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変身ヒーローの噂と女王の宣言

 俺は取り敢えず、近くにいたメイドに全員分の飲み物を用意してもらって一息ついてもらった。


 一番最初にやっておかなければならないことは、ヨミのことをエリーネにこっそり説明しなければならないと言うこと。


 しかし、三人いっぺんに俺が相手をするのは無理だ。AIの能力を使っても上手く話をまとめられそうにない。


 となると、ここはエリーネはヨミに任せるべきだろう。


 俺はヨミを引き寄せて耳打ちした。




「エリーネにヨミのことを説明してあげてくれないか。できれば、この場ではあまり正体を知られたくないってことも含めて」


「……それは、構いませんけど……」


「何か含みのある言い方だな。言いたいことがあるなら手短に頼む。女王の相手もしなくちゃならないんだし」


「じゃあはっきり言います。私もアキラと呼んでいいですか?」




 そういえば、ヨミだけずっとさん付けだったな。


 当たり前すぎてそれが普通だと思っていた。


 しかし、この話の流れでそれを許可すると、外堀が少しずつ埋められていくような気がするのだが……。


 いや、今はこの場を収めることが最優先だろう。




「わかったから。好きに呼べ」


「はい」




 満面の笑みでそう言ってヨミはエリーネと向かい合った。


 さて、次は俺か。




「アキラ、言っておくけど、私はアイレーリス王国の女王よ。一介の冒険者と噂になるなんて許されないの」


「それは俺もお断りだ」


「そう。わかっているならいいのよ。それで、さっきの話は本当なの?」


「どの話だよ」


「その、エリーネちゃんと話してる女性が、アキラの……こ、恋人とかって」




 耳年増な女だ。女王らしさを俺に示しておいて聞くような話じゃないだろうに。




「ヨミが勝手に言ってることだ」


「…………本当に?」


「女王は俺を信用するのか信用しないのかはっきりさせた方が良いと思う」


「……その呼び方、やめてくれない?」


「は?」


「私にはキャロラインという名前があるわ。アキラが自分を名前で呼べというなら、私も名前で呼んで欲しいわね。そうしたらアキラのことを信用してもいいわ」


「キャロライン?」


「何? その不満そうな顔は?」


「長い。キャリーじゃダメか?」




 あだ名で呼んだら、キャリーは俺の体を引き寄せて耳打ちしてきた。




「――! それ、ファルナが教えたのね」


「まあな」


「……いいわ。あえて言うけど、アキラはファルナのように王国内での立場があるわけじゃないから、公式の場でもちゃんとその名で呼ぶのよ」


「それって、大丈夫か? 何か、貴族連中を敵に回しそうな気が……」


「そういうのが嫌いなのよ。私は王宮と貴族、それから国民ももっと開かれた近い関係でありたいと思ってるんだから」




 その言葉には女王としての威厳が含まれているような気がした。




「アキラ。ヨミさんのことを必死に助けたんだって?」




 こっちの話が片づくと、エリーネが嬉しそうに言った。




「……ヨミ、エリーネにどう説明したんだ」


「それはもう、アキラがいかに格好良く私を救い、己を犠牲にしてまで私の怪我を治してくれたのだと」




 ヨミの主観に基づいて脚色たっぷりに教えた訳ね。




「アキラ、ヨミさんのことは私も隠した方が良いと思うから。今は黙ってるね。でも、いつか人間も魔物と結婚できる世の中になったらいいね。そしたら、私の町で二人の結婚式を開いてあげる」




