で、合計銀貨五枚くらい。


 ちなみに、ここは俺が驕るつもりでいたのだが、みんな自分の金で料金を払った。




「それで、これからのことだけど」


「まずはこの町のギルドの支部へ行こうよ」




 ギルドの支部なら魔法水晶があるし、ギルドにも何か情報が入っているかも知れない。




「あと、出来ればこのクリスタルを換金しておきたいな」




 それは道中に俺たちが倒した魔物のクリスタル。


 クリームヒルトでキャリーの魔法の犠牲になった魔物のクリスタルは持ってくる気になれなかった。




「時間が惜しいですし、それは私が行きましょう」


「じゃあ、俺もヨミに付き合う。ヨミは換金したことないし、安く買いたたかれそうだからな」


「それじゃあ、僕はエリーネさんと一緒に、ギルドへ行きます」


「えーとぉ、私はこの町の馬車屋で待ってますね。馬車を借りた方が良いですよねぇ」


「それもそうだな。この後王都に向かうことになるだろうし、金は俺が出すから」


「はいぃ」




 食堂を出ると、俺たちはそれぞれの目的の場所へ向かった。


 エリーネの説明によると、この町はライオーネル卿の家が中心にあって、それを囲むように町が作られたらしい。


 きっちりと区画整理がしてあって、東西南北に商人の区画や職人の区画など分かれているらしい。


 クリスタルを買い取る店は商人と職人の区画の間にあった。


「いらっしゃい!」


「このクリスタルを買い取って欲しいんだが」


「……こいつは、トレントとワイルドファングのものですね。結構状態がいいな、鑑定するまで少々お待ちください」


「どれくらいかかる?」


「……そうですね。十分ほどお待ちいただければ」




 あまりに時間がかかるようなら、待ち時間にギルドへ向かおうとも思ったが、十分じゃここで大人しくしてるしかないな。


 俺は店内に備え付けられた椅子に座った。


 きっと買取客が座るためのものだろう。


 ヨミも俺に習って隣りに座る。




「……なあ、俺たちはキャリーに騙されていたと思うか?」


「え?」




 ここまでの道程は、やらなきゃならないことがあったから余計なことを考える暇がなかった。


 だが、こうして落ち着くとどうしてもこんな状況になった理由に関していろいろ考えてしまう。


 考えても答えの出ない話だからこそ。




「アキラは、女王様のことを疑っているんですか?」


「可能性は、否定できない」


「……信じて、いないんですね」


「信じたいとは思ってるさ。だが、キャリーが使った魔法は、俺たちを殺すほどの威力があった。何かの間違いで使うような魔法か?」


「……女王様が、騙されていたとしたら」


「あの魔族にか」


「それは、わかりません。ですが……アキラ、もし私がアキラを殺すくらいの覚悟で襲いかかったら、アキラは私を疑って反撃しますか?」


「いや、それはないな」




 殺されないように取り押さえはするだろうが、疑って本気で殺すほどの反撃はしない。


 どうしてそう言うことになったのか、話を聞く。




「ありがとうございます。私のことは、信じてくださるのですね。でしたら、女王様のことも信じましょう。きっと、離れている間に何かあったはずです」


「そうであって欲しいな」


「それに、私は怒ってるんですよ。私の大切な人を殺そうとした女王様に。文句を言わないとすっきりしません」




 何が正しいことなのか、何を信じるべきなのか。


 答えは全て自分の心にある。


 俺の知っているキャリーは俺が信用に足りる人物だったはずだ。


 何か誤解があることは間違いない。


 それがあの魔族によるものなのか、あるいは……。




「お客さん、査定できましたよ」


「あ、ああ」


「全部で銀貨四枚ってとこだね」




 トレントもワイルドファングも新人冒険者や下級冒険者が相手にするような魔物だ。


 妥当な金額だろう。




「わかった、それでいい」




 買取の証明書にサインをして金を受け取った。




「……兄さん、どこかで会ったことありましたっけ?」


「は?」




 店主がマジマジと俺の顔を覗き込んできた。




「いや、この町に来たのは初めてだが」


「そうなんですか? おっかしいなあ、何か見覚えがあるんだよな」




 俺が上級冒険者だから、だろうか。


 全世界最速で上級冒険者になったという肩書きは、立ち寄ったことのない町でも名前が知られるほどなのかも知れない。


