守護神ゴーレム
「……ね、ねえ。これ……私どこかで見たことあるんだけど……」
そう言ったジェシカの顔は冷や汗がいっぱいだった。
「……わ、私もです。伝承か何かで……」
エリーネもジェシカと同じような顔をしていた。
「取り敢えず部屋の中を調べてみようぜ」
と言っても、お宝があるようには見えないが。
広さだけはあるが、目につくのは石像くらい。
これをミュウが隠してたんだとしたら、拍子抜けなんだけど。
グゴゴゴゴゴゴゴ……。
何か石がこすれるような音が聞こえてきた。
「アキラ! その石像から離れてください!」
ヨミが叫んだ。
見上げると、石像の胴体がひねりを入れて右腕を後ろに引いていた。
「動いてる!?」
っていうか、これは――。
「変身!!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
ドオン! と大きな音は地響きと共に俺の体に伝わってきた。
石像のパンチを間一髪両手でガードした。
ソードギアのままだったら、危なかったかも知れない。
「何だこいつ!?」
見上げると、目が赤く光ってる。
ロボットか何かだと言われても信じてしまうだろう。
「それはたぶん、ゴーレム! 伝説の武器を守護するガーディアンと呼ばれているわ!」
伝説の武器? あれはこの世界の物語の中に出てくるものじゃなかったのか?
「それじゃ、ここに伝説の武器があるのか!?」
ゴーレムはさらに殴りつけてきた。
衝撃は多少感じるものの、痛みはない。キャノンギアならこいつの攻撃はほとんど無効だ。
だが、止まりそうもないし、これじゃまともに話も出来ない。
距離を取りたいところだが……。
「ダーククロースアーマー!」
闇を纏ってヨミが飛び上がっていた。
そのままゴーレムの顔を蹴り飛ばす。
まともに喰らって後ろに大きくよろめいた。
その隙に大きく後ろへ下がりつつ、バスターキャノンを形成する。
大口径の砲身が狙うのは、ゴーレムの足。
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
発射したビームがゴーレムの左足を削り取る。
重そうな体を支えるのに、片足では不可能だとの見立ては正しかった。
そのままバランスを崩して倒れた。
ゴーレムの足を貫いたビームはそのまま壁にぶつかったが、消失した。
……鉱山に穴が空かなくてよかった。
目の前の脅威を排除することに全力を出しすぎた。
鉱山が崩れるようなことがあったら、俺は何とか生き延びることが出来てもエリーネやジェシカはそのまま生き埋めだろう。
「それで、ゴーレムってのは何なんだ?」
通路側へ避難していたジェシカとエリーネに聞く。
「……伝承によれば、ゴーレムは神様が伝説の武器を守るために生まれさせたもの。伝説の武器が相応しいものの手に渡るまで常に守護する存在。そして、神に劣らぬ賢人で、伝説の武器を求めるものに試練を与えるといわれているわ」
「賢人? 問答無用でいきなり攻撃してくるような奴がか? そもそも、俺は伝説の武器とやらを求めるつもりは――」
自分の姿が影に包まれる。
ジェシカとエリーネは目と口を大きく開いたまま。
振り返りざま、バスターキャノンを構える。
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
無数のエネルギーの弾がばらまかれる。
撃った反動で少しだけ後ろに下がりつつ目の前を確認した。
ゴーレムの足が復活している。
何で出来てるんだ? あの体は?
恐ろしく増殖力の高いナノマシンでも組み込まれているのか。
バスターキャノンから撃ったエネルギーのショットガンはゴーレムの全身に命中した。
巨大なゴーレムの体よりも攻撃範囲の方が広かったから外れた弾もあったが、それらはやはり壁に当たって消滅する。
『……彰、バスターキャノンによる攻撃は、この場では有効ではないようです』
「何!?」
思わず声に出してAIの真意を問う。
『見てください。壁に吸収されたエネルギーがゴーレムに集まるようになっているようです』
ショットガンバレットのエネルギーの軌跡がマスクの中の画面に映し出される。
壁から床にエネルギーが流れ、ゴーレムの足から全身へ行き渡っていた。
そして、見る間にショットガンバレットで破壊した部分が元に戻る。
おいおい、俺たちの世界の技術でもそんな反則的なものは存在しないぞ。
どうやって、倒せって言うんだ?
「た、退却!」
ここはまず戦術的撤退だ。
すでにエリーネとジェシカは隠し通路を走っていた。
ヨミとゴブリンは?
辺りを見回すと、壁により掛かりながらゆっくりとゴブリンも逃げようとしている。
ヨミはゴーレムに攻撃を加えていた。
近接攻撃なら、ダメージは与えられるのか?
ネムスギアのセンサーでゴーレムとヨミと部屋の様子を隅から隅まで観測する。
……いや、あの部屋はエネルギー全般を吸収してゴーレムに送っている。
魔力も例外ではなかった。
ダメージを与えても、すぐに復活する。
「ヨミ! もういい! ひとまずその部屋から出ろ!」
「もう少し、せめて皆さんがあの採掘場から逃げないと……」
ゴーレムが両手を床に付けた。
ヨミの攻撃が効いたのか?
