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深まる謎

 正面から入ることにエヴァンスは反対したが、多数決でそう言うことになった。


 ま、エヴァンスには裏口から入ってもらうことになっている。


 俺たちが囮になっている間に、金華国軍の隊長らしき奴の守りが手薄になっていたら押さえてもらう。


 俺はネムスギアのソードギアフォームに変身したまま町に入った。


 ヨミはもう人間の姿に変身している。


 魔物の方が金華国軍を混乱させられるんじゃないかと思ったが、人間の姿の方が戦いやすいらしい。


 魔物の姿に戻りたくない言い訳のように聞こえたが、無理強いして戦力が下がるのも意味はない。




「……静かですね……」


「ああ……」




 町の様子はケルベロスとの戦いの後からあまり変わっていないように見えた。


 あれから二週間以上も経っているのだから、復興が進んでいればもうちょっとマシな風景になっていたはずだ。


 それに、人の気配が感じられない。


 家には明かりは点っていないし、街灯も壊れたまま。




「やっぱり、変じゃないか?」


「そうね……金華国軍が占領しているなら、もうちょっと人の気配があってもいいと思う」




 エリーネは淡々と自分の町を眺めていた。




「これじゃ、まるで廃墟のままじゃない」


「ああ、だが……何ものかがこの町にいることだけは確かだ」


『家の中にある反応が、私たちに注意を払っているようです』




 センサーが視線のような光をいくつも捉えている。


 しかし、なぜ様子を窺っているばかりで何も仕掛けてこない。




「本当に、いるの?」




 エリーネにもこのセンサーに映った反応を見せてやりたいがそれは無理な相談だった。




「エリーネさん。アキラの言っていることは本当のようです。私も魔力を感じます」


「……魔力? それじゃ……」




 エリーネがそう言ったところで、周囲の家の扉が一斉に開かれた。


 遂に襲いかかるつもりかと、マテリアルソードを具現化して構える。


 だが、俺は拍子抜けしていた。


 俺たちを取り囲んだのは、軍人でも何でもない。


 ボロボロの衣服を纏った人間だった。




「……エリーネ、知り合いはいるか?」




 この町に人間がいるなら、それはまず戦争で死ななかったクリームヒルトの人だろうと思った。


 残念ながら俺にはジョサイヤとクラリッサくらいしか名前と顔が一致する人物はいない。




「……ううん、見たことない人ばかりよ」


『彰、そもそもこの人たちは人ではないかと思われます』




 人、ではない?




『先ほども言いましたが、彼らからは強い未知のエネルギー……いえ、もうデータを更新しておきましょう。強い魔力を感知しています。そして、このパターンは先ほどの戦闘データによく似ている』




 それじゃ、まさか。




「エリーネさん。アキラ。ここにいるのは、変身する魔法を使える魔物です」




 ヨミが戦闘態勢に入る。




「やっぱり! あんたも魔物なのか!?」




 正面にいた青年がそう叫んだ。




「近づかないでください! それ以上近づくと、敵意があると見なします」




 ヨミの瞳は厳しいままだった。




「待ってくれ、俺たちに戦う意志はない」


「は? 何を言ってるんですか? 私たちは先ほど町の外であなたたちの仲間に襲われたんですよ!?」


「それじゃあ、あんたたちがあいつらを倒してくれたのか!?」




 ……ヨミと魔物の青年? の会話は噛み合っているようでどこも噛み合っていない。


 何か、お互いの認識に間違いがある。




「私の町の人たちはどこへやったの? あなたたちが殺したんでしょ!?」




 エリーネが目に涙を溜めている。


 掌を魔物の青年? に向けて、すぐにでも魔法を撃つつもりだ。




「ち、違いますよ。人間を殺すだなんて。私たちは、人間を殺せないからこの町に軟禁されていたというのに」




 降参するように両手を挙げてそう言った。


 その姿を見て、エリーネの表情が曇った。


 迷っていると言うよりは、俺と同じように違和感を抱いている様子だった。




「エリーネ。ヨミ。話を聞いてみないか?」


「アキラ! でも!」


「エリーネ。ヨミとは話をしなかったから誤解したんだろ。ヨミも自分が疑われた立場だったのに、そんなに好戦的な態度を取るなよ」


「……は、はい。すみません」




 俺は変身を解除して二人の前に出た。




「えーと、まずはそうだな。俺はアキラ=ダイチ。一応この世界じゃ上級冒険者をやっている」


「……あ、私はベネット=イザードル。……魔物、だ。このグループのリーダーをさせてもらっている」


「グループ?」


「いや、形式的なものだ。一応、ここにいる共生派は三百人いるからね。誰かがまとめた方が動きも取りやすいと思って」


「人間じゃないのに、三百人、ね」


「君のような人間からしたら、同じように思って欲しくはないだろうけど、私たちは人間と共生したいと思ってる。だから、あえてそう言わせてもらった。この姿をしているのも人間に恐れて欲しくないからだ。それと、魔物であるよりも人間であることを選ぶことで、信じてもらいたいと思ってる」




