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パーティー会場での再会

 エヴァンスと合流して、みんなで城に戻った頃には辺りはほのかな街灯の明かりだけが照らしていた。


 もちろん電気じゃなくて魔法の明かりらしい。


 城の庭も噴水を囲むように街灯が立っていて、雰囲気が出ていた。




『綺麗ですね。私のメモリに記憶しておきます』




 そんな必要はないと思ったが、いつか妹に見せるためにそうしたんだろう。


 元の世界に戻ってパソコンを使えば、写真を印刷することができるからな。


 ファルナは立ち止まることなく階段を上ったので後に続いた。


 最初の時のように扉を開けて抑えたが、全員が入るとすぐに扉を閉めた。




「ケルベロス討伐のパーティーは食堂で行われる」




 そう言って、右の廊下の方へ向かう。


 最初の曲がり角を左に曲がり、一番奥の部屋まで進んだ。


 途中に扉がいくつかあったが、ファルナが見向きもしないから覗くことは出来なかった。


 城の探検もしてみたかったがな。そんな機会はないだろうし。


 ファルナは扉を二回ノックしてから「失礼します」と言うと、扉が向こう側から開けられた。


 食堂という言葉のイメージからジョサイヤの食堂のように大きなテーブルがあって、それを囲むように座って食べるのかと思っていたが、テーブルは端に寄せられていて、客は全員立って飲み食いしている。


 立食パーティーという奴だ。


 正直助かった。女王の前でテーブルマナーを気にしながら食事しなければならないとしたら、とても味わえたものじゃない。




「おお! 本日のゲストの登場ですよ」




 貴族の誰かがそう言うと、俺たちは全員から拍手を受けた。


 そして、飲み物を手渡され――。




「それでは改めて、ケルベロス討伐の成功を祝して、乾杯!」




 さすがにこういう場で周りをしらけさせる気はない。


 妹の捜索費用について、貴族にも気を遣うべきだと女王が言っていたからではない。


 ファルナが、俺たちを良く思っていない貴族がいると教えてくれたからだ。


 あまりつまらない隙は見せたくなかった。


 特に、ヨミの正体が知られたりすると、面倒なことになるから。


 ただ、乾杯の挨拶の時こそ注目されたが、それ以降は皆各々勝手に過ごしていた。


 特に俺に話しかけてくるような貴族もいない。


 ケルベロスの討伐方法について、根掘り葉掘り聞かれるかと思っていたんだが、拍子抜けだ。


 そもそも、俺が来る前からパーティーは始まっていたようだし、すでに酒に酔って出来上がっている人もいる。


 女王もまだ来ていないし、結構フランクなパーティーのようだ。




「アキラさん。料理取ってきましょうよ」


「ああ、そうだな」




 そういえば、今日は馬車の上で食べた軽食しか口にしていない。


 肉の干物で腹にはたまるが、俺の口には合わなかった。


 俺は飲み干したグラスを近くのメイドに手渡してから、ヨミと一緒に料理の並んでいるエリアに向かった。




「あら? アキラくんじゃない。あ、もしかしてさっきの乾杯ってアキラくんたちが入ってきたって合図だったのね」




 そう言ってグラスを口に傾けながら頬を少し赤くしていたのは、王都ギルド本部の若き代表、ジェシカだった。




「……久しぶり、だな」


「そうね。まったく、急に飛び出していったときはどうなることかと思ったのに、まさかあのケルベロスを倒すとは思わなかったわ」




 そういえばヨミのことを助けることで頭がいっぱいだったから、説明なんか何もしてなかったっけ。


 それに、随分強く突っかかったような気も……。




「あの時は、悪かったな」


「気にしないでいいわよ。何しろ世界最速の上級冒険者の誕生だもの。そうそう、手続きとお祝いが逆になっちゃうけど。おめでとう。アキラくんをギルドに登録した私の鼻も高いわ」


「ありがとう」


「それから、そっちの美女がアキラくんのパートナーね」


「ふぇ? わたひれすか?」




 急に話しかけられたヨミは骨付き肉にかぶりついていた。




「一応、誤解のないように言っておくが、冒険者としての仲間であって、人生のパートナーという意味ではないからな」


「あら? そうなの?」




 ジェシカは俺ではなくヨミに向かって聞いた。




「いいえ、将来を約束した仲です」


「ほら、これだけの美女にここまで言わせて断るなんて、罰が当たるわよ」




 ヨミは魔物なんだと言ってやりたいが、そう言うわけにもいかない。




「そうそう。ヨミさんもアキラくんと同じく初級から中級に昇進が決まってるから」


「え? そうなのか? どうして?」


「決まってるじゃない。ケルベロス討伐に協力したことは王国騎士団から聞いてるし、ケルベロスと戦っても無事だった。実績がなさ過ぎてアキラくんと同じ上級にはしてあげられないけど、中級としての実力と資格は十分あると認められるわ」