 上級冒険者の証を見せれば、店主の疑問を解決してやれるんだろうが、今はそんなことに構ってる暇はない。




「悪いが、待ち合わせの約束をしているんだ」


「あ、はい。すみません、お呼び止めしてしまって。それじゃ、またのお越しをお待ちしております」




 クリスタル屋を出て、西の区画へ向かう。


 ギルドの魔法水晶は使わせてもらえただろうか。


 王宮に連絡が取れれば、いろいろ事情がはっきりするだろう。


 それに、クリームヒルトに金華国軍がいなかったって情報もあっちにとっては有益なはずだ。


 俺とヨミは急いでギルドへ向かった。




 ギルドの支部は西の区画の外れにあった。


 何となく王都のギルド本部やクリームヒルトのギルド支部に雰囲気が似ている。


 建っている場所も、町の中心から離れているということも含めてあえてそうしているのだろうか。


 お陰で初めてでも迷ったりはしなかった。




「アキラ、ちょっと待って」




 ギルドの支部がある一つ手前の道からエリーネが出てきた。


 まるで、ここからギルドを偵察していたかのよう。




「なんでこんなところにいるんだよ。ギルドの支部には行ったのか?」


「ううん。今、エヴァンスに様子を窺ってもらっているわ」


「なんで、そんなことしてるんだ?」


「何か、おかしいのよ」


「何か、って?」


「私たち、見張られてるみたい」


「何? そうなのか?」


「私じゃなくて、エヴァンスが気付いたんだけど。だから、ちょっとエヴァンスの魔法で見張りを巻いてここまで来たのよ。それで、エヴァンスがギルドから情報を奪ってくるって」




 あいつ、見かけによらず大胆なことするな。


 ただ、俺の問いかけはエリーネにしたものではなかった。


 その意味をわかっていたのか、AIも答える。




『視線は感じましたが、尾行の様子はなかったと思います。ただ、ここは人の多い町ですから。それに紛れて行動されると、さすがに私のセンサーだけでそれを判断することは難しいと思います』




 ネムスギアも戦闘以外だとそれほど万能ではない。


 AIだっていろいろ勉強中だし、それは俺も同じだった。


 ただ、見張られるような根拠がない。




「エヴァンスの勘違いじゃないのか? あいつ人見知り激しいから」


「そうだったとしても、警戒しておいた方が良いんじゃない。違っていたなら、取り越し苦労ですむわ」


『あ、エヴァンスが戻ってきましたね』




 センサーが俺たちの背後に人の反応を示す。


 ギルドの支部はここからだと正面にあるのに、どうやって後ろに回ったのか。


 エヴァンスは中級冒険者だったが、隠密能力は中級どころではないと思う。




「みんな揃ってたんだ。よかった。ギルドの支部にあった新聞を持ってきた。見て欲しい。とんでもないことになってる」




 エヴァンスが広げた新聞の一面には大きくこう書かれていた。




[キャロライン女王陛下。複合戦略魔法の目標を間違え、クリームヒルトの町を殲滅!]




「どういうことだ?」


「記事の内容はもっと変だよ」




[キャロライン女王陛下は金華国軍に占領された町を取り戻すつもりでアイレーリスの切り札と謳われる複合戦略魔法の使用に踏み切りましたが、クリームヒルトの町には金華国軍だけでなく捕虜となっていた町の住民も多数生き残っていた模様。複合戦略魔法によって、敵の殲滅には成功しましたが、同時に生き残っていた国民をも殺害してしまった。この軽率な判断に、同盟国から説明を求められています。女王陛下の説明次第では、同盟国との間に亀裂が入りかねない事態に、国民の間にも不安が広がっているようです]




 ……なんだ? これは?




「おい、俺たちはクリームヒルトの町に行ったよな」


「アキラ、何言ってるのよ」


「間違えて、別の町へ行ったわけじゃないよな」


「当たり前でしょ」


「じゃあ、俺たちが見た光景は、全て夢か幻だったのか?」


「そんなわけないでしょ」




 エリーネが俺の疑問を次々否定する。


 いや、言われなくても俺だってわかってるんだ。


 何がクリームヒルトに起こっていたのか。俺たちはこの目で真実を見てきたのだから。




「この新聞、ほとんどが捏造と嘘の情報ばかりだわ」




 エリーネの新聞を持つ手が震えていた。


 この新聞の内容で、唯一本当のことはキャリーが複合戦略魔法を使ったってところだけ。


 上手い嘘をつくには、ほんの少しだけ真実を混ぜるといいと言ったのは誰だったか。


 これじゃまるで、キャリーも嵌められてるみたいじゃないか?




