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上級冒険者の証と今後の方針

 エリーネの家で起きた俺たちは、朝食を食べた後別行動を取ることになった。


 当たり前だけど。


 エリーネは学生だから、学校だ。


 俺たちは、昨日行き損ねたギルドへ。


 ……その前に服を見に行くべきか。




「遅刻しちゃう! どうして早く起こしてくれなかったの!?」


「エリーネお嬢様がご友人と仲良く寝ているのを無理矢理起こせとおっしゃるのですか?」


「時と場合によるでしょ!」


「文句を言ってる暇があるなら、早く準備した方が良いんじゃないか?」


「うるさいっ!」




 朝っぱらから廊下をドタバタ駆けるエリーネを窘めたが、より口調のきつい文句が帰ってきた。




「お嬢様、朝食の準備はできていますが……」


「そんなの食べてる暇ないわ!」




 仕方がない。


 俺はパンにナイフで切れ目を入れて、ハムと目玉焼きを挟んだ。




「これなら、歩きながらでも食えるだろ? 朝食はちゃんと食べておいた方が良いぜ。授業中に腹が鳴ったらいい笑いものだからな」


「……ありがとう」




 エリーネはワンピースのようなドレスに、マントとブレザーをくっつけたような服を着ていた。


 学校の制服だろうか。


 肩から鞄を提げ、俺が作ったサンドウィッチを持って玄関に向かう。




「今日はギルドへ行った後予定はあるの?」


「いや、特にはないけど」


「じゃあ、ここへ帰ってきてね。勝手にどこかへ行ったりしないでよ」


「わかった。その時はちゃんと言ってから行くさ。それより早く行かないと本当に遅刻するぞ」


「うん。行ってきます」




 嵐のような朝はすぐに過ぎ去った。


 俺はヨミを起こして、メイドが用意してくれた朝食をゆっくり食べてから、昨日の服屋へ向かった。


 貴族の区画は商店街と隣り合っているからすぐに着いた。


 一番奥のわかり安い店だったから迷うこともない。




「少し早すぎたかな?」


「何がですか?」




 商店街をヨミと一緒に歩いているが、人通りはまばらで開いている店も少ない。


 ヨミは俺の言葉の意味をよくわかっていないのか、あるいは嬉しい気持ちが勝っているのか、スキップしている。


 たかが服ではしゃぐようなことかと思うが、それを口にするとまたAIから女心がわかっていないとツッコミを入れられそうだったので、黙って歩いた。


 洋服を注文した店からは明かりが漏れていた。


 どうやら開いているようだ。


 ……というか、辺りは明るいし店前の道路まで明かりで照らすような時間ではない。


 開いているんじゃなくて、昨日は店を閉めなかったんじゃ……。


 店の扉を開けると、そこに備え付けられたベルが鳴る。


 その音に反応して、会計カウンターに突っ伏していた店主が顔を上げた。




「……い、いらっしゃいませ~……え? あれ?」


「それよりもまずはおはよう、だな」


「嘘! 朝!?」


「見ての通りだが」




 俺が窓を指すと、店主は目を白黒させていたが、やがて我に返ったように立ち上がった。




「あなたたちは、昨日の……」


「おいおい、俺たちのこともよくわかっていなかったのか?」


「……あなたのせいよ。あまりに斬新なデザインを見せられたものだから、つい徹夜して全部作ってみたのよ」


「……全部?」




 セーラー服と、ブレザーと、ボディコンをか?