「そうか、良かったな」


「はい」


「……ところでアキラくん、重要なことを忘れてない?」




 急に真面目な顔をしてきた。


 俺の目を覗き込んでくる。


 猫目の可愛らしい瞳に吸い込まれそうになるが、俺が答えないことにため息をついてガッカリしていた。




「あのねぇ。そもそもアキラくんが冒険者になったのはなぜ?」


「え? そりゃ……あ!」


「この話は、妹さんが見つかっても伏せておくわ」




 そうだ。ギルドに行って妹の捜索を始めてもらおうと依頼を出すつもりだったんだ。




「依頼書は、明日書きに行けば良いのか?」


「その必要はないわ。すでに捜索の依頼は始まっているのよ。依頼主は誰だと思う?」


「思わせぶりに言うなよ。想像は付く」


「あらそう。驚かないのね。こっちは王宮から、それも女王様直筆の依頼書が来て若干パニックになったのに」


「そんなに珍しいことなのか?」


「本来ギルドは国の政治と関わっているような人とは仕事しないからね。でも、今回は特例よ。女王様とは何の関係もないただの人捜しだから」


「そっか、仕事が早くて助かる」


「あの依頼書、依頼が終わったら私の部屋に額に入れて飾っておくわ」




 ジェシカは少し酔っているのか、恍惚そうな笑みを浮かべていた。


 幸せそうだからそのまま放っておいて、俺は今度こそ料理を皿に取った。




「アキラさん、こっちの料理も美味しいですよ」




 すでにいくつかの料理を食べ終えていたヨミが勧める。




「……メイドからナプキンをもらって来いよ。口の端に油汚れとケチャップが付いてる」


「あ、すみません」




 俺がサンドウィッチを食いながらヨミが戻ってくるのを待っていると、




「そんなことない! 私のお父さんだってがんばったって言ってたわ!」




 子供の叫び声が聞こえてきた。


 その声が誰の声なのか、すぐにわかった。


 そういえば、ジョサイヤが言ってたからな。娘は王都の別宅から学校に通っていると。


 俺は人をかき分けてエリーネの声がした方へ向かった。




「でも、町は半壊。クリームヒルトが雇ってた騎士たちも壊滅だってパパから聞いたわ。ジョサイヤは役立たずの無能だって」


「……そんなの……だって相手はケルベロスだったって言ってたし……」


「そんなことを言い訳にするつもり? そもそも番犬の森の攻略を言いだしたのはジョサイヤだってパパが行ってたわ。ってことは、倒せもしないのに攻略しようとしたってことじゃない。やっぱり無能よ」


「違う……私のお父さんは……」


「無能なんかじゃないぜ。町を守るために一歩も引かず、一人でも被害を減らそうと勇敢に戦っていたぜ」


「え――」




 エリーネが俺を見て目を大きくさせた。




「あんた誰よ」




 エリーネと向かい合っていたのは三人組の女の子だった。真ん中で一番偉そうにしていた子が睨んできた。




「……イザベラ様、こいつですよ。ケルベロスを倒したとかって噂の」


「ふーん、あんたが……?」




 後ろの取り巻きのような少女にイザベラと呼ばれた少女は腕組みをしていた。


 俺の常識で予想するなら中学生くらいだろうか。


 肩まである金髪にそばかすの顔、勝ち気そうな青い瞳。大人ぶって生意気そうな感じが反抗期の中学生みたいだった。


 エリーネはシンプルな白いドレスを着ていた。腰の辺りに青いリボンが付いている。


 それに対してイザベラのドレスは真っ赤で装飾が派手だった。




「本当にあんたがケルベロスを倒したの?」


「ああ」


「嘘でしょ? 背は、まあまああるけど、全然戦士らしくないじゃない。そんな体で剣を扱えるの? そもそも、パーティーだから鎧を身につけていないのはわかるけど、剣は戦士の命のはずだわ、丸腰でいるなんて戦士として三流以下よ」


「俺は戦士だといった覚えはないが」


「ハッ! だとしたら魔道士だと言うつもり? 魔力なんて全然感じられない。まだそこのエリーネの方が魔道士として優秀よ」


「何が言いたいんだ?」


「ケルベロスを倒したなんて嘘に決まってるわ! 女王様を上手く騙して取り入ろうとしてるのよ!」


「黙れっ!」




 会場中に響くんじゃないかと思うくらいの声でエリーネが叫んだ。


 瞳をつり上げて顔を赤くさせている。




「な、何よ……」




 エリーネが本気で怒ったところを見たのは初めてだったが、俺以上にイザベラたちの方が驚いていた。




「アキラは強いわ! オークデーモンだって一撃で倒したのを私は見たんだから! ケルベロスだって、アキラだから倒せたのよ!」


「フンッ、オークデーモンくらい私の町の騎士だって相手にできるわ。元上級冒険者なんだから。ケルベロスが私の町に来てくれれば、そんなうさんくさい冒険者に手柄を取られるようなマネはしなかったわ」




 エリーネの気勢に押されていたが、イザベラは引いたりしなかった。


 睨み合う二人の少女に会場の注目が集まっていたが、大人たちはオロオロするばかりで誰も止めようとしない。


 子供のケンカだからな。


 ムカつくガキだが、ここで俺が怒るのは筋が違う気がする。




「アキラ殿は子供たちに人気のようですね」




 そう言って近づいてきたのは、ウェディングドレスのような豪華なドレスを優雅に着こなす女王だった。


 白一色のドレスで、上半身は体のラインにぴったりした作りになっているが、スカートの部分はふわりとした作りで、床に触れてしまいそうなほど長い裾はフリルがあしらってある。