だが、口の部分が空き、そこに光が集まってくる。
……嫌な予感しかしない。
「エリーネ! 防御魔法を使え!」
俺はゴブリンのそばに駆け寄って全身で包み込むように抱える。
案の定、ゴーレムの口からはレーザー光線のようなものが吐き出された。
それは通路に反射し、いくつも分かれる。
細いレーザー光線は鞭のようにしなり通路から採掘場までをメチャクチャに撃ち抜いた。
採掘場の壁が崩れ、隠し通路の半分が石で埋まる。
……採掘場の魔物が一掃されたのは、こいつの仕業であることは間違いなかった。
「大丈夫か?」
「は、はい。俺は、人間様が守ってくれたから」
ゴブリンが元気そうで少し安心した。
俺はまあキャノンギアのままでよかったってところだ。
少し熱かったが、その程度のダメージだ。
「アキラ! ヨミさん! 大丈夫!?」
石の間から、エリーネがこちらを覗いていた。
さすがは魔族との戦いでも生き延びた元冒険者だ。
防御魔法だけは一流だからな。
「……アキラ、良かった。無事だったんですね」
ヨミが駆け寄ってくる。
どうやら攻撃されたのは通路から採掘場にかけてだったらしい。
ゴーレムの部屋の中にいたヨミは無傷だった。
「ゴーレムは?」
「それが、先ほどの攻撃を終えて私が部屋を出たら元の形に戻りました。それと、部屋そのものも暗くなってます」
……そういう仕掛けってことか……。
『彰、まさか……ここから部屋ごと撃つつもりですか?』
「瘴気の謎はまだ解いていない。このまま帰ったんじゃ中途半端な報告にしかならない」
『……必殺技で撃ち抜けば部屋ごと破壊することは可能でしょう。ですが、鉱山は崩れます。せめて皆さんを避難させてから実行するべきでしょう』
「早まるなよ。俺だってそんな力業で解決するつもりはない。そもそも、部屋ごと全部吹き飛ばしたら、やっぱり謎は謎のままってことになるだろ」
「……あの、アキラ? また妖精さんとお話ですか?」
ヨミが訝しげな表情で聞いてきた。
「まあそんなところだ。ヨミ、このまま再戦できるか?」
「……私はむしろ瘴気の影響か闇の魔法の威力が高まっているような気がしますから、十分戦えます」
「っと、その前に」
俺はゴブリンの体を抱えて、石によって半分埋まってしまった隠し通路から採掘場へ下ろした。
「エリーネ、ジェシカもゴブリンを頼む。俺たちはあれを排除する」
「正気? ゴーレムは伝説の武器に相応しいものが現れるまで存在し続ける。あれは倒せるものではないわ」
ジェシカが眉間にしわを寄せながらそう言った。
「……本気なのね? なら、この採掘場の端っこで防御魔法を使って待ってるわ」
「一応、鉱山が崩れないようには配慮する」
「そう願いたいわね。調査の結果が鉱山がなくなったのでは、キャロライン女王陛下に説明するのが難しいもの」
エリーネは冗談を飛ばすくらい余裕のある微笑みを返した。
ジェシカとゴブリンのことは大丈夫だろう。
エリーネの魔法が守ってくれる。
後は、俺たちの問題だ。
「本来のゴーレムが賢人なら、あの攻撃的な姿は本当のゴーレムではないと言うことなのかな」
「……もしかしたら、この辺りに立ち込める瘴気の影響なのでしょうか?」
「ヨミにも影響はないのか?」
「そうですね。魔法を使うまでは心が塗りつぶされるような感覚があったのですが、魔法を使ってから……いえ、アキラを助けないといけないと思って攻撃したときから、むしろ戦う力になっているような気がします」
通路を歩きながら、俺たちはいつものように話した。
一度は退却を余儀なくされた相手を前に、気負いはない。
ゴーレムの部屋の前で俺たちは立ち止まった。
ここから一歩足を踏み入れれば、ゴーレムはほぼ無敵の空間だ。
だが、部屋から出せばどうなる。
この通路にはエネルギーの流れは観測できなかった。
あれは、あの場だけで起こる特殊な現象と言ってもいい。
ゴーレムの特性なのか、それとも神様とやらが与えた力なのかは俺たちには知るよしもない。
後は、簡単な実験だ。
もっとも、あの巨体をそのままこの通路を通すことは出来ない。
解体とだるま落としだ。
「ヨミ、俺が輪切りにする。それをこの通路に向けて力一杯ぶん殴れ」
『……十分力業だと思いますが……それに、再生速度より速く部屋から出す必要があると思います』
AIのアドバイスは俺たちには必要ない。
ヨミは俺の期待に応えてくれる。
それだけの力を持っていると確信していた。
「行くぞ」
俺はキャノンギアからソードギアへと変身する。
右手に握ったマテリアルソードにエネルギーが注ぎ込まれる。
部屋に入った瞬間、パッと明るくなった。
この段階ではシステムは動いていない。
ゴーレムもただの石像のようだった。
だが、近づくと目が赤く光る。ゆっくりと手足を動かし、こちらに向かってくる。