「やっぱり、ギルドの支部へ行こう。魔法水晶でキャリーと連絡を取るべきだ」


「王宮が、私の呼びかけに応じてくれるかわからないわよ」


「だったら、俺の名前を使えばいい。殺すつもりだった奴が生きていたことを知れば、直接話をしようと思うだろ」


「それ、場合によってはより面倒なことになりそうね」


「今となっては、あの魔法を使ったことが問題にされてるんだ。大丈夫だろ」




 っていうか、それ以外にこのわけのわからない状況を打開する方法が思いつかない。


 俺たちは揃ってギルドの支部へ近づく。




『彰。警戒してください。魔力の高いものが不自然に集まってきています』


「何?」


「おやおや、生きていたのですか」




 話しかけてきたのは、身なりの整った貴族のような男だった。


 背後には魔道士が六人控えている。


 いや、隠れてはいるが、ギルドの支部を囲むように周りにも配置されているのがAIのセンサーが捉えていた。


 今度は魔物ではなく、人間の魔道士らしい。


 魔力のパターンから判断したようだ。




「あなたは、エミルド=ライオーネル伯爵」




 名前を聞いて思い出した。


 あの会議に出席していた貴族の一人だ。


 眼鏡をかけた中年くらいの男。少し若ハゲ気味なところくらいしか特徴はなかった。




「そう言うあなたは新人冒険者のエリーネでしたか? ああ、今は確か金華国のスパイでしたね」


「は?」


「スパイは金華国軍諸共、女王様の魔法で死んだと思っていたので、手配書を取り下げてしまっていたんですよ。いやあ、逃げられる前に町の中で見つけられてよかったです」


「スパイって、エリーネが?」


「いいえ、あなた方全員です」


「ハッハハハッ……」


「アキラ?」


「いや、笑うしかないだろ。俺たちがスパイだと」


「投降しなくてもいいですよ。スパイは重罪ですから。捕まえたところで死刑ですし。無駄な時間をかけるくらいなら、この場で殺してしまった方がお互い楽が出来ます」


「ライオーネル卿! 誤解です! 私たちは、クリームヒルトで真実を見ました。ちゃんと話を聞いていただければ、スパイなどではないとわかっていただけるはずです!」




 エリーネは殺すことを宣言している相手に、それでも説得を試みていた。


 知り合いだから、信じたいのかも知れない。




「真実? それは、女王の魔法で金華国軍諸共クリームヒルトの生き残りが殺されてしまった。それだけです」


「それは違います! 私の……クリームヒルトに生き残りはいませんでした!」


「証拠はあるのですか?」


「それは……でしたら、一緒にクリームヒルトに向かいましょう! 真実は、あの町にあります」


「ほぉう……そのような手で我々を誘い込むつもりですか。いかにもスパイが考えつきそうなことです」


「エリーネ、諦めろ。こいつらは俺たちを殺すための正当性を探しているに過ぎない。真実がどうであろうと、こいつらの答えは変わらないんだ」




 今はそれよりもここから脱出する方法を考えるしかない。




「随分と余裕ですね。さすがは上級冒険者と言ったところですか」


「一応聞いておくが、引くつもりはないんだな? ちょっと痛い思いをするぞ」


「フン、強がりを言っていられるのもここまでです」




 エミルドが手を上げると、魔道士たちが一斉に姿を現した。


 建物の裏にでも隠れていたのか、道はふさがれ、辺りの建物の屋上からもこちらを見下ろしている。




「ア、アキラ……」




 エリーネが不安そうな表情をさせる。




「あの道を正面突破する。付いてこれるか?」


「う、うん」


「エリーネさん。背中は私が守りますから、しっかりアキラについて行ってください」


「エヴァンスは、自分で何とかしろよ。道は俺が作るから」


「あ、うん。でも、大丈夫なの? 結構強そうだよ……」


『彰、人間を殺してでも道を作りますか?』


「手加減はするさ」


『甘いですね。ですが、彰らしいのかも知れません』




 俺が一歩前に出ると、エミルドの表情が険しいものに変わった。




「皆さん! あの妙な姿に変身されては面倒です! 攻撃を始めてください!」




 それが合図だったのか。


 俺に向かって一斉に魔法が放たれた。


 呪文は隠れているときに唱えていたのだろう。


 炎の塊や雷撃の波や風の刃が向かってくる。


 起動コードの認証からネムスギアの展開までにかかる時間はコンマ数秒。


 魔法など見てからでも変身は間に合う。


 ファイトギアフォームに変身した俺の目には、もはや全ての魔法がスローに見えた。


 正面に立つエミルドと視線が合ったような気がした。


 軽く胴体を殴りつける。


 エミルドの体が空中に浮いたことに驚いた魔道士たちが、俺に手を向けてさらに次の呪文を唱えようとするが、エミルドの背後で構えていた魔道士六人も同じように吹き飛ばした。




「今です!」




 唖然としているエリーネとエヴァンスにヨミが声をかけた。


 それで我に返った二人が俺を追いかけて走り出す。


 俺たちを遮るものは何もない。


 後ろから魔法の追撃が飛んできたが、ヨミが魔法でそれを食い止める。




「闇の神の名において、我が命ずる! 力あるものを飲み込む漆黒の空間、ダークホール!」




 闇の中に魔道士たちの魔法が次々吸い込まれていった。


 俺たちはそのまま北の門からライオーネルの町を出た。


 魔道士たちが追いかけてくる。


 俺はある程度町から距離を取ってエリーネたちの安全が確認できたから、方向を変えた。




「アキラ、町に戻るの?」


「いいや、追ってくる連中を蹴散らしてくる」




 魔道士たちの数は三十人くらい。


 どれだけ強い魔道士なのかわからないが、ファイトギアフォームの速度だと、人間相手に苦労することはなかった。


 一分もかからずに、追ってきた魔道士たちを気絶させて、俺たちは追っ手を振り切った。

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