「キャロライン女王様! 本日はお招きいただきありがとうございました」


「堅苦しい挨拶はいいわ。立食パーティーにしたのだから、もうちょっと楽にしていいのよ」


「い、いえ。滅相もございません」




 イザベラは焦ったように敬語を使ったせいで途中言葉を噛んでいたが、女王は優しく微笑むだけだった。




「それで、何をそんなに大きな声で話していたのです」


「聞いてください、女王様! こんな弱そうな男がケルベロスを倒せたはずがありませんわ。戦士でもなく、魔力も感じられない。これならフレードリヒの騎士団の方がよほど強いです!」


「そうね。それは、私も気にはなっているのよ」


「でしょう? ……あ、申し訳ありません。それでその、女王様はこいつに、騙されているのですわ」


「騙されている? 私が?」


「そうです。きっと褒美欲しさに嘘をついたに決まってます。他の貴族の間でも噂になっていますもの」


「……噂については、把握しています。本当に、愚かなことです」




 うんざりとした顔でそう女王が言うと、イザベラは表情を曇らせた。




「え……」




「いいでしょう。ここではっきり私が証人として発言しておきましょう。クラースが鑑定したあのクリスタルは正真正銘ケルベロスのものです。それを持ってきたアキラ殿が倒したことに偽りはありません」




 イザベラは女王の宣言に苦虫を噛みつぶしたような顔をさせた。




「……あなたは確か、フレードリヒ伯爵のお嬢さんでしたよね」


「は、はい」


「妙な噂を聞いたら、あなたから訂正していただけないかしら。私が直接あなたに証言したと」


「……ぜ、是非そうさせていただきますわ」


「ありがとう」




 随分えげつない女王だ。


 俺の溜飲は下がったけど。




「あの、何かあったんですか?」




 ちょうどそこへヨミが戻ってきて、イザベラたちは後退りしながらすごすごとその場を去った。


 女王はその姿を見てため息をついたが、さすがにそれ以上彼女たちを追究したりはしなかった。




「ア、アキラ。ありがとう」




 エリーネがうつむき加減でそう言った。




「礼を言われるようなことじゃない。本当に、エリーネの父親は立派に戦ってたんだぜ」


「ううん、そうじゃなくて……クリームヒルトの町を救ってくれて……」


「ああ、そっちか。エリーネにもエリーネの両親にもいろいろ良くしてもらったからな。お礼代わりさ。ついでに、女王様からプレゼントをもらえたからな」


「それ、聞き捨てならないわね。私からの報奨がついでのプレゼントですって?」




 女王は頬を膨らませて詰め寄ってきた。




「いやでも、感謝はしてるから。ギルドに依頼まで出してくれたって聞いたし」


「本当に感謝してるんでしょうね?」


「ああ、してるしてる」


「その軽そうな感じが気に食わないのよね」


「あのなあ、さっき俺のことを信じると言っておいて、それを台無しにするようなことを言うなよ」


「あれはあれ、これはこれよ」


「口の減らない女王だ」


「何ですって?」


「フフフッ……アハハハッ……!」




 エリーネとヨミが俺たちを見て笑っていた。


 辺りの人も口元を隠している。笑いをかみ殺せていないぞとツッコミを入れてやりたいところだが、女王の手前だから触れてやらないでおこう。




「ア、アキラ殿せいで恥をかいたじゃない」


「アキラで良いよ。俺のことは」


「え……」




 少し驚いた顔をさせた。


 この辺り、女王様と言うより、年齢に見合った女の子といった雰囲気になる。




「これだけ言い合ってるのに、今さら敬称付きで呼ばれても嫌味にしか聞こえないからな」


「そ、そう」




 少し顔を赤くさせているような気はするが、それを指摘するとより面倒なことになるだろうな。




「女王様とアキラって恋人みたい」


「うわっ、バカ――」




 油断していた。そういう話に敏感な年頃の少女がすぐ側で見ていたのに。




「ななななな……」


「エリーネさん、それだけはありえませんよ。アキラさんと将来を約束したのはこの私ですから」


「……そういえば、お姉さんどこかで会ったような……」




 カオスな空間過ぎる。


 どう収拾を付けたらいいんだ。


 女王は照れているのか怒っているのか声を震わせたまま固まっているし、ヨミは冷たい視線で俺と女王を見てくるし、エリーネはヨミの正体に気付きそうだし。


 逃げるか。


 後ろを向こうとした俺の腕を、三人に掴まれた。




「どこへ行くつもりですか? アキラさん」


「アキラ、まだ話は終わってないわ」


「ねえ、このお姉さんがアキラの恋人なの?」


「誰か、助けてくれないか?」


『自分で解決してください。忠告しておきますが、三人を相手にこの部屋から逃げ出す方法はありませんよ』

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