さっきはよくわからないまま攻撃されたから観察できていなかったが、ゴーレムは背後を守ろうとしている。
伝承通りなら、ゴーレムの後ろには伝説の武器があるってことだ。
賢人ではなくなっても、伝説の武器を守るという意志だけは失われないと言うことか。
『どうやら、私のエネルギーは物質化していると吸収できないようですね』
AIが新しい情報を分析する。
つまり、技を使うとエネルギーを放出することになるから吸収されるってことか。
バスターキャノンだとエネルギーが直接壁や床に放射されるから吸収効率が良かったわけだ。
『そのようです。キャノンギアでは相性が悪かったと言うことでしょう。ただ、ヨミさんの魔力は吸収されています。ですから先ほどの作戦で行くなら素速く済ませましょう』
俺とヨミがゴーレムを挟み込むように動く。
すでに闇を纏ったヨミの動きは、ゴーレムでは捉えることはできなかった。
こちらにもパンチを繰り出してくるが、ソードギアでも十分に対応できるスピードだった。
AIの言ったように、俺の選択が間違っていたんだ。
「ヨミ! これなら行けそうだ!」
「はい!」
『スペシャルチャージアタック、ファイナルスラッシュ!』
エネルギーは三割ほどで十分だろう。
マテリアルソードの刀身がエネルギーに包まれて大きくなる。
殴りかかってきたゴーレムの手を切り落とす。
「はっ!」
床に落ちるよりも速く、ヨミの回し蹴りがゴーレムの手を部屋の外へ吹き飛ばす。
俺はその場でジャンプし、ゴーレムと目線が重なった。
マテリアルソードを左右に振り回すと、頭から胴体までが輪切りになっていく。
合図もしていないのに、ヨミは次々とバラバラになっていったゴーレムの体を部屋の外へと蹴り飛ばした。
通路を見ると、そこには円柱が輪切りにされた石がたくさん転がっていた。
部屋からエネルギーが流れていくようなことはなかった。
石は石のまま。
動き出す様子はない。
すでに必殺技は解除している。
ネムスギアのエネルギーが部屋に吸収されることはないだろうが、ヨミの魔力は吸収されている。
どういう仕組みなのかわからないが、まだ復活の方法があるのか。
今の内にこの部屋の探索を終わらせておくべきだろう。
と言っても、調べるべき場所は一つしかない。
それはゴーレムが守っていた場所。
俺よりも先にヨミがそれを見つけた。
「こ、これは……」
また石像だった。
とは言っても今度はゴーレムとは違って、大きさは人間くらい。
見た目も人間のようだった。
それも、恐ろしく美しい男の石像。
こんなところに置いておくよりも、美術館にある方がよっぽど似合っている。
ただ、あまり趣味のいい石像とは言えないが。
なぜなら、その男の体には剣が突き刺さっていた。
その表情からは苦痛にうめいている姿がありありと伝わってくる。
見ているだけで寒気に襲われそうになった。
「瘴気の原因は、これのようです」
「……確かに、見ていてあまり気分のいいものじゃないな」
「この剣が瘴気を抑える役目も果たしているようですが、それよりも瘴気の方が強くなってしまっています」
「それじゃ、これが伝説の武器? 何でこんなところに刺さってるんだ?」
「……あの、アキラ。驚かないで聞いて欲しいんですが、その……伝説の武器が魔王を封印しているのではないかと……」
俺は触れそうになった剣から手を引いた。
ヨミを見ると、表情が硬い。
……そう言えば、AIが言っていたな。
この鉱山からは強い魔力を常に感知していたと。
「それじゃ、この魔王って奴を倒さないと瘴気は溢れ続けるってことか?」
「……私の魔法で瘴気を吸収することができるかも知れません」
「ヨミの?」
そう言えば、ヨミには何でも吸い込むブラックホールみたいな魔法が使えたっけ。
「あの魔法で魔王そのものを消すってことはできないのか?」
「私の魔力ではそこまでの力は発揮できないと思います。それに、下手に刺激して封印が解かれたりしたら……」
ヨミはずいぶん及び腰のようだった。
そりゃ、今まで戦ってきた魔族よりは強いだろうと想像できるけど、俺たちは天使だって倒してきた。
魔王が天使より強いなら、誰がこの世界を救ったんだ?
伝説の武器を持つ英雄か……。
人間でも戦える相手なら、俺が負けるだろうか。
『その考えは危険です。魔王の魔力は封印されているこの状態でも、今までに観測した者全てより上回っています。デモンとはエネルギーが違うので単純に比較できませんが、あるいはデモンより強いかも知れません。封じられているのであれば、そのままにしておくべきだと思います』
さすがにヨミとネムスギアの警告を無視して余計なことをするつもりはない。
俺は瘴気をヨミの魔法で処理してもらうことにした。