 ……外の連中は人間の姿をしてる魔物もいれば、魔物の姿のままの奴もいた。




「じゃあ、人間の姿をしてる魔物は、みんなそう思ってるってことか?」


「いいや、残念ながらそうじゃない。人間の姿をしていると、それだけで人間の警戒心が緩むからね。人間を殺す目的で近づく魔物の中には騙しやすいからといって人間の姿を取るものもいる」


「ややこしいな」


「私たちも彼らのような存在には困っているんだ」


「話が脱線したな。本題に入ろう。ベネットと言ったか。あんたたちはなぜこの町にいる」


「私たちは魔界では異端の存在だ。だからここにいるほとんどのものは魔界から逃げてきた。しかし、魔族は私たちを黙って見過ごしてはくれなかった。主流派の魔族に捕らえられ、人間の国で人間のために労働をさせられていた。そして、つい先週、人間の国も追い出されてこの町で生活するように告げられたのだ。もちろん、逃げ出そうとした者は見張りの魔物に殺された」


「人間の国ってのは?」


「わからない。私たちは逃げることに必死であまり人間の世界について詳しくない」




 わけがわからない。


 どういうことなんだ。


 ベネットの言っている言葉の意味はわかってるんだ。


 嘘をついているようには見えない。


 見張りが外ではなく中の方に注意がいっていた根拠もむしろはっきりした。


 だけど、金華国軍は?


 この町はあいつらが支配したんじゃなかったのか?


 騙されたのか?


 いやいや、エリーネの母――レイナは重傷を負っていたんだぞ。


 だいたい、娘を欺く理由がないだろ。




「ベネットたちがこの町に連れてこられたとき、この町には誰もいなかったのか? 例えば、遺体の山があったとか」


「遺体!? そんな恐ろしいものはありませんでしたよ」


「人間の、戦士や魔道士……軍隊とかはいなかったのか」


「いいえ。人間は私たちを奴隷のように扱うだけで、同じ町で生活するなんてありえませんから」


「……あんたたちの置かれた状況はわかった。それじゃあ俺たちがここへ来た理由を話そう」




 俺はここがクリームヒルトの町であり、アイレーリス王国という人間の国の領土だと説明した。


 そして、数日前。金華国という国が国軍の大部隊を使ってこの町を奪い取った。


 俺たちはエリーネの町であるこの町を取り戻すために来た。




「……あなたの、町」


「正確には、私の父が任された町でした」




 ベネットのつぶやきに、エリーネが言葉を返す。


 俺は取り敢えず自分たちの目的を達成する方法を考えた。




「なあ、あんたたちはここで生活したくて住んでいたわけじゃないんだろ?」


「……はい」


「だったら、エリーネに町を返してくれないか?」




 話が通じるなら、戦って奪い取る必要はない。


 ベネットは腕組みをして考えていたが、やがて周りの仲間たちを見て頷いた。




「……そう、ですね。見張りはあなたたちが倒してくれたみたいですし、今なら逃げられるかも知れない」


「ちょっと待って。そもそもあなたたちは魔界から逃げてきたんでしょ? この町を出て、行く場所はあるの?」




 意外にも彼らを呼び止めたのは、エリーネだった。




「人間の姿をしていれば、人間の世界にとけ込むことは出来ます。それに、バラバラになった方が追っ手の魔族を振り切れるかも知れません」


「みんなで協力してその魔族を倒すのは?」


「はい? そ、そんなこと出来るはずありませんよ。私たちはただの魔物です。魔族とは違います。そこのあなたのように、倒した魔物の魔力を取り込んで成長すれば、いずれは対等な存在になれるかも知れませんが、私たちのような魔物ではそもそもそれほどの魔物を倒すことは出来ませんし」




 激しい戦いを乗り越えただけじゃなくて、ヨミはそんなこともしていたのか?