『良かったですね』


「言っておくが、注文した品物以外は金は払わないからな」


「何言ってるのよ。今回の注文はそもそも王宮にお金を請求することになってるんだから、あなたたちからお金をもらうつもりはないわよ」




 そうだった。




「ヨミ、頼んだ服以外は必要ないからな」


「え? はい、そのつもりですけど……」


『せっかくですからいただいておきましょうよ』




 俺はAIの言葉を完全に無視してスーツだけを受け取った。




「せっかくだから着替えちゃいなさいよ。そこの試着室使っていいから」


「はい、ありがとうございます」




 試着室は俺の世界のものとたいして変わらない。


 程なくして、ヨミは着替え終えてカーテンを開けた。




「なかなか似合うじゃない」


「そうですか? アキラも、そう思いますか?」




 店主が褒めると、ヨミはくるっとターンして感想を求めてきた。


 正直に言えば、女教師かOLもののイケナイDVDにでも出演してそうな雰囲気だった。


 やっぱり、ミニスカートは良くないだろ。


 足の長いヨミには確かに似合ってはいるさ。


 だが、目のやり場に困る。




「……ああ、良いんじゃないか」




 余計な言葉を全て飲み込んで、褒める以外にかける言葉は見つからなかった。




「ありがとうございます!」




 まあ、本人が喜んでるんだからいいんだろう。




「それで、こっちの服は本当にいらないのね? じゃあ、商品として店に並べちゃうけど、後でやっぱりって言わないでよね」


「好きにしろ」




 吐き捨てるようにそう言って服屋を後にした。




 次に向かうのは、もちろんギルドだ。


 昨日の今日で結果がわかると思うほど馬鹿じゃないが、昇進の手続きとかもあるからな。


 ギルドに着いた時間もまだ早かったが、こっちはその方が都合が良かっただろう。


 あまり混雑している時間に来てもジェシカも大変だろうから。


 ギルドの扉を開けると、当たり前のように正面のカウンターにジェシカが立っている。




「おはよう」


「さすがに早いわね。それじゃあ、さっそく昇進の手続きしちゃおうか」




 二度目なので説明はなかった。


 付いてくるようにすら言わずにどんどん階段の向こうに行ってしまう。


 俺はヨミと一緒にジェシカの部屋へ向かった。


 前回と同じようにソファーに座ってジェシカの準備が終わるのを待つ。




「ところで、昨日はあの後大丈夫だったのか?」


「うん? あ、パーティーのこと?」


「そう。俺たちはあの騒ぎの後ばっくれたからな」


「特に問題は起こらなかったわよ。貴族たちの噂なんて、くだらない話だったし。女王様の言葉の方が意味が重かったからね」


「貴族って言うのは、いつもあんな感じなのか?」


「……アイレーリス王国はそれだけ平和が長いのよ」


「平和が長いと問題があるみたいな口ぶりだな」


「ここだけの話、平和が長いと権力者たちが長くその立場に留まることになるからね。いろいろあるのよ。ま、ギルドはそう言う政治とは無関係の組織だからね」




 他の世界のことをとやかくは言えないか。


 俺たちの世界も平和になった途端に面倒なことが起こって、俺はここにいるわけだから。




「はい。二人の書類よ」




 手続きの方法も同じだから、俺はヨミに教えながら上級冒険者の証にサインをして指紋を魔法で刻む。


 ヨミも見よう見まねで滞りなく昇進の手続きは終わった。


 簡単すぎて拍子抜けするくらいだった。




「これで、アキラくんはギルドが設置してある国であればどこへでもその証を見せるだけで入国可能よ。ヨミさんもアキラくんの仲間だから同じ恩恵を受けられるわ」


「じゃあ、さっそくで悪いが」


「あのねえ、いくら何でもその質問には答えられないわよ」


「まだ何も言っていないんだが」


「アキラくんが聞こうとしてることくらいわかるわよ」


「ってことは、まだ有力な情報はないのか」




 わかってはいたさ。


 冒険者だってピンキリだ。


 他国で妹の捜索の依頼を受けた冒険者がいたとしても、その冒険者が有能である保証はない。


 何より、有能な冒険者は人捜しよりも魔物討伐をするだろうから、そもそも引き受けてくれた人がいるのかどうか……。




「取り敢えず、依頼を受けてくれた冒険者はそれなりにいるわ。下級がほとんどだけど、女王様からの依頼ってところが大きいわね。珍しいから中級冒険者も依頼を受けてくれてるし、人捜しはどちらかというと危険の少ない仕事だからね。他の仕事のついでに、って引き受けてくれてるみたい」


「そうか……」


「それで、アキラくんたちはどうするの? 上級冒険者にだけ紹介してる仕事を見せようか?」




 問題はそれなんだよな。


 今までは捜索費用を捻出するために仕事をする必要があったが、その必要はない。


 生活費は今まで稼いだ金がそのまま残ってる。


 かといって、ここで情報が集まるのをただ待ってるっていうのも、もどかしい。




「……俺はもう国境を簡単に越えられるんだよな」


「ええ」


「それじゃあ、他の国へ行ってみようかと思う」


「え? ……どうしてか、聞いても良い?」




 ジェシカは少し驚いていた。




「このアイレーリス王国で最も大きい都市はこの王都だろ?」


「ええ」


「もし妹がこの王都にいたなら、ギルドに出された依頼に気付かないはずはない。ってことは、この王都にはいないと思う。そして、王都にいないってことは、この国にいる可能性が低い。どこかの大きな都市にいるはずだからな」


「その情報は確かなの?」


「ああ、間違いない」




 妹からのテレパシーについて説明や議論は意味がない。


 あの情報が確かなことは俺たちだけが共有できることだからだ。




「アキラくんがそこまで言い切るってことは、信じるわ」


「そこで、だ。俺はどこへ向かったらいいと思う?」


「アキラくんって、本当に田舎者なのね。どの辺りの村で暮らしたら世間にそこまで疎くなるのかしら」




 そういえば、ジェシカには俺の出身について話していなかったな。


 これだけ世話になったんだ。


 話してもいいだろう。




「ジェシカ。真面目な話をするから、茶化さないで聞いてくれ」


「……何よ。急に」


「昨日俺が変身した姿は見ただろう」


「ええ。見たことのない魔法だったわ」


「あれは、魔法じゃない。そして、これはその話とも関係しているんだ」




 俺は異世界を救った変身ヒーローで、世界は救ったもののその力が危険視されてこの世界に追放されたことを説明した。


 そして、俺の世界では機械文明が発達していて、変身したのは最先端の機械によるものだということも。




「……実際、見ていなかったら信じられなかったわね。でも、それならこの世界について非常識なのも納得よ。女王様のことを知らない人がいるとは思わなかったもの」


「そんなに有名な女王なのか?」


「そりゃ、ね。五年前――前国王がご病気で亡くなられたときに王位を継いだんだけど、その時女王様はまだ十四歳だったのよ。その若さだけでも十分話題だったわ」


「その言い方だと、若さだけじゃなかったってことか」


「そうよ。女王様は弱冠十四歳で王位を引き継ぎ、すぐに各国のトップに会談を申し込んだわ。来たるべき魔族との戦いに備えて人間たちは協力するべきだと、各国を説得して同盟関係を結んだの。その手腕は若さを疑問視する貴族たちを黙らせるだけの説得力があったわ」




 先にこの話を聞いていたら、さすがに俺もあんな軽口は叩けなかったな。


 修羅場をくぐってきた経験は俺よりも上なのかも知れない。




「でも、昨日アキラくんたちと話してるところを見てちょっと安心したわ」


「……あれを、見られていたのか」


「別に、貴族連中のように批判するつもりはないわ。その逆、あの若さでずっと気難しい顔をさせている女王様ばかり見てきたから、ちゃんと年相応に笑ってる姿を見たの、初めてだったのよ」