 ヨミに任せた俺がバカだった。


 確実に外堀を埋めてきやがった。




「ところで、フレードリヒ伯爵のお嬢さんの言葉じゃないけどさ、アキラはどうやってケルベロスを倒したのよ」




 キャリーが素朴な疑問を尋ねるように聞いてきた。


 しかし、説明が難しいんだよな。


 キャリーには教えてもいいと思っている。


 妹の捜索についてだけでなく、個人的に信用しても良いんじゃないかと思ってるからだ。




「アキラ、女王様はアキラがどうやって戦うのか知らないの?」


「え? ああ。戦ってるところを見せたわけじゃないからな」


「だったら、あの姿を見せてあげればいいと思うよ」




 期待に満ちた目でエリーネが見上げてる。




「エリーネちゃんは何か知ってるの?」


「はい。私も番犬の森でアキラに助けてもらったんです」


「ふーん」




 つまらなそうな顔をしてキャリーが鼻を鳴らす。


 これは、何もしないで納得させることはできないだろうな。




『彰。起動コードの認証を』




 AIもこの場の空気を読んだのか、何をすべきか俺に提示してきた。


 説明するよりそっちの方が早いのは確かだ。しかし、




「この調子でできるのか?」


『できなければ、より面倒なことになると思われます』


「だよな」




 俺はヨミとキャリーとエリーネに少し離れるように言った。


 すると、何事かと周りの連中も離れて俺を中心に輪ができる。




「変身!」




 いつもより少し大げさにポーズを取った。




『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』




 両手首と両足首に光の輪が現れる。


 そこから溢れ出た光が全身を包み込み、全身スーツを形成し、さらに上半身には鎧と頭部を覆う兜のようなマスクを造り上げた。




 会場が静まりかえる。


 得意げな顔のヨミとエリーネを除いて、全員目を丸くさせていた。


 息を呑む声さえ聞こえてきそう。




「な……それは、なんなの?」




 さすがに女王と言うだけある。


 キャリーは誰よりも早く冷静さを取り戻して聞いてきた。




「俺の意志によって形成される鎧みたいなものかな。ちなみに武器も作れるが、今は戦うわけじゃないからな」


「魔法……じゃないわよね?」


「それは、魔法が使えるキャリーたちの方がわかるんじゃないのか?」


「そうね。私も魔法には詳しいけど、そんな魔法は見たことがないわ」


「ケルベロスを倒したのはこれの別のバージョンなんだけど、そっちは不必要に変身したくない」




 見せるだけなのに、無駄に筋肉痛になるのはごめんだ。




「それが、アキラの力」


「まあな」


「触っても大丈夫?」




 ケルベロスのクリスタルの時と同じ反応。


 キャリーは好奇心が旺盛らしい。




「あのなあ、一応俺は男だからな。そういう不用意な発言は考えた方が良い。クリスタルに触るのとは違うんだから」


「ダメならいいわ!」




 自分の発言の意味をやっと理解したのか、恥ずかしそうにそう言い放った。




「…………だ」


「噂に…………」


「魔物を……」




 遠巻きに見ていた貴族たちのヒソヒソ声がさざ波のように広がってきた。


 それに気がついたのはキャリーだった。




「何でしょうか? 何か言いたいことがあるのなら、はっきり言っていただけますか」




 怒鳴ってはいないのに、凛とした声が食堂の端まで届くようだった。




「白いマスクの鎧を身に纏った妙な戦士が、魔物を助けたって噂がギルドに流れているんですよ」


「そうだ。私も聞いたことがある」


「そいつは、魔物の味方だ!」


「女王様、そいつを信用してはいけません!」




 ガイハルトはヨミのことを言いふらす気はないと言っていたが、その前の時点でギルドに魔物を横取りされたと抗議していた。


 あの時の話が噂になっているのだとしたら、ガイハルトは責められないな。


 しかし、問題はヨミのことだ。


 この雰囲気では、やはりヨミが魔物だと知られるのだけは避けなければならないだろう。


 エリーネのようにヨミが良い魔物だとすぐに理解できる人間は貴重だったんだと改めて思い知らされた。




「アキラ、彼らの言っていることは本当なの?」


「さあな。だが、一つだけ言っておこう。人間は全てが正しい存在だと言えるのか?」


「どういう意味よ」


「魔物だって全てが悪い存在ってわけじゃないってことさ」




 俺は変身を解除する。




「ヨミ、行くぞ」


「あ、はい」


「待ってよ、アキラ」




 ヨミを連れてパーティー会場を出ようとしたら、エリーネまで付いてきた。




「待ちなさい」




 キャリーはまた女王としての声を使って俺を呼び止める。




「私は、アキラを信じるわ」


「女王様!?」


「黙りなさい。アキラはケルベロスを討伐して王国の危機を救った。それは皆さんも認めていることではありませんか?」


「それは、確かにそうですけど」


「アキラが本当に魔物の味方で、私たちにとって害のある冒険者ならば、どうしてケルベロスを討伐したのか、説明できる者がいるのなら説明してみなさい」




 少し上手いなと感心してしまった。


 魔物の味方をしたことが問題だったはずなのに、いつの間にかケルベロス討伐の話にすり替えられている。


 しかも、その説明は誰にもできない。


 さすが女王だ。


 ただ……大丈夫なんだろうか。


 女王の権力がどれほどのものか俺にはよくわからないが、貴族たちだってそれなりに権力を持っているんだろう。


 そいつらを言いくるめるような真似をして、妙な反発を生まなければいいが。