 俺が見つめると、嬉しそうに近づいてきた。




「何ですか?」


「ヨミは俺が見ていないところで、倒した魔物を喰ったりしていたのか?」


「は? そんなことするわけありません」




 プイと頬を膨らませる。




「あの、魔力を取り込むって、倒した魔物の魂を吸収するようなものですから、別に肉体を食べるわけでは」




 見かねたのかベネットが申し訳なさそうに解説してくれた。




「ねえアキラ、どうするの? っていうか、どうしたらいいの?」


「どうするって言われてもな。この魔物たちが退去してくれれば、この町は解放されたようなもんだろ。後は、エリーネの家の魔法水晶でも使って女王に連絡すれば?」




 金華国軍と戦うつもりで来たのに、思いきり肩すかしを食らって、やる気が一気に削がれた気分だった。


 ただ、グズグズしてるとこの情報を知らないフレードリヒの騎士団と王国騎士団がここに来る。


 人の格好をしているとは言えこれだけの数の魔物だ。


 面倒なことが起こらないとも限らない。




「……わかったわ」


「それじゃあ、私たちはすぐにでもこの町から立ち去りましょう」


「だからちょっと待ちなさい」




 エリーネが呼び止めると、ベネットたちは不思議そうな顔をさせた。




「……町の復興には人手がいるわ。あなたたちが本当にヨミさんと同じで人間と共にくらしたいと思うなら、私はこの町で一緒に生活してもいいと思う」


「おいおい、エリーネが勝手に決められることじゃないだろ」


「占領軍から町を取り戻したのなら、爵位を与えられてもいいくらいの功績だと思わない?」


「キャリーがまだ新人冒険者のエリーネに爵位を与えると思うか?」




 ……ありえない話じゃなさそうなところが嫌だな。


 そのために冒険者になったんだとしたら、エリーネも随分図太い神経してる。




「そもそも、占領軍なんていなかったわけだけど」


「そこはほら、結果が全てよ」


「わかったわかった。取り敢えず、連絡だけはしろよ」


「うん。それから、あなたたちも町から出て行くのはもう少し待ってからにしてもらえない?」


「私たちは別に、行くべき場所があるわけではありませんから。出て行けといわれたら従いますが、残れといわれて拒絶するものはいませんよ」




 こうして、俺たちの話し合いは終わった。


 町はあっさり取り戻せたが、むしろ事後処理の方が面倒臭そうだ。


 俺たちはそのままエリーネの家に向かった。


 魔法水晶を使いたいのと、本来の目的を果たすために。




「ただいま」




 扉を開けるなり、エリーネはそう言った。


 もちろん、返ってくる言葉はない。


 魔法水晶は、確かジョサイヤの部屋にあった。


 だが、エリーネはまず自分の部屋に戻った。


 ベッドの上に寝かされていた人形を抱きしめる。




「……大事な人形なのに、別宅には持っていかなかったんだな」


「大事な人形だからよ。イザベラさんに見つかったら、また意地悪されるかも知れないし」


「ああ、そういうこと」


「これで依頼は達成ね。えーと、銀貨一枚だったわね」




 そう言って机に置かれた小箱を開けた。


 中にはお金が入っている。


 エリーネの小遣い箱か何かだろうか。


 中から銀貨三枚を取りだし、俺とヨミに渡した。もう一枚はエヴァンスに渡すのだろう。


 ちなみに、エヴァンスはギルドの支部へ一人で向かっている。


 俺もジェシカに頼まれているから、後で合流するつもりだった。


 その前に、ジョサイヤの部屋に入った。


 魔法水晶は確かにあの日のままそこに置かれていた。


 だが……。




「あれ? 変ね。魔法を送り込むことが出来ないわ」


「機械じゃあるまいし。故障してるとかじゃないよな」


「そんなことあるわけないでしょ」




 そう言いながらも何度も魔法を使っているようだったが、うんともすんとも言わない。


 しかし、機械ならナノマシンが調べて修理することも可能だが、魔法じゃどうしようもない。




「連絡が取れないなら、直接フレードリヒの町へ行くか。あいつに事情を説明するのは嫌だが、王国騎士団もいるだろうし」


「うん。そうね……」




 エリーネはそれでもまだ試してみると言って家に残ったので、俺とヨミだけでギルドの支部へ向かった。


 そこも、あの日のままだった。


 エヴァンスはカウンターの辺りに座っていた。




「……やっぱり、誰もいない。遺体も残っていなかったよ。何がどうなってるのかさっぱりだ。この町は、本当に金華国軍に襲われたのかな?」


「それは、どういう意味だ?」


「だって、この町は今、魔物ばかりがいる。あいつらが人間を食い殺したと思うのが自然じゃないか!」