「……そうか」




 ファルナも似たようなことを言っていたな。




「……でも、大変ねー」


「何が?」


「横を見た方が良いわ」


「は?」




 隣を見るとヨミが頬を膨らませて赤い瞳を輝かせていた。




「アキラ、この国を出るなら早く行きましょう。なるべく遠くの国がいいですね。女王様がちょっかいを出してこないくらい」


「いや待て。それはヨミの誤解だ」


「本当にそうでしょうか? 随分楽しそうにお話ししていたような気がしましたけど」


「ヨミと話してるときも似たようなもんだろう」


「……ヨミさん。私からのアドバイスとしては、アキラくんはちょっとシスコン気味だから、まずは妹さんの捜索を手伝った方がポイントを稼げると思うわ。それに、妹さんも味方に付けてしまえば話は簡単よ」


「そ、そうですね」




 ジェシカのレッテルには文句を付けたかったが、ヨミを落ち着かせてくれたことにケチを付けたくなかった。




「さて、じゃあアキラくんたちが向かうべき国だけど、二つあるわ」


「二つ?」


「そう、このアイレーリス王国は四つの国と国境を接しているんだけど……」




 ジェシカの説明によると、アイレーリスの北側にホルクレスト王国という国があり、南側にメディリア王国。東側には番犬の森を挟んで金華国。西側の高い山脈の向こうにはリンドヒルーツ王国がある。




「アイレーリス王国と国交があるのはその内三つだけど、友好国なのはホルクレストとメディリアだから、そのどちらかに向かったらいいんじゃない?」


「そういう言い方されると、他の国も気になるんだが」


「……リンドヒルーツ王国に直接向かうのはお勧めできないのよ」


「どうして?」


「間に五千メートル級の山脈があるけど、山を越えた経験はあるの?」


「わかった。それはやめておこう」


「――で、もう一つの金華国なんだけど……この国とはそもそも国交がないわ」




 その理由は教えてもらう必要はなかった。


 国境にあの番犬の森があったなら、国交など結びようがない。




「番犬の森の問題も片づいたし、これからは仲良くやっていくことになるんじゃないのか?」


「それはないわね」


「随分はっきり言うな」


「金華国は国の成り立ちからして他国を信頼していないのよ。もし、国境に番犬の森がなかったとしてもあの国と国交はなかったでしょうね。鉱山が多くて金や銀が取れる土地柄だから資金力は国の大きさに似合わず世界でも有数だけどね」




 珍しくジェシカの言葉が刺々しい。その事を指摘したら、一つため息をついてから説明を再開させた。




「この世界には十の国があるわ。そして、ギルド本部は世界に七つしかないの」


「世界中に独自のネットワークがあるんじゃなかったのか?」


「それはあるけど、全部の国にあるとは言ってないわ。ギルドの考え方に賛同できない国には本部を置かせてもらえていないの」


「ギルドがあった方が国も利点があるだろうにな」


「それは、上の人たちが何度も説明してるわ。そして、金華国もギルドが置かれていない国の一つなのよ」


「それじゃあ……」


「そう、上級冒険者の証があっても、フリーパスで入れるわけじゃないわ」




 結論として、俺たちの行き先は北のホルクレスト王国か、南のメディリア王国になった。




「すぐに出発するの?」


「そうしたいところだけど、エリーネに行き先を言うって約束してるんだ」


「ああ、あのクリームヒルトのお嬢様ね。じゃあ、学校が終わるまで動けないわね。せっかくだから仕事して行きなさいよ」


「どうしても上級冒険者用の仕事をやってもらいたいみたいだな」


「当たり前でしょ。上級冒険者なんて滅多に現れないんだから――」




 ジェシカの言葉を遮るように、ベルの音が鳴った。


 まるで、電話のよう。




「何だ?」


「まったく、こんな時に何なのよ。ちょっと待ってて、魔法水晶の緊急連絡だわ」




 面倒臭そうにジェシカは机に置かれた魔法水晶に向かい合った。




「はい、もしもし。……ク、クラース宰相様? 一体、こんな朝早くから何の――」


「クリームヒルトの町が滅ぼされた。金華国の国軍が侵略してきたらしい。そして、我が王国に対して宣戦布告してきたのだ」

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