「あなた方は不確かな情報や妙な噂話を広めるよりも、するべきことがあるのではありませんか?」




 正論だ。もはや誰も言葉を発することすらない。


 これ以上は、止めるべきだろう。




「キャリー……」


「女王様、お祝いの席ですから、どうかその辺りで」




 ファルナが前に出てキャリーに声をかけた。


 少しだけ振り向いて俺にウィンクした。


 任せろという合図に見えた。


 批判の当事者である俺が止めるより、ファルナの方が適任だろう。


 俺たちは人波をかき分けるようにしてパーティー会場を後にした。





「ねえ、二人はどこに泊まるの?」




 城の庭にある噴水まで来たところでエリーネが聞いてきた。


 そういえば、宿を取っていない。


 そもそも、パーティーの後も予定はあったんだろうか。


 会場をばっくれたからには、今さら戻って後の予定を聞くのも格好悪すぎる。


 この時間から宿屋を確保できるだろうか。


「泊まるところが決まってないなら、私の家に行こうよ」


「いいですね。私もエリーネさんの家に行ってみたいです。話したいこともたくさんありますし」




 二人が決めたら俺に拒否権はないだろうが。


 文句を言ってやりたい気分だったが、背に腹はかえられない。




「わかったよ。俺も行く」




 夜道を月明かりと街灯が照らす。


 ここは都会と言ってもいいくらいの町だが、やはり俺の元の世界と比べると星の輝きは多かった。


 大気が澄んでいるのがよくわかる。


 あ、でもこの世界も地球のように丸い星なんだろうか。


 月や太陽は動いているが空が動いている可能性も今の段階では否定できない。


 こっちの学校ではそう言うことも学ぶのかな。




「エリーネはここで学校に通ってるんだよな」


「うん。今度学年が上がるんだ」


「そうなのか?」


「魔法の成績が良かったから、一気に六年生になるの」


「へー」




 飛び級みたいな制度があるのかと思ったが、俺やヨミも似たようなものか。




「来週は誕生日もあって十一歳になるから、お父さんたちもこっちに来てお祝いするのよ」


「良かったですね。おめでとうございます」


「……それは、私のセリフじゃない? 二人とも冒険者の級が上がるって噂になっているよ。世界最速の上級冒険者と世界最速の中級冒険者だって」


「学校でもそういう話題があるんだな」


「噂だけね。だから、それが二人のことだとは知らなかったけど」


「随分曖昧な話なんだな」




 噂ってのはそういうものか。


 テレビやネットが発達した世界でもそういう話はいくらでも飛び交ってるし、ここはそういう情報網がない世界だからな。


 噂の内容もお察しレベルってことか。




「ケルベロス討伐の話も冒険者が討伐したとまでは聞いてたけど、それが二人のことだとは知らなかったわ」


「それじゃあ、エリーネは謁見の時は城にいなかったんだな」


「だって、学校で勉強の最中のことだもの」




 至極当然の答えだった。




「本当は、あのパーティーも参加したくなかったのよ。イザベラさんが意地悪してくるのわかってたから」


「意地悪? エリーネさんにそんなことをした人がいたんですか?」


「まあな」


「アキラが撃退したら良かったのに」


「あのなあ、確かにあのガキにはムカついたけど、大人の男が怒るのはまずいだろ」


「……いいなあ。二人とも凄く仲よさそう。私も冒険者だったら学校なんか行かずに二人と一緒にいられるのに」


「そうなると、両親と離れることになるぜ」


「別に、それでもいいよ。一生会えなくなるわけじゃないもん。お父さんもお母さんも昔は冒険者だったんだし。私も王国騎士団からじゃなくて、冒険者から爵位をもらえるほど活躍すればいいんだし」




 それは、両親が健在だから言える強がりだ。


 いつでも帰れる場所があるからそういうワガママも言える。


 恵まれた環境であることを理解できないのは、エリーネがまだ子供だからだ。


 それを指摘することが正しいとは思わない。


 エリーネが大人になる過程で学んでいくことだから。




「まあ、エリーネは魔法が使えるからな。スライムとかは倒せるか?」


「あんなの楽勝よ」


「だったら、すぐにでも下級冒険者になれそうだな」


「世界最速の下級冒険者? それ、いいわね。私たち三人で世界最速の冒険者チームなんて」




 俺たちは一緒に笑い合った。




 王都の円形広間から左手に行くと途中で商店街の方に向かう道と二手に分かれる。


 そこをさらに左に向かうと学校があり、その奥に貴族の家が建っている区画があるらしい。


 エリーネの家は、クリームヒルトで見ていた印象からさぞ豪華な作りなのかと想像していたが、二階建ての一般的な家だった。部屋の数も一階が台所を含めて四つ。二階が三つ。


 さすがに学校に通うエリーネのためだけに屋敷は建てられないのかと思ったら、王都に整備された貴族のための区画は限られていて、クリームヒルトは子爵だから大きな家は建てられないんだとエリーネが教えてくれた。


 こんなところにも貴族の階級による違いがあり、それを娘であるエリーネが認識していることに、ため息をつきそうになった。


 ちなみに、メイドは一人でエリーネの身の回りの世話をしているらしい。


 エリーネは滅多に友達を呼ばないそうなので、メイドは俺たちのことを歓迎してくれた。


 ただ、パーティーで結構食べた後だったから、残念ながらメイドの料理の腕を味わうことはできなかったが。


 俺は風呂に入ってから二階の部屋で寝ることにした。


 エリーネは自分の部屋にヨミを連れて一緒に寝るみたい。


 ……また、余計な話をしていなければいいが。

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