 感情をあまり表さないエヴァンスが怒ってカウンターを蹴飛ばした。




「俺には、あいつらが嘘をついているようには見えなかったけどな」


「……僕は、信用できない……」


「それならそれでいいんじゃないか。エヴァンスがあいつらの嘘を見破ったなら、俺たちにとっても有益だからな」


「アキラさんは、随分ドライなんですね」


「人間だって信用できない奴はいるだろ。一方的な思い込みは真実を曇らせるからな」


「……そうですね……」


「俺たちはエリーネの家で寝るから、何かわかったら知らせてくれ」


「……はい……」




 考え事を続けるエヴァンスを置いて、俺たちはエリーネの家に戻って寝ることにした。




 ……そういえば、何か忘れているような……。




「しまった! ディルカと馬車を森に置きっぱなしだ!」




 それを思い出したのは、翌朝起きたときだった。


 俺たちはすぐに出発の準備を始めた。


 エリーネの家を出ると、そこにベネットたちが集まっていた。




「何をしてるんだ?」


「か、彼女が来ている……」




 怯えた目と震える体は、彼だけでは無かった。


 魔物たち全員が同じようにしている。




『彰、方法はわかりませんが、私の警戒モードはくぐり抜けられたようです』


「何!?」




 町の中心部にエリーネの家がある。


 それを取り囲むように魔物たちが姿を現した。


 ベネットたちは集まっていたんじゃない。


 集められたんだ。




「おやおや、どういうことでしょう。魔物が人間と一緒にいる」




 俺たちを囲む魔物の中から赤い髪の美少女が現れた。


 あまりにその場に雰囲気にそぐわない。


 ビキニ水着のような服を着ている。


 年は、十五歳くらいだろうか。


 成熟してはいないが、幼くもない。


 微妙なバランスのスタイルをしていた。


 その手には、魔法水晶が抱えられている。




「女王様、よく見てください。この人間たちは、魔物と協力してこの町を占領するつもりのようですよ」




 魔法水晶には、キャリーの姿が映っていた。




「……私には、人間に見えますが」


「女王様、よく覚えておいてください。ある程度成長した魔物は、魔法で人間の姿になれるのです」




 そこまで言うと、赤い髪の美少女は魔法水晶を片手で持ち上げる。




「闇の神の名において、我が命ずる! 真の姿を晒しなさい! ミラーオブトゥルース!」




 もう片方の手から闇の靄が放たれて、ベネットたちを包み込む。




「うあああああああぁぁぁぁ!!」


「ア、アキラ、この魔法は……!」




 ヨミも苦しそうだが、俺やエリーネには何も効果はない。


 それもそのはずだった。


 この魔法は、魔法で姿を変えてる魔物にだけ効果がある魔法だったのだ。


 ベネットたちは次々魔物の姿に戻っていく。


 ベネットはカブトムシの角と羽を持ち人間の顔と体を持つ魔物だった。




「ヨミ!」


「私は、大丈夫です……変化の魔法をかけ続けていれば、保てますが……この方たちの魔力では、あの魔法は……防げません」




 身を守るようにして、ヨミは自分の体を維持し続けていた。




「ねえ。これで信じてくれましたか?」




 赤い髪の少女が魔法水晶のキャリーに楽しげに告げると、キャリーは俺を睨んだ。




「ア、アキラ……! あなたたちは、私を騙したのね!」


「ちょっと待て、何を言ってるんだ!?」


「フレードリヒ卿からの調査で話はわかっています。あなたは戦争の混乱を利用し、魔物と協力して領土を奪うつもりだと」


「それは誤解だ!」


「私も、実際に見るまでは信じるつもりはありませんでした。ですが、魔物に占拠されたクリームヒルトを魔物から取り戻すどころか、そうして一緒にいるということが全てでしょう!」


「俺の話を聞けよ!!」


「聞きたくないわ!! 信じていたのに!!」




 キャリーの瞳には涙が溢れていた。




「さあ、女王様。あなたの魔法で、町ごと敵を一掃しましょう」




 新しい玩具で遊ぶ子供のような笑顔で赤い髪の美少女は言った。




「わかりました」


「キャリー!? 複合戦略魔法を使うつもりか!? よく考えなさい!」




 魔法水晶の向こうで、近衛隊のファルナがキャリーに掴みかかっていた。




「女王様。裏切り者を放置してはいけません。ご決断を」




 クラースが冷徹な目を俺たちに向けている。




「ファルナ、離しなさい。……アキラ、さようなら。せめて私の手で、一瞬の内に殺してあげましょう